時期がズレてしまいましたが、今年の冬に放送されていた『グリザイア:ファントムトリガー』を見て思いついたクロスオーバーです。
元々前作の『グリザイアの果実、迷宮、楽園』も好きだったので、ご興味のある方で続きを書いて頂ければ嬉しいです!

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亡霊との邂逅

(何だ、あの人達……?)

 

 その人物たちがコナンの目に留まったのは、単なる偶然だった。

 時間は休日の夕方。阿笠博士引率の下、少年探偵団のメンバーで遠出した帰り、そのままファミレスに向かうことになった。

 彼等が入店してきたのは、それから五分ほど経った頃。

 普段なら直ぐに興味を失って見送るところだが、不思議なことに彼等から目を離すことができなかった。

 

「名探偵さんは、彼等のことが気になるのかしら?」

「あ? あぁ、ちょっとな」

「全員美人だものね。無理もないわ」

「えー!? コナン君、あの女の人達のことが好きなの!?」

「ば、バーロォ! そんなんじゃねぇよ」

 

 歩美の見当違いな発言を全力で否定しつつ、コナンは彼等を改めて観察する。

 

 先頭を歩くのは、男にしては珍しい、腰まで伸びた長髪が特徴の青年。

 その隣には、この集団では一番年上であろう、どこか幸が薄そうなスーツ姿の女性。

 青年の後ろには、人懐っこい笑みを浮かべた紫髪の女子が張り付いている。

 それを面白くなさそうに見ているのは、黒髪をポニーテールに束ねた長身の女子だ。

 逆にそんな彼女を興味深そうに見つめる、何故かメイド服を着た褐色肌の幼女が後に続く。

 その様子を微笑まし気に見つめている、金髪ショートカットの女性。

 一方で彼等の談笑には交わらず、銀髪をツインテールに結った小柄な女子とベレー帽を被った儚げな印象の女子は、何かを討論しているようだ。

 そして最後尾に、首にマフラーを巻いた桜色の髪の女子がぼーっとした様子で歩いている。

 

(いや、あの子は何でメイド服着てるんだよとか、前の女は胸元開けすぎだろとか、色々ツッコミどころはあるけど……)

 

 スーツの女性とメイド服の幼女を除けば、一見どこにでもいる高校生のグループのように思える。

 しかし、頭ではそう理解していても、やはり気になる。何がとは言えないが、探偵の勘とでもいうべきものが、先程からずっと警鐘を鳴らしている。

 

「悪い、灰原。俺、ちょっと行ってくる」

「はぁ……。行っても聞かないでしょうけど、下手に首を突っ込まないでよ」

「わぁーてるよ」

 

 普段の行いから注意を受けながらも、好奇心を抑えきれなかったコナンは席を立った。

 目指すはテーブル席を二つ占領した彼等の所だ。

 

(取り敢えず写真を撮っておいて、制服からどこの学校か調べてもらうか)

 

 絶対渋い顔をするだろう相方の顔を想像しながら、コナンはカメラモードを起動したスマホを片手に彼等に近づき、

 

 ――パァンッ!!

 突如響いた乾いた音に、足を止める。

 

 次いで状況を確認するよりも早く、目出し帽を被った複数人が店内に雪崩れ込む。

 

「全員、動くんじゃねぇ!!」

「動いたらぶっ殺すぞ!!」

 

 その手に握られているのは、黒光りする拳銃。

 店内のあちこちから悲鳴が上がり、瞬く間に店内はパニックに陥る。

 ――コナンが駆け寄ろうとした青年達を除いて。

 

 ⚔

 

「……ホント、貴方といると必ず事件に遭遇するわね」

「好きで遭遇してる訳じゃねーよ」

 

 ジト目で睨む灰原に対し、コナンは口を尖らせる。

 現在彼等を含めて店内にいた人間は全員、ドリンクバーのスペースに集められている。

 それを三方から見張るのは、リーダーらしき人物と二人の部下。そして店長に指示して封鎖させた入口と裏口に一人ずつ張り付いている。

 

