なんかやる気に火が付きませんでしたが丁度TCG熱が蘇った事もありまたボチボチ不定期更新して行きます。
今後ともゆるっとクソザコ先輩をよろしくお願いします。
時を少し遡り、GW突入前の事である。
部活の終わり際、葉山先生が珍しくホワイトボードの前に来たと思ったら何事か口走った。
「お前らには大型連休なので明け期限で課題を出します。新入生は初めてだろうが2年3年は勿論知ってるから問題はないな?」
事前の課題内容検討もあった為、勿論この課題を僕は知っている。従って桜子さんも知っている。なんなら桜子さんは経験者側だ。
……実技面は案の定惨憺だったそうだが。
「そんな訳で、だ。毎年恒例の構築デッキ……例として挙げた1種のトライアルデッキに対し、ここ10年間で発売されたトライアルという括りの中で勝つとしたらどのようにするか。トライアルデッキを扱った際のプレイログに対する自己分析と、範囲内で選択したデッキの選定理由のレポートをGW明けに提出してもらう。はい二人組作って〜」
先生はポンポンと手を叩き部員を並ばせた。
「今の部員数って奇数だよね!?」
「葉山先生性格悪いよね……」
「喫煙者、性格がカス……」
先生は普段の勤務態度からかこういう時舐められがちなので*1、部員達の軽口が飛び交った。
「オイ俺はともかく偏見で罵倒するのはやめろ」
「じゃあ吸い殻ポイ捨てとかしてないんですか先生!」
「は? 肩身が狭くなるからそういう事はしないが? 法が許してるなら自分でマナー違反者を殴ってるだろう」
葉山先生は今日も平常運転である。
「そして今年は良い機会なのでほぼ無改造の『オーバー・ドミナス』を握った聖岳、そして聖岳を除いた課題者全員参加で対戦もしてもらう。前者は強制、後者は再来週の活動日からスイスドロー形式*2で数日間に分けて行う」
そしてしれっと先生が聞いてない話を投げつけて来た。
「すいませんそっちは聞いてないんですが? 皆とたくさんやれるのは嬉しいですけど」
「まあまあ海君……」
僕が口を挟むと、即座に桜子さんが宥めてきた。
「……これ桜子さんには話を通してますね!?」
僕の生殺与奪権が桜子さんに握られているっ!
いや特に支障は無いな……?
「聖岳側が変更出来るのは現行のスタンダードレギュのカードから1枚のみ、挑戦側も聖岳と同様の範囲、ただし挑戦側は20枚までの変更を許可する」
「先生いいんですか? 『オーバー・ドミナス』軸なら僕が現行レギュで1枚入れるカードって決まっちゃいますけど」
フィニッシャーである『オーヴァーロード』の効果的に僕と相性の良いカード(と個人的感情)で入れるなら一択になってしまう。
「構わん。これはスタンダードレギュ内で何が使えるかを誰がどの程度把握出来ているのかの確認兼ねてるからな。質問は?」
「はい先生! タケちゃんだけ俺たちが苦心した課題やってないのはズルいと思います!」
先生の呼びかけに大崎が手を挙げてそう主張した。苦心したのは君と小岬さんだけなんじゃないかい?
そう思って小岬さんの方を見ると、彼女は凄まじい速度でサッと目を伏せた。
この反応……多分一昨年と去年は桜子さんに頼っている……。
「……まあそれは俺も考えたんだが……聖岳」
「はい?」
「『聖賢クレセンド』、『アンリーシュ』、『いと高きスケイルシティ』。この3種のトライアルに対面した際、最も有利が取れるとされたトライアルをそれぞれ答えろ」
突発課題である。挙げられた三つは全て7年前に発売された物だ。
なかなかの完成度でパーツ取りとしても有り難かった収録内容だった。
「当時発売されてた商品でですよね? 言われた順で『サイレン・トラム』、『スタッグ・ファイア』、『
いずれも対象の同年……仙鶴はスケイルシティの前年だったかな? に発売されていたはずだ。
「そう言われている理由も答えられるか?」
追加の質問、これはどれも明確なのでとても簡単。
「クレセンドはデザイン上の想定リーサルがサイレンに比べると1ターン遅く、かつサイレンのリーサルに対して打つ手がないのでリーサルを凌げても圧倒的不利を背負った状態が続く為ですね。アンリーシュは強力な効果を発揮させる際に手札をコストとして支払うデザインがスタッグ側のハンデスビートダウンのデザインに不利過ぎる為、マッドネスも収録されていないので逆転の目も見えません。スケイルシティは1番単純で、仙鶴に搭載されているメタ札が全部刺さります。あのトライアルは6種ピン刺しなのに本当に全部。全部刺さる頃には負けてますね」
構築済の弱点がわかりやすいのは別に悪いことではなく、対策も建てやすいので学習という点ではむしろ利点となる。そういう意味でも挙げられた3種は非常に良いトライアルだ。
先生が僕の答えに頷き、大崎に言う。
「正解だ……な? 大崎、こんなのに課題出す意味無いだろ?」
「気味が悪かった」*3
大崎は胡乱な目で僕を見ながらそうぼやく。
これには僕も少し傷付いた。
「ちなみに似たような事は門倉も1年の頃にしてるぞ」
「ヤッター!」
しかし先生から桜子さん情報を貰ったのですぐ完治した。病は気から!
