切裂ヤイバの献身   作:monmo

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第五十六話

 

 

 

 

 

 切裂が行方不明。

 

 

 

 

 

 その情報は群訝山荘の最前線で戦っていた、彼のクラスメイト達から徐々に浸透していった。

 消えた彼の捜索も叶わず、A組B組合わせたインターン生達は、食い止める事のできなかったギガントマキアの進行によってもたらされた、甚大な被害に遭った都市の救助活動に専念せざるを得ない状況に陥っていた。

 

 しかし、そんな彼等へ……いきなり学校から『雄英に戻れ』との命令が下った。

 

 まだ助けを求める人々の声が鳴り止まない中、そして凄惨たる現場にプロヒーローまでもが心を擦り減らしていく中、死柄木と脳無の戦闘でセントラル病院に入院中の緑谷、爆豪、轟、飯田、そしてギガントマキアの侵攻阻止で敵連合から重傷を負った上鳴と瀬呂以外のA組13名は誰の命令なのかもハッキリしないまま、自分達の母校である雄英へと戻っていた。

 しかし、彼らを待ち構えていたのは温かい声援でもなく……寮の前に横一列で微動だにせず並ぶ、黒服に身を包んだ公安の警察官達だった。

 

 訳もわからないまま、冷たい視線を放つ警官から告げられたのは、彼等の想像を超える残酷な事実だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嘘だ」

 

「嘘じゃない。切裂 刃は戦線を放棄し、(ヴィラン)であるトガヒミコと逃亡した」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 峰田は、その事実を、拒否した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嘘だッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

「嘘じゃないんだッ!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なおも否定しようと激情に任せて叫ぶ彼に怒気を込めて叫び返したのは、公安の警察を指揮する塚内 直正だった。

 彼は動揺の治らない雄英生徒達の前にタブレット型の端末を取り出し、その画面を見せつけた。

 

「彼が連合の構成員から個性破壊弾を受け取っている瞬間を、戦線にいたプロヒーローが見ている!」

 

「そんな……そんな…………!」

 

 動悸する八百万の目の前に映っているのは、切裂がトガヒミコと行動を共にしている様子と、彼が敵であるMr.コンプレスから個性破壊弾の入ったケース2つを受け取る彼の姿だった。

 信じられない光景を見せつけられるクラスメイト達に対し、塚内はそのまま彼らに話を続けた。

 

「そのまま彼は彼女と共に蛇腔市に移動し、プッシーキャッツのラグドールに向けて個性破壊弾を使用した…………これにより、我々は死柄木 弔の行方を掴む方法が失われた! あの2人の足取りも同じだ!!!」

 

 死柄木に渡すまいと、切裂がラグドールの個性を消失させた理由が最悪の形となって公安にもたらされてしまったのだ。

 しかし、塚内の言葉を当てつけだと予測している者も、この場にはいた。

 

「根拠はあんのか……!?」

 

 青筋を立てた切島が拳を握りしめながら体を硬化させていたが、塚内は『ある』と言わんばかりに平然と話を続ける。

 

「更に彼はトガヒミコを助けるために、プロヒーロー達を攻撃、拘束した。京都府に敷かれていた包囲網も突破し、追跡を振り切って現在も逃走中だ。それだけではない……彼には『USJ事件』から雄英高校を取り巻く一連の事件を引き起こした、ヴィラン側の『内通者』ではないかという疑惑が浮上している」

 

「フッ……ザけないで……!」

 

 音が鳴る程に歯を噛み締めて、俯いたまま表情の窺えない芦戸の呟きにも、塚内は構わなかった。

 

「ヒーロー公安委員会は切裂 刃をヴィランと断定。現在、我々公安警察によりヒーローネットワークを通じて、彼を全国に指名手配───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこまで言った塚内に、我慢の限界を超えて飛びかかったのは、峰田、芦戸、切島だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいよせっッ!!」

 

