生まれ変わったら精〇だった…… 作:なな
サ……サイ……タマ……。
全身黄色のタイツに白いマント、そして光り輝く頭皮。
気の抜けた表情に浮かぶ二つの空虚な瞳がこちらを捉えている。
私の――怪人の最強の敵。
ドクン――ドクン――、
…………分かる。
白金精子となったことで研ぎ澄まされた感覚がサイタマから迸る凄まじい力を感じ取る。
劇的なパワーアップを果たしたはずの自分が無にも等しいとさえ錯覚するほどの圧倒的な力を。
かつてない戦慄と威圧感が体を貫く。
全身の血が凍てつくようだ。全身が死の恐怖を感じ取っているかのように。
サイタマ……ここまでとは。
本当にこの化け物に勝てるのかという疑念が纏わりつく。
合体を重ねて勝つ――そもそもそういう次元の相手では無い気がする。
有限は決して無限に届くことは無い、そんな当たり前の事実を突き付けられているような。
そもそもどうやって私達に気付かれずにここに……いえ、そんなことはどうでもいい、冷静になりましょう。
私ともあろうものが取り乱してしまいました。
恐怖と混乱を理性で無理やり抑え込む。
サイタマと遭遇する可能性は想定していたしサイタマが強いなんてことは分かりきっていたこと。
サイタマには最終的に勝てばよい。
最悪なのはここで取り乱しサイタマに倒されてしまうこと。
大量の冷や汗を吹き出しながらも息を整え脳をフル回転させこの状況を打開する。
「……この星の代表か」
私と同じくサイタマを見たボロスがそう漏らす。
ボロスは最早私のことは見ていなかった。
その一つ目は完全にサイタマを捕捉していた。敵意を剥き出しに、そして嬉しそうに。
あれを見て戦闘意欲が湧いて来るとは素直に尊敬しますよ……。
思考をさらに加速させる。ボロスが動く前にこちらが動かなくては。
サイタマが状況を把握しきれていない今が打開のチャンスなのだ。
……しかし、よくよく考えると状況はそこまで悪くないかもしれませんね。
そして方針は決まる。
私は再び戦闘態勢に入ろうとするボロスの傍から飛びのきサイタマの横に着地する――サイタマと共にボロスと敵対するように。
私は今だけは強い者の味方です。
怪人としてのプライドなどというクソの役にも立たないものは不要。
必要なのは目的を達成するための合理的な判断と行動。
全てはサイタマ打倒の為。
「あなた、ヒーローですか?」
私はボロスに敵意を向けながら構えを取る。まるで親の仇でも見るようにこの目に憎しみ込める――ふりもしてみる。
ボロスが怪訝そうにこちらを見つめてくる。
「ああ、そうだけど。お前は? 人、だよな……?」
サイタマが抑揚のない口調で問うてくる。
疑っている、この私を。
心臓が跳ねる。ここで返答を誤れば私の命が狩られる。
「ええ勿論。こんな見た目ですが全身タイツなだけで私は人間ですよ」
「全身タイツ…………か。いやでもあのタンクトップの人が言ってたのは黒色だっけか?」
サイタマは嫌なことを思いだすようにブツブツと呟く。
タンクトップ? タンクトップマスターのことか?
タイツに黒い……、もしや黒い精子のことか?
……最近大きく動き始めましたからね。S級ヒーローにも認知され始めたというところでしょうか。
確かにタンパク質に拘っていそうですしね。
しかし、サイタマはなぜそんな苦い記憶を思い起こすような表情なのか。
サイタマの言動の意味を考えているとサイタマが続ける。
「じゃあその頭の触覚みたいなのは?」
「……アクセサリーみたいなものですよ。格好いいでしょう?」
「え? あー、……まあ、そうだな。……ジェノスのパーツみたいな感じなのか?」
サイタマの反応、まるで私の見た目が格好よくないと思っているようで癪に障るがここは我慢だ。
あと、パーツなわけ無いでしょう。
「まあいいや。それよりあいつがインベーダーの敵ってことでいいんだよな。お前、あいつと戦ってたのか?」
サイタマのこの質問に気付かれない程度にうっすらと笑みを浮かべる。
そう、私はまさに今ボロスと戦おうとしていた。
それはサイタマの目にどう映ったか。
後は事実を織り交ぜながら誘導してやればいい。
サイタマは強いが頭は良くない。ヒーロー試験でも数値的に証明されていることだ。
そこを突く。
「ええ、突然現れてA市に攻撃を加えようとしていたので、それを防ぎ、まさに今そのトップと戦おうとしていたところです。――この町の平和の為に」
最後の一言はくさかったか、若干後悔しつつサイタマの反応を窺う。
「おー、お前だったのか。助かったぜ。お前もヒーローなのか?」
私が答えようとした瞬間、予備動作なしでボロスが動いた。
流石のサイタマはいち早く気付く。数瞬遅れて私も反応する。
繰り出されたボロスの拳が空を切り裂きサイタマに迫っていた。
――まずい。
ボロスがサイタマに攻撃してしまうとサイタマが反撃してしまい、サイタマVSボロスの構図が完成してしまう。
サイタマを庇うようにサイタマとボロスの間に割込みボロスの拳を腕でガードする。
ドガッ!!という衝撃が生まれ、周囲の床が捲れ上がり粉々になる。防いだにも関わらず腕に鈍い痛みが残る。
……やはり強い。黄金精子のままであればやられていましたね。
「邪魔だ、そこをどけ。それにさきほどのセリフはどういう意味だ、お前は私になかm――」
サイタマが傍にいるこの状況でそれ以上言われるとまずいので、ボロスがその先を喋る前に体を翻し強烈な回し蹴りを食らわす。ダメージ目的ではなくこの場から吹き飛ばす為に。
ボロスは咄嗟に腕を交差しガードするもそのまま後方に船内の柱をなぎ倒しながら吹っ飛んでいく。
ほっと一息つこうとした瞬間、ボロスが目の前まで迫っていた。
――っ!