「その節はご迷惑をお掛けしました……」
「門倉はここ20年くらいのトライアルとブースターの発売日と収録内容全部覚えてるからな……当時スラスラ答えた時はビックリしたわ」
流石の超性能だ……。
「僕が覚えてるのはここ15年くらいで季節単位ですかね」
「それでも大概なんだが……」
でも先生も全部覚えてますよね? これは言ったらまずそうだからやめとこう。
「あのぅ……」
「おっと
銀髪の男子生徒──2年の高嶺楓君が申し訳なさそうに手を挙げていた。
「すいません……聖岳先輩との実技を考えると、選択するトライアルが全く決められそうになくて……」
「そういや適性問題があったな高嶺は……」
高嶺君は精霊憑きだが一風変わった適性をしており、いずれかの色単色で組んだデッキなら扱えるし大会のレギュラー面子にも組み込めるくらいには強く、今でも中堅までなら任せられる。副将は相性問題もあって中戸さんから変わる事は無いだろうけどね。
しかし他色、あるいは多色カードを1枚でも混ぜた瞬間、桜子さんほどではないが事故るという中々厄介な事情を抱えている。
あと単色なのでデッキの相性差が覿面に出やすい。
それもあって彼は今年のレギュラー陣には入らず、ピンチヒッターとして起用される準レギュラー筆頭として居る。僕らが引退してからの部長は多分彼になるだろうね。大将は要相談って感じだけど。
なおワタル君がもうちょっと伸びれば準レギュラー枠を狙えるかなくらいなので、高嶺君のプレイヤーとしての実力は僕ら三年生組を除けば今の篠ノ芽PJ部で1番高い。
高嶺君も将来はプロ志望だそうだが、きっとその道のりは険しいだろう。幸い本人が険しさは気にしていないみたいなので、有望な後輩である。
いつかプロの舞台でやろうね!
「彼は単色適性ですし発売年度だけ決めてみては? 決められた年度のトライアル収録内から僕の使うデッキに勝てる組み合わせを模索するって感じで」
「そうするか。範囲内の収録内容を改めて洗うので高嶺だけは後でメッセージで伝える。では解散。楽しく過ごせよ」
「合宿で2日潰れてるのに!?」
金目さんが文句を言うが、こういう時の先生は無敵だ。
「俺は実質休み無いんだぞ! GWなのに!」
立場を利用してくるからねえ!
そうしてその日は解散となり……。
合宿も終わりGW最終日、ちょっと梅さんからカードをトレードしてもらう為に伺った先輩宅で、僕のスマホにワタル君からメッセージが届いたのであった。
『海先輩! 助けてください!』
多分だけど……君、課題忘れてたな?