「やめろッ!!!」

 

「落ち着け!!」

 

 その動きを少なからず察知していたクラスメイト達が、3人を手が塚内に届く前に掴んで止めた。

 

「放せェッッ!!!!!!!!」

 

「放してッッ!!!!!!!!!」

 

「フザけんなぁァッッ!!!!!!!!!!!!」

 

 それでも、殺してやらんばかりの形相で塚内に掴みかかろうとする3人を、口田や障子を筆頭にして別のクラスメイトが押さえつける。そんな目の前で八百万を含む一部の者は、呆然として彼らの様子を見ているだけだった。

 そこに、重症で入院中のイレイザーヘッドに代わって、彼ら雄英生徒達の引率を担っていたオールマイトが、今までにないほど顔を青ざめながら塚内の前に出た。

 

「塚内くんっ! 何かの間違いだろうッ!!?」

 

「オールマイト……全て事実です」

 

 彼は明確に告げたが、それをすぐさま否定する声が響き渡る。

 

「フザけんじゃないわよッっッッ!!!!! アンタに何がわ゛かるのよぉッッっッッ!!!!!!」

 

 葉隠と耳郎に腕を掴まれる芦戸の叫び声に続いて、尾白と砂藤に羽交締めにされた切島が塚内に叫んだ。

 

「アイツは俺達A組で誰よりも漢気のあるヤツなんだぞッ!!! ぉ女の子を助けるために……両腕を犠牲する漢なんだぞッッ!!!!! 間違いに決まってんだろぉォォォがぁァァァァッッっ!!!!!!」

 

 腕力ではクラスメイト達の誰にも敵わない峰田も、障子に腕を掴まれながら叫び続けた。

 

「切裂はなぁァァっッッ!!! オイラとおんなじで子供が大好きでよォッッ!!!! どんな子の個性も褒めてくれて……ッ、無個性の子でもッっ!!! 誰でもヒーローになれるっッて! チビッ子からもッっ、みんなからも大人気のヒーローだったんだぞォっッッ!!!!!」

 

「……切裂少年……君は……!」

 

 仲間に押さえつけられても、なお叫び続ける3人。その峰田の言葉に、この場にいた誰よりも心を揺らがせたのはオールマイトであった。

 彼もまた緑谷と同じ様に、ワン・フォー・オールの継承者に相応しい心の持ち主である事を知ってしまったが、それが更にオールマイトの心を重圧させた。

 

 怒り、悲しみ、叫び。目の前で狼狽する雄英の生徒達を前に、塚内は彼らがプロヒーローではなく学生である事を再認識させられていた。

 

「そう…………だろうな」

 

 しかし、塚内はそうなる事も承知で彼らに事実を告げたのだ。

 

 雄英を取り巻いた数々の事件や祭事に、緑谷共々少なからず中心となっていた切裂の事を彼はオールマイトにも頼まれて調べてはいた。しかし、結果は疑わしい部分の無いシロ。トガヒミコと繋がるような情報すら掴んではいなかったのだ、この時までは。

 誰が見ても、彼は次世代を担う素晴らしいヒーローになると塚内は純粋に思った。そう信じる事もできた。

 

 だが、認めざるを得ない物を彼は見つけてしまった。

 

「私達は彼という人間を、よくは知らない」

 

「?」

 

 そう言いながら塚内は押さえつけられていた3人の目の前で、懐から手の平に収まる黒い機械を取り出した。

 

「君達は真実を知る必要がある……!」

 

 それを見た瞬間に口を開いたのは、それを創り出した本人である八百万だった。

 

「ソレは……前に私が創った……!」

 

 塚内が彼女達の前に差し出したのは、盗聴に用いられる小型のボイスレコーダーだった。元々はナイトアイの探偵混じりの仕事に憧れた彼が、面白半分で彼女に創ってもらった代物だ。

 

「彼の部屋を押収する前に、机の中で見つけた物だ」

 

