後の世に転生した最後のマスターは、終末世界で人形達を率いる指揮官となる。

 ぐだ子をドルフロ世界にぶち込んだら面白そう!とぱっと浮かんだネタです。
 作者はドルフロを2から始めたにわかなので、間違いがありましたらご指摘下さい。

 思いついたら続きを書きます。

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「本日付でS11地区に配属になった、リツカ・フジマルです。よろしくね」

 

 一目見て、あぁ、この指揮官は直ぐに辞めるのだろうな、と思った。それとも死ぬ方が先だろうか。

 

 この辺りでは珍しいオレンジの髪をワンサイド・アップに纏め、少女の活発さと大人の穏やかさが同居した笑顔。身体を包むグリフィンの軍服はパリッと音がしそうなほどの新品で、正直全然似合っていない。

 

 銃を握った事が無いどころか、生骸を見たことすらないような一般人じゃないのかしら。この時代、目に曇りのない奴は金持ちの子供か狂人ぐらいしかいない。

 素人を採用するなんて、グリフィンの人手不足も大した物だ。戦場に参って直ぐ辞めるのは構わないが、下手な指揮が混乱させられるのは困る。

 

「それでは、私が指揮官様に基地内部を案内しますね」

 

「わかった。それじゃあ皆、また後でね」

 

 カリーナに連れられて、新人指揮官は司令室から退出した。後に残される戦術人形達。

 どよめきの殆どは不安や困惑だったが、微かに期待も混じっているようだ。馬鹿なことだと思ったが、自分の中に同じ感情があることを否定できないのが腹立たしい。

 

「うふふ、可愛らしい指揮官ですね~」

 

「スプリングフィールド。アンタはどう思うのよ、あの指揮官のこと」

 

 傍らのカフェの主に問いかける。緩いようで見識の鋭い彼女の事だ、きっと参考に値する事を言ってくれるだろう。

 

「あの指揮官には……期待、して良いと思いますよ。多分ですけどね」

 

「へぇ?理由を聞いても?」

 

「あら、気づきませんでした?彼女、左手が義手ですよ」

 

「え、本当!?」

 

 長袖に手袋をしているからすっかり気づかなかった。

 機械技術の発達した現代、義手でも生活に不便はなくなっているが、戦場ではそうもいかない。厳しい行軍にも、激しい銃撃戦にも、義手というのはハンディキャップとなる。

 歴戦の軍人が戦場で負傷した、なら理解できるが、新人として義手にも拘わらず指揮官に就任できた、という中々無い。

 ということは。

 

「その差を埋めるだけの何かがある、って事ね」

 

 人は見た目によらないものだ。

 

「ええ。とはいえグリフィンが人材不足なのも確かですし。猫の手も借りたい、といった状況なのかもしれないですけど」

 

「それならそれでも良いわ。私は私の仕事をするだけだもの。……何笑ってるのよ!」

 

 意味深な微笑みから逃げるように、自分も司令室から退出した。

 

 

 

 

 

 

 時は西暦2061年。度重なる戦争で疲弊した人類社会に突如、人工知能が反旗を翻した。

 エルダーブレインに率いられた鉄血工造の兵器達に対抗するため、民間軍事会社グリフィン&クルーガーは戦術人形──高度なAIを有した戦闘用アンドロイド──を統括する指揮官の増員を決定する。

 

 ここ、S11地区の基地にも一人、民間登用の新人指揮官が配属される事となった。

 彼女、リツカ・フジマル。特異な才能を持たない、唯の人間である。

 

 

 

 

 

 

 

「ふい~。流石大手PMCの基地ともなると設備が充実しているね~」

 

 執務机の椅子に身を投げ出す指揮官。今まで後方幕僚に基地を隅々まで連れ回され、挙げ句戦闘訓練にまで巻き込まれて、なかなかに疲労が溜まっていた。

 

「それじゃあ、デスクワークはちゃちゃっと済ませちゃいますか」

 

 新たに部下となる戦術人形達の情報を頭に叩き込んでおかないといけない。

 彼女らの運用方法、戦術論についてはよく勉強した。それでも的確な戦闘には各々の特色を掴むことが何よりも必須だ。

 

