ガトランティスVSゼントラーディ 作:増えることに飽きたプラナリア
約束の時はすぐに訪れた
新統合政府は全権委任大使として外務大臣を選出し、そこにゼントラーディ、メルトランディの双方について理解の深いブリタイをその補助とし、2人を中心に特使団を編成、アレクサンドリアに護衛を含めた一個宇宙艦隊(総勢30000隻)を組み込んで地球を出発させた
その道中、外務大臣として、特使団の…地球の代表であるオブライアンは、秘密裏にブリタイを呼び出していた
【特使、お待たせしました】
と、マイクローン化したブリタイがオブライアンに割り当てられた部屋に到着し、それをオブライアンは笑顔で出迎える
『突然のお呼び出しにもかかわらず、来て下さってありがとうございます大使。ささ、どうぞこちらへ』
と、そう言って自分の対面の席を勧めるオブライアン、それにブリタイは従い、席に着いたのを見計らってオブライアンは自分とブリタイの前にグラスを置き
『大使はお酒は飲まれますか?』
と尋ねつつ、備え付けの小型冷蔵庫から一本のボトルを取り出すオブライアンに、ブリタイは
【まぁ多少は嗜みますが…まだまだ特使のように友とは呼べぬ程度の仲ですな】
と、答える。それにオブライアンは愉しそうに笑いながら答えた
『はははっ! 酒の方はそう思っていないかもしれませんが、腐れ縁の仲なのは事実ですな』
そうしてオブライアンは自分とブリタイのために用意したグラスの間に取り出したボトル…ウィスキーらしいそれを置くと
『私の故郷で作られていたものです。値はそこまで高いものではありませんが…味は保証しますよ』
説明をしながらゆっくりと着席するオブライアン
【……】
大してブリタイは微かにその眉間にしわを寄せ、じっとボトルを見つめていた
その理由は、彼がかつて所属していたゴルグ・ボドルザーが率いる基幹艦隊による全地球規模での軌道爆撃が行われた時の事を思い返していたからである
ブリタイ自身はあの時マクロスへの対応のために地球攻撃には参加しなかったものの、その後に見た地球の姿は、今のブリタイにとってはあまりにも直視し難いものだった
生きとし生けるものは死に絶え…人間がそこに住んでいたことなど…誰も信じられないほどにまでゆがめられた大地と汚染によって異形と化した生物だけが生き残った海だけが残る終わりの星…それが、今復興の途中にある地球のかつての姿だった
その地獄を生み出したものの一員である以上はその事実から目を背けると言う選択肢はなかった
……少なくともブリタイの中にはなかったのである
『大使殿』
過去を見つめていたブリタイの様子に察しがついたオブライアンは、そこから彼を引き上げようと声をかける。それを受けてブリタイは思考を中断してオブライアンの方に向き直り
【ん、すまない特使殿、少し…考え事をしていた】
少しだけ言葉を詰まらせながらもブリタイはそう口にした。それにオブライアンは
『大使殿…当時の状況を考えれば、貴方方にいったいどのような選択肢が存在していたのでしょうか?』
と、諭すように話しかける。それを受けてブリタイは首を横に振りながら
【いいや他になかったとも。だがそれで罪が許されることなどない。我らの行いが野蛮であったことは否定のしようがない事実なのだから】
と、オブライアンの言葉を否定しながら、その瞳は悲しげにボトルを見つめていた。そんなブリタイに対してボトルを手に取ったオブライアンは
『ならばそうしていれば良いのです。罪から逃げることなく、ただ愚直に…』
ボトルの封を開けて中身を両者のグラスに注いでいきながら言葉を投げかけ、ブリタイはただ注がれていく液体を眺めながら言葉を受け止めていた
『目を逸らさずに己の罪と向き合うことは、とても難しい行為だ』
グラスを手に取り、濃く琥珀色に輝くその液体を眺めるオブライアンは、ブリタイにもグラスを取るように促す
【………】
ブリタイはしばしの間グラスを見下ろし、その後にゆっくりと手を伸ばしてグラスを持ち上げた
『そんな貴方にこそ、私はこの酒を……かつての地球ではありふれたこの平穏と幸福を知ってほしいのです』
手に取ったグラスをブリタイへと傾け、静かに告げたオブライアンに対してブリタイは彼が手に持つグラスへと視線を向け、そしてまた少しの沈黙が訪れた
【………】
そして、自分の中で折り合いをつけたのか、それとも覚悟を決めたのかは定かではないがブリタイはグラスを軽く呷り、それを見たオブライアンもまた、嬉しそうに目を細めた後に大きくグラスを呷り
そして2人は同時にグラスをテーブルに置き、ブリタイが口を開いた
【…初めて飲む味わいだ。とても男らしい強さがある】
