未来を変える鬼狩り達   作:yuki_06090570

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【注意】
オリジナルの技が多数出てきます。苦手な方はお気をつけて。



雷鳴響かせし鬼狩り

落下していく最中に何度も何度も鳴り響く、忌まわしい琵琶の音。

似たような景色が無限に広がる所為で此処がどの辺りなのかは分からないが、無惨から遠く離れた場所に移動させられたのは容易く想像できる。

 

「俺と悲鳴嶼さんだけ明らかに警戒してやがるな……」

 

相当遠く離れたのだろう。鬼狩りや鎹鴉はおろか鬼すらも姿が見えない。愈史郎の"目"がなければ、迷い続けた上で外にも出られなかったかもしれない。

実弥は苛立ちながらも額に"目"を付け、鳴女の視界から姿を眩ましながら皆の居る方角へと進んで行く。

 


 

鴉の案内を頼りに、この無限に広がる鬼の城を走り進んで行く。

作戦が上手くいっているのなら、今頃小芭内と蜜璃が愈史郎と共に琵琶の鬼の能力を封じているはずだ。

 

このまま無惨のいる場所まで向かうことができれば、こちらの優位が相当なものになる。しかしそれを妨害してくる上弦の鬼を放置することはあまりに危険すぎる。

 

鴉が広間へと繋がる廊下で突然停止し、先へ進むことを拒む。

則ちこの先にいるのは……。

 

「……来たか……鬼狩り……。

……お前は……先日の……」

 

「……くそっ……」

 

再び黒死牟と会敵した獪岳。

別次元の力量。一分の隙すらも見せぬ佇まい。全てを見透かすような六つの眼。

改めて味わう強烈な威圧感を前に、体の震えが止まらなくなる。

しかし獪岳は震える身体を何とか動かし、腰の刀に手を掛ける。

 

「……腹を括ったか……しかし……お前如きの力量で……私を討てる可能性は……万に一つもないであろう……」

 

「……しゃあねえだろうが……! あんたからはもう逃げられねえ……。そもそもこの空間から出なきゃ命は無いも同然……! 端から選択肢なんてねえんだ…!!」

 

己の運の無さに獪岳は憤慨し、呼吸を整える。

抜刀すれば、その時点で戦いは始まる。抜刀すれば、圧倒的な力量差を見せつけられて戦いは終わる。

かといっていつまでも抜刀しなければ、痺れを切らした黒死牟に斬り倒される。

 

「……こうなりゃやけくそだ……。やってやる…!!」

 

-雷の呼吸 伍ノ型 熱界雷-

 

半ば自暴自棄になりながら、獪岳は黒死牟へと斬り掛かる。

やる前から分かっていた。剣先が掠りもしないことなど。

振り切った刃の軌跡に黒死牟の姿はなく、気付けば背後で佇んでいた。

 

「ふむ……存外……悪くない……」

 

-雷の呼吸 弐ノ型 稲魂-

 

先刻振り切った刃をそのまま流れるように自身の背後へと振るい、素早い五連撃を放つ。

今度の黒死牟は回避せず、獪岳の攻撃を自身の血肉と骨で作り出した刀で容易く受け切る。刀身が見えないほどに素早い動きで。

 

「……雷の呼吸か……。しかし……妙な太刀筋だ……」

 

値踏みするかのように黒死牟は獪岳を六つの眼で見つめ、そして刀の間合いから距離を取る。

それはまるで"壱ノ型"を打って来いと言わんばかりに。

 

-雷の呼吸 肆ノ型 遠雷-

 

しかし戦うための"壱ノ型"を習得できていない獪岳にとって、相手との距離を一番素早く詰められるのは"肆ノ型"だ。

出来うる限りの速度で距離を詰めるが、黒死牟はそれよりも速い動きで後退し、獪岳の連撃は空を斬るだけだった。

 

「……やはり……お前……"壱ノ型"が……使えないようだな……」

 

「……あんたも基本が云々言う質(たち)か」

 

顔色、声色が変化せず、鬼故に瞬き一つすらしない黒死牟。彼の言葉にはどういう意味が含まれているのかが獪岳には分からない。

 

「いや……寧ろ感心……している……。基本無くして……ここまでの練度……。風変わりで……興味が湧く……。しかし……だからといって……生かす理由には……ならぬな……」