◆
そんな訳で泣く泣く桜子さんと別れ、ワタル君が待つ『もいらい』へやって来た僕であった。1人で来るのは数ヶ月ぶりかもしれない。
今頃桜子さんは梅さんとのトレード希望カードを探してストレージ内のカードと格闘……もとい整理している事だろう……梅さんがストレージ置き場は決めてるけど中身整理してないのは意外だったな……。
「いらっしゃいませー……タケちゃん1人か? 珍しい」
店に入るとレジに立っていたモヒカンさんが声をかけてきた。やっぱり他人も珍しく感じるようである。
「ちょっと用事で……ワタル君居ます?」
早速訊ねてみると、マッチスペースの方を指差して答えてくれた。
「あの子らならスペースでスマホ見ながら唸ってるぞ」
「はーい。ちょっとスペースの一画借りますね」
「今日は大会も無いから大丈夫だ。ワタル君の様子見るに勉強か? 頑張れよ」
「ありがとうございます。そんな所です」
さてワタル君はというと……。七草……さん?*4 も居た。
「あっ海先輩! 課題に載ってて実家にあったトライアル全部……20個くらい送って貰ったんですけど、全部回せちゃうからどれにするか決まんないんですよ……!」
忘れてなかった……!
「こっちが思ってたのと別方向に難題が降ってきてるね……?」
「ほら〜ワタルやっぱ課題忘れてると思われてたよこれ」
いやほんとにトライアル20個+αが全部回せるって人は初めて見たぞ? 僕もあの中だと弄らず使えるの18個くらいだし。ニコイチで弄っていいなら全部使えるけど。
僕の対戦した事ある人の中でも1番扱える範囲広いんじゃないか?
そう考えていると、七草さんが悩ましげにぼやく。
「やっぱじわじわランマルの分も適性戻ってきてるよねえ……」
「ワタル君の適性ってめちゃくちゃ広いけど何か事情あったりするのかい? あるなら言わなくてもいいよ」
なんか下手に聞いたらいらん事に巻き込まれそうという信号を前世の記憶君が送ってきているからね! 巻き込まないでね!
「梯子外すの早っ……えーっと私が喋って大丈夫な範囲だと……ワタルの本来の精霊が今休眠状態なのはおひいさまから聞いてますよね」
「うん。それで入学当時はかなりガタガタな感じの適性だったね。先月末くらいから普通に扱えるくらいには戻ってきたみたいだけど」
本当に一気に戻ってきたので入部初日の大事故クラスのプレイミスはなんだったんだ? と思うくらいだ。
「なあもしかすると……海先輩って適性感知ティコより凄いんじゃねえ?」
「ちょっと私も自信なくなってきたな……ともあれその影響で精霊剥離に近しい状態にワタルがなってまして……特例措置で私がワタルと追加で契約結んだんですよ。事態収拾への特権として。それでワタルは今ランマルと私、2名の契約を保持してる訳です。なので扱える範囲がメッチャクチャ広がってるんですよね。ランマルが重たいデッキ、私が軽めのデッキって感じで適性が分かれてるので……ランマルが完全復帰したら重たいデッキの方が得意に戻ると思いますけども」
本当に厄介そうな話が出てきた。向こうのお役所関連の話は近づかない方がよいとクランプスも言っている。
ただしクランプスからお願いされた場合を除く。
「……一応聞いておきたいんだけど、七草さん側の契約が今後破棄される事はある?」
破棄されるのならちょっと今後のワタル君育成計画を弄る必要があるかもしれない。
「いえそれは入学以前に関わってた件の報奨として維持してもらう形で認められてます。なのでワタルが存命の間は二重契約が履行されますね……おひいさまの権力が唸ってましたよ」
「ああ道理で……クランプスが向こうから帰ってきた時疲れた顔してた訳だ……帰ったらお礼しなきゃな……」
シュッと帰ってきた日は即袋からアイマスクと耳栓取り出して寝てたからな……。その日はクランプスの尋常ならざる様子に僕と桜子さんも早めに就寝した。騒がしくて起こしたら怒りそうだったし。
「とりあえず話せるのはこれくらいですかね? それでワタルの課題なんですけど……」
「そうだねえ……ワタル君、先に『オーバー・ドミナス』がどういう動きでリーサルに入るのかを分解してみようか。それなら帰ってからでも検討出来るよね?」
実際にカードに触れた方が覚え易いとも言うし、ワタル君はその傾向がかなり強いみたいだからね。
「はいっ! ティコ、いつものメモお願いできるか?」
ワタル君の言葉に、七草さんは眉を顰めて答える。
