人理を照らす、開闢の星・破章〜almighty,grail,war〜 作:札切 龍哦
セリカ【あ、ぅ…】
『──こうなったら、私のできる全部であなたを助ける!外法だろうと、あなたの願いに…まだ死んでいない魂に懸ける…!』
【ぁ…あ…】
『!脳波と記憶路に反応が…』
『!!…これは、これなら…!』
『なら、私ができることは…!お願い…!!』
『きっと、あなたも救われるはずだから…!』
【フシャアァアァアッ!!カァアァアァァァ!!】
血染めのセクメトが、再び猛り狂う。己の全てを奮い立たせ、使命を果たすのだと言わんように。
『大丈夫です、アダム先生!先生のお陰で、絶好調なんですから!』
アダムの手にシッテムの箱はない。己の手には、容易く生徒を抹殺できる拳しかない。そして、ライドウォッチ。
だが、ユメはアダムの為に…後輩のために立ち上がる。たとえそれが別人、別世界の存在であろうと。
『世界のアビドス後輩は、皆私の後輩だから!』
セトの呪いを消し去ったユメは、静謐かつ充溢した気迫で盾を構える。
紛れもなき、アビドス最高の防御領域がセクメトへと展開される。その強固さを察知し、セクメトは高らかに唸りを上げて跳躍する。
【ナァアァァァァァァァァァオオッ!!!】
翼がばきりと裂け、無数のミサイル射出口に変化する。それらは対軍用の、巨大な殺戮仕様。
『やらせない!』
ユメの盾から光り輝く無数の随伴ユニットが展開され、光り輝く防護壁を多重展開。『至天覆う七つの円環』と同じ、しかしそれを神霊レベルで高めた現象が、セクメトの破壊を阻む。
【フゥウウゥゥッ!!】
『大丈夫、大丈夫だから…!落ち着いて!』
アダムの生命力が、ユメに無限の防御と生命力を与える。疾走したセクメトの爪と牙を受けながら、ユメは説得を諦めない。
『辛くても、大丈夫だよ。私がいる、皆がいる!あなたにはいるはずだよ!大切な仲間が…!』
【大切な、仲間…】
説得を続ける最中、アダムはセクメト…セリカの姿を見てとある思案が浮かぶ。
(あの有機物、無機物、神秘の完全なる調和融合………)
覚えがある。
そう、覚えがあるのだ。本来決して交わらない生命、機械、そして神格の調和形態。
そう、それにはアダム…EDENの王たるアダムには覚えがあったのだ。
当然だろう。何故ならそれは。
(EDENの民に、私とイヴが齎した技術…)
生命とは、真化の真髄。全てが誤解なく分かり合う理論。
機械とは、技術の頂点。生命の固体化やありとあらゆる科学の産物。
神秘とは、神格の憑依。兆を超える人々に、それぞれの神が一人ずつ加護を齎す。
そうした、あらゆる全てを極め尽くし至った袋小路のEDENの技術。漠然とした予感だった、アダムの予感。
(────まさか)
まさかと、彼は思う。その技術を持ち、EDENを出たものには心当たりがいくつかある。
それは、自立し自らの手でEDENを出て、世界により良き未来をもたらす為に旅立った何人かの…
【──私には、もう!何も残っていないの!何も!!】
アダムの思案を、セクメトの絶叫が引き裂く。
【だから、あなたたちだけが最後の希望なの!超特異点…
!あらゆる奇跡が集うこの場所にしか、もう私の望む幸せはない!!】
『セリカちゃん…!!』
【全てを尊び受け入れる…それを悪用し集う全てに死を!それがこの力を貰って誓った私の戦い!例え先輩でも!例え先生でも……!!】
ぎしり、と自身の脚力を筋肉を何倍にも膨張させ、セクメトがユメの防護を突破せんと唸りを上げる。
【邪魔を、しないでぇえぇえぇえぇえぇえッ!!!】
血を吐くような絶叫を込め、セクメトは…セリカを吠える。
それは、希望を見たからこその決意。
自身には何も残っていない。だからせめて、燃える希望の薪になろう。
そういった、悲壮感をもたらす決意と力。そしてそれを、成し遂げる完璧な反転と改造。
セリカ・テラー。それが血涙すら流し、ユメに迫る。
『────それでも!』
だが、ユメは。アビドスにおいて、絶望と停滞を迎えても決して自らの責任から逃げなかった彼女は。
『それでも!皆で幸せになる道を諦めちゃだめ!』
それがまやかしでも。それが夢物語でも。それが誰もが諦めた理想でも。
『そう願った思いは、そう感じた決意は、そう歩んだ足跡は、踏み出した一歩は───』
【!!!】
瞬間、ユメの力と防護領域が増長し、範囲を増やしていく。それらはユメ自身の心が奮い立つ限り、範囲を増していく。
アダムとユメに留まらない。それは崩壊の危機に瀕した時空、悪夢全域にすら。
【こ、れは───!】
ユメの神秘。ユメの本領、セトと相打ちになった際、アビドス全域を埋め尽くしていたセトの眷属全てを討ち払った生涯の全霊。
それは『キヴォトスを覆い尽くして余りある』。それらを庇護し、全てを一つにする究極の守護庇護領域。
『間違いなんかじゃ、無いはずだから─────!!』
ユメの意識が、願いが、想いが織りなす相互理解空間。争いを一瞬で無意味とする、究極の守護浄化結界。
【ぁ、あ────あぁあぁあぁあぁあぁぁあぁっ!!?】
反転の極致。神秘の極限の顕現は、そこに究極の成果を齎す。
不可逆の筈の反転。色彩の干渉。
だが、神秘を超えて表せし最高神の顕現は、それすらも乗り越える。
【ぁ───】
オシリスの号令。最高神以下の神格に纏わる神秘を、全て戦闘不能へと導く強制的な権能発揮。