「クソッ! 何だってこんなことに!」

「しゃーねーだろ! 非常ベル押されちまったんだから!」

「だから、お前がもっとしっかり見張ってればよかったって話で……!」

「落ち着け! 今更文句言っても仕方ないだろ!」

 

 男達の怒声から察するに、どうやら彼等は銀行強盗犯らしい。

 この近くの銀行に押し入り、大金を強奪するのに成功。そこまでは良かったが、メンバーの一人が作戦成功に浮かれていた隙を突き、行員が非常ベルを鳴らしたことで順調だった計画は頓挫。彼等は直ぐに逃走を図るも、瞬く間にパトカーの群れに追われ、咄嗟にこのファミレスに逃げ込んできたようだ。

 

(そういや、さっきの人達は……)

 

 ふと先程の青年達が気になったコナンは、彼等のいる方を見る。

 見たところ、大人しく床に腰を下ろしているようだが、

 

(いや、大人しいどころか……怖がってすらいないのか?)

 

 普通こんな状況に置かれれば震えたりするところだが、青年達は妙に落ち着いている。スーツの女性だけは不安げに視線を彷徨わせているが、ちょっと困ったことになったとでもいうような表情は、他の人質と比較すると大分異質だ。

 店の外に着々と警官が集まってきてはいるが、それで安心したという訳でもなさそうだ。

 もっとも、人質の安全面を考慮して警察は突入できずにいる為、どちらにしろ安心できる状況ではないのだが。

 

「なぁ、俺達で何とかできねーかな?」

「幸いなことに、縛られたりはしてませんからね」

「少年探偵団の出番だね」

「コレ、馬鹿なことを言うんじゃない」

「そうよ。下手に動いたら、他の人質に被害が出るかもしれないのよ」

 

 コナンが思考に耽っている間にも、膠着状態に業を煮やした元太、光彦、歩美が無謀なことを仕出かそうとするのを灰原が諫めている。

 

(くそっ、せめて一人でも見張りが離れてくれれば……!)

 

 いっそトイレを装えば見張りが付いてくるかとも思ったが、そうすると動けるのが子供達しかいなくなる。今しがた諫めたばかりの彼等に頼るのは不安しかない。

 

「あ、あのー、すみません……」

 

 その時、人質の中からおずおずと手が挙げる。

 件の集団の一人、スーツの女性だった。

 

「オイ、勝手に動くんじゃねぇ」

「ひッ!? いえ、あの、えっと、その……お、お手洗いに行きたいんですけど……」

 

 チワワ並みに怯える女性に、さしもの強盗も毒気が抜かれる。

 リーダーが見張りの一人に目配せする。どうやらその男に随伴させるらしい。

 

「ほら、さっさと立ちな」

「あ、あの、腰が抜けてしまって……。すみませんが、立たせてもらえないでしょうか……?」

「はぁ? ったく、めんどくせーな」

 

 渋々といった様子で男は女性の下に近付いていく。

 この男が見張りから抜けるだけでも、断然動きやすくなる。コナンは反撃に移れるのを今か今かと待ち構える。

 

「へへっ、よく見りゃ可愛い顔してんじゃん。ちょっとくらい味見してもバチは当たらねぇよな?」

 

 コナンの思惑など露知らず、男は下卑た笑みを浮かべながら女性に手を伸ばし、

 

 ガッ! と。

 横から伸びた少女の手が、それを阻む。

 

「ねぇ、私達の先生を変な目で見ないでくれる?」

 

 下手人の正体は、青年に張り付いていた紫髪の女子。

 彼女は相手が何かを言う前に力づくで自分の方に引き寄せ、

 

「うりゃ!」

 

 可愛らしい掛け声と共に、男の顔面に頭突きを見舞った。

 

「ひぎゃぁあッ! は、はひゃ! はひゃがッ!?」

 

