『毒! 飲まずにはいられないッ!』   作:稲荷寿司

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 前回の投稿後、「カナエ生存」タグを追加しました。
 オリ主タグが無いのは仕様です。
 


vs胡蝶しのぶ①

 

 ……目の前に、泣きじゃくっている子供がいた。

 

 これは……夢か。俺自身の、昔の夢。

 

『私ね? 目を見ればわかるの。あなた、親に虐げられてきた子供でしょう』

 

 姑獲鳥(うぶめ)というらしい、あの鬼を喰った日からだ。何度も何度も、この光景を見せられている。

 

「ウンザリするぜぇ、全くよぉ……」

 

 あまり、見ていて気分のいい光景ではなかった。

 いや、()()()()()()()()()()のだ。別段、俺は虐待らしい虐待を受けていない。

 

 ……ただ、愛されていなかったのも事実だと思う。

 

 少なくとも、当時()()はそう感じていた。だから、()が同じように思うのも当然なワケで。

 

『なんでだッ、なんでッッ。母ちゃんは──おれを置いて、死んじまったんだよぉ……!』

 

 …………簡単な話だ。結論は、当時の俺でも理解していた。……ただ、認め難かっただけ。

 

「俺ぁ……愛されてなんか、いなかった……。それだけのことよ……」

 

 ──少なくとも、()()()()

 

 だって、そうだろう?

 母は、妹のために死んだのだ。病に()せる妹が、死んでしまうその前に──と。

 

「おれだって、昔は病弱だったのになぁ……」

 

 かつての自分を、あやすように撫でてみる。すると「おれ」は泣き止んで、こちらを見た。

 

『──起きろバカちん。()()()()()()

「は?」

 

 

 目を覚ますと、視界一面に手拭いが広がっていた。──()の臭いを、漂わせて。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 ──胡蝶しのぶは、困惑していた。

 

 花柱()の担当区域に、鱗滝真菰(他の柱)がいる。……そのことはいい。鬼殺隊は常に人手不足であり、空席の目立つ「柱」は多忙を極める故、安易に担当区域外へ出すことはできないが──この一件には、そうするだけの理由がある。それはしのぶにもすぐ分かった。

 

 『上弦の参が、柱二人と交戦中』

 

 上弦。鬼殺隊が、この百年余りに(わた)って敗北を喫し続けてきた怪物。その、上から三番目。

 そんな大物が出ると分かっていたなら、柱同士の合同任務にも頷ける。産屋敷耀哉が(正確には産屋敷家が代々)持つという、未来予知にも等しい『先見の明』が招いた好機。

 正に千載一遇。これで勝てないようなら、鬼殺隊に未来は無い──そういう戦いだった。

 

 ……だが負けた。

 

 二人は負けた。柱が二本、月に届かずへし折れた。上弦の参を倒すには、『最低でも柱が三人必要』と証明されてしまったのだ。()()()()の柱を、三人以上。……二本折られて、残り三本の「柱」を。()()()()も。

 

 『鬼殺隊に未来が無い』というのは、誇張でもなんでもない。数字は残酷に、その事実を映し出す。……ここまでは、しのぶも呑み込んでいた。絶望的な現状を、戦力差を。彼女は正しく把握している。…………理解できないのは、()()()だ。

 

 事態は、そう単純な結末には終わらなかった。──下弦の壱、赫貍の参戦である。

 鬼が鬼と戦うこと。それそのものは、よくある事象だ。……が、鬼舞辻直属である筈の十二鬼月が()()()()()()()()なんて──前例が無い。

 

(鬼舞辻が、それを許したっていうの?)