 この基地は鉄血の攻勢に対して急遽新造されたものだそうで、所属する人形達も皆が皆知り合いな訳ではない。中々個性的な面々が多い彼女らは、時に衝突することもあるだろう。

 なればこそ、上に立つ自らこそが潤滑油となって基地を回してゆかねばなるまい、と指揮官は決意を新たにした。

 

「なんか就活生みたいなこと言ってるな、私」

 

 資料を読めば読むほどに指揮官の脳裏には詳細なデータベースが形成されていく。これを熟知しているかどうかが人形達との関係、ひいては戦場での生死に直結する。

 それを知る指揮官の、資料に落とした視線は真剣そのものだった。

 

 二十人分の資料を読み終わる頃には時計の長針は10時を回っていた。北方の寒気は部屋の内部まで侵攻してきている。そろそろ切り上げるべき時間だ。

 

「よーし、明日から頑張るぞいっと」

 

 

 

 

 戦術人形が風呂に入る必要はあるのだろうか。

 人形は垢を出さないが、確かに汚れは付く。耐水性が抜群というなら、丸洗いするのは確かに合理的だ。

 それでもシャワーで良いではないか。複数人で入れるほど広い湯船にお湯を張る、と言うのは軍事施設としていかがなものか。

 

 それでも身体を高温の液体に沈めれば、メンタルの中のごちゃごちゃした思考は即座に洗い流される。

 なるほど、設計担当者が浴場の導入に最後まで拘った、というのは理解できる話だ。ソレが通ったことに納得できるかは別として。

 

 がらがら、と音がして浴場の扉が開いた。誰かと思って見れば、例の新人指揮官だった。

 意外と肉付きのよい身体より先に、無骨な左手の義手に目が吸い寄せられる。

 

「ん、こんばんは」

 

 視線に気づいているのか居ないのか、指揮官はさっさと洗面台に座り、身体を洗い始めた。

 

 出て行くべきか、留まるべきか。

 

 ほぼ初対面の上官と同じ湯船につかる、というのは正直気まずいことこの上ない。この隙にそそくさと逃げ出してしまいたい、というのが本音だ。

 しかしそれでは彼女に少し失礼ではないか。まるで自分が、指揮官と話したくない、と行っているようではないか。それに彼女の義手を目の当たりにした直後なのだ。要らない気遣いをした、とも思われたくない。

 

 そうこう迷っている内に、指揮官は身体を洗い終わって湯船に入ってきてしまった。今更逃げるには遅すぎる。

 

「よいしょっと。直接話すのは初めまして、だよね」

 

「え、えぇ。WA2000よ。余り馴れ馴れしくしないでちょうだい」

 

「うん。よろしく、わーちゃん」

 

「ッ、わっ、わー!?」

 

「あ……ダメ、だったかな」

 

「ッ、ダッ、ダメってアンタそんな、あ、あだ名なんて……別に、嫌だって訳じゃないけど……」

 

 そう言うと指揮官は、ぱっ、と花が綻んだような笑みを見せた。

 それが余りにも色彩に溢れた表情で、思いがけず見とれてしまった。

 

「よかったぁ。それじゃあ、改めてよろしくね、わーちゃん」

 

「え、ええ。精々足を引っ張らないで、指揮官」

 

「うん。努力するよ」

 

「……!」

 

 自分でも、素直な受け答えができていない自覚はあった。だから、悪態にこんなにも真っ直ぐに返答されるのは初めてで、どういう顔をしたら良いのかわからなくなる。

 

「ねえ、わーちゃん。君の好きな物、って何?」

 

 だから、出し抜けにそう聞かれたときは、すこし安堵した。

 

「好きな物って……私は殺しのために生まれた人形よ。そんな物有るわけないじゃない」

 

 指揮官の顔が僅かに曇るのを見て、ああ、強いことを言い過ぎたかもしれない、と思う。きっと彼女の知る民生用人形はそんなこと言わなかったのだろう。

 それでも戦場とはそういう場所で、戦術人形とはそういう存在だ。

 この若い指揮官には、それを知ってもらう必要はあっただろう。

 

 少し胸が苦しくなって、視線を逸らした。

 嘘ではないけど、これで彼女を傷つけて、嫌われてしまったら嫌だ。

 