 塚内は当然だが、このレコーダーの中に彼の声が入っている事を知っている。そして、彼がヴィランであると割り切らなければならない証拠も全て入っているのを知っている。

 そこまで理解している上で、彼等へこのレコーダーを渡そうとしていたのだ。

 

 ソレがどれだけ残酷な行為だとしても、彼等には知る権利がある。そして、知る事を望むだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『彼』という、ヒーローの『原点』を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・♡・・・♡・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 太陽も山の向こうに沈み始めている夕暮れ。

 

 大きく息を吐いて……少しだけ落ち着く事ができた俺が屋上から外を眺めると、遠くに死柄木が崩壊させた蛇腔市だった場所が一望できた。

 ギガントマキアを止めようとしたのに、結局市街の寸前まで奴の暴走を進行させてしまった事に、悲しさよりもどうしようもない笑いが出てきそうだった。

 

 遠くでは何種類ものサイレンの音がずっと聞こえるし、そこかしこで黒煙が立ち昇っている。火の手も見えた。きっとアソコには助けを求めている人がごまんといるのだろうが、プロヒーローもいるんじゃ助けにも行けない。

 それでも、綺麗な夕焼け空の広がる景色だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな絶景を背にして、俺の前にはトガちゃんがいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 衣類も靴も身に付けず、髪の毛のお団子も解いた産まれたままの姿で、フェンスの破けたビルの縁にしゃがみ込んでいる彼女へ近寄り、俺は持っていた迷彩服の上を肩に羽織らせた。

 

「ゴメン、臭いかもだけど……」

 

 ズボンだけ身につけている俺がトガちゃんに伸ばした腕や肩、首周りは何十回も彼女に噛まれた歯型だらけで……とにかくスゴい事になっていた。

 気になんてしていないし、もう隠しておく必要もない。むしろ、いつか自由にやらせたかったのだ。彼女の気の向くままに、自由に吸血してもらう事を。

 こんな形で叶うのだけは、予想外だったが。

 

「ふふっ、ヤイバくんの匂いがします……♡」

 

 トガちゃんは笑いながら俺の羽織らせた迷彩服の襟を鼻元に寄せて、嬉しそうに深呼吸をし始める。この戦いが始まった今朝までは確かに陸自迷彩だったのに、土埃や操血刃で生地が赤黒く染まり始め、よくわからない色味になっていた。

 それでもトガちゃんが嬉しそうにしているのを見て思わず顔を緩めてしまった俺は、そのまま彼女の隣に座り込んだ。夕暮れの景色を眺めながら、ビルの端からはみ出した素足をブラブラさせていると、隣の彼女も生尻のまま縁に腰を下ろしたかと思えば、肩を密着させて寄り添う。

 

「ねぇ……ヤイバくん? これから、どうしますか……♡?」

 

「そう、だね…………どうしよっか?」

 

 トガちゃんの問いかけにうまく答えられず、逆に彼女の望みを聞こうとしたら、さっきまで独占していた彼女の唇が俺の頬に優しく触れた。

 

「ちゅ……♡」

 

 少しだけ顔を彼女に向けようとした時にキスをされて、俺の唇のすぐ近くに彼女の唇が押しつけられて、そのまま唇で受けようとしたら顔を戻されてしまって……彼女が笑っていた。

 

「ヤイバくんと私は一緒です……♡♡」

 

「うん……」

 

 その答えを聞いて小さくうなずいた時、もう彼女の願いは叶ってしまっているのだと、俺には伝わった。

 トガちゃんは顔を正面に戻すと、俺と同じ様に生足を揺らしながら荒廃した都市を眺めて呟く。

 

「み〜んな、ボロボロですね……」

 

「あぁ…………綺麗だ」

 

 そう、迷いない事実を俺は彼女の見ている景色ではなく、彼女に向けて告げていた。

 それを聞いて嬉しそうに笑っていた彼女が、廃墟に向かって真っ直ぐに指を差した。

 