 

-月の呼吸 壱ノ型 闇月・宵の宮-

 

黒死牟は獪岳に向かって、容赦なく抜刀する。

瞬きする間もなく振るわれる横薙ぎの一撃。今の獪岳に反応できるはずもなく、

 

-雷の呼吸 漆ノ型 火雷神-

 

両腕を切断されそうになった瞬間、雷の如く凄まじい速度で、両者の間を横切る者が居た。

獪岳は慌てて黒死牟から距離を取る最中、自身を斬り殺していたであろう刀が真っ二つに切断されていたのを確認する。

 

「もう一人の……雷の呼吸の剣士……。堕姫の頸を……斬り落とした者か……」

 

黒死牟の視線の先を見れば、其処には善逸が神妙な面持ちで立っていた。

 

(はあ、やだやだ……。兄貴を相手にしなくて良くなったと思ったら、上弦の壱を相手にしなきゃいけなくなるなんて……。

大体、さっきの一撃で頸を狙ったのに、滅茶苦茶簡単に避けられたんですけど。そんなのもう勝ち目なんてないじゃん……)

 

「あんたが元々鬼狩りだったっていう鬼か」

 

心の叫びを堪えつつも、善逸は凛とした態度で黒死牟に話し掛ける。

恐怖による震えがないのは、やはり無惨と戦った経験(記憶)があるからなのだろう。

 

「……そうだ……。私は……戦国の世で……剣を磨いてきた……継国という名の……侍だった……」

 

「……それが名家かどうかは知らないけど。まあ……あんたがヤバい存在ってのはひしひしと伝わって来る」

 

鬼になる選択をしたかもしれない獪岳のことを頭から否定できないくらいの威圧感。彼を相手にするくらいなら、鬼になった方が少しは長生きできるだろう。

 

「でも俺は未来の妻である禰豆子ちゃんに、五体満足で"ただいま"って言うんだ。そして禰豆子ちゃんが今後も幸せに過ごせるように、あんたたち鬼を必ず倒す」

 

「…………」

 

瞳に宿る、何が何でも勝とうとする意志。その意志は己のためでなく、誰かのため。

剣を極めるために妻子を捨てた黒死牟にとっては相容れない存在だろう。

 

-雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃-

 

次なる攻撃を即座に繰り出すため、善逸"漆ノ型"ではなく"壱ノ型"を放つ。当然速度は低下するため、"漆ノ型"を回避した黒死牟に届くことはない。

 

-雷の呼吸 霹靂一閃・六連 -

 

-月の呼吸 弐ノ型 珠華ノ弄月-

 

善逸が"壱ノ型"と、それを究極の型にした"漆ノ型"しか使えないということは周知の事実。直線上にしか向かって来ないのなら、それほど対処は難しくない。

黒死牟は善逸の進行方向へと刃を振るう。

普通の剣士であれば、間違いなくここで斬られていた。しかし持ち前の耳の良さで黒死牟が放つ斬撃の音を聴き取り、善逸は間一髪で避け切ることに成功する。

 

「ほう……これを避けるか……」

 

(あっぶねえっ!! 耳が良くなかったら死んでたわっ!! 恰好良いこと言っておきながら情けないよ俺!!)

 

-雷の呼吸 参ノ型 聚蚊成雷-

-雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃・八連-

 

善逸に負けじと、獪岳は黒死牟へと刃を振るう。そして獪岳の攻撃の隙間を縫うように善逸は技を繰り出し、黒死牟の動きを可能な限り制限していく。

 

「……中々……良き連携……」

 

-月の呼吸 伍ノ型 月魄災渦-

 

二人の攻撃を捌くために使っている刀を用いず、振り無しで繰り出される斬撃。

善逸と獪岳は実弥から聞き及んでいた、振り無しで繰り出される斬撃を放つ瞬間に漂う"殺気"に気が付き、即座に攻撃を止めて黒死牟から過剰に距離を取る。

 

(……先刻から気掛かりだった……鍔から出ているあの珍妙な光……。間違いない……私の"月の斬撃"を弱めている……それも相当に……)

 

痣すら発現していない二人。普通であればこれほどまでの時間、上弦の壱を相手に五体満足で居られる筈がない。

それに気付いた黒死牟が取る選択肢は当然、

 