「メモ帳は家だよ……出る前に言えよ……ワタル、財布出して」
「ん? おう」
「すいませんモヒカンさーん……」
どうもメモとペンを買うつもりらしい。その間にトライアルデッキの中身を並べ直して準備するかな。
◆
スマホでメモ取れば良いんじゃない? という画期的解決法に僕らが気付いたのは、七草さんが会計を済ませた後であった。
「返ぴ……いや普通に使うしこのままでいっか……これは予備にしとこ」
こっちも準備が出来たし、早速始める事にする。
「さて、それじゃあ『オーバー・ドミナス』がどういうデッキなのか? から解説していくよ」
「ウッス! ……これっていつ頃の発売なんでしたっけ?」
「これは6年前だね。この年に実装されたカード群はトライアルも含めてキャラクターのパワーが比較的低く、代わりに効果やイベント、チャンスに強力な物が多かった。プロシーンでもコントロール使いがかなり台頭した年だったね」
なお翌年刷られた多種多様のメタカード群で結構な数のデッキ型が環境外へ帰っていった。
例年は個々の適性もあるから移り変わり激しいんだけど、この年は大きい大会の上位入賞にほぼコントロール型が入ってたので異質なデータが見れるありがたい年でもある。それでも年納めのPJグランプリはビートダウンが優勝してたのがまた面白い。
「へぇ〜」
ワタル君が興味深く声を上げた。
「プロとしてもCスタートだと数年分の入賞データを洗ったりはした方が楽になるから覚えておこうね。さて、この『オーバー・ドミナス』はこの時期でも結構変わり種の構築で、内蔵されたチャンスやイベント、そしてフィニッシャーである『オーヴァーロード』の効果を絡め、盤面優位を形成し続けて殴り勝つデザインになっている」
「それだけ聞くと海先輩が苦手そうなデザインに思うんですけど……」
ワタル君が良い質問をした。キッチリ答えてはあげられないが。
「と、思うかもしれないけど、僕はこのデッキなら普通に扱えるんだ。この原因にはちょっとした種があるんだけど、それは当日の実技まで秘密にしておこうか。特定のキャラクターをスイッチとして、ウィニーと中速ビートダウンを交互に切り替えられるのがオーバードミナスが持つ最大の特徴になるかな。ワタル君が言った通り、本来なら僕は扱えるけど苦手寄りになる構成だね。これに限らず、大抵のトライアルは複数の勝ち筋があるならニコイチしてプランを寄せる方が実戦的になる*5んだけども……それは一旦置いとこうか」
明後日の方向への勉強になっちゃいそうなので、今はオーバードミナスに集中だ。
「それでフィニッシャーの効果が……これ結構厄介じゃないですか?」
ワタル君の言葉に、僕は頷く。
オーヴァーロードの選ばれない効果はテキストの仕様上特殊な裁定が出ており、相手プレイヤーが選ぶ効果全般に及んでいるので攻撃されない効果も内包している。その為コスト比では少々貧弱なパワーを補う設計となっている事は注意すべき部分である。
まあ本体が殴ってきた時に対象変更するのは可能なので、対オーヴァーロードに限れば課題の範囲内で相性の良いカードも居る。
「盤面優位を重点的に取っていく関係上、自盤面に他キャラが居るなら相手に選ばれないというのは相当な強みになる。だから対処するなら全体火力系のイベントやキャラクター効果で相手盤面を焼き払うか、相手の盤面を丁寧に処理していく……というのが定石になる」
僕の返答に、ワタル君は視線を上に向けて挙げ出した。
「て事は……俺が持ってるデッキだと『ドラゴニック・ウォー』、『
良い選択だろう。ただまだ考えるべき部分はある。
「確かに範囲火力や除去持ちが多いそのデッキ群ならと言いたいところだけど……さっき話したこのデッキの特徴があるよね?」
ワタル君は調子が出てきたのか、ハッと気付いて意見を出した。
「特徴……あっ運用の切り替えですか?」
「そう。この切り替えがネックで、今挙げた3つだとビートダウンルートに切り替わると除去のためのラインが足りない、あるいは盤面を維持するだけのパワーが出なくて困るって事が起きる。だからどのタイミングで切り替わるのかを知らなければいけない。いいかな?」
「はい!」
うーん教え甲斐がある。大崎もこんな感じだと助かるんだけども……と思う。
「それじゃ切り替わりに使われるカードを見てみようか。1つはビートダウンにスイッチする『
「ふむふむ……」