「あの観覧車、止まってますね……」

 

 遊園地だろうか、ジェットコースターやアトラクションの見える場所の中に大きな観覧車が見えるが、彼女の言う通りゴンドラはピクリとも動いていなかった。

 

「乗りたいの?」

 

 俺の問いかけに、彼女は首を横に振った。

 

「私、オトモダチがいなかったですから…………遠足の遊園地とかもひとりでした……」

 

「そっか……」

 

 俺とトガちゃんとの中学校生活は、1ヶ月もなかった。

 特別な行事が始まる前に、彼女は行ってしまったのだから。

 

 俺がいなくなった後、彼女を理解してくれる人間はいなかったのだ。連合に出会うまで。

 

「あーゆーの……楽しさがわかんないんです…………」

 

 けれども、今は違う。

 

 俺が教えてあげればいい。

 

 今はもう、何にも縛られない。

 

「行こう。今度は2人で」

 

 俺の言葉に、彼女は眼を開いてニッコリと笑ってみせた。

 

「動物園や水族館も、ないです」

 

「それも行こう」

 

「美術館や博物館も、ないです!」

 

「全部行こう!」

 

 次々と欲望を吐露するトガちゃんに答えていると、突然裸のまま立ち上がった彼女が元気良く叫んだ。

 

「そうだ! ザクロですっ! ザクロ農園に行ってみたいですっ!」

 

 それは、文化祭でも彼女ために作ってプレゼントした、彼女の好きな果物。甘い物よりも、少し酸っぱい物の方が彼女の好みなのだ。

 

「季節通り過ぎちゃったけど、行こう!」

 

 ヤケクソ気味に返事を返す俺に、トガちゃんはこれ以上ないぐらいカァイイく笑っていた。

 そんな俺の前で、彼女は立ったまま嬉しそうに、今度は景色の別の場所を指差した。

 

「あ、桜……!」

 

 彼女の言葉通り、見つけたのは夕焼けで色合いは曖昧になりつつも、満開となって花びらを散らす1本の桜の大木。あんな崩壊した都市の中で無事だったのか、瓦礫の広がる中で凛として咲いているのが見える。

 

「もう4月が始まるからね……」

 

「ずっと隠れ家に引きこもりだったので、すっかり忘れてました……!」

 

 彼女の嬉しそうな声を耳に挟みながら、俺は少しだけこれからの事を考えていた。

 不安はあったけれども……隣の彼女がいたから、怖くはなかった。

 

 緑谷と爆豪は、死柄木を倒せただろうかというのが1番の不安だったが、あの2人が力を合わせて負けるなんて有り得ない。

 ギガントマキアは動けるかもしれないが、片足は間違いなくトガちゃんが潰してくれたんだ。超再生も持っていないのだから、戦えるような状態じゃない。

 

 群雅山荘の戦場も、プロヒーロー達が突入に成功していたのだから、連合の幹部達がいなくなって構成員の統率が取れなくなったなら、制圧は成功しただろう。

 

 荼毘とスピナー達が、あのあとどうなったのかはわからないが、個性破壊弾と血清がある限り闇雲に俺達を襲えないはずだ。

 

 轟とエンデヴァーがどうなったのかが、最後まで予想はつかなかった。

 

 例えヒーローが勝ったとしても、今頃世間は大騒ぎどころではないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう、引き返せない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後悔も、心も。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どんなに思い悩んでも、意味はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう、縛られる必要もない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女が、隣にいるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 決意はもう、定まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この先、どんなに打ちのめされても……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後悔しかなかろうとも……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 見ていたいんだ。彼女の金色の瞳が、俺を映しているのを……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 聞きたいんだ。彼女の真っ白な牙を覗かせる口元が、俺の名前を呼ぶのを……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 君のカァイイ笑顔を、ずっと見ていたいんだ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それだけで、俺は生きていける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 君のためなら、心も体も全部差し出せる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう、彼女を絶対に離さない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう、彼女から離れたくない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トガちゃんの優しい世界が、俺の側にしかないのなら……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「決まった」