 目出し帽の下からボトボトと血が流れ出し、見る見る内に床に赤い血溜まりができる。ひょっとすると、鼻の骨が折れているかもしれない。

 突然の少女の凶行に見張りの男達は一瞬唖然とするも、逸早くリーダー格が正気に戻った。

 

「テメェッ、何して……!」

「ふッ!」

 

 だが、間髪入れずに少女は目の前で悶える男に回し蹴り食らわせる。碌に防御もできなかった男は、そのままリーダー格を巻き込む形で派手に吹き飛んだ。

 そこから目まぐるしく状況が動く。

 黒髪ポニーテールの女子が最後の見張りの男へ、裏口のメンバーの下へマフラーの女子が、この騒ぎに駆け付けた入口の男には銀髪ツインテ―ルの女子が。

 彼女達は拳銃をまるで恐れず、一人は強烈な拳で沈め、一人は関節技で腕を極める。

 入口の男には走っていた最中に向こう脛を蹴り上げて怯ませるも、決定打とまではいかない。だが、その一瞬でコナンにとっては十分だった。

 

「喰らえ!」

 

 ベルトからボールを射出。

 キック力増強シューズでの強化を受けた必殺シュートが、最後の男を沈めた。

 

「やったー!」

「流石コナン君!」

 

 子供達が自分のことのように喜び、他の人質も安堵の表情を浮かべる。

 そして、コナン自身もほっと息を吐き、

 

「ふざけんなよ……!」

 

 怨嗟を孕んだ声が、再び緊張をもたらす。

 その音源には、見張りと共に吹き飛ばされたリーダー格の姿。

 

「舐めやがって、このクソガキがぁッ!!」

「コナン君!」

 

 怒りに顔を歪めた男は銃口を近くにいたコナンに向け、激情のまま引き金を絞り、

 

「――その子がクソガキなら、アンタは何なんだ」

 

 ぞっとするような低い声と共に、長髪の青年が後ろから肩に手を置く。

 リーダー格は慌ててその腕を振り払い、後ろに跳び退こうとするも、青年に引き足の爪先を踏まれ、動きを止められた。

 ほぼ同時に、青年は男の襟と袖口を掴むと、

 

「クソ大人じゃん」

 

 流れるような動作で相手を前に浮かし、背負い投げで地面に叩き付ける。

 強烈な痛みによって意識を失う男に向け、青年は冷めた目で告げた。

 

「こんな世界しか作れない大人が、ガキにデカい面するなよ」

 

 ⚔

 

「全く、君等は一体何をやっとるんだ!!」

「「「「「「「「どうもすみませんでしたー」」」」」」」」

「すみません! すみません!」

 

 目暮の怒声に、スーツの女性を除く少年少女が間延びした声で答える。

 あの後、子供故に警戒されないコナンが外に待機していた警察に呼び掛け、強盗達は無事に全員逮捕。

 店内にいた人質で、気分が悪くなった者以外は事情聴取することになったのだが、そこで問題になったのが強盗を制圧した青年達だ。民間人の、それも未成年がその身を危険に晒す行為に、目暮からの雷が落ちる。

 

「無茶するのは、誰かさんだって同じじゃないかしら」

「おい、灰原……それ俺のことか?」

「あら、別に誰とは言ってないけど?」

 

 灰原とそんな言い合いをしつつ、目暮の説教を聞き流している青年達を改めて観察する。

 事情聴取の内容を盗み聞きしたので、彼等の名前は分かった。

 

 まず、リーダー格を制圧した長髪の青年が、蒼井(あおい)春人(はると)

 ペコペコを謝るスーツの女性は、彼等の担任教師で、有坂(ありさか)秋桜里(しおり)

 真っ先に強盗犯に頭突きを入れた紫髪の女子、深見(ふかみ)玲奈(れな)

 拳の一撃で強盗を沈めた黒髪ポニーテールの長身女子、井ノ原(いのはら)真紀(まき)

 関節技を決めていたマフラーを巻いた女子が、狗駒(いこま)邑沙季(むらさき)