 

 あり得ない筈の「何か」が、水面下で起こっている。それだけは確かだった。──胡蝶しのぶは、ここで一度思考を打ち切った。情報が不足している現状では、どんな想定も妄想に過ぎない。わからないことを考えるよりも、彼女には「差し迫った問題」があったのだ。

 

(ただ、確かな事実として──……()()()()、のよね)

 

 目の前には、川の字に並んで眠る二人と一匹の姿があった。

 下弦の壱。鱗滝真菰。──胡蝶カナエ。全員が生きていた。

 

 しのぶは、姉の死目に間に合わない筈だった。『至急増援に向かわれたし』という指令を受け、彼女が戦場に辿り着いた時にはもう……日が昇り、全てが終わった後だったのだから。

 だが、生きている。胡蝶カナエは息をしている。

 

(鬼に連れ去られたって聞いた時は、心臓が止まるかと思ったけど……よかった)

 

 ただ、事態は当然「良いこと」ばかりではない。

 

(問題は、下弦の壱(コイツ)……もう状況が意味不明過ぎて何から言ったらいいかわかんないけど、とりあえず──何? どう見ても隙だらけなのは本当に何? ()()()()()()私への当てつけ??)

 

 胡蝶しのぶは、考える。この状況の、最適手を。

 

(寝てる隙に、二人を連れて逃げる?

 ……駄目ね。理由はわからないけど、この鬼は二人に執着してる。朝日を利用して今日明日を逃げ切ったとしても、コイツはいつかまた私達の前に現れると仮定するべき。そしてその時、上弦から逃げ切れるような奴と『鬼ごっこ』をして勝てるワケがない……。今ここで倒さないと、ダメ。

 ──覚悟を決めないと)

 

 しのぶは(おもむろ)に、懐から注射針を取り出した。

 

(藤の毒を抽出・凝縮した、私の『奥の手』 十二鬼月相手に使うのは初だけど……これは確かに、()()()()()下弦の壱(コイツ)が相手でも、全く効かないってことはない筈。

 普段は戦闘中に、隙を見て刺さなきゃいけないけど──ッ!)

 

 隙だらけの今なら、そんなものは探すまでもない。──その筈だった。事実、()()()()ではあった。が、

 

 

 パキリ、と。硝子(ガラス)が割れる音がして。

 

 

「────は?」

 

 

 ()()()()()()()のだと理解するのに、しのぶは永遠のようで短い数瞬を要した。

 

(はぁ!? ちょっ、折れ──ウソでしょ!? どんだけ硬いのよコイツの頸!!)

 

 赫貍は今、隙だらけである──それは事実だ。しかしそれは、警戒心の欠如から発生しているものではなかった。

 胡蝶しのぶでは、赫貍の脅威足り得ない。純粋で残酷な「格差」が、両者の間には広がっていた。

 

(〜〜っ! いいえ、まだよ。まだ終わらない……!)

 

 針こそ折れてしまったものの、毒薬そのものは健在である。中身を取り出せば、使えないことはない。

 しのぶは手拭いを取り出し、そこへ薬を染み込ませた。

 

(元々対鬼用の藤毒は、香を焚いて吸引させるもの。直接注射するよりは効果が落ちるけど、これでも充分……!)

 

 ……それが希望的観測でしかないと知りながら、しのぶは布を放った。

 

 

 眠れる鬼が、目を覚ます。

 

 

 

 *

 

 

 

 明治コソコソ噂話

 

 別段本編に影響することではないが、童磨はいくつか勘違いをしているぞ。

 1:赫貍の血鬼術は、何も誤作動を起こしていない。(赫貍は確かに、赫貍自身の意思で無惨の呪いを拒絶している)

 2:赫貍が逃れ者になったのは、姑獲鳥と遭遇してすぐ。(姑獲鳥と戦う前の赫貍は童磨にとって有象無象に過ぎなかったので、『たまに見かける鬼』程度の認識。興味を持った姑獲鳥戦後には逃れ者になっているので、上弦特権で直接情報を抜くことができなくなっていた)

 

 3:童磨は知らないことだが、無惨は赫貍に数字を与える際に血を与え、呪いを再接続できないか試していたりする。(尚『不可能』であると結論付けられた模様)

 

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