-月の呼吸 肆ノ型 月蝕(げっしょく)・壊毀月(かいきづき)-

 

武器を破壊すること。

刀を大きく、そして力強く振るい放たれた斬撃の周囲には無数の"月の斬撃"が回っている。

 

善逸は経験から来る不穏な殺意の音に気が付いて、斬撃を避けることだけに専念した。しかし獪岳は、

 

「受けちゃ駄目だ兄貴!!」

 

避けるのが間に合わず、刀で受ける以外に捌く方法がない。

善逸の叫びも虚しく、獪岳の刀は無数の"月の斬撃"が側面から多段接触して、鍔諸共刃が砕け落ちる。それと同時に無数の傷を負い、獪岳は痛みとともに死への恐怖が沸き上がる。

だがそれよりも思考に渦巻くのは……

 

(畜生…!! アイツの足手纏いになるなんて……!!)

 

「まずは一本……」

 

戦闘可能な人数が一人になった現状。黒死牟が狙うは善逸のみになる。

散々"壱ノ型"を放った善逸の動きは全て見切られ、型ですらない攻撃に防戦一方となっていく。

致命的にはならないものの、確実に動きが鈍る負傷を重ね、

 

「……基本の型のみで……良くぞ此処まで堪えた……」

 

-月の呼吸 陸ノ型 常夜孤月・無間-

 

そうして一瞬生まれた隙を逃すことなく、黒死牟は無数の斬撃を善逸と獪岳へ放つ。

 

-霞の呼吸 陸ノ型 月の霞消-

 

二人が細切れになりかけた瞬間、後方からやってきた一人の鬼狩りが無数の斬撃を全て捌ききってしまった。

 

「無一郎……!!」

 

「ごめんね。何とか間に合ってよかった」

 

善逸と獪岳を守るように、黒死牟に立ち塞がっていたのは無一郎。

鴉と雀の情報を頼りに、此処へと辿り着いたようだ。

 

「懐かしい……気配……。継国の……私が残してきた……子孫……」

 

「これが上弦の壱か……。凄い圧だ……」

 

威厳さえも感じさせる重厚な様に、無一郎は僅かながらに気圧されてしまうが、一呼吸の内に動揺を鎮め、頬に真っ赤な痣を発現させる。

 

「痣……出ていたのだったな……」

 

「ねえ。もしかしてずっとその調子で二人にもダラダラと喋ってたのかな。一旦頭で整理しないと言葉が出てこないの? 四百年も生きてたら、流石に頭がボケちゃうんだろうね」

 

-霞の呼吸 肆ノ型 移流斬り-

 

無一郎は黒死牟との距離を詰め、頸目掛けて刃を振るう。刃の切っ先がほんの僅かに掠め、

 

-霞の呼吸 弐ノ型 八重霞-

 

横へと回避した黒死牟に追撃を放つ。しかしまたもや黒死牟は回避行動を取る。

 

「霞か……これもまた……良き技だ……」

 

無一郎が来てからまだ刀に手を伸ばしていない黒死牟。

頸を取るなら、動きを把握しきられていない初動に全てを乗せるべき。

 

-霞の呼吸 漆ノ型 朧-

 

無一郎は攻めの姿勢を崩さず、独特な緩急のついた動きで黒死牟の頸へと刃を振るう。

 

(動きが読みづらい。撹乱も兼ねた技。玉壺が容易く敗れたのも頷ける。そしてこの速度、体捌き、視線……もしや……)

 

-月の呼吸 壱ノ型 闇月・宵の宮-

 

瞬きする間もない瞬速で繰り出された居合斬り。しかし無一郎は刃に接触する直前に頸への攻撃を完全に止め、回避に徹した。

負傷は頬にほんの僅かな切り跡のみ。反応できなければ切り落とされていたであろう片腕は今尚繋がっており、無一郎は両手で刀を構え続けている。

 

「やはり……"視えて"……いるのだな……」

 

力量を測るためほんの少しばかり手加減した一太刀。だが並の人間が至近距離で回避できるような攻撃ではない。ましてや回避したのは初見の技だ。

つまり無一郎は"透き通る世界"が視えている。

それを理解した黒死牟は驚く。己が人であることを捨て、何十年も費やして手にした"頂への一(・)歩(・)"を、眼前の少年は人間のまま、更には十四という若さで手にしているのだ。