ほんのり高いパワーが厄介なんだよね。特に全体除去でちょこちょこ除去出来るラインが概5〜7コストで4000〜5000くらいなんだけど、1番処理したいウーラシュカがそのラインを抜けていく事が多い為事前の全処理には2ターン必要な事がよくある。
「もう一つはウィニーにスイッチする『穴暗しコーンヴォル』だ。こっちは黒5コストのパワー3500、手札から出た時に手札をダストに送ると、自身のダストからコスト3以下の【ドミナス】を2体選んで場に出せる。これだけだと並べられはするけど少し圧が足りない……と思いきや、【ドミナス】はコーンヴォルと非常に相性の良いコスト3が存在する。それが『山彦隊』。これはプレイされた時に手札1枚を支払うと、場の【ドミナス】を選んで手札に戻し、同コストの【ドミナス】を手札から出す事が出来る。ウィニー型はこの2枚で盤面を一気に揃えつつ、概ね次のターンで『ワンフォーオール』を使って打点を跳ね上げて削り切るパターンに入る。なのでこちらのリーサルはリソース6が想定される。いきなりリーサルに入るから警戒度はこちらの方が高いかな」
一気に説明したからか、ワタル君は頭の中で言われた内容を噛み砕くように視線が上の方を彷徨っていた。
なおスイッチ要員と呼ばれてはいるが、無論この2種は双方揃っている時が1番強い。
チャンスステップによる手札の優位性もあるので、処理できなかったが最後小型がポコポコと高打点で殴ってきたり小型居ないな……? と安心してたらコーンヴォルや山彦隊が捲れてまた再展開されたりで悶絶する事態がままある。*6
「それだと……中速ビートの方が対処は容易?」
「デザイン的にはそうなるね。ビートダウンの方がじっくり構築する必要がある分崩される耐性が微妙に高く、ウィニー型は弱点がビート型よりもハッキリしてる代わりに殺傷性が高くなっている。でもまあウーラシュカによるブレイクバフがあるから、ライフが半分以上削れてからの事故死させる力はどちらもさして変わらないんだ」
このオーバードミナスは、僕がよく知ってる相手であればおそらく銀舎君が1番上手く回せるデッキだ。葉山先生も上手いけど、先生の場合適性よりはプレイングの経験の方が唸っている。
彼の場合はトライアルから少し弄れば20から即死圏に持っていく場合があるのでかなりヒヤヒヤする。
それに比べれば僕の扱うこのデッキはずっと優しいと言えよう。*7
リーサル取れるライフの範囲も13くらいまで狭まっちゃうしね。
「言ってた事をまとめると……除去と軽量ハンデスがあると有利に立ち回れる?」
うん、良い反応だ。
これならきっと、良い対戦が出来るだろう。
「ここまで答えたならワタル君が使うデッキも見えてきたかな?」
「はい!」
僕の確認に、物凄く良い笑顔でワタル君は返事をしてくれた。
他の部員の皆もこんな感じだと嬉しいんだけど、なんでか下級生組だとワタル君と高嶺君以外は僕にはあまり挑んでくれないんだよね。中戸さんとか金目さんとか他の三年生には挑んでるのをよく見るのに……。
もしかして……僕は嫌われている……?*8
そう考えていたところ、かなりジトっとした目線で七草さんが僕に告げた。
「あの……海さん……? ワタルが海さんに相談してる時点で意味ないんじゃ……?」
「………………そうだね!」
言われてみればそうである!
「だめだこの人! 単に解説するの楽しそうだから来た奴だ!」
ワタル君の事だから物凄く元気に挑戦してくれて、かつ自由枠の20枚で僕の想像を越えてくれるに違いない。
「まあまあ、ここからワタル君がどういう解を出すのかは訊けないからね。僕はそれを楽しみにしてるんだ」
「じゃあ一応期待されてる……?」
「現状僕が1番期待してるのは高嶺君だけど、その次くらいには期待してるかな」
彼だけちょっと条件が変わるので、色単という縛りから自由枠でどう弄るのかを僕は楽しみにしている。来年やる時は半々くらいでトライアル限と年度別組で分けて見るのを終わってから進言してみよう。
しかしそう答えると、ワタル君は少し不満げにぼやいた。
「ならまあ……良い……のかな?」
「良い感じの解答だった場合は準レギュラー組に抜擢するから頑張ってね!」
「いや良くはないな……!?」
予備の選手は居るに越した事はないからね! 格上キラーとしての特性だけ見るなら多分今でも部員の中で1番だし! 地力差による問題とか改善するべき部分がたくさんあるけども!
