あなたの隣の怪異譚エモクロア   作:皇我リキ

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第七話:幻のケサランパサラン

 凄まじい匂いが庭に放たれる。

 

 

「お前それ持ち帰って来てたのか」

「うぉぇぇぇ……」

「蓋閉めなさい。あとポイしなさい、ポイ」

 カブトムシおじさんから貰ったおじさんの蜜を開けたレジ子は、夕食を戻しそうになりながら蜜の蓋を閉めた。

 

 それでも残る匂いに、鼻の奥に手を突っ込まれているような感覚さえ覚える。

 

 

 小瀬温泉に使った後、軽井沢プリンスショッピングプラザという日本最大級のリゾート型アウトレットモールでお土産の選別と夕食を済まして来た一行は別荘に戻って来ていた。

 

 

「というか、そのシャツはなんだ」

「これ? えーと、ケサランパサランTシャツ」

「毛玉……? タンポポの綿毛……?」

 レジ子が来ている服を見て、ミヒロは苦笑いを溢す。

 

 お土産を見ている時に、突如お店の人が押し売りしてきたケサランパサランTシャツ。

 シャツにケサランパサランというUMAが描かれた──なんかチープなシャツだ。どうも、ツチノコTシャツを思い出す。

 

 よくあると言えば良くあるお土産だ。

 

 

「お前絶対こういうの買うよな」

「思い出〜」

「他になんかないのか……」

 呆れつつも、レジ子を連れて今朝カブトムシの罠を設置した場所まで歩く。

 

 転ばないように手を繋いで、ゆっくりと。

 

 

「なんだった? その、ケサランパサランって」

「見付けたら幸せになれるって言われてたUMAだって、お蕎麦屋さんが」

「ツチノコみたいな物か……。じゃぁ、居るな」

 ミヒロは自分で「居るな」と言ってから、自分の発言にため息が出た。

 

 ツチノコを見付けてからというもの、幽霊にユニコーンと立て続けに変なのと遭遇している。

 こうなったら宇宙人とかが出て来ても、そこまで驚かないかもしれない。出て来て欲しい訳ではないが。

 

「探す?」

「探さない」

「居ないねぇ、虹色のカブトムシ」

「居てたまるか。これ以上変なのに巻き込まれたくない」

 ツチノコはともかく、自分から変なのに巻き込まれるのはごめんだ。手遅れなのかもしれないが。

 

「でも、居たら面白いかも」

「……まぁ、居たらな」

「宇宙人とか、河童とか……あとネッシー! ネッシー探したいかも……!」

「ネス湖はちょっと行くの大変だな……。いや、流石に宇宙人には会いたくない」

「優しい宇宙人かもしれない」

「怖い宇宙人かもしれない」

「……」

「震えるな。冗談だ」

 もしかしたら、この先出会うのかもしれない。けれど、今くらいはのんびり平和や時間を満喫しても良いだろう。

 

 

「あ、虹色のカブトムシ」

「ニジイロクワガタじゃねーか……!! 誰だ逃したの!!」

 ──まぁ、このくらいのハプニングなら良いか。なんて思うミヒロだった。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 ニジイロクワガタはその名の通り虹色に輝くクワガタであり、日本には生息していない。ショップ等で販売されていたりした個体が逃げ出したりしたのだろう。

 

 

 そんな珍しい虫を捕まえて戻り、一やヒラケンは目を輝かせた。ヒラタイは今晩もサウナに入っている。

 

 

「ほら居たでしょ、虹色のカブトムシ」

「これはクワガタ」

「え〜、一緒だよ〜」

「違うわ」

「カブトムシバトルしよ」

 レジ子が作ったカブトムシの罠には、ニジイロクワガタだけでなくカブトムシも集まっていた。

 

 ミヒロが何匹が捕まえて来たので、それを見てヒラケンが声を上げる。

 

 

 男子達はカブトムシを戦わせて大盛り上がり。

 そんな様子を見ながら、女子達はアイスを頬張って。

 

 

 サウナで整ったヒラタイを加え、再びトランプで遊び。

 勝者のヒラケンにはニジイロクワガタが贈呈された。

 

 

「さらばだ、(ちから)ブトムシ」

「カブトムシさんバイバ〜イ」

 夜、寝る前にはカブトムシ達を返して。

 

 

 

 七人の旅行は、何事もなく、平和に終わる──終わったと、思っていた。

 

 

 

「軽井沢出た瞬間、すげー雨なんだけど!」

 運転しながら、一がそんな悲鳴を漏らす。

 

 旅行三日目の朝、ゆっくりと過ごしてから車を走らせて軽井沢を去る一行。

 暫く車を走らせると大雨に打たれて、一は苦い表情で車のワイパーを動かした。

 

『この三日間続いた軽井沢周辺の大雨も、今夜には止む予定です』

 そんな、ラジオ番組の音声が聞こえてくる。

 

 

「そんなに雨降ってたっけ?」

「来た時はけっこう降ってたわね。蕎麦屋出てからは……釣りの時とかちょっと降ってた」

 気になって声が漏れた月日に、スマホを触りながら未鳩が答えた。

 

 それにしたって、来る時はともかく、その後は大雨だなんて単語がどこから出て来たのか分からない天気だった筈だと、月日は首を傾げる。

 

 

「朝サウナ入った時も降ってなかったよ? 曇りだったけど」

「ヒラタイ、サウナハマり過ぎじゃね?」

「ふふ、だいぶ整ったよ」

 爽やかな笑顔を漏らすヒラタイ。弟のヒラケンはその横で、ニジイロクワガタと戯れていた。

 

 雨の話題は直ぐに終わって、車内は早くも旅行の思い出話で賑やかになる。

 

 

 

 ふと、そんな中で、一番後部の座席に座っていたレジ子は、何故か背後が気になって、振り向いた。振り向いてしまった。

 

「ぁぇ……」

 驚いて、変な声が漏れる。いや、漏れそうになって、口を押さえた。

 

 

 雨雲の奥、止まっていた別荘の上。軽井沢上空。

 白い、雲のような、けれど、明らかに何か個を感じるフワフワが、自分達を見つめている。

 

 

「──ケサランパサラン……!」

 ──彼女達の上空にいたのは、超巨大な、雲のように巨大な、ケサランパサランだった。

 

 ずっと曇りだと思っていた天気は、上空を漂っていたケサランパサランだったのである。

 

 

 なんかよく分からんが、ケサランパサランが雨から自分達を守っていたのだ。本当によく分からないが。

 

 

「レジ子?」

「ぁ、ぇ……な、なんでもないよ……! えーと、居なかったね……! ケサランパサラン……!」

「居ても困る」

「そ、そだねぇ……」

 プルプルと震えながら、挙動不審に正面に向き直るレジ子。ミヒロは首を傾げるが、レジ子は偶に挙動不審になるので気にしない事にして目を瞑る。

 

 

「そう……」

 横目で背後を向くと──

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「──何にもなかった、のでした」

 ──ケサランパサランが手を振っていた、気がした。

 

 

 そんな事もあるよね。

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