 

 それは……まるで、かつて君のヒーローになる事を誓ったように……俺はビルの縁から足を引っ込め、片膝立ちになって彼女を見た。

 あの時と少し違うのは、目線が同じ高さだった事だけども、あの日見た日差しに照らされて輝く瞳は今、夕焼けによってキラキラと宝石なんて目じゃないぐらいに煌めいている。それは変わっていなかった。

 

「トガちゃんのやりたい事……トガちゃんのできなかった事……全部叶えよう……!」

 

 そう、ハッキリと彼女に伝えた。

 

 今なら、わかる気がする。

 

 きっと史実の彼女の結末は、俺が望むような救いのある最期じゃないんだ。

 

 彼女を救えるヒーローは、この世界にイレギュラーとして産まれた俺しかいないんだ。

 

 きっと、そのために俺は今ここにいるんだ。

 

 史実で敵となる彼女を愛した俺には、彼女を幸せにさせる責任がある。

 

 世界中の全てを敵に回しても、彼女のヒーローで有り続けるのが俺の使命だったんだ。

 

 そう、スッと納得できた。

 

 彼女を幸せにするのが、俺の運命だったんだ。

 

 緊張して変に辿々しかったけれども、俺の婚約の様な宣言に彼女が笑った。

 

 最高にカァイイ笑顔で。

 

「はいっ!♡」

 

 この世界一、カァイイ笑顔を独り占めにする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今度は離さない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これからは、ずっと一緒だ。

 

 そこまで考えてから、俺は目の前にいる全裸のトガちゃんの目のやり場に困って、誤魔化す様に立ち上がりながら伝えた。

 暖かくなってきたとは言えビルの屋上だったこの場所に風が吹きついて、くしゃみが出そうになった。

 

「とりあえず今日は……服と寝床、探そ……!」

 

「はいっ!!♡」

 

 鼻を啜りながら呟いた言葉に、また彼女が笑ってくれた。

 

 

 

 

 

 ヒーローとしての使命も、忘れかけていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんな笑顔が、ずっと見れればいいと思ったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女の隣で……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ずっと、ずっと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───全面戦争から3日後───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんな大変だッ!!! ドアに緑谷からの手紙が……!?」

 

「君もか!? 俺の部屋のドアの前にも……!」

 

「もしかして全員かも!」

 

「なんだよコレ……!?」

 

「出ていくって……」

 

「ワン・フォー・オール……!」

 

「そういう事かよ……!」

 

「本当に……切裂くんの言った通りだった……」

 

「アホな俺にもわかったぜ…………クソぉッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ね、ねぇ……麗日は…………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ!?」

 

「こんな時に……寝て───

 

「みんなァッッ!!!! すぐに先生呼んでッッっ!!!!!」

 

「なぁっ!? どうした!!?」

 

「麗日がいなくなってるッッ!!!!!」

 

「なんだってェッッ!!?!?」

 

「ドアの前に手紙がないから……おかしいと思って部屋を覗いたら……ケロッ!」

 

「みんな見てよっ! 紙に書き置きでコレ……!」

 

 

 

 

 

『デクくんが心配だから、様子を見てきます。戻らなかったら、ごめんなさい』

 

 

 

 

 

「冗談だろ……ッ!?」

 

「あァンの……バカどもがァ……ッ!」

 

「アイツ……切裂のメッセージ聴いてから、様子がおかしいと思ったんだけどよおっ!」

 

「麗日君……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう……ヤだよ……」

 

「え……?」

 

「耳郎ちゃん……!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「A組……みんな、バラバラになってくよぉ……っ!」

 