必然、脳裏に過るのは……。

 

「お前も……天才のそれ…………いや……血の滲むような努力を……したというわけか……」

 

目に映ったのは、とても齢十四とは思えない、傷だらけで凹凸(おうとつ)のある掌。

黒死牟……巌勝も十四の頃、後継ぎに相応しい者となるために剣術を磨いていた。努力は怠らなかったが、何せ当時の若さで戦に赴くことは当然無い。それ故、当時の彼と今の無一郎の手を比較すれば、当然無一郎の方が戦い抜いた立派な手をしている。

 

「当たり前でしょ。あんたたち鬼を皆殺しにするためなんだから。皆……少なくとも柱や炭治郎たちはそうしてる」

 

「ふむ……そうか……。しかし……実に惜しい……その歳でその剣技……。私のように……鬼となれば……更なる高みへの道が……開けるであろうに……」

 

「あんたの考え方を押し付けないでくれないかな。俺は木こりの息子であって、侍じゃないから。鬼さえ滅ぼせば剣技なんてどうでも良いんだよね」

 

「…………」

 

― 剣の話をするよりも俺は、兄上と双六や凧揚げがしたいです ―

 

頭の中で繰り返される、一番忘れたいのに忘れられない者が発した言葉。

己の欲する全てを持ち合わせているというのに、それを童の遊戯にも満たないつまらないもののように呟く。

 

「というか……ああ、思い出した。継国って姓。炭治郎が言ってたな。呼吸を教えた人……だっけ? 確か……縁(よりい)――」

 

他意もなく名を呼び掛けた瞬間、黒死牟が瞬時に距離を詰め、無一郎目掛けて刃を幾度も振るう。

無一郎はその動きに素早く反応し、火花を散らしながら刃同士をぶつけ合う。一見互角に思えてしまうが、そうではない。

 

-霞の呼吸 参ノ――

 

-月の呼吸 弐ノ型 珠華ノ弄月-

 

勝機を手繰り寄せるべく型を放とうとしても、それを繰り出す前に相手が型を繰り出し始める。その攻撃に対応するためには、型を崩して守りに徹する必要がある。

 

-月の呼吸 参ノ型 厭忌月・銷り-

 

反して、黒死牟が繰り出す型には後出しで対応しなければならない。

 

-霞の呼吸 伍ノ型 霞雲の海-

 

連続で広範囲に放たれる斬撃が後方に居る善逸と獪岳に向かわぬよう、一つ一つを確実に相殺していく。

汎ゆる行動が後手に回るこの状況。経験年数という越えられない分厚い壁が、無一郎を少しずつ、そして着実に追い込んでいく。

 

「「…………」」

 

そしてそれを傍らで眺めることしかできていない二人。無一郎の四肢が、果ては命が失われる可能性が刻一刻と増加していくこの状況を打破するためには、一秒でも早く加勢しなければならない。

そんなとき、轟音鳴り響く戦いの中で、小さな足音が此方へと接近してくる。

 

「……兄貴。後ろから一人向かってくる音がする。この感じだと……多分風柱の弟だ」

 

「……」

 

「俺は先に加勢するから、玄弥から刀を受け取ったら――」

 

「言わなくても分かってらぁ。……後味悪いのは嫌いだ。死ぬんじゃねえぞ、善逸」

 

呼吸で止血を粗方終えた善逸は、目を瞑って呼吸に意識を集中させる。

汎ゆるモノが聴こえる耳で、黒死牟と無一郎の次元を超えた戦いの音を聴き分け、

 

-雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃・神速-

 

毛髪一本くらいに小さな隙間を縫うように、無一郎の胴を狙う黒死牟の腕に向かって猛突進する。"漆ノ型"ではないというのに、それに勝るとも劣らないほどの速さ。

 

-雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃・八連-

 

無一郎が少しでも呼吸を整える時間を作るため、善逸は立て続けに黒死牟へと斬り掛かっていく。

当然のように黒死牟はその攻撃に対応してみせるが、無一郎への猛攻は一時的に止まることとなる。

 

「……適応したか……この僅かな……戦いの中で……」

 

「……正直言うと、出したくなかった。長生きした記憶があったから。でも……仲間が目の前で死ぬくらいなら、俺は己が身削ってでも守ってみせる」

 