 強盗の脛を蹴り上げた銀髪ツインテールの女子、獅子ヶ谷(ししがや)桐花(とうか)

 そして体調不良を訴えた人質が救急車に乗るまでの間、介抱していた金髪の鯨瀬(くじらせ)・クリスティナ・桜子(さくらこ)、儚げな印象の九真城(くましろ)(めぐみ)、そしてメイド幼女の仙石(せんごく)大雅(たいが)

 全員都心から二時間ほどの距離にある市立美浜学園に在籍しているらしい。

 

「……ところで、君は何でメイド服を着てるんだい?」

「おかしなことを聞くな? 気に入っているから、それ以外に理由が必要か?」

「あ、い、いえ! 何か、すいません!」

「うむ、職務に邁進せよ」

 

 可愛らしい見た目に反して不遜な口調のタイガに、タジタジになる高木だった。

 

「でも、ホントすごかったぜー!」

「お姉さん達、あっという間に悪者を倒して、仮面ヤイバーみたいだったよね!」

「カッコ良かったです!」

「お! 見る目があるね、子供達! 仮面ヤイバー? は知らないけど、お姉さんみたいになりたかったら、よく食べてよく動いて、健康な体を作るところから始めていこうね!」

「「「はーい!」」」

 

 レナのアドバイスに少年探偵団は元気よく答える。精神年齢が近いのか、すっかり懐いたらしい。

 

「つっても、食い過ぎには気を付けろよ。じゃねーとグミ蔵みたいになっちまうからな」

「自分みたいにとは、どういう意味でありますか!?」

「また制服をパッツンパッツンにしてる君のことだね」

「あー、君達? 体を鍛えるのはいいけど、使いどころを間違っちゃいけないよ? でないと、この警部さんの雷が落ちるから」

「率先して動いた君が言っても説得力がないんだがね……」

 

 目暮に怒鳴られながらも飄々とした態度を崩さないハルトを含め、傍から見れば彼等はちょっと変わった高校生の集団にしか見えない。だが、そんな彼等にコナンは鋭い視線を向けた。

 

「でも、ホントに凄いよね。お姉さん達もそうだし、お兄さんも、拳銃持った相手を素手で倒しちゃうんだもの。それに全然怖がってるようには見えなかったし、明らかに――一般人じゃないよね?」

 

 核心を突くような言葉。

 対するハルトは、尚も飄々とした態度を崩さない。

 

「一般人かぁ。それは定義によるんじゃない?」

「定義……?」

「例えば芸能人からしたら、その業界の人間じゃない人は皆、一般人になるでしょ? けど、こういう事件現場じゃ芸能人だって警察からすれば一般人……で合ってますよね?」

「え!? あ、まぁ、そうだね」

「刑事さんもこう言ってることだし、今この場じゃ俺達は紛れもなく一般人だよ」

 

 あっさりはぐらかされたコナンは、より一層警戒心を強くして追撃する。

 

「今この場ではってことは、この場じゃなければ――」

「何なの、アンタ?」

 

 その追撃の手を、今まで傍観していた獅子ヶ谷桐花が遮った。

 

「えらく絡んでくるじゃない。まるで犯罪者扱いされてるみたいで不快だわ」

「えー? でも気になるじゃない。なんかヒーローみたいでさ!」

「……はっきり言わないと分からないかしら。私、ガキって好きじゃないのよ。イラつき過ぎて目からビームが出そうだわ」

「え? お姉さん、ビーム出せるの!?」

「すっげー! なぁなぁ、ビーム見せてくれよ!」

「これ君達、止めんか」

 

 そこに純粋な子供達も交ざってくるが、トーカには寧ろ逆効果なようで青筋を立てている。

 だが、聞きたいことは山程ある。何とかそれに乗じてコナンは再度質問しようとするが、

 

「う~ん、残念だけどそろそろタイムアップかな?」

 

 と、ハルトはちらりと目暮の方に視線を向ける。

 何だとコナンもその視線を追ったところで、タイミングよく目暮の携帯が鳴った。

 