「耳郎……っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・♡・・・♡・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから、何日か経った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日本は俺の想像以上の、酷い事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 八百万に創ってもらって、結局任務で使う事のなかった災害用ラジオが、こんなところで役に立つとは思わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラジオから情報として流れてきたのは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺達の参加していたヴィラン掃討作戦当日に、ヒーロー公安委員会のトップがデトネラット社の刺客によって殺された事。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 死柄木が複数体の脳無を引き連れて、蛇腔市から逃亡した事。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オール・フォー・ワンの腹心だった『ドクター』こと『氏子』 本名の『殻木』は死んだらしくて……『ギガントマキア』もあの後はもう動かず、施設を建設して拘束されたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 元異能解放軍幹部の『リ・デストロ』『外典』『トランペット』辺りも捕まったが、ギガントマキアに乗っていたハズの元敵連合のメンバー達は、山荘で捕まった『マグネ』と『義燗』以外、行方不明だそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 超常解放戦線は事実上の解体だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 深刻なのはココからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 死柄木が逃亡して、その日の内に対個性最高警備特殊拘置所『タルタロス』が襲撃され、そこに収監されていた化け物クラスのヴィランが軒並み脱走した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 つまり、あのオール・フォー・ワンが野に放たれたと言う事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 続くようにして、日本全国にある7ヶ所の刑務所がそのヴィラン達に強襲され、その内5()ヶ所から囚人が脱走───以後『ダツゴク』と呼称されるヤツらが、全国各地で好き放題に暴れているという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 以降、オール・フォー・ワンと死柄木の足取りは一切掴めなくなったそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダツゴクを暴れさせたのは、何か時間を稼ぐつもりなのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もしかしたら、神野でオールマイトに残り火の力を全て使わせたのも、このためだったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 行方不明である敵連合の残党は、オール・フォー・ワンと死柄木達に合流したと見て間違いないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヒーロー公安委員会によって決行されたヴィラン掃討作戦は、それまでの秩序を破壊する結果となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヒーロー側はそれ以上の地獄だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人々から求められる存在を『ヒーロー』と呼ぶのなら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの日から、ヒーローはいなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 掃討作戦で蛇腔病院側に配置されていた、エンデヴァー事務所のサイドキック達……通称『炎のサイドキッカーズ』はハイエンドクラスの脳無の大群に襲われ、事務所は活動停止状態だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まともな生き残りは事務所の中でも有名サイドキックだった『バーニン』って人ぐらいで……その本人も体を欠損させる程の重症で、まだ回復の見込みがない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それ以外のプロヒーローやサイドキック達も、死傷者多数で碌に任務へ戻れない状態だそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、超常解放戦線の幹部であるスケプティックの全国ハッキングで流出させた荼毘の動画……通称『ダビダンス』により、エンデヴァーの信頼は完全に失墜した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼とホークスは、死んだと思っていたベストジーニストと一緒に謝罪会見を開いていた。まだ身体中に怪我の処置が残されたままの、みすぼらしい姿で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ベストジーニストの死はホークスが超常開放戦線に潜入するための偽装だったらしく、彼が表舞台に戻った事で誤解だけは解けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、トゥワイスを殺したのは事実だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トガちゃんは、泣いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺も、彼の事が許せなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 想定外だったのは、エンデヴァーや会見の記者が『ワン・フォー・オール』という言葉を認知していた事。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どこから情報が漏れたのか、すぐにオールマイトが裏打ちしてくれたのか、エンデヴァーは『知らない』の一点張りだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それでもトップヒーローの畜生過ぎる家庭と、ヒーロー公安委員会の失態が明るみになり、世論が悪い方に動いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギガントマキアが倒れるまでに引き起こした大災害も、処理がほとんど進んでいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな最悪の状況下で、ヒーローチャートランキング上位のプロヒーロー『具足ヒーロー・ヨロイムシャ』が引退表明。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ソレに続いて無名のヒーロー達までもがバッシングに耐えきれず、次々と辞めていく事態。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヒーロー飽和社会なんて言われていたのに、今度はそのヒーローが足りなくなっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな彼等に愛想を尽かして、公安委員会を通さずに自警団となった脱ヒーロー派の非合法組織『ヴィジランテ』も活発化した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ライフラインや物流はすでに崩壊を起こしており、ヒーロー科のある学校を筆頭として全国に避難所が設立されたが、実際に避難勧告に従っているのは少数派だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今更ヒーローなど、信頼する義理もないのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう、この国には秩序なんて存在しない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 平和の象徴として讃えられていたハズのヒーローが、国民から罵倒の対象になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 力のある者達が個性を振り翳し、弱い者は逆らう事もできずに身を潜めるか、奴等に服従するしかない世界。