「じゃあさ、好きな食べ物とかってある?」

 

 僅かな沈黙の後淀みなくそう問われ、少し驚いて彼女の目を見た。茜色の瞳は変わらず透き通っている。

 この人は強い人だ。そう確信した。少なくとも、自分が思っていたよりは。

 

「……そうね、キャラメルとか、そういうお菓子は、嫌いじゃないわ」

 

 自分でも意外なほどに言葉がすっと出てきた。こんなの聞かれるの、死ぬほど恥ずかしい筈なのに。

 そう思ったら、急に顔が熱くなった。

 

「そうなんだ!私ね、グリフィンに入る前はパン屋さんやってたんだ。だから、お菓子作りとか結構得意。もしよかったら、今度作ってみるから食べて欲しいな」

 

「そ、そうなの。そんなに言うなら、あ、味見くらいはしてあげるわ」

 

「ありがとう!」

 

 その笑顔を直視するのが恥ずかしくて、また目を逸らした。

 静寂が浴場を包み、微かに水の滴る音だけが響く。この沈黙は、どうしてか心地よく感じる。

 

「ねえ」

 

「ん、どうしたの?」

 

「別に、云いたくなかったら答えなくても良いんだけど、その……それ、義手付けてる理由、聞いても良いかしら」

 

 後で、ずーっと後になってからこの時を思い返しても、なぜ自分が不意にこんな質問を投げかけたのか、それが一切分からない。

 唯一つ言えるのは、この言葉は何も考えず、するりと口から出た、ということだ。少し無遠慮だったかもしれないけど。

 

「ああ、これね……。大した話でもないけど」

 

「そんなの、構わないわ。少し気になっただけだもの」

 

「そうだね……簡単に言っちゃえば鉄血の攻撃に巻き込まれたんだ。イエローエリアのちっちゃな町でね。わざわざこんなとこまで攻めてくるんだって思ったよ。左手はなくしちゃったけど、運良く助かった」

 

「……ごめんなさい」

 

「え?」

 

「……その、辛いこと、思い出させちゃったから」

 

「ううん、もともとグリーンエリアの衛星都市に避難する人も多かったし。私もそろそろ潮時かなって思ってたんだよね」

 

「でも、左腕と……家も、お店だって失くなったんでしょう?」

 

「あー……まぁ、失った物は多いよ。全財産、って言っても良いくらい。」

 

 強がって、茶化しているのかと思った。

 そうだとしたら、やけに懐かしそうに語る物だ。

 

「でもほら、私はここに居る。機械の左腕だって、悪い物じゃないし。あれがなかったらこうしてわーちゃんとも話せてない訳で……その代金、としたらちょっと高く付いたけど」

 

「……?それって、どういう意味よ」

 

「あぁ、言って無かったか。結局あの時、逃げ遅れちゃって。すんでの所でグリフィンの人形に助けられてね……。その縁で」

 

「へぇ、道理で軍隊上がりの連中とは毛色が違うとおもったわ」

 

「あはは……これでもしっかり勉強はして、試験もちゃんと受けたんだからね?」

 

「そこは疑ってないわよ。……その、色々答えてくれて、ありがと」

 

「ううん、わーちゃんこそ、聞いてくれてありがとね」

 

「うん……ってアンタ、そのわーちゃんっての止めなさいよ!だ、だれかに聞かれたらどーすんのよ、バカ!?」

 

 もし誰かに、今の自分の顔を見られたら。そう思うと、この上なく恥ずかしかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

氏名:藤丸 立香(リツカ・フジマル)

年齢:22歳

性別:女性

所属:グリフィン第二訓練所→S11地区前線基地

国籍:新ソヴィエト連邦

略歴:

 出生地、ワルシャワ郊外。2歳の時両親をテロで亡くすも、本人は生還。その後15歳までイエローエリア僻地の町の孤児院で育つ。孤児院を出た後は飲食店に就職し、オーナーが高齢で死亡した後は経営を継ぐ。鉄血による襲撃に際し自警団8人、民生用人形5体を指揮し遅滞戦闘を行い、グリフィンの戦力が到着するまで市街地を防衛。その際左腕を損害するも死傷者は無し。グリフィンの指揮官により保護され、推薦によりグリフィンの訓練所に入る。4カ月間の訓練の後選抜試験に合格、S11地区に配属。

