教国の剣 〜孤独と虚無の鞘〜   作:えびふぉねら

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20話 襲撃

 雨が降りしきる薄暗い早朝、枢機卿団に緊急の報せが届けられた。

 

 異教徒の集団が教国の聖地を襲撃しているというのだ。即時出撃命令が下され、シードとその部隊はただちに出発した。

 

「猊下……」

 

 イリューフェが不安げにシードの手を取る。

 その手は冷たく湿っていたが、彼女の心はそれ以上に重く沈んでいた。

 

「雨……水の神アヴェルスの恩恵を仰いだか」

 

 シードは彼女の手を握り返さず、ただ雨の向こうを見据える。

 銀灰の瞳には、昏い虚無の光が宿っていた。

 

「ならばこちらも、相応の力で打ちのめすだけだ」

 

 冷たい言葉が空気を凍らせる中、彼は部隊を率いて聖地へ向かった。

 

 

   * * *

 

 

 彼らが到着したのは、首都より北に位置する、広大な盆地の中心に広がる湖。

 

 その中央には、漆黒のロスリエスの神像がそびえている。

 ここはかつて、アヴェルスの信徒たちの聖地だった、美しい場所だ。

 

 雨粒が湖面を叩き、澄んだ水に波紋を描いていく。

 

「なんと静かな……異教徒などおらぬではないか?」

 

 イリューフェが雨音に耳を澄ませながら呟く。

 

「……いや、気配を隠している」

 

 シードはそう断言し、冷ややかな視線を周囲に走らせる。

 

「来たりて打ち振るえ。大地の鳴動――」

 

 彼は詠唱を始め、両手に力を込めた。

 

 だが――

 

 呪文はまるで空気に吸い込まれるかのように霧散した。

 その瞬間、シードの掌に収束された魔力もまた、音もなく消え去っていく。

 

「ほえ? 呪文を間違えたのかのう?」

 

 イリューフェの気の抜けた声が響くが、シードは険しい表情を浮かべたまま動かない。

 

 彼の銀灰の瞳が、雨音に隠れた異変を鋭く捉えようとしていた。

 

「……まさか、魔法禁止区域か?」

 

 冷静にそう呟いたその瞬間、盆地を囲む地面が淡い光を放ち始めた。

 巨大な魔方陣が浮かび上がり、広大な土地を呪縛するかのように雨粒と共鳴する。

 

「はっはっは! ご名答です、猊下。だが……気づくのが遅すぎましたな!」

 

 突如、冷たい笑い声が雨の中に響いた。

 

 見上げると、盆地の上にハイレンス総大司教の姿があった。

 白い法衣が雨に濡れながらも、企みに満ちた不気味な威圧感と存在感を放っている。

 

「……ハイレンス総大司教」

 

 シードが低い声で名前を呼ぶと、ハイレンスは誇らしげに両手を広げる。

 

 その背後から現れたのは、教皇直属の大司教団の軍勢、そして、アヴェルスの紋章を身につけた異教徒たちだった。

 

 魔術が封じられた枢機卿団にとって、圧倒的な戦力差。

 

「なっ……ハゲレンスのやつめ、異教徒と手を組んだのか!?」

 

 イリューフェが震える拳を握りしめ、怒りを滲ませる。

 

「手を組んだだと? 愚か者め。アヴェルスの信徒どもはただの駒よ!」

 

 ハイレンスの狂気に満ちた声が、雨のざわめきと共に轟く。

 

「猊下。あなたはここで終わりだ……お前たち、奴らを皆殺しにしろ!」

 

 ハイレンスの命令が下されるや否や、周囲を取り囲んでいた軍勢と異教徒たちが高台から一斉に襲いかかる。

 

 盆地を貫くように放たれる神聖魔術の閃光と、異教徒たちが操る水の魔術がシードたちに迫った。

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