――眼を覚ます。
あいも変わらず重たいまぶたに逆らって、ゆっくりと周囲の光を取り込んだ。
すると、そこには俺を見下ろす皆の姿があった。
やがて意識がしっかりしてくると――
「……いやなんでお前もいるんだよ、白面」
「まずそこに反応するの!?」
視界に入ったメンツの中になぜか白面がいて、声が出た。
ニイアのツッコミも冴えわたる。
「貴様のことだ、己がいたら驚くだろうと思って寄ってみた。満足した。ではさらばだ」
「ほんとにそれだけなんかーい!」
「やはりあいつ、ここで討伐したほうがいいのではないか?」
兄様も、呆れた様子でさっさとどこかへ行った白面を見送った。
まぁ、そこははい。
とはいえ、一回死んだふりして成功させてる白面のことだ、退治したところで第三第四の白面が出てきても何ら不思議じゃないだろう。
難しいところだ。
「セオ様っ!」
「うおっ!」
とか思っていると、ミホノが抱きついてくる。
ちょうど起き上がったところだったので、なんとか受け止めることができた。
ついでに周囲を見渡すと、どうやらここは学園の俺の部屋らしい。
これだけの人数がいると、少し手狭だ。
「無事でよかったです……いへへ」
「心配してくれてありがとうな。でもこうして、ちゃんと戻ってこれたよ」
「いへいへ……なんだかあったかいです、ぬくもりです……すやぁ」
「寝た……」
そのままミホノは、電池が切れたかのようにすうっと眠りに落ちていった。
「ま、そりゃそうだ。ミホノちゃんってば、ずっとセオくんの看病してたんだから」
「そうだったんですね……リズ先輩」
「うむ、まぁアタシはなんもしてないけどねぇ。ルトもミホノちゃんに追い出されて何もできなかったし」
「それは言う必要はないだろう」
追い出されなければ看病をしていたのだろうか。
まぁ、していてもおかしくないのが今の兄様だ。
「んじゃ、ちょっと手狭だしアタシはここらで失礼するねぇ。ルトはどうすんの?」
「……俺も失礼しよう、こうも男女に偏りのある場所は居心地が悪い」
「あ? それアタシのこと女として扱ってないってこと?」
「そうだが?」
そして二人は一触即発の雰囲気を醸し出し始めた。
頼むから外でやってほしい、リズ先輩が暴れたら普通に寮が吹き飛んでしまう。
なんならマジでリズ先輩は吹き飛ばす。
実際に吹き飛ばしたことが、原作でもあったかもしれない。
どうだったかな……
何にしても、二人は去っていった。
最後に兄様が、俺に軽く手を振っていて、少し嬉しい。
「うーん、あの兄貴マジあざといな……ミホノちゃんとか白面がヒロインレース最前線突っ走ってるけど、一番油断できないのはあの兄だよな……」
「お前本当にそれでいいのか……?」
ニイアはまた何か適当なことを行っている。
ルーニーだからって何でもやっていいわけじゃないんだぞ。
ともあれ、後に残ったのはミホノとニイア――それからティナだ。
ミホノは気持ちよさそうに寝ているし、ニイアは変なことを口走っている。
であればティナは? と視線を向けたら、なにやら部屋の隅で所在なさげにしていた。
まぁあのメンツの中では俺と付き合いが一番短い、ちょっと遠慮するところもあるのだろう。
「んで、ティナはどうしてそこにいるんだ」
「あ、百鬼セオ……えと、別に遠慮してるわけじゃないぞ……?」
「そうなのか?」
まぁ、それならそれで別にいいんだけど。
俺は首を傾げながらティナを見る。
じゃあどうして、そんな遠慮がちなんだろう。
と思っていたら、理由は単純なものだった。
「なぁ、百鬼セオ――――どっちが勝ったんだ?」
ようするに、気になっていたらしい。
俺と、もう一人の俺の戦いの結末を。
正直、他のみんなはあまりそこに頓着はしていない様子だ。
まぁ、どっちが勝っても別に何が変わるってこともないからな。
その点、ティナは俺も、もう一人の俺もどちらもしっている。
気になるのは仕方のないことだ。