 

運動成績:B

射撃成績:C+

指揮成績:A+

筆記成績:B

 

 

 

 

「これ……本当ですか?」

 

「ん?うん、ホント。指揮成績が最上位なんて、凄いよね」

 

「違います。いえ、そこも凄いのですけれど……」

 

「ふふ、冗談。でも正直、信じられないよね。作り話なんじゃないかって疑っちゃう」

 

「これ、機密情報だったりしませんか?」

 

「いや、勿論人事情報だからロックはかかってたけど、特別に隠されてるって事も無かったわね。私じゃなくても、こういう事に慣れてる人形なら直ぐに見つけられるわよ」

 

「では偽物……?しかし、何かしらのカバーストーリーにしてはもう少しマシな事を書くでしょうし……」

 

「それに、そういう履歴っていうのはもう少し『ソレっぽい』ものじゃない?両親、兄弟、親類縁者位は用意するでしょう」

 

「この孤児院や飲食店は存在していたのですか?」

 

「ええ。それどころか、壊滅した町からの避難者に、彼女の知り合いだって人が大勢居たわ。顔が広かったのね」

 

「それら全部が、何か大がかりな……スパイの潜入のようなものの隠れ蓑だったり?」

 

「こんな回りくどい事して?正規軍経由で潜り込ませたの方がよっぽどマシでしょう」

 

「……分かりました、一先ずこの内容については信じるとして……」

 

「『鉄血の襲撃』についてね。詳細な記録までは見つからなかったけど……その時戦った民生用人形のメンタルログが残ってたらしいわ。信憑性は高いよ」

 

「火器管制システムのないモデルでどうやって……」

 

「とはいえ鉄血部隊の指揮能力は低かったみたいだし、防衛に有利な条件が整っていたらしいわね。正規軍のよく訓練された部隊なら、同じ装備で同じ事ができるでしょうね」

 

「それは何の誤魔化しにもなりませんわ……指揮だけで自警団と民生用人形を正規軍レベルの練度まで引き上げた、ということなのでしょう?その上人的被害も出さず」

 

「言いたいことは分かるよ……実戦での能力が高いのかしら。訓練所の教官もそうコメントしてるわ。身体能力も射撃能力も指揮能力も特筆すべきほど高いわけではないが、実戦形式において抜きん出た成果を発揮する、って」

 

「戦場になると人柄が変わる、という事でしょうか?そう言う問題でもない気がしますが……」

 

「ううん、逆。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、だそうよ。特に指揮官にとっては大事な能力よね」

 

「それって、戦場に慣れてるか、それとも……」

 

「頭のネジが外れてるか。どっちにせよ厄ネタには変わりない、と」

 

「……頭が痛くなってきましたわ……」

 

「……これで依頼された内容はいいわね?こんなにギリギリになって申し訳ないわね」

 

「え?……いえ、十分ですわ、ありがとうございます」

 

「あなたも大変ね……態々私に頼んでこんなこと調べる必要も無いのに」

 

「いえ、そうも行きません。自分達の仕える指揮官をよく知ることは、大切な事ですもの」

 

「……そう。それじゃあ、そろそろ私は行くわ。コーヒー、美味しかった」

 

「あら、もう少しゆっくりして行かれませんか?」

 

「ありがと、でも9も待ってるし、私達そろそろこの基地をお暇しなきゃいけないもの」

 

「それは残念です。指揮官に合わなくて良いのですか?」

 

「正直気になるけどね、仕事は仕事だから。……生きてたらまたお世話になるかも。じゃあ」

 

「ええ、楽しみにしてますわね」

 

「……あぁ、一個伝え忘れてた事がある。例の襲撃の時、人形達のメンタルログがグリフィンの部隊が到着する直前の10分が消されてたらしいわ。それも本人たちの手によって。自警団も何かを隠している素振りだったらしいけど……クルーガー社長の指令で追求無用、だそうよ。じゃ、頑張ってね♪」

 

「……冗談、ですわよね?」




お読み下さり本当にありがとうございます。
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