少しばかりの後悔を感じながらも黒死牟を見据えたまま納刀する善逸の両頬には、雷の如く罅割れた痣が発現していた。しかし視界は透き通っていない。辛うじて耳の良さで食らい付いているだけに過ぎず、依然として守られる立場にある。

 

「そうか……では……」

 

静かに呟いた黒死牟が柄に手を掛けた瞬間、己の命が瓦解せんとする膨大な殺意の音が土埃とともに周囲へ静かに響き渡る。

善逸はその音に一早く気が付き、無一郎は視界でその光景を目の当たりにした上で回避を行う。そして彼らが間一髪で回避を行った直後に、凄まじい轟音が周囲に響き渡った。

 

「な……なんだ……!?」

 

後方から加勢を図っていた獪岳と玄弥は目の前の光景を見て、その場に立ち尽くしてしまう。

 

「その豪胆が……何処まで続くか……拝見してやろう……」

 

土埃が消えた先に映る地面には床を抉り取ったような、恐ろしいほどに大きな斬撃跡。そして斬撃を放った黒死牟の手には、間合いが数倍にも伸びているであろう異形の刀を携えられていた。

 

-月の呼吸 漆ノ型 厄鏡・月映え-

 

成人男性の身長をも越える長さを持つ異形の刀で軽々と振るい放たれる斬撃。

痣の発現により五感が研ぎ澄まされて聴力が向上しても、視界が"透き通って"いても、一度(ひとたび)判断を見誤れば命はないと、身体中が強烈な警告を発し続ける。

 

-月の呼吸 捌ノ型 月龍輪尾-

 

間合いの内側に入ろうと画策しても、視界が"透き通って"いる黒死牟にはその動作を行う前から読まれてしまい、斬撃の隙間という隙間を食い潰す様に新たな斬撃が放たれる。

 

-月の呼吸 玖ノ型 降り月・連面-

 

間合いから大きく離されれば離されるほど、小さな勝機は削られていく。反して黒死牟の攻撃の速度は依然として速く、三十三尺((10メートル))以上離れていても瞬きすらもできる暇はない。

 

-月の呼吸 拾ノ型 穿面斬・蘿月-

 

直前に放たれた斬撃が視界から消える前に、新たな斬撃が次から次へと向かってくる。

黒死牟が刀を一振りするだけで、無一郎と善逸の負傷は三つ、四つと嵩んでいき、次第に対応が間に合わなくなっていく。いや、もう既に間に合っていないと言っても過言ではない。

 

(ヤバいヤバい!! これは冗談抜きで死ぬっ!!)

 

(このままじゃ悲鳴嶼さんと不死川さんが来るまで持ち堪えられない……!!)

 

-月の呼吸 拾壱ノ型 月暈(げつうん)・水鏡幻月(すいきょうげんげつ)-

 

ほんの僅かでも回避に余裕を持たせるため距離を離した善逸と無一郎。

しかし放たれた円状の斬撃は、黒死牟から離れるほどに大きく膨らんでいく。

音で捉える善逸にはそれが事前に予測できた。しかし経験が浅い上に視覚で捉えなければならない無一郎には、それが予測できない。

 

「無一郎!!」

 

-雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃・神速-

 

溜めが少ない"壱ノ型"で、善逸は迷うことなく無一郎へと突進する。

善逸のおかげもあって、寸前で何とか回避ができた無一郎。

 

-月の呼吸 拾参ノ型 舊怨(きゅうえん)・十三夜月(じゅうさんやづき)-

 

しかしその場凌ぎで放った善逸の技は着地の体勢が取れておらず、黒死牟の次なる攻撃には対応できない。

無数の歪な斬撃が、地面に伏した善逸と無一郎へと放たれる。

 

(……行け……! 行け…! 此処で出なけりゃ……どの道全員死ぬっ!!)

