転界録:リムル・テンペスト オラリオ編   作:るにゃは

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第十二話「揺らぐ記憶」

オラリオの朝は早い。まだ陽が昇りきらないうちから、冒険者たちは武具を整え、迷宮都市の中央にそびえるダンジョンへと向かっていく。

リムルとベルも、例外ではなかった。

 

「ふわぁ……眠いです……」

 

ベルが目をこすりながらリムルの後ろをついていく。ファミリアに正式加入し、数日が経った。リムルの導きによって順調に経験を積み、少しずつ自信を取り戻しつつある。

それでも、朝はまだ苦手なようだった。

 

「ダンジョンは朝が一番空いてるからな。敵の数も控えめだし、慣れるにはちょうどいいんだ」

 

「そ、そうなんですけど……もう少し寝ても……」

 

「ほら、文句言ってるとまたバグベア出るぞ?」

 

「で、出ないでくださいぃぃぃ!!」

 

二人のやり取りは、どこか兄弟のようでもあり、リムルにとってもベルにとっても、心安らぐ時間だった。

 

 

 

 

 

 

第一層に降り立ち、モンスターを探して通路を進んでいたその時だった。

 

──ズンッ。

 

突如、頭の奥に響くような鈍い感覚がリムルを襲う。

 

(……なんだ? 今のは……)

 

《知覚異常の兆候を検出。原因不明。念のため魔素の循環を安定化しますか?》

 

(ああ、頼む……)

 

ふと、足が止まっていたことに気づく。前を歩いていたベルが、不安そうに振り返った。

 

「リムルさん……?」

 

「いや、なんでもない。ちょっと、懐かしい匂いがした気がしただけさ」

 

(……でもこれは……記憶? いや、違う。記憶の“断片”か……?)

 

頭の奥に、誰かの笑い声が響く。暖かな光に包まれた日々。強く、優しく、時に愚かで──それでも、心を通わせた仲間たちの影。

 

(……俺は、何を……)

 

気づけば、胸の奥が苦しくなっていた。理由もなく、涙がこぼれそうになる。

 

《……記憶封印領域に、微細な揺らぎを確認。接触原因不明。封印は維持中ですが、影響は徐々に表面に現れる可能性があります》

 

(……これが、“忘れている何か”か)

 

 

 

 

 

 

その日の帰り道、ベルはリムルの様子を何度も気にしていた。

 

「……あの、リムルさん」

 

「ん?」

 

「今日、やっぱり変でしたよね? なんだか、すごく寂しそうな顔してました」

 

リムルは少し黙ってから、歩みを止めた。

 

「……もし、すごく大事なことを忘れてるとしたら──ベル、お前ならどうする?」

 

「……僕なら……思い出すまで、諦めません。たとえ思い出すのが辛くても、大事なことなら、ちゃんと向き合わないといけないから……」

 

真っ直ぐな言葉だった。

 

リムルは思う。この少年は、迷いながらも自分の心に正直であろうとする。その姿は、かつて自分が守ろうとした誰かに、どこか似ている気がした。

 

「……そうか。ありがとう、ベル」

 

「えっ?」

 

「やっぱり、俺も──思い出さなきゃいけないみたいだ」

 

 

 

 

 

 

夜。静かな宿の一室。

 

ベッドに座ったリムルは、目を閉じて呼びかけた。

 

(シエル……俺は、何を封印された?)

 

《──主様、現段階では開示できません。ですが、近く……いずれすべてを思い出す時が来るでしょう》

 

(その時、俺は……)

 

《選択を迫られるでしょう。かつての世界に戻るか、それとも──》

 

(……今は、まだ選べないな)

 

《了解。ですが……主様。貴方の本質は、決して失われません》

 

その言葉が、どこか嬉しかった。

 

見えない霧の奥に、確かにある何か。いつかそれを掴むために──リムルは、前を向くと決めた。

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