「はい、目暮。……こ、これは、黒田管理官! え、美浜の生徒!?」

 

 どうやら相手はコナンも知る黒田兵衛らしいが、どうも様子がおかしい。何故警視庁捜査一課管理官ともあろう人物が、一介の学生のことで電話してきたのだろうか。

 

「確かにその生徒達はここにいますが……は、市ヶ谷から……ッ!?」

 

 顔を青くした目暮の声は、そこから聞き取れなくなった。

 二言三言会話をした後、電話を切った目暮はハルト達に声を掛ける。

 

「あ、あー……君達、調書は後日取らせてもらうから、今日はもう帰って構わんよ」

「目暮警部!?」

「い、いいんですか!?」

 

 佐藤や高木の声を制する目暮に、ハルト達は『じゃあお言葉に甘えて』と笑顔で帰り支度を始めた。

 

「どういうこと、目暮警部!? だって、明らかにあの人達、怪し――」

「コナン君!」

 

 滅多に聞かない目暮の怒声に、コナンだけでなく周囲の刑事や子供達も驚く。

 目暮は悠然と去っていくハルト達から背を向け、強引に視線を逸らす。

 

「君は、知らなくていい……!」

(何だって言うんだ、一体……?)

 

 そんな目暮の姿が、より一層コナンの好奇心を掻き立てた。

 

 ⚔

 

「流石『日本のヨハネスブルグ』と名高い米花町。入店早々強盗とはね」

「すみません、私が誘ったせいで……」

「いやいや、先生のせいじゃないって。今日たまたま銀行強盗をした馬鹿な大人がいたってだけだよ」

 

 コナン達から離れたハルト達は駐車場に停めた車に向かいながら談笑する。

 とても犯罪に巻き込まれたとは思えない軽さだった。

 

「あの強盗も運が悪いわね。よりにもよって殺し屋が集まってる中に飛び込むなんて」

 

 コナンが勘繰った通り、彼等は一般人ではない。

 彼等が在籍する市立美浜学園の裏の顔。それは『民間委託型工作諜報員育成機関(SORD)』の訓練校ということ。

 元は防衛省の日米合同対テロ組織『中央調査部諜報2課分室(CIRS)』が、ある事件を契機に刷新され、そこで行われていた極秘活動を引き継ぐ形で発足された組織。

 その主な活動内容は、諜報工作、護衛、捕縛、そして暗殺。要は国家の害となる存在を排除する、所謂汚れ仕事を請け負う秘匿された国防組織だ。

 当然ながら、そんな学園の人間が世間一般から見て普通であるはずもない。将来的に国防を担う人材の育成を目的にこそ掲げているが、実際は犯罪加害者やその身内の受け入れ先としての意味合いが大きく、その中でもハルト達のA組は学生の身でありながら現場に出る実戦部隊であり、先程の強盗とは潜ってきた修羅場の数がまるで違う。

 

「でも、蒼井君が強盗達を捕まえるって言った時は驚きました。その、ウチはこういう時、積極的に動かないと思っていたので」

「そこで何で私を見るのかしら、この先生は?」

 

 それはトーカに以前、『ウチの組織を正義の味方と勘違いしてない?』と言われたからだろう。

 あの時は面倒なウイルス絡みに仙石家のお家騒動も加わったのもあるが、確かに有坂の言葉は正しい。

 

「普通だったら俺達も動きませんでしたよ。あの段階じゃ、まだ警察の領分。()()に解決されたんじゃ、彼等の面子が立ちませんから」

「それに下手に悪目立ちすると、警察どころかマスコミも嗅ぎ付けてきます。流石にこちらが原因で『事故死』という事態は避けなければいけませんから」

「じ、事故死、ですか……」

 

 神妙な表情でそう言うクリスに、有坂は顔を青くさせる。

 彼女の言う『事故死』が、世間一般で考えられるそれと異なることは、まだ短いながらもこの業界に身を置く有坂にも分かっていた。

 