 

-雷の呼吸 捌ノ型 黒雷神(くろいかづちのかみ)-

 

獪岳は痛みと恐怖を押し殺し、脚に溜めた力を爆発させて、無一郎と善逸の方へと突進する。そして二人の襟首を掴んだ瞬間、斬撃が飛んでくる方とは反対に向かって、再度力を爆発させる。

飛んでくる斬撃に掠って血を流しながらも、獪岳は二人を掴んだまま攻撃圏外まで疾走する。

 

「やはり……逃亡を謀る……痣(・)者(・)の(・)剣(・)士(・)に……あるまじき……」

 

黒死牟は改めて獪岳に対して落胆し、今度こそ全員の命を狩り取るために刃を振るう。

 

-風の呼吸 壱ノ型 塵旋風・削ぎ-

 

しかし背後から恐るべき突風とともに、次なる鬼狩りが姿を現す。

黒死牟は刃が頸に掛かる寸前で気が付き、四人へ攻撃を放つ直前で背後への攻撃に対処する。

 

「……風の柱か……」

 

「……ったく。無駄に走らせやがって……」

 

実弥は悪態を吐きながら周囲を見渡す。

無一郎、善逸、獪岳、玄弥。死体が転がっていないことに一先ず安堵する。

そして玄弥は黒死牟の刀だったモノを手に持っており、止めを刺す切っ掛け作りの準備は概ね済んでいることが分かる。

ほんの一瞬玄弥に目配せした後、実弥は黒死牟へと向き直る。

 

「終わらせんぞ……お前らァ」

 

その一言とともに、鎖が擦れる金属音が部屋中に静かに響き渡る。

 

「うむ。無惨が控えている故、手短に済ませるとしよう」

 

「…………」

 

勝利への道に必要な手札が漸く揃った鬼狩りたち。

技量が他とは一線を画す二人の登場に、黒死牟は刀を握る力が強くなる。

 

-月の呼吸 玖ノ型 降り月・連面-

 

行冥と実弥が動き出す瞬間、黒死牟は先手とばかりに異形の刀を素早く振るう。

 

-月の呼吸 拾弐ノ型 籠(こも)り月(づき)・朔(さく)-

 

更に続けて、黒死牟は細かく鋭い斬撃を、先刻放った斬撃の隙間を潰すように放つ。

 

-岩の呼吸 参ノ型 岩軀の膚-

-風の呼吸 捌ノ型 初烈風斬り-

 

汎ゆるモノを"見透す"盲目で、知覚しづらい斬撃をも捉えて、行冥は鎖で繋がれた手斧と鉄球を高速で振り回す。

実弥は行冥が振り回す手斧と鉄球を繋ぐ鎖の隙間を通り抜け、黒死牟へと急接近する。

 

-岩の呼吸 弐ノ型 天面砕き-

 

振るわれた刃を防ぐ黒死牟に、行冥は上から鉄球を落下させる。

しかし黒死牟が回避し、巨大な鉄球の攻撃は実弥の眼前に落ちる。

 

「呼吸の異なる者同士で……これほど……恐るべき……」

 

-月の呼吸 拾陸ノ型 月虹・片割れ月-

 

振り下ろす刃とともに月の斬撃が大量に降り注ぎ、

 

-月の呼吸 拾伍ノ型 輪旋斬(りんせんざん)・盈月(えいげつ)-

 

振り下ろした刃を今度は振り上げ、真円状の斬撃を行冥と実弥へ放つ。

凄まじい間合いから放たれる強烈な斬撃を、二人は悠々と回避、防御を行う。だがそれは間合いの端部だからに過ぎず、至近距離で放たれたなら命の保証はない程度の攻撃であることに変わりはない。

 

「やっぱり……殺し甲斐のある鬼だなテメェはァ…!!」

 

-風の呼吸 弐ノ型 爪々・科戸風-

 

実弥は全てを切り裂かんとするほどの風の刃を放つ。

当然その風の刃を無視することなどできない黒死牟は、攻撃の手を一瞬止めて守りに入る。

 

-風の呼吸 漆ノ型 勁風・天狗風-

-岩の呼吸 壱ノ型 蛇紋岩・双極-

 

黒死牟の猛攻がほんの僅かに凪いだ瞬間、実弥は跳躍し、強烈な旋風を放つ。

行冥はその手斧と鉄球に旋風を纏わせ、振り放つ攻撃の速度を上昇させる。

 

-風の呼吸 玖ノ型 韋駄天台風-

 

滞空している体を捻り、実弥は続けて型を繰り出す。

手斧と鉄球が到達すると同時にやってくる実弥の強烈な斬撃。

行冥の武器を破壊できないことは既に把握している黒死牟は、否が応でも回避せざるを得ない。

 

-風の呼吸 壱ノ型 塵旋風・削ぎ-

 