悪神、敵対神すらも逃れ得ぬ、悪意と殺意を以て彼女を討ち果たすしか逃れ得ぬ究極の和平行動に、セクメトすらも逃れ得る事は叶わず。
ゆっくりと、膝をついた。
「セリカ!!」
駆け寄らんとしたアダムの前で…
衝撃的な変化が起きる。
『神秘、並びに神格の干渉を確認。【テラー・モード】を解除します』
「!!」
それは、不可逆の筈である反転の『解除』。それらは凄絶の自己改造の果てに、理解不能な現象から、制御可能な【機能】へと対応していた。
「────そうか…!!」
アダムは膝を打った。色彩、反転、神秘とは理解不能な現象、領域だ。
なら、その全てに別の要素を代入して証明してしまえばいい。不可逆の反転現象を、機械と科学で【別形態】として定義したのだ。
モードチェンジなら、外的要因で止めることも、起動することも叶う。
カシャリ、と、セリカの傍にヘイローの形の鍵が落ちた。
改造した存在は、それを見越していたのだ。
彼女の無茶な願いを、想いを。受け止めてくれる誰かを。
そんな、『大人』が。彼女の幸せを受け止めてくれる事を願って…。
それは、アダムに福音をもたらす。
「EDENの技術なら──反転した生徒を元に戻せる…!!」
反転したのなら、また正転し生徒の力にしてやればいい。
それは、きっとEDENで可能な領域だ。セリカが今、そう証明したのだ。
「あ…アダム、先生…?」
「セリカ!!」
歩み寄るアダム。だが…セリカの異変に気付く。
「そこに、いるの…?先輩も、そこにいるの…?」
「え…セリカ、ちゃん…?」
駆け寄るユメ。起き上がろうとしないセリカ。
「───まさか」
まさか、と。アダムはセリカを愕然と見やる。
「あぁ、私…やらなきゃいけない、のに…」
その目は、何も映していない。
その脚は、立ち上がることができない。
「びっくりした…?私、何もないって、言ったでしょ…?」
目の前のアダムも、ユメも、セリカは見えていないように呟く。
「カイザーに攫われて、色々実験されて…身体中の色んなところを実験で潰されちゃったの。だから、私…セクメトでいないと、もう…」
もう、何も出来ない。
何も出来ない、生きていけない。何もしてあげられない。
「─────っ、っ………!」
息を呑むアダムに、セリカは告げる。
「頭の中も、いっぱい掻き回されてね…私、もう…解らない。味が、解らないの…」
味が解らない。
柴大将の下で、あんなにも楽しげにいたセリカの五感が、味覚が。
『─────っ!!』
ユメが涙を流し、口を抑える。
セリカの目から、涙が流れる。
「ごめんなさい…。柴大将に、伝えてくれる…?」
それでも、口元は精一杯の笑顔で。
「もう、アルバイトもできない…もう、柴大将のラーメン…食べられないの…」
「─────…………………セリカ………!!」
テラー・ペンダントを持つ手が震える。
反転は乗り越えた。しかし、その先に限界があった。
脳を弄り、変えてしまえばそれはもうその存在ではない。脳に関する部分だけは、科学では成し遂げられなかった。
代替はできても、奇跡は起こせない。
それが、セリカを救わんとした存在の限界。
何十、何百、何千と彼女を助けるために向き合った、誰かの限界だった。
アダムは、震える手でセリカにテラー・ペンダントを渡す。
『っ!ううっ…!』
ユメは涙する。
その悍ましい力でしか、もう動けないセリカ。それを託すしかないアダムの胸中を想い。
「…ありがとう、アダム先生…」
「セリカ…それでも、私は…!」
諦めない。決して。
【テラー・モード、起動。対象の生命活動を励起させます】
そう信じ、セリカに告げる。
【───私もだよ、アダム先生。私も諦めない】
セリカが、先程とは嘘のような穏やかさでアダムを抱きしめる。
【泣かないで。あなたはちゃんと私を、救ってくれたの】
そう。アダムのセリカは今、砂祭りを再興するための企画を今も考えている。
ここにいる自分は、あなたのセリカの悪い夢。
【私をあんなに幸せにしてくれて、ありがとう。私の知る、二番目に素敵な先生さん】
「─────!」
それが、最後。
くしゃり、と笑みを。セリカの笑顔を零し。
【───────ナァアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァオオーーーーーーーーーッ!!!】
再び、セクメトは起動する。
世界を護るため。
アダムや皆が、幸せでいるために。
『セリカちゃん…!』
地下生活者の軌跡を、今離れれば追うだろう。
彼女の手は、止めなくば穢れてしまう。
アダムには…
悲しむ暇は、許されていない。
その時だった。
アダム「!」
アダムの懐のライドウォッチが、熱を持つ。
?『はじめまして。俺は『ゼッツ』。無敵のエージェントだ』
「ゼッツ……?」
?『悪夢で起きた出来事なら、俺にもあなたを手伝える。そう、魔王から聞いている』
ライドウォッチから、声が響く。
『全ての先を生きるもの。そんな貴方なら、悪夢をきっと越えられる。その為に、俺も協力を惜しまない』
そして、光り輝く。
『これを、その為の力にしてほしい』
そこには、煌めく輝くゼッツのライドウォッチ。
『『
『ゼッツ・エクスドリーム!!』
『『
声は、切れる。
そこには───
赤い肩がけのベルトと。
青と白の、夢の結晶が託されていた。