と、口元に手を当てながらブリタイは初めて口にしたウィスキーをそう評価し
『あはははは! 初めて聞く表現ですが、お口にあったのだと思いましょう』
と、楽しげにオブライアンは笑う。そのようなやりとりによって張り詰めていた緊張をほどくことのできた2人は様々なことを語り合った
新統合政府の今後の在り方、リン・ミンメイ、酒、かつての地球などなど、本当に様々なことをボトルが殆ど空になるまで語り合った2人は、最後にこの話題へと移った
『クリダニク殿は、これから会うこととなる彼らについてどう思います?』
グラスを傾け、揺れる液体を見つめながらそう尋ねるオブライアンに対して、ブリタイは
【……少なくとも、かつての我らのような好戦的な存在ではなく、そして理性的な存在でもある。……今の情報からはそのように評することしかできない。そして…】
と話していたが、それを途中からは気づく形でオブライアンは口にした
『その理性的な対応をしたのがメルトランだった』
それをブリタイは頷きで応え、オブライアンは続けて
『はぁ、つくづくおかしな存在ですなぁ……あの船団は』
ため息と共に吐き出してからそうぼやいたオブライアンの言葉に、ブリタイはグラスを軽く呷ると
【だが、ゼントラン達は彼女の指揮に満足しているように、…あの映像からは感じた】
と、グラスの中の液体を目の前まで運び、その揺らぎを見つめながらブリタイはそう続けた。それを聞いたオブライアンは
『昨日今日の関係性…と言うわけではないと言うことでしょうな。で、あればあれらに文化を与えた存在はいったいどのような意図でそれを為したのか。それがわかれば何かと楽になりましょう』
と、グラスの中の液体を飲み干しながらそう応える。それにブリタイは頷きながらも
【存外意図などないのかもしれん】
と、つぶやく。それを聞いたオブライアンはグラスに注いでいた手を止めて
『つまり?』
と、続きを促す。それを受けてブリタイもまたグラスの中身を飲み干してから答えた
【大統領がおっしゃられた通り、奇跡の賜物だったのかもしれん。我々がそうであったように】
その答えを聞いたオブライアンは、彼が応える合間に差し出された空のグラスをチラリと見た後、小さく笑いながらブリタイのグラスに中身を注ぎながら
『そりゃぁいいな、それなら、黒幕がいて何かよからぬことを企んでいる。なんて陰謀論よりずっとわかりやすい』
と、そう言ってオブライアンは注いだグラスをブリタイに差し出す。それを受け取ったブリタイに自身のグラスを掲げてこう笑いかけた
『なにより、その方がずっとロマンがあるじゃないか』
それを受けてブリタイもまた、その表情をずいぶんと柔らかな笑みへと変えてこう返した
【全くだ】
2人だけの室内に、澄んだ音だけが響いた
それから三日後、特使団は予定の時間よりも早くに指定された恒星系の座標に到着し。アレクサンドリアの後方に艦隊が待機する形で出迎えの準備を整えた
そして特使団は代表であるオブライアン含め全員がブリッジに集まり、会談の時を待っていた
『約束の時刻まで後1時間半です』
緊張した空気が流れ、誰も彼もがこれからやってくるはずのカイザ達が率いる群れの到着を待つ中、ついにその時がやってきた
『艦隊前方に大規模なデフォールド反応を確認!』
オペレータの緊迫した報告がブリッジ内を駆け巡る。それを受けて艦長を務めるクローディアが即座に詳細な報告を求めた
『最も大きな物は天体クラスの質量を有している模様! また、他にも大型の物体多数!』
と、端的な報告が挙げられた直後に正面の宇宙が不自然に歪み、そこからカイザとデメテーラが乗る基幹要塞と統合自衛軍の前衛艦隊凡そ一千万隻…そしてオーバーロードとハスキーの2艦がデフォールドしてくる
その圧倒的な光景に、全員が息を呑んだ
まさに壮観と言う言葉を体現した巨軍の圧力に誰もが当惑する中、オペレーターが報告をあげる
『ぜ、前方のボドル旗艦が本艦との交信を求めています!』
『直ぐに回線を開け!』
クローディアはオペレーターの報告に素早く命令を下し、少ししてブリッジの正面、空中投影型メインスクリーンにカイザの姿が映し出された
【私はこの群れを率いるカイザ・ボドルザーである。プレナータの言う我らとの対話を望むマイクローンはお前達で合っているのか?】
高圧的な喋り方でそう問いかけたカイザに対し、一歩前に踏み出したオブライアンが、そのカイザの圧力に一切動じぬ堂々とした姿で問いに答えた
『左様です、ミスター・ボドルザー。我々は新統合政府大統領より特使…つまり全権を委任された代表としてこの場に参上しました』
【…良かろう】