他にはミホノも背中を押してくれたからきっと気にしているだろうけれど、気にしているからこそずっと看病していたのだろう。
今は疲れて眠ってしまっている。
だからまぁ、ミホノが起きるまで待ってもいいんだが――俺自身が、あの戦いを言葉にしたくて仕方がない。
「――勝ったよ」
そう、端的に。
俺は結果を口にした。
ティナは、少しだけ意外そうな顔をする。
それは決して俺が負けると思っていたからではないだろう。
多分、引き分けに終わるだろうと解っていたから意外なのだ。
「……まぁ、多分向こうの俺に聞いたら、向こうの俺も勝ったって言うだろうけどな」
「要するに……引き分けってことじゃないか」
「いやでも、俺のほうが魔滅場の打ち合いで押し勝ったからな……判定にもつれ込めば俺のほうが有利じゃないか……?」
「……百鬼セオがそれでいいなら、別にいいけど」
「男の子ってみーんなこうなんだよ、ティナちゃん」
男同士の喧嘩ってのは、譲れないもののぶつけ合いだからな。
多分、兄様と似たようなシチュになっても、俺は同じ感じになるだろう。
「はーやだやだまったく、本家アタシは大興奮だったみたいだけど、アタシは純正這い寄る混沌じゃないから、男のロマンとかちっともわかんないってのー」
「拗ねないでくれよ、心配させて悪かった」
「心配は……してないし……」
ニイアは呆れた様子で立ち上がる。
これ以上長居するつもりはないということだろう。
ティナも、勝敗の結果を聞けて満足したのかニイアと同じく立ち上がった。
「じゃあまた明日ね、セオくん」
「ああ」
「ほんと、色々あったなぁ……まぁでも――アタシもけっこーたのしかったよ」
「そうかよ」
這い寄る混沌にとって、楽しいってのは一番の賛辞だろう。
ニイアにそう言われるのは、少し嬉しい。
「……そうだ、ティナはこれからどうするんだ?」
「あう……なんか、学園に通っていいらしいから、通うぞ!」
「そりゃよかった。まぁ学園としても、ティナの能力はアレば助かるだろうしな」
なにせティンダロスの猟犬だ。
件のマナは使い切ってしまったものの、そのスペックは健在である。
魔人退治に、これほど助かる存在はそういない。
俺でも似たようなことはできるが、俺が動くと大人たちの胃がしぬからな。
まだティナの方がいいだろう。
「じゃあ、これからもよろしくな――ニイア、ティナ」
「はーい」
「わかった!」
そうして二人は、部屋を後にする。
さっきまであんなに人がいたのに、もうすっかり普段の俺の部屋という感じ。
ミホノがすやすやしているのも、またそれを助長させる。
「にしても、色々あったなぁ」
「……ん、なんだかセンチなセオさまです」
「ああ、悪い。起こしちまったか?」
「元々半分くらい起きてるです。話は聞いてるです。いへへ」
そりゃ恐い。
いつそのいへへがいがいがに変わるかわからんな。
「いやまぁ、なんというか……今回の戦いで色々と初心に立ち返ることが多かったからな」
「……ですか」
「そもそも、最初の魔祓刃開発からして、そうだったんだよ」
最初の開発――すなわち、ティナと出会うまでやっていた裏山での鍛錬。
アレも、かつての自分を見つめ直すためのものという側面があった。
結果として、俺は色々と自分の中にあるものを整理したわけだ。
「振り返ってみれば、俺は常に怒りと楽しみで前に進み続けてきた」
「……です」
「そして――きっとこれからも、そうやって進んでいくんだろう」
俺はミホノの頭を撫でながら言う。
こうやって、振り返ることができたのはミホノのおかげでもある。
だからこそ、言うのだ。
「――これからが、楽しみだな」
その言葉に、ミホノは答えない。
きっと――答える必要がないからだ。
俺達はこれからも、楽しく前に進み続けるのだから。
というわけで、お読み頂きありがとうございました。
今回で一つの区切りとなります。
またお会いできる機会があれば幸いです。
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