ラ(1st)「……色々待って」
二人のララァの短編コメディでございます。
どうすんだ、これは。
目の前にある現実と脳内のイメージが噛み合わないまま、私はエルメスのコックピットで頭を抱えていた。この頭痛はサイコミュの影響ではない、ろくでもない事を吹き込まれたせいだ。
出撃まではまだ時間があるが、気を静めないと空間把握やビットの操作が滞りかねない。頭を使いたくない時なのに、全く。
よりによってこんなタイミングで、どういう訳かこの場所で。
平行世界の自分から、ワケわかんない話をされるとは思わなかった。
そこは何もかもが存在しない、ただ光輝くだけの世界。ニュータイプとしての感応現象が起きた瞬間に見えるあれが、私とそしてもう一人……私と同じ顔をした女性を包み込んでいる。
いや、わかる。これは――私だ。私だとしか思えない、魂がそう告げている。
……ちょっと待て、おかしいぞ。目の前にいるのが私なら、こうしている私は何処の私だ。
身構える暇もなく、
言葉より先に意思が伝わり、精神の対話が始まった。
大佐……シャア・アズナブルは連邦軍の白いモビルスーツと戦って死ぬ、その運命を変えたい。だから「違う可能性の世界」を探しては干渉し、理想の展開を探していたと彼女は語った。ジオンが発見したオーバーテクノロジーの塊、シャロンの薔薇はまさしくその為にあるのだと。
そのお陰でジオン軍事技術は大きく発展し、ついでに流出した分で連邦軍も強化されたがそれは折り込み済み。そしてそこから更に、連邦のV計画の要――ガンダム自体を大佐が奪取し運用するように仕向けた。どの世界でもガンダムは連邦の強力な機体で、それを手にいれれば生存率は上がる訳だ。
まず下士官ジーンのザクII、そのOSをハングアップさせて出撃不能にし、本来指揮官としてムサイのデッキに残る予定の、当時少佐だった大佐を現場へ赴くよう渡りを付けた。……筈だったのだそうな。
しかし大佐はこう言ったという。『ではジーン、私のザクを使いたまえ。私用にチューンされた機体だが、どうせこれは偵察任務だ。君の技量なら、特に問題はないさ』などと。
まあそれはそうだろうな、とは思う。だってあの人クールに見えて、根は気にしいで優しいから。部下に手柄を立てさせたかったんだろうなーって。
カバスの館で初めて逢った時も、いくら復讐の為とは言え士官学校時代の友人を部下もろとも死なせてしまった、とスゴく凹んでたし。延々泣き続ける大佐を一晩中励ましてたからなー、あの時……。この人軍人向いてないな、って感じた。だからこそ放っておけず、私もジオンに来たのだ。
……でもまさかここまでトントン拍子にパイロットになるとは思っても見なかった、人手不足なんだろうかジオン軍。フラナガン機関も研究所というか兵士の速成教育機関っぽかったし。
いやそれは良い、閑話休題。
要するにそのガンダムの件で、予定が狂いまくったらしい。
「性能を大きく向上させた上で大佐を乗せるつもりだったのに、これじゃアムロが強すぎて大佐がピンチなのよ」
うんまあ、それはそれでそうだろうな。私も思うよ、
「とは言えベースがRX78な時点で、まだマシな方ではあるのよね……。もっと高性能なビット装備の機体で来たこともあったし」
なんだその悪夢は。ガンダムでさえ手一杯なのに、余計なものを持ち込まないでほしい。もしかしてこの私、逆に事態を悪化させてないか。諸悪の根元がこれだとしたら、コイツをキュッとしたら全部解決しないだろうかな。
いやでもそうすると私も只じゃ済まないかな、だってこの私も結局は私なんだし。
そして、だ。大佐はどこの世界でも本当に、余計なことばっかり頑張ってくれるらしい。向こうの私曰く「勝ち目がないのにノコノコ突っ込んでいってアムロに落とされるの、もうやめてくれませんか……」とのこと、どうしてああも裏目を引くんだあの赤いのは。ソロモンでも私がビットで庇わなかったらアウトだったし。自信満々で大コケする辺り、大物っぽく見えて底が抜けているのかも。
それにアムロに直接やられる以外にも機体が過負荷で空中爆発するとか、ノーマルスーツ着てなかったせいで戦闘中勝手に窒息死するとかそんなケースもあったらしい。本当に何やってんの大佐。
そんな大佐を生かしつつアムロも生存させて更に私も生き残る、ってそれ……無理なんじゃない? そもそもが敵味方だ、誰かしら死なないと収まらないぞこれ。そうなってほしくはないけど、さ。
「今回こそは上手くいくかと思ったのに初手で躓いたのよ、ふーざーけーんーなーあーのーアーホー」
「どうどう、落ち着いて私。あと私の世界を躓いた世界扱いしないで」
そっちは自分の世界に戻るなりなんなりするんだろうけど、私はこっちで生きてくしかないんだぞ。
仕込みは失敗かもしれない、結果も上手くいかないかもしれない。
でも私は、今ここにいる私は私だけだ。この世界は私にとってひとつしかない、次も後も無い。
――ならば、道はひとつ。
始まったときと同じように意識は一瞬で揺り戻され、私がキラキラと光る空間からコックピットへと帰還していたのが、ほんの少し前。
耳に未だ残るのは、向こうの私がテヘペロして言った『ごめーん☆』という無責任な声だけ。それこそふざけんな、という話だ。
もうじき開戦だ、アムロの気配は近付いている。戦闘を停止させる術は思い付かない、いざとなればエルメスで体当たりしてでも割り込むしかないな。何しろこのデカイ図体だ、盾になるくらいは可能だろう。コックピットへの直撃さえ防げれば、という但し書きが必要だけれども。
その隙に意識が触れ合えば、説得出来る――かもしれない。あの子は自分の意思で戦争をしているんじゃない、感性に流されている。家族もふるさともない、誰も愛していない空の器。もし出会ったのがもっと早ければ、こうはなっていない。そこさえ突ければ、そして大佐が邪魔しなければ或いは。
でもなぁ……そこが一番の問題かなぁ……。対抗意識バリバリだからなぁ大佐、あのガンダム相手だと。つまり期待は出来ないし油断も出来ない、大佐の御守りをしつつ立ちまわらねば。
ここで私がどうするか、どう出るか。それは私一人の運命を変えるだけでは済まない、一大事になる。
なあに、やってやるさ。なにしろ私と来たら、私なのだから。自慢じゃないが私というのは、この世では私一人だ。その私ならばきっとなんとか出来る、なんとかするに決まっている。
黒く広がる宇宙を見やり、私は拳を握り締めた――。
「今度は私がララァの命令に従う、今はララァの方が優れているからな」
「じゃあ大佐、まずノーマルスーツをちゃんと着てください。その格好のまま出撃しようとしたら、マスクひっぺがしてその
「フッ、これは手厳しいな……。と言うかララァ教えてくれ、私はどうしたら良いのだ。これから私にいったい何が起こると言うのだ、なんか凄い怖くなってきたのだが」
「……とにかく大佐は自分が生き延びることだけ考えててください、貴方はあれこれ複雑に頭を使うべきじゃないんです」
あくまでジークアクス時空なので、原典とも正史とも違う「ジーンが出撃していたジークアクスのBeginningパート」みたいな感じです。
ジーン……お前さぁ……