オブライアンの答えにカイザはゆっくりと頷く、そして続けてこう言った
【此度の会談は実りあるものとしよう。予定通り、会談にはそちらへ私たちが伺わせてもらおう】
『感謝を申し上げます。ミスター・ボドルザー』
と、オブライアンはカイザの答えに最大限の礼を持って答える。それを見たカイザは
【特使よ、我はボドルザーの名で呼ばれることを好かぬ。カイザと呼ぶがいい】
と伝える。それに頭を上げたオブライアンはすぐさま
『承知しました。ミスター・カイザ。それでは直接会えることを楽しみにしております』
と笑顔で答える。それにカイザはもう一度だけ頷き、それを合図として回線が切られる
『ふぅ…』
ブリッジ内で張り詰められた緊張の糸がほどける。全員がファーストコンタクトの成功に安堵する中、クローディアが
『まだ挨拶を終えただけなのだから気を抜くなッ!!』
と叱咤し、それを受けたクルーたちは緩めていた気を引き締め直して職務にまい進する中、それを見ていたオブライアンはクローディアに対し
『さすがは歴戦のマクロスクルー、貫禄が違うな』
と、彼女に笑みを向けながらそう言って見せる。それにクローディアは
『いえ、私など…彼の足元にも及びはしません』
と、どこか愁いを帯びた表情でそう答える、その瞳にオブライアンはあるものを感じた
そう、あの大戦で例外なく人類が失ったもの…家族、友人、愛する人、他にもあるであろう沢山の大切なものを失った人間が、それを憂いて見せる悲し気な瞳なのだと
『…艦長、私は君が艦長としてこの船にいてくれてよかったと心から思っておるよ』
それを察したオブライアンはただその感謝だけを伝え、それを受けた彼女は少しだけ柔らかくなった表情を笑顔へと変え
『ありがとうございます。特使』
と返すのだった
それから多少の時間が経ち、準備を整えた私とデメテーラのマイクローンは事前に乗船させていたオーバーロードでアレクサンドリアへと向かっていた
【…緊張してるか? デメテーラ】
ハッチの前に2人で並び立つ。護衛としてマイクローン化した男女12人に守られる中、私がふいにこぼしたその言葉に、デメテーラはチラリと私の方を見下ろした後、ふっと笑い
【あ…】
私の手を、彼女はそっと握った。その手の温かさと感触が、私には彼女が無言のままに私と一緒なら何も問題ない、と言おうとしているかのように感じられて…それが嬉しくて…でもそれ以上に恥ずかしかったから
【…】
自然と紅潮して行く自分の顔を見られたくなくて、彼女の視界に映らぬようにうつむく私
[ふふ…]
そんな私の行動を見透かしているかのように。彼女は小さく笑い。それを聞いていないし見てもいない、と言った風を装う兵士たちもまた、そんな私たちの様子を温かに見守っていた
そしてついにオーバーロードがアレクサンドリアへと接舷し、私達は同時に開いたハッチへと歩き出す
『ようこそアレクサンドリアへ。人類を代表して皆様を歓迎いたします』
ハッチからおそらくは艦内にいくつかあると思われる接舷ポートの一つだろう広い空間で、ハッチから伸びた一本のレッドカーペットの先にオブライアンを筆頭とした特使団全員が待機していた
私はデメテーラと共にオブライアンの元まで近寄り
【お招き感謝する。スクリーン越しに申したが、此度の会談は実りあるものとしよう】
と、私はそう告げながら右手を伸ばして握手を求める
『勿論です』
と、オブライアンは力強く答えながら握手に応じる中、それを後ろから見ていたブリタイは、目の前にいる私と、そしてデメテーラのマイクローンに対して内心で驚愕していた
【本当にゼントラーディの体現たる司令中枢ユニットなのか? 言動があまりに非ゼントランに過ぎる。……それにあの手だ。何故、何故ゼントラーディの司令中枢ユニットが、メルトランディのそれと仲睦まじく手を繋いでいるのだ?】
それは、ゼントランであり、そしてメルトランディと戦いを続けてきたブリタイだからこそ気付けたのだろう。しかし、その驚愕に激しく心を揺れ動かされながらも、それを外に一切出すことなくオブライアンと私の会話を見つめることが出来ていたのは、間違いなく、指揮官型の中でも特に優秀な個体として生まれ落ちた彼のその高い能力と、大戦後に大使として尽力を続けた成果なのだろう
かくして新統合政府にとっては人類史上2度目となる、自分たち以上に強大な星間勢力とのコンタクトが
私たちからすれば、史上初となる自分たち以外の星間勢力とのファーストコンタクトが幕を上げた
≪「師団長」 目標の異端と思われる集団を補足いたしました≫
≪よろしい。直ちに攻撃を開始せよ≫
そして同時に、私たちにとっての最大の脅威が迫っていた