赤が、流れている。
岩の隙間なんて生易しいものじゃない。地面そのものが裂け、その奥をどろりとした光がゆっくりと這っている。熱気が立ち上り、空気が揺らぐ。視界の端が歪んで見える。
「……ちけぇな」
思わず足を止める。
距離を測る。踏み外せば終わりだと、本能がはっきり告げてくる。
しばらく、じっと見つめる。
揺れる赤。弾ける泡。生き物みたいにうねる熱。
「ゲームでも思ったけどさ……」
ぽつりと呟く。
「吹っ飛ばされてこれにドボンとか、どうなるんだよ……」
一瞬、想像する。
落ちる。
焼ける。
そのまま沈んでいく。
「……I’ll be back」
「いや戻ってこれねぇって!!」
ぞわり、と背の内側が粟立つ。
「ヒェ……考えたくもねぇ……」
軽く首を振って、意識を切り替える。
ここはそういう場所だ。見えてる危険は避けられるが、ミスればそれで終わり。森みたいにごまかしは効かない。
「ちゃんと見て、ちゃんと動く……」
自分に言い聞かせるように呟く。
「やりたくねぇけど、戦うことも考えとかねぇとな……」
逃げるだけじゃ詰む。それはもう分かっている。
「さて……」
少しだけ気を抜いて、視線を上げる。
「マグマ以外は、どんなもんかな」
周囲を見渡す。
岩、ひび割れ、焼けた地面。歪む空気の中、横に滑る影がいくつか見えた。
「……お、いるじゃん」
ガミザミが数匹。岩陰を縫うように動き、無駄がない。
「普通に生活してんなぁ……」
ぽつりと漏れる。
こいつらにとっては、ここが日常か。
「……ってことは」
少し視線を奥へ向ける。
「こんだけいるなら、いるよな……」
思い浮かぶのは、成体の姿。
「ショウグン様、か」
「まぁ、ある意味同族……なのか?」
自分で言って、少し引っかかる。
「いや、親近感ってなんだよ……」
苦笑が漏れた。
カチン、ともう一度鳴らす。
その音を合図にするみたいに、意識が“この場所の本当の危険”へと向く。
――火山のモンスターといえば。
まず浮かぶのは、やっぱりあいつだ。主任……いや、ウラガンキン。誰に言ってるんだ俺は、と内心で軽くツッコみながら、その姿を思い出す。
転がる巨体。進路上のものを全部まとめて潰す、あの理不尽な質量。顎のストンプも同じだ。叩きつけられた時点で、形なんて残らない。
「いや、あんなもんに轢かれたら交通事故どころじゃねぇって……!」
思わず声が漏れる。
「バラバラのぺちゃんこだよ……!」
想像した瞬間、背の内側がぞわりと冷えた。
で、ブラキディオス。
あれは別格だ。粘菌に触れる時点でアウト、その上で殴られて爆破なんて食らったら――考えるまでもない。
「いや無理無理無理! 一発KOだろあんなん!」
反射的に言葉が飛び出る。
「爆散だぞ爆散! 笑えねぇって……!」
脚の先までじわりと強張る。
さらに厄介なのが、バサルモスとグラビモス。
あの岩みたいな身体、どうやって相手にしろっていうんだ。ハサミが通る未来がまるで見えない。突進も同じだ。あんな塊が突っ込んできたら、それこそウラガンキンと同じ末路になる。
「いや刺さるわけねぇだろ、あんな岩に……!」
思わずぼやく。
そして何より――熱線。
「いやあれ絶対ヤバいやつだろ……!」
ゲームでしか見たことないが、誰にだって分かる危険。
「焼きガニどころじゃねぇよ……炭だよ、炭……!」
乾いた声が落ちた。
最後に浮かぶのが、ヴォルガノス。
溶岩の中を泳ぐ魚。理屈が分からない。だが問題はそこじゃない。
「いや、あいつ魚だよな……?」
ぽつりと呟く。
一瞬、思考が止まる。
「……魚ってカニ食うよな?」
嫌な想像が、勝手に繋がる。
「……あ、俺ダメなやつじゃんこれ」
ぞわり、と全身が冷えた。
「普通に捕食対象側じゃねぇか……怖っ……!」
しばらく何も言えず、ただその場に立ち尽くす。
火山。改めて考えると、沼地よりもよっぽど質が悪い。環境も、生きている連中も、全部が一段階上に狂っている。
「……はぁ」
「エグすぎだろ、ここ……」
それでも――
視線を前へ向ける。
「……でもまぁ」
カチン、とハサミを鳴らす。
「進むしかねぇよな」
赤黒い大地へ、ゆっくりと踏み出した。