「ただ今回は後が閊えてて、警察が解決するのを待つ訳にはいかなかったので、ちょっと権力を使わせてもらいました」

『感謝してほしいわね。私が仙石一縷(いちる)経由でCIRSに連絡したおかげで、あっさり解放されたのだから』

「あ、タナトスさんが連絡してくれたんですね」

 

 どこからか聞こえた第三者の声。だが、有坂はそれがクリスの持つタブレットからだと知っている。

 タナトス・システム。有坂は詳しく分からないが、あらゆる電子情報に介入可能なシステムという程度の知識はある。

 彼女なら、あの場で誰にも気付かれることなく外部に連絡を取ることは可能だろう。

 

「しっかし、コナンだっけか? 妙に突っかかってくるガキだったな」

「自分も小さい子は好ましく思うでありますが、あれは少し思うところがあるであります」

「全くだな。ああも無遠慮に踏み込んでくるとは。しかも、子供の特権を意識しての行動だから尚質が悪い!」

「タイガも言うねぇ。ま、アタシ等に薄暗いところがあるのは事実だけどな」

 

 そう言って彼等の乗ってきたワンボックスカーの扉を開ければ、後部座席にはこの場に相応しくない銃器や爆薬が並んでいる。タイガの扱う医療道具が唯一の清涼剤だ。

 その中からレナとマキ、トーカ、グミは自身の得物が入ったケースを取り出すと、愛機であるバイクの下へ向かった。

 

「そういえば入店した時からこっちを見ていましたね」

「おや、有坂先生も気付いてたのかい」

「は、はい。何だか探るような視線が気になって……」

 

 有坂はハルト達のような殺し屋ではない一般人だが、それでも来るべくして美浜に来た人材だ。

 暗い過去故に、秘密が漏れないように目立たず必死に気を使って暮らしてきた分、人の視線には敏感になっている。

 

「では、素人で確定ですね。子供の工作員は珍しくありませんが、有坂先生にも分かるようではプロ失格です」

「調べてみるかい?」

「時間がある時にね。今日こっちに来たのは偶々だし、また会うことは然う然うないでしょ」

 

 運転席に座るハルトはそう言うが、有坂は妙な胸騒ぎを感じつつ助手席に乗り込む。

 どことなく、あの少年にはまた会う気がするのだった。

 

 ⚔

 

 探偵と亡霊は、再び相見える。

 

「ミラ女王の歓迎パーティに、テロリストが乱入?」

 

 ヴェスパニア公国の女王となったミラの、再びの日本来日。

 嘗ての縁で彼女を歓迎するパーティに招かれたコナン達だったが、その会場に突如テロリストが乱入する。

 正体は不明、目的も不明。唯一分かっているのは、ミラ女王を始め、各界著名人が人質になっているという事実のみ。

 警察による交渉が行われる中、政治的判断により、ある命令が下される。

 

佐藤「そんな……即時撤退ってどういうことですか!?」

高木「納得できません!」

目暮「ワシだって納得はしとらん。だが、これは上からの命令だ」

 

風見「現場の指揮権を、我々ではなく市ヶ谷に!?」

降谷「上は外交上の観点から、SORDの投入による早期解決を決めたようだ」

 

ハルト「この手の人質奪還作戦ってのは、人道的かつ慎重にってやり方は適さない。片っ端から皆殺しにするのが手っ取り早いんだけど、それでもいいの?」

イチル「構わんよ。殺せ」

 

 ハルト達、SORDの作戦が実行される。

 

ハルト「よし! これよりミラ女王の救出作戦を展開する! ――作戦開始!!」

 

ムラサキ「ウォール・チャージャーのセット完了。これで突入経路は確保できるよ」

 

マキ「オラオラオラオラオラァッ!!」

レナ「あーあ、相変わらず弾が勿体ない。流石はオーバーキル」

 

トーカ「私達の仕事はレナ達のサポートと、人質の脱出ルートの確保。行くわよ、メグミ」

グミ「了解であります!」

 

