貞操逆転世界で湿度高めヒロイン達を無自覚に沼らせる転生者~死にゲー世界で鬱エンドを迎えるヒロイン全員救う、全員が曇る   作:しば犬部隊

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42話 獣VS”不死”

 

 ◇◇◇◇

 

 ~ルラカナ地下水路~

 

 完成されていた。

 

 ソレはただ、あの穏やかな群れの暮らしがずっと続く事を祈っていただけだった。

 

 騒がしい石の住処、木の巣、しかし寝床だけはいつもふかふかだった。

 

 白い毛の気弱でしかし優しい弟、何故かソレとは違い2本足で歩く彼。

 弟は、いつもソレより足が遅かった。

 それでも、弟はソレに追いつこうといつも追いかけてくれた。

 

 長い白い毛の穏やかで優しい母、ご飯をくれたり、散歩につれていってくれていた彼女。

 

 ソレは、家族が大好きだった。

 

 騒がしい石の住処では、友人も出来た。

 黒い髪の友。

 彼はある争いの中、ソレの味方をしてくれた。

 

 乱暴なオスと乱暴なメスとの戦いで、多勢に無勢なのに白い毛の弟と自分に手を貸してくれたのだ。

 

 黒い髪の友の香りは、ほんの少しだけ自分や弟や母とは違う存在だったが、ソレはあまり気にしなかった。

 

 ソレは弟や友と共に成長し、いつしか、自分が彼らとは違う生き物だと理解した。

 

 ソレには鋭い爪と牙がある。

 ソレには良い耳と頑健な4本足がある。

 ソレには嬉しい時には左右に揺れ動く尻尾がある。

 

 ソレは──は自分と彼らが違う生き物だと理解した。

 でも、関係なかった。

 

 白い毛の弟──”ライス”という弟は可愛かった。

 白い毛の母──”ママ”という母は優しかった。

 

 黒い毛の友──”リヒト”はよく一緒に遊んでくれたから好きだった。

 

 ──の世界は、小さくも素朴でいながら完成されていた。

 

 だが、世界はロボからそんな完成を簡単に取り上げた。

 炎に、全てを奪われた。

 

『──は、ヒトより早く走れる、よね? 魔物にだって負けない、くらい、早いよね』

 

 覚えている。

 炎の中、魔物に追われながら共に逃げる弟が、急に自分の首輪を外した事を。

 

『逃げて、”──”、生きて、”──”』

『リヒト君を、お願い』

『大好きだよ”──”』

 

 弟は最後にソレを強く抱きしめた。

 弟は、勇敢だった。弟が魔物に向かったおかげで、ソレは夜を生き延びたのだ。

 

 ソレはその夜、全てを喪った。

 

 全てが終わって、街が死んだあの日。

 

 大きな月に鳴いたあの日、ソレは自らの古い血に目覚めた。

 朝焼けの月に昇っていく、白く巨大な何かに向けて遠吠えをしたあの日に。

 

 ソレは、皆に”──”と呼ばれていた。

 ソレには確かに名前があった、でももう思い出せない。

 炎と夜の記憶が、ソレから名前を奪ってしまった。

 

 それからだ。

 

 弟はソレに逃走を、生を望んだ。

 

 しかしソレは、復讐を望んだ。

 

 古い血──災厄と恐れられた先祖の血はソレに知性を与えていた。

 

 その知性が囁くのだ。

 

 街を焼いた炎、あの夜を齎したソレの敵の名前。

 

 それは、不死。

 

 ソレは、強きを望んだ。

 群れの復讐を果たせるほどの強さを求めた。

 

 狩りを覚え、魔を喰らう。

 いつしか、ソレの首は2つに増えていた。

 より効率的に殺す為、喰らう為、首は1つより2つの方がいい。

 

 ソレはいつしか、デドマン帝国で多くの不死を狩るようになった。

 その国は市井に多くの不死を抱えていたからだ。

 

 ソレは不死を殺す、殺す、殺す。

 あの夜と炎の報復を。

 腐臭のする不死共を狩りつくす。

 

 いつしか、ソレは”双つ首の獣”と呼ばれるようになる。

 

 ”双つ首の獣”は腐臭の強い不死がいる事に気付いた。

 その香りは、夜と炎をあの街に運んだ不死と似ていた。

 

 そして、腐臭を追ってルラカナに──魔術師の街にやってきた。

 

 不死の臭いを辿り、臭いが濃いモノをかたぱしから飲み込み、定める。

 

 ”双つ首の獣”は無益な殺しは望まない。

 ただ、己が狩るべきは不死のみ。

 

 だが、言葉を持たぬ彼の想いは魔術師には届かない。

 ”双つ首の獣”は、魔術師に追い立てられる事になった。

 

 追い詰められ、地下水路に逃げ込む獣。

 

 そして、彼を追う追っ手の魔術師の中に──奴がいた。

 

 不死だ。

 

「おおおおおおおおおおおう、マジェスティッイイイイイイイック……!! 素晴らしい!! おおおおおおおおおおおおおおお、素晴らしいいいいいいいいい!! 魔物がまさか、敵討ちとは!!」

 

 その不死は、擬態をしていた。

 

 魔術師の肉体を被り、自らの腐臭を誤魔化している。

 故に気付かなかった。

 

 その”不死”は、完全に魔術師に混じっていたのだ。

 魔術師の中に既に、不死は紛れ込んでいる。

 