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、かつてオールマイトが現れる前の超常明瞭期と、ほとんど似通っている世界だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オール・フォー・ワンが頂点として君臨していたとオールマイトの言っていた、あの暗黒の時代に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 聞くも無惨。見るも無惨だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この国は、ゆっくりと破滅に向かっている気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺とトガちゃんの名前がラジオから一切出てこない事から察するに……ヒーロー側は秘密裏に処理してくるつもりなんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして敵連合のメンバーが生き残っている以上、俺の味方になったトガちゃんは組織から見放されたに間違いない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺達が個性破壊弾を持っているのを、ヒーローもヴィランも勘付いているハズだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 死柄木を殺すために、破壊弾は使い切ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今、手元にあるのは、血清だけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トガちゃん、死柄木は破壊弾と血清をドクターに渡したって言っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それなのに、ヤツは俺がラグドールさんに破壊弾を撃った時、信じられないぐらい焦っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もしかしたら、破壊弾を優先して血清を作り忘れたのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だとしたら現状、血清を持っているのは俺だけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 殻木が死んでいる以上、作成はほぼ不可能だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヒーロー側に血清を渡して楽になってしまおうかと考えたが、トガちゃんのその後を考えれば絶対にできない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それに、そんな事をすればラグドールさんが戦線に立たされる事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 虎さんを失った今の彼女達を戦わせちゃいけない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は、あの人達を踏み台にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クラスメイト達も見殺しにして、俺はトガちゃんと一緒にいる事を望んだんだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヒーローもヴィランも全部、敵になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう雄英に戻る事もできない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 緑谷や峰田達、相澤先生がどうなったのか、知る手段もない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マウントレディも、ラグドールさん達の事も、情報に流れてこない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の両親も、俺のせいで今どんな目に遭っているのか、わからない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『青山』だって、ここまで最悪な状況にはしなかっただろう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は、どこかで間違いを犯したんだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺に、この物語を担うなんて、最初から無理だったんだと思う……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それとも……欲張り過ぎてしまったのだろうか……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今となっては、何が正しかったのかも、よくわからない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 たぶん、コレは……『バッドエンド』って、ヤツなんだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 けれども……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それでも……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は、トガちゃんと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まだ、生きている……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────荒廃した都市の片隅にて───────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でっけーヴィラン」

 

「浮かせられるかな……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「デクくん…………私、そばにいるね……!」

 

「あぁ…………ずっと一緒さ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────ちょうど、その反対側───────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見てくださいヤイバくんっ! あんなおっきいダツゴクがいますっ!!」

 

「見えてるよ……どーやって刑務所に入れてたんだろうね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウフフ…………どうしますか……?」

 

「そりゃあ…………もちろん……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 切裂ヤイバの献身 全面戦争 完

 

 ED曲 BLUE ENCOUNT - ポラリス

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次回『告白』




ここまでご拝読ありがとうございました。

次回の投稿日は未定です

詳しい話は活動報告を投稿しますので、しばらくお待ちください。

ここまで来たからには、最後まで走り抜けていきたい……!!!

なにとぞ、ここすき、感想、高評価よろしくお願いします
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