仕返しのつもりなのかボロスも回し蹴りを放ってくる。受けたくなかったので上体を大きく逸らして避ける。が、また次が来る。それが攻防となり幾多の衝撃が生まれ船内をどんどん破壊していく。
どの攻撃も一撃の威力がとてつもなく重い。流石宇宙最強を自称するだけはある。
……く、なんとかサイタマのいない場所までボロスを誘導したいですが。
ボロスを相手にそれを実行するのは至難。
もう一体くらい黄金精子と合体できればいいのですが……。
サイタマを見るとじーっとこちらの戦いを静観している。援護しようか迷っているようにも見える。
「そこのあなた! ここはいいので他に行ってください! まだ船内には多くの敵がいるはずです!」
試しにそう言ってみる。
「でもお前結構苦戦してそうじゃないか? 手伝おうか? なんか相手も強そうだし」
「……いえ、こいつは私一人で十分です。それよりあなたは――」
そこまで言ったところでボロスの強烈な一撃が私の胴体にめり込む。「――ごっ!?」と呻き声が漏れる。
肺の空気が吐き出され、意識が飛びそうになる。
「貴様、何を考えているのか知らんが俺をあまり舐めるなよ。貴様に用はない、早くあいつと戦わせろ」
ボロスの怒気を孕んだ言葉が私を貫く。
……確かにあれこれ考えながら戦える相手ではありませんね。
サイタマも「よし、じゃあ援護するからな」と言いながら飛び掛からんとする。
しかし、ボロスは私が実力を示せば仲間になることを約束した。そんな甘い条件を提示してくれたのだ、惜しい。
何とかサイタマを遠ざけられないか。
このままではボロスが殺される。
ここで天が私に味方する。
「おい」
機械質な人外的声が響く。
「貴様ら、我々の船で随分舐めたマネをしてくれたな! 貴様らは宇宙一の念動力使い……ゲリュガンシュプが挽き肉にしてくれる」
見ると、無数の触手を蠢かせながら部屋の入り口から怪人――
――好機!
「あなたはそいつを相手にしてください!」
「え、おお、分かった。お前無理すんなよ」
と言って了承してくれた。
私は全力でボロスを相手にする。ゲリュガンシュプがサイタマ相手に稼げる時間などたかが知れている。
最高の力を出す。
「コオオオオオオオ!!!!」
気合と共に全身に力を込める。
その気迫にボロスが目を見開き驚いたようにこちらを見つめる。
その目に初めて警戒の光が宿る。
「オオオオオオッ!!」
ゴバッッ!!!
最高の速さで全身全霊のパンチを繰り出し、それがボロスの胴体にのめり込む形で直撃する。
先ほどのお返しですよ。
「ぐぉっ!」
苦悶の呻きをあげボロスが吹き飛ぶ。ここですかさず追撃を加える。
サイタマから逃げるように船内の壁があろうと関係ない、ぶち破るのみ。一直線に突き進んでいく。
――よし、良い位置にいますね。
途中で一体の黄金精子に合流して一瞬で合体を遂げる。傍には確かゲロリバースだったかグロリーバスだったかが失神して倒れていた。どうやらこいつと戦っていたらしい。
ボロスも反撃しようとしてくるが合体してさらなるパワーアップした私はそれを許さない。
そしてとうとう船外に飛び出した。
船の上に飛び出した私達は距離を取って対峙する。
……今ですね。
「……さあ、もう十分実力は示したでしょう? そろそろ仲間になってもらえませんか? それと先ほどの振る舞いは失礼しました、敵を騙す為に致し方ないことでした。気が済むのであれば攻撃してもらっても構いません」
一応、サイタマに寝返った(振りをしたこと)ことを謝罪しておく。
ああいう外道的な振る舞い、ボロスは嫌いそうだし許してくれるかは賭けだ。
ここでメテオリックバースト状態になられるとしんどい。
今の状態では勝てない可能性が高い。一応、近くに集合体は集めているがこれ以上はあまり合体はしたくない。そもそも合体する隙をあたえてくれるかどうか……。
何とか了承してほしい。
ボロスは黙ってこちらをじっと見つめてくる。
ボロスが何を考えているのかは分からない。
「お前が言っていた敵はさっきいたあいつのことだな?」
そう問うてきた。
「ええ、その通りです。あなたも分かったでしょうが今の私ではどう転んでも勝てない相手です。……勿論、あなたもです」
「――あくまでも今は、ですが」
そう付け加える。
「…………」
「ポチをあっさり手懐けるとは流石の実力だな」
「あたりめえだよ、犬っころくらい簡単に手懐けれるってものよ」
怪人協会にて、寝ころびながら鼻をほじって自慢げにサイコスに言う。
「あ、そうそう、新しい仲間ももうすぐここに来るから。仲良くしてくれ」
思い出したようにそう付け加える。
「お前が今勧誘しようとしている宇宙人とやらの事だろう?」
「違う違う、そっちは半分成功半分失敗って感じに終わったよ。ばいきんま――じゃなくてワクチンマンってやつ。そいつ気難しい奴だし強いから勧誘苦労したんだけど、結構強いぜ? 普通にレベル竜以上はあるな、ありゃあ」
「……ほう、聞いたことが無いがそんな奴がいたのか。まあ何はともあれ強い者なら歓迎だ」
そんな会話をしている時に恐ろしい事実が別の俺から知らされる。
「……嘘だろ」
先ほどまでの余裕な態度から一変、急いで起き上がる。
冷や汗が噴き出してくる。
「どうした、何事だ?」
「