「二つ首の獣──!! 伝承に謳われるブラックドッグ!! 災厄 ああああああああああああああ、世界が混沌に満ち溢れていた時代!! 月にこの星が侵されるよりも古い時代!! 悪竜と不在の神が争う時代の神狼よ!! 不在の神と共に、悪竜の喉笛にかみついた畏き犬よ!! デドマン帝国で多くの不死を喰らい続けた貴方とよもやよもやこんな場所で巡り合えるとは!! 応報は巡り、因果は廻る!! おおおおおおおおおおおおおおおおお、なんと数奇な運命か!!」

 

 その”不死”は、強い。

 広い地下水路の中、獣と不死は相対す。

 

 しかし、既に、獣は多くの手傷を負っていた。

 

「少し、興奮しているっ!! 復讐、復讐、復讐! 素晴らしい!! 脳みその小さな獣でありながら君には、確かに義がある! 資格がある!! その牙と爪を不死の血に染める理由がある!!」

 

「がるるるるるるるがァ!」

 

「おっと」

 

 獣の突進を軽々と交わす不死。

 その魔術師の肉体は強く、聡明だ。

 

 ぞ、ぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞ。

 

 不死の操る、魔術師の肉体に刻まれている魔術が獣の肉を喰らう。

 

「があああああああああああ!? がるるるるるるがあ!!」

 

 獣が狩りと戦いの末手に入れた熱を操る。

 右側の首が吐き出す炎が水路を埋め尽くして。

 

「あはーは」

 

 ぞ、ぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞ。

 魔術師は魔術で身を守る。その炎は通らない。

 

 とことん──この不死と二つ首の獣は相性が悪かった。

 

 獣の判断は早い。

 

「がる……」

 

 今は、まだ、コレを狩る事は出来ない。

 機を待つ。獣は逃走を決めた。

 

「おや? 判断が早い!! 素晴らしい!!」

 

 ()()()()()()()()()()()()踵を返す獣をそのまま逃がす。

 何故なら。

 

「逃げろ、逃げろ、逃げるといい。白痴の魔術師共、ルラカナが君を追う……魔術師に害なす獣として、君を狩り立てる……!! ああああああ、楽しみだ、自分達が追い立て狩った獣が、自分達を滅びから遠ざけていたとも知れずに!!」

 

 その方が、面白そうだったからだ。

 

「楽しみだ。最後の最期に、自らの行いの過ちに気付いた愚かな魔術師達の顔が……」

 

「ああああああああ! 感謝、感謝しなければ……! あの黒い月に。ルラカナを滅ぼす悪意ある月の持ち主に!! あああ。でも、でも、でも、きっとあの月はあのケガラワシイ売女共の仕業……それも滅ぼさなければならない!! ルラカナも、魔族も、全部、全部我々が滅ぼすべき悪魔にして」

 

「それにしても、あの月を堕とそうとする魔族はどこにいるのやら……ふむ、オルデラン神父がいないのが本当に痛いなあああ。ああああああ、人手不足ううううううう、ですが、それもまあ、我々らしい」

 

 自らが奪った魔術師の肢体をくねらせ、己で己を抱く不死。

 その顔はどこまでも愉快そうで。

 

「この規模の術式、天体に関わる術という事は間違いなく……神殺しの十二魔星……月という事は、アステーラかな? あああ、あの恐るべき白孤星。僕だけでは絶対に勝てない。不死たるこの肉体と魔術師の身体でも1人で大魔族は厳しいなあああああああ!! あああああああ、オルデラン、どうしてカレルなんぞで滅んだものか……まあ、いいか」

 

 ぐねり、ぐねり。

 長い舌で唇を舐めまわす”不死”。

 

 それでも、彼は笑顔だった。

 

「敵が多い敵が多い、敵がああああああああ、多いよおおおおおおおおお……たのしいいいいいいいいいいいいいいいい。殺すべき敵、嘲笑うべき敵、踏み越えるべき敵。月からの侵略者(魔族)そしてその末裔たる化け物モドキ()、賢く哀れな獣……ああああ、世界は今も敵ばかり、誰しもが奪い、憎み、殺したがっている……素晴らしいいいいいいいいいいいいいいいいい、やはり、世界は悪意で出来ているうううううううううううう!!」

 

「さあ、この世界で遊びつくしましょう! 予言の通り、我ら不死こそが霊長の跡継ぎなのだから!! さあ、悪意を振りまき、悪意で全てを繋ぎましょう!!」

 

 不死が両手で口元を抑える。

 そのまま、叫んだ。

 

「ああああああああああああ!! メイマリス! オーバー、ザ・ワールド(世界を悪意が覆いますように)ああああああああああああああああ!!」

 

 不死の嘲笑を背に、水路の奥へ獣は走る。

 

 一時の負けは敗北ではない。

 

 最後の最期に狩ればいい、殺せばいい。

 

 報復。それこそが獣を支える意志。

 己の名前すら忘れていようともこれだけは忘れる事は出来ない。

 

「が、るるるるるるるる」

 

 不死を、殺す。不死を、殺す、殺す、殺す。

 

 ◇◇◇◇

 

「地下水路の、隠し口?」

 

「ああ。この学院のどこかにルラカナ地下水路への秘密の入り口がある、ハズなんだ」

 

 授業が落ち着いた後である。

 俺とレナリアは、テラス席で今後の計画を話し合っていた。

 

 





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