「何を言うんだいワタル君、今の1年生の中だと君が1番強くてリーダーシップあるんだよ?」
僕が見る限りは、サキちゃんみたいな皆を引っ張っていける力があると思う。
僕はそういうの無いから凄いよね、この手の才能があるの。
「でも座学ボロボロですよ俺!?」
「座学は後からでも補えるけど、プレイセンスを補うのは座学よりずっと時間かかるんだよ?」
センスに関しては生まれつきの部分がかなり対戦の上手さの初動に影響する。
これは後から経験で補えるけど、それでも上位戦に入るまでやショップ大会だと基本的に時間制限があるので、制限時間内での読みの閃きや回り方の違和感による銀弾への気付きは生来の部分が大きく出ると言われている。
「そりゃあ入学直後に比べれば座学もドンドン上向いてきてはいますけど……」
「プロ目指すって言ってたからもっと色々覚えてると思ってたんだよ私! 結局ギリギリ合格だったし!」
「いや篠ノ芽目指したのもランマルの休眠が原因なんだから仕方ないだろ!? その前は実家の近く行って高卒プロコースにするつもりだったんだよ!」
七草さんの言葉に、ワタル君は反論していた。
僕からするとうーんまあ……まあ……という感じかな。
こっちに来るまでは野試合が主だったみたいだしね。仕方あるまい。
……もしもワタル君が近所に住んでたら、多分サキちゃん達共々みっちり相手してただろうなあと思ってるのは本人には言わないでおこう。
まあ、転校生とか途中入部でもっと部長に向いてる人が来る可能性はあるからそっとしておこうか。
僕としては副部長向きの人は来そうだけど部長向きの子は来ると思えないんだよなあ……。
それはそれとしてだ。
「篠ノ芽は特待生枠あるんだけどね」
「あったんスか!?」
「倍率は高いけど、確か桜子さんと中戸さんは特待生枠で入学だったはずだよ。桜子さんは学科全般、中戸さんはPJ系統の実技と学科で入ったんだったかな?」
ちなみに篠ノ芽の特待枠は入試時の成績で優遇部分がかなり変わる。
例えばPJだと実技学科の双方なら学費免除だが、どちらか片方だと補助に留まる。他学科は入試時の結果に応じて免除か補助かが決まるらしい。
桜子さんの場合は異次元過ぎるため、悩まれた結果学費免除と交通費補助であるそうだ。なお支給されている交通費補助金が使い切られた試しはない。
中戸さんの方は、割と最近というか正式にPJ部に入部した時についでに知った。
それと小岬さんや高嶺君も特待枠なんだったかな? こっちは2人とも実技枠なので学費補助だったと思う。
「やっぱ副部長も凄いんスね……あれ、海先輩は? 実技座学両方凄いですよね」
「僕は篠ノ芽には一般枠で入って実技で一悶着あったんだ。以前葉山先生に愚痴られて、運転してたらいきなり真横から10トントラックが突っ込んできたみたいな感じだったんだって。怖いよね」
先生には悪いが、僕にはそんな事が起きない事を祈ろう……。
「あ、なんかわかるな先生の気持ち……行列の中に鯨が素知らぬ顔で並んでるって言うか……」
僕の言葉に、七草さんが真顔でそう答えた。結構口悪いなこの人……霊?