クリス「タナトスさん。ホテルの電源を落せますか?」

タナトス『可能だけれど、見えなくなるのは此方も一緒よ?』

 

タイガ「フルアーマーメイド(F・A・M)、装備完了! 仙石大雅、出るぞ!」

 

 鉄火と硝煙、そして鮮血が戦場に充満する中、彼等は再び出会う。

 

レナ「ねぇ、マキ。なんか殺したけど、アレって敵で合ってるよね?」

マキ「こんなゴツイ装備で女王サマの護衛ってのは無理があるよ、姉さん」

コナン(殺してから敵味方の確認するって、イカレてんのか!?)

 

グミ「トーカ先輩! 左200メートル、ビルの屋上に狙撃手を確認であります!」

トーカ「あれは、赤井秀一……! シルバーブレットが一体何の用よ」

赤井「ほう、あれがSORDの狙撃手。なるほど、優秀だな」

 

クリス『私が脱出ルートを指示します。毛利さんは、人質の方々を先導してください』

蘭「は、はい! よろしくお願いします!」

 

服部「どわぁッ!? な、何や自分!? どっから涌きおった!?」

ムラサキ「ニンジャだからね。ニンニン」

 

歩美「ちょ、ちょっとタイガちゃん!?」

光彦「危ないですよ!」

元太「俺達のこと、殺そうとした奴だぞ!?」

タイガ「関係あるか! 殺す奴がいるなら、生かす奴もいなければバランスが悪いだろうが。『救護の虎は誰でも救う』! 私には敵も味方も関係ない! 救える者は誰でも救うのだ!」

 

そして遂に、探偵と亡霊が対峙する。

 

ハルト「流石に斬れ味鈍ってきたか。さっき斬ったデブの脂肪のせいだなコレ」

コナン「蒼井、さん……? 何、やってるの……?」

ハルト「ん? 何って、――人殺し、かな?」

 

ハルト「――バイバイ。工藤新一くん」

 




一応グリザイア・シリーズを知らない方の為に、ちょっとだけ解説します。

・CIRS
日米合同対テロ組織「防衛省中央調査部諜報2課分室(Central Intelligence and Research Second)」の略称。
本文の通り秘匿された国防組織であり、『ファントムトリガー』の前作『グリザイアの果実、迷宮、楽園』の主人公・風見雄二が所属していた。
『ファントムトリガー』の時点では『楽園』の際に起きた事件が切っ掛けで存在が公となり、組織は刷新。極秘活動を引き継ぐ形でSORDが発足されている。

・SORD
民間委託型工作諜報員育成機関(Social Ops, Research & Development)」の略称で、CIRSの下請けを行っている。
前述のCIRS刷新を受けた元職員の天下り先であると同時に、犯罪加害者やその身内等の他に行き場のない若者、謂れのない社会的迫害を受けている者達の受け入れ先としての意味が大きい。
ハルト達が在籍する市立美浜学園を含めて六つの訓練校が存在する。

・タナトス・システム
市ヶ谷の地下にある、風見雄二の姉・一姫を組み込んだ半生体コンピュータで、日本に極秘で配備されているシギント・システム。
『楽園』の時点でメインコアの一姫はパージされたことで破壊されているが、『ファントムトリガー』では役割を引き継いだ第2世代タナトス・システムが登場。

・オーバーキル
ロシアンマフィア時代の井ノ原真紀の二つ名。一人殺すのに20発もの弾丸を撃ち込むことから付けられた。

フルアーマーメイド(F・A・M)
美浜学園の防弾制服を製造している会社が新たに開発した新型防弾着。
ヘルメットとアイウェア装着の他、全身に医療品が入ったポーチ、背嚢に除細動器を背負い、装備重量は約17kgという、重装甲メイドとでも呼ぶべき姿(やはり美浜に一人、メイドは必須である)。
遠距離攻撃はほぼ無効化され、近距離においても刺突攻撃を含めて、ある程度対応可能。

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