教国の剣 〜孤独と虚無の鞘〜   作:えびふぉねら

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27話 剣と剣

「ここで使えるのはお前の従える亡霊と、この剣だけだ……!」

 

 教皇レグナは冷笑を浮かべながら、漆黒の刀身を構えた。その剣には吸い上げられた魔力が宿り、淡く輝いている。

 

 一方、シードは無言のまま自らの周囲に漂う冷たい空気を感じ取っていた。

 

 失われた魔術の代わりに、彼が呼び出すのは不死の軍勢。

 彼の命令に呼応し、次々と形を成していく亡霊たちの姿が薄闇の中から浮かび上がる。

 

「……神の賜り物、ですか」

 

 シードの低い呟きが、静寂の中に吸い込まれていく。

 その声には微かな嘲笑が混じる。疲労か、それともこの状況を楽しむ狂気の兆しなのか、彼自身にもわからなかった。

 

「ならば、それを超える力を見せましょう」

 

 一触即発の静けさを破るように言葉が放たれる。

 

 次の瞬間、シードは一歩前へ踏み出した。

 彼の足元に滴り落ちた血溜まりが跳ね、その音が冷たい石畳の上に響いた。

 

 僅かな瞬きの間に二人の距離は詰められる。

 

 横薙ぎに振るわれたレグナの一撃が、鋭い風切り音を伴ってシードの腹部を狙う。

 しかし、その刃の軌道に彼の姿はすでになかった。

 

 視界に捉えたのは、一瞬の幻影。

 その刹那、彼はレグナの背後を捉える。

 

「……!」

 

 驚愕を抑え込むように、レグナは反射的に剣を振り返らせた。

 黒い刀身が音を切り裂きながら突き出される。

 

 しかし、シードはそれすらも紙一重でかわす。

 まるで亡霊のような滑らかな動きが、レグナの攻撃を翻弄し続けた。

 

 宙を舞ったシードの掌から、白い両手斧を構えたアダンの亡霊が呼び出され、音もなくレグナの背後に浮かび上がった。

 無慈悲な刃が彼に向けて振り下ろされる。

 

「ぐっ……!」

 

 咄嗟に刃を構え、レグナは攻撃を受け止める。

 

 しかしその重さは並ではなかった。膝が沈み、石畳には亀裂が走る。

 

 さらに追撃を仕掛けるように、呼び出された大司教団の亡霊たちが足元にまとわりつく。

 その冷たい霊気がレグナの感覚を奪い、動きを鈍らせた。

 

 躊躇の隙を突くかのように、アダンの斧がレグナの左肩に深々と食い込む。

 

「ぬうぉぉっ!!」

 

 苦悶の叫びとともに、彼は刀身に自身の魔力を注ぎ込む。

 その魔力は黒曜の剣を蒼白い光で覆い、振り払われた一閃がアダンの亡霊を霧のように掻き消した。

 

 亡霊の断末魔が虚空に溶けていく。

 

「ほう……」

 

 かつての部下が再び散る様子を見ても、シードの表情は微動だにしなかった。

 

 彼の亡霊たちは不死の存在。倒されてもまた呼び出せばよいのだ。戦いは、それを繰り返すのみ。

 

 レグナは僅かに後退し、血が滲む肩を押さえた。

 その眼差しには、憤怒の色が色濃く宿る。

 

「……よくぞこの状況で私を翻弄するものだ」

 

 軽く吐き捨てるような嘲りが混じる言葉。

 しかし、その奥底にはシードの力に対する確かな警戒が隠されている。

 

「だが、お前の力ではこの『剣』には決して届かぬ!」

 

 レグナは再び剣を構えた。刀身に吸い込まれ続ける魔力がさらに輝きを増し、その威力は限界を超えようとしている。

 

 一方、シードは静かに呼吸を整え、僅かに目を細める。

 

 傷口が開きかけ、滲む血がじわりと衣を染めていくが、彼は気にも留めなかった。

 戦いの高揚感が痛みを超え、彼の銀の瞳に狂気の光が宿っていた。

 

 二人の間に漂うのは、剣戟の余韻と死を孕んだ静寂だった。

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