○
「ありがとうございましたー!」
「ワタルがご迷惑お掛けしました……」
「二人ともまた休み明けにね」
マッチスペースから去って行く二人を手を振って見送ると、入れ替わりにモヒカンさんがやって来た。清掃かな? と思ったが普通に作業しながら話しかけてきた。
「タケちゃんも良い先輩出来てるじゃねえの」
歳上らしい渋みのある表情をして、モヒカンさんは言う。
「ワタル君にはどんどん強くなってもらいたいですからねえ……今お客さん少ないんです?」
「店長も居るし時期的にそうそう変な事起きないだろうからな……目標はどれくらいなんだ?」
「ちょっと博打なんですけど……秋の全国個人で僕と当たるくらいには?」
僕の返しに、モヒカンさんの肌が推定冷や汗を浮かばせた。
「ちょっとどころかめちゃくちゃ博打じゃないか?」
行けるんじゃないかな? と思ってはいるんだけど3割くらいだ。団体戦での各校との当たり方次第かなと考えている。
「彼は適性周りにちょっと事情あるみたいなのでその辺が今の所最速で改善されるであろう夏頃になんとかなれば行けそうかなあって思ってるんですよ」
クランプス曰く、向こうのお役場が通常処理でやっちゃった事もあり、本来の回復ペースから大きくズレ込んでいたらしい。
適切な処理が行われていたなら今頃快復しているはずだそうだ。なのでクランプスの権力! 権力! 権力! が光って唸っておそらく夏頃快復して僕もワタル君も篠ノ芽PJ部もハッピーの見込みだ。
「うーんタケちゃんがそこまで言うなら一度やってみたくなってきたな……」
「今だと普通にモヒカンさんに負けると思いますけどね。見た感じは大将を任せられる地力が付いたら大化けするかな」
センスは相当あるので、知識面や自分の扱える範囲の細かな理解が彼の当面の課題である。
「となるとムラが気難しいタイプか……」
思い当たる節があるようにモヒカンさんは顎を撫でた。多分以前スカウトした子でそういうタイプも結構見てたんだろう。
本人は苦手って言ってるけど、どこか葉山先生に似てるんだよねモヒカンさん。
「そんな感じです。なので今はひたすら基礎伸ばしてるんですよ。僕と適性リーサルもほぼ同じっぽいですし……多分上がり幅に差があるのかな?」
「……タケちゃんとリーサルほぼ同じって相当じゃないか? マッチ体力付けて捌き方覚えたら敵なしみたいなもんだろ」
マッチ体力の向上はランマル君の快復に関係なく夏に実施予定だ。
これは葉山先生とも相談してのスケジュールである。まだワタル君には伝えていないが。
「ちゃんと仕上がれば、ですけどね」
「仕上げるつもりだろ?」
「勿論」
「ううむそんな逸材が居るならスカウトの後輩に伝えとけば良かったかな……」
「多分行きませんよこないだ合宿でいや立地がちょっとってなってたんで……」
「やっぱ立地か〜〜〜!」
立地面は道明の目に見えて分かる弱点だ。唐川理事長も喫煙所を増やさない工作の労力を環境改善に当ててたら今頃もっとマシだっただろうに……。
「それとワタル君は公式大会の登録データが殆ど無いのと東京に実家があるみたいなので、余計に道明のスカウトには目に付かないと思います。鳳で感知能力高い人が運良く会えたらくらいなんじゃないですかねスカウトされてた可能性は」
「関東方面だとちょっと難しいか……しかし公式の登録データ無いのは珍しいな……」
プロ目指す子だと何かしらはデータ残ってるので珍しいどころではない気もする。そういう僕もこの数年は数件しかデータ残ってないけど。
なにせ出られるショップ大会が少ないからねえ!
『もいらい』も今年度開始時にうーんちょっとね……されちゃったのである。ちょっと3連優勝しただけなのだが、引き続きフリーは全然OKなので大変助かっているし、出入りする人もフリー対戦に寛容なので嬉しい。
「なんか野良試合が主だったらしいですよ」
「……野生児?」
「ほら、僕も中学の頃野良試合はよくしてましたし!」
噂で強い人達って聞いたのにね。
実際やってみたらそうでもなくてしょんぼり帰路に着いた。風見と一緒に。*9
「タケちゃんの野良試合やってた頃は聞いてる限り違うだろ……こう……人里に降りて食料ゲットしてまた戻るみたいな……」
「なんで皆僕の事を危険な野生動物みたいに喩えるんです? 今日2回目ですよ」
「そりゃ羆って呼んだ蒲原プロのせいだろ……」
「サキちゃんめ……」
今度……ノーリミでフリーしてもらうからな!
この僕の願いが届いたのかは定かではないが、後日ちょっと妙なタイミングでサキちゃんがやって来たのは余談である。
執筆復帰早々にトライアル一個丸々(オーバー・ドミナスの収録内容)組み上げて陸に上がった魚みたいになったのは内緒です。
次話は実践編となります。