先刻のように距離を取られ、間合いの外から延々と攻撃されては隙を作ることはできない。故に実弥は危険を承知で黒死牟に突進する。

 

圧倒的な速度で突進してくる実弥を、黒死牟は刀で受け止め、二人は鍔迫り合いの状態になる。

 

-月の呼吸 伍ノ――

 

「そう来ると思ったぜェ……!!」

 

-風の呼吸 肆ノ型 昇上砂塵嵐-

 

鍔迫り合いを力尽くで弾き、実弥は一振りで凄まじい竜巻を作り出す。

そして暴風吹き荒れる戦場の中、機械的な音が静かに鳴る。

 

(避けてくれよ……兄貴……!!)

 

玄弥は実弥を信じ、引き金を一気に六度引く。

火薬の爆ぜる音が暴風の音に搔き消されながらも、弾丸は黒死牟へと向かっていく。

 

(銃弾……中々の速度だが……防いでしまえば……否……!)

 

行冥の武器と同じ高純度の鉄である可能性を考慮し、黒死牟は最小限の動作で六発の弾丸を避ける。

この瞬間を切っ掛けに、無一郎と善逸は同時に動き出す。

 

-月の呼吸 拾肆ノ型 兇変・天満繊月-

 

勿論それは黒死牟には看破されており、折り重なった渦状の斬撃を全員に向かって放つ。

実弥は先刻以上に神経を研ぎ澄ませ、無数の斬撃を至近距離で相殺し続ける。

 

-岩の呼吸 参ノ型 岩軀の膚-

 

無一郎と善逸へと向かってくる斬撃は、行冥が全て捌き切り、

 

-雷の呼吸 弐ノ型 稲魂-

 

玄弥へと向かってくる斬撃は獪岳が寸前で防ぎ切る。

そして獪岳の体の隙間から、玄弥は変(・)形(・)し(・)た(・)南蛮銃を放つ。

先刻よりも弾速は遅いものの、生き物のように自由自在に動いて向かってくる弾丸を、実弥を相手にしながらでは対応しきれない。

 

(これは……!! 木の根を張って……!!)

 

着弾と同時に黒死牟の体からは巨大な樹木が急成長し始める。

 

-雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃・神速-

 

善逸は動きを止めた黒死牟……ではなく、真っ先に実弥へと猛突進する。

意図を汲んだ実弥は攻撃の手を止め、善逸が自分の方へと振るって来る刃を刃で受け止める。

刀の擦れる金属音とともに二人の刃は赫く染まり、善逸に続いて接近してきた無一郎は実弥の赫刀へ、出し得る全力で刃をぶつける。

 

その光景を間近で見させられた黒死牟は当然攻撃を繰り出そうとする。

 

「させるかぁァァ!!」

 

-風の呼吸 参ノ型 晴嵐風樹-

-霞の呼吸 弐ノ型 八重霞-

 

玄弥の血鬼術諸共、実弥と無一郎は黒死牟の肉体に何度も何度も刃を振るう。

赫刀で幾度も斬り裂かれた黒死牟は灼けるような痛みに苛まれ、体中から刃を出すことができなくなる。

玄弥の血鬼術と二人の赫刀によって黒死牟の動きは急激に鈍り、そうして生まれた隙に向かって、

 

-雷の呼吸 漆ノ型 火雷神-

 

善逸は空気を裂く雷の如く凄まじい速度で突進し、黒死牟の頸へと刃を振るった。




【あとがき】

お読みいただきありがとうございます。
今回は雷の呼吸の二人を加えた、黒死牟戦でした。

行冥、実弥が来るまで辛うじて持ち堪えましたが、鍔に付いている太陽光を照射する装置が無ければ、無一郎が来る前に善逸と獪岳は死んでいたでしょう。
そして単独で戦わざるを得なくなった無一郎は原作同様に腕を切られ、胴を切られ、玄弥が黒死牟の刀を喰う前に戦闘は終了していたでしょうね。

……まあでも、正直言うとこれでも黒死牟戦で四人が生存できるのはおかしいと思っています。それほどまでに兄上の強さは凄まじいんですよね。
無惨の腕ブンブンより数倍強く見えます。
小説なので文字だけなのは当然ですし仕方ないですが、刀が変形した後の絶望感は表現できてたかが不安です……。表現できてたでしょうか……?

実弥と行冥が参上してからは勝利確定演出の始まりです。
当然ながらこの時点で行冥は"透き通る世界"を会得しています。やり方さえ聞いていれば、行冥ならすぐに会得できるという絶対的な信頼が……。
とはいえ人数が四人から六人に増えてますから、行冥は頸を狙うよりも皆を守る方を優先してます。
赫刀ありきで頸を斬るなら、行冥以外でも可能なのでね。


善逸の痣は、鬼獪岳の血鬼術である罅割って焼く斬撃で負った傷のイメージです。
獪岳の痣は鬼化した時の紋様を赤色にしたイメージです。

本当は黒死牟の過去もまとめる予定でしたが、繋ぎ方がいまいち上手くいかなかったので分割しました。
なので次回は巌勝のお話です。

次回はそれなりに早めに投稿できるかと……

誤字脱字があれば報告していただけると幸いです。



以下、オリジナル技詳細

雷の呼吸 捌ノ型 黒雷神(くろいかづちのかみ)
壱ノ型 霹靂一閃 弐ノ型 稲魂 参ノ型 聚蚊成雷 の組み合わせ。
高速で戦場を縦横無尽に走り回り、相手の隙に向かって刀を振るう連撃技。
参ノ型を単独で放つよりも速度は大幅に上昇する反面、小回りが利かないため、距離感を見誤れば壁まで突撃してしまう危険性がある。
壱ノ型を連続で放つのと違い、僅かではあるものの左右への移動も可能。

命名由来
黒雷神:八雷神(やくさいかづちのかみ)のうちの一。伊耶那美神(いざなみのかみ)の腹に宿っていた雷神。(火雷神は胸に宿っていた雷神)

今回獪岳は逃げにしか使いませんでしたが、一応攻撃としても使える型になります。
今後登場するかは全くの未定です。


折角なので、兄上のオリジナルの技も作りました。
厨二っぽい名前にするのに中々苦労しましたが、思春期時代の頭に戻れて楽しかったです。

月の呼吸 肆ノ型 月蝕(げっしょく)・壊毀月(かいきづき)
刀を大きく、力強く振るう攻撃。血鬼術により生み出された月の刃が斬撃の周囲を回り、対象を抉りながら切断する。
正面から受けに来た刀を側面から容易く破壊することもできる。
ジョジョの輝彩滑刀の流法みたいなイメージです

命名由来
毀壊(きかい):こわしやぶること。また、こわれやぶれること。



月の呼吸 拾壱ノ型 月暈(げつうん)・水鏡幻月(すいきょうげんげつ)
円を描くように刀を水平に二度振るい、二つの円形状の斬撃を正面に飛ばす。斬撃を放った位置から距離が離れれば離れるほど、斬撃の径が広がっていく。

命名由来
月暈:月の周囲に現れる光の環。
水鏡:水面に映る月。月の異名。
幻月:月の左右に別の月があるように見える現象。



月の呼吸 拾弐ノ型 籠(こも)り月(づき)・朔(さく)
細かく鋭い斬撃を放つ技。斬撃の特性故に視認しづらく、他の型と組み合わせて放たれると、回避するのは困難。ただし他の型より殺傷力は控えめ。

命名由来
月籠り:月が見えなくなること。新月。旧暦における月末。
朔:新月。月の初め。


月の呼吸 拾参ノ型 舊怨(きゅうえん)・十三夜月(じゅうさんやづき)
日の呼吸の完成した型を模した技。不完全で歪な斬撃を放つ。

命名由来
舊怨(きゅうえん):古くからの恨み。
十三夜月:十五夜の月(満月)に次いで美しいとされる、新月から十三日目の月。



月の呼吸 拾伍ノ型 輪旋斬(りんせんざん)・盈月(えいげつ)
垂直方向に刃を振るい、複数の真円状の斬撃を放つ。
"漆ノ型 厄鏡・月映え"を派生させた型。漆ノ型より斬撃の数は劣るが、一つ一つの威力が増大している。

命名由来
輪旋(りんせん):ぐるぐるとめぐること。旋回。
盈月(えいげつ):十五夜の月。満月。




オリジナルの技に著作権なんてものは当然ないので、気に入った人は勝手に使ってください。

熟語の意味は幾つかのサイトで調べただけなので、間違っているかもしれないことをご承知ください。
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