望月美琴(21)は、ドカ食いが大好きな営業事務。

 今日も今日とて、仕事を終えた彼女は、大好きなドカ食いをすべく、新しくオープンしたステーキハウスへ行くことに。だが、そこは隣町の米花町だった。

 おまけに、名探偵と名高い毛利小五郎とその家族、居候が店には居合わせて・・・?

 果たして、望月さんはドカ食いができるのか?!


 ※メインはもちづきさんです。コメディーです。

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 たまには頭の悪いコメディーを書きてえな、と思って。

 あと、もちづきさんのコミックスが面白かったから。望月さん、エミュが難しいなあ。


ドカ食いダイスキ!もちづきさん、米花町へ行く

 彼女の名前は望月美琴。某企業にて営業事務を勤める、ピチピチの21歳である。

 

 そんな彼女の趣味にして癒し、生きる喜びこそ、ドカ食いである。

 

 乾ききった体に糖・脂質・塩分を一挙に流し込み、跳ね上がった高血糖により“至る”――多幸感によって酩酊する。何物にも代えがたい瞬間なのだ。

 

 今日も今日とて、そんな至福のひと時を、望月は待ち焦がれていた。

 

 お昼ご飯こそ軽めだが、ちゃんと食べた。いつもの大きめのお弁当箱には、特大豚バラブロックで作った角煮丼に、追いマヨをした。見栄えを気にして小ねぎをパラパラして、トマトとゆでブロッコリーを添えたりしたが、本当はもっと肉も米も詰め込みたかった。

 

 あまり詰め込み過ぎると、会社で“至って”しまうし、かといって少なすぎると空腹で集中力がなくなってしまう。

 

 以前、空腹の極みで会議資料に誤字連打したのは、仕方ないことなのだ、と望月は思う。

 

 角煮丼は素晴らしかった。肉とはどうしても、火を通せば縮んでしまう。スーパーの特売でブロック肉をたっぷり(4パック)買って、圧力鍋で作った角煮は、肉と油たっぷり、しょうゆと砂糖のあまじょっぱさを、モチモチの白米が受け止める最高のハーモニーだった。

 

 作っている間は、圧力鍋のシュポシュポという蒸気の音に意識を引き込まれ、圧力弁がなかなか下がらないことを、空腹の奴隷と化していた望月はかなりイラついた思いで眺めていた。

 

 ハイライトのない、底なし沼のごとき食欲に支配された眼差しで、お玉をガジガジ噛みながら、まだなの?どうして?時空歪んでない?おなかすいたおなかすいたおなかすいた、と眺めていた。

 

 最終的に、菜箸で圧力弁をいじって強引に圧力を抜くという強硬手段*1でもって解放した望月は、たっぷりどんぶりに盛り付けたご飯と、その上に富士山――もとい、チョモランマのごとく盛り上げた肉を、そのまま喰らった。

 

 昨日の晩飯だった。たっぷり作って、あまりを今日持ってきたのだ。

 

 しかし、昨日は失敗だった、と望月は内省した。

 

 油たっぷりの肉、腹持ちよく溜まりのいい米。この二つはいい。だが、勢い任せで、味変をしなかったのは、無念極まりなかった。

 

 例えば、卵。スーパーで買っておいたのだ。角煮とあわせてTKG風にしてしまえばよくない?と。それはうっかり冷蔵庫の一角でパックを空けることなく置かれたままだ。

 

 いや、TKGも捨てがたいが、煮卵だって!ゆで卵にしておいて、一緒に圧力なべにINしておけば・・・!

 

 ベーコンとか。フライパンでちょっとカリッと焼いて、柔らかで飲める角煮の上に乗せれば、それだけでアクセントになったはず。

 

 そんなことを思う望月は日ごろのポワポワした笑みを置き去りに、無表情でキーボードをたたいていた。

 

 おなかすいた。

 

 思ってしまえば止まらない。カロリージャンキーの望月の目から、ハイライトが消え去り、奈落の底じみた食欲が渦を巻く。

 

 幸い、今日は残業の必要はなく、定時退社が可能。そして、明日は休日。

 

 望月は決めていた。

 

 今日は、肉を食うのだ。

 

 隣町の駅近くに新しく出来たステーキハウス。行きたい行きたいとずっと思っていたのだ。そして先日、その店の割引クーポンの付いたチラシが届けられたのは、天啓としか言いようのないことだ。

 

 腹の虫がささやいている。望月に。肉を食らえ。たっぷりと。ガーリックライスも大盛に、何なら牛肉じゃなくても鳥だろうが豚だろうがいい。

 

 肉を食らえ。

 

 「お疲れ様でした!」

 

 無事仕事を終えた望月は上着を羽織りバッグを持つと、猛スピードで会社を飛び出した。

 

 おなかすいた。おなかすいた。おなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいた。

 

 一心不乱に望月は駆け抜ける。駅に飛び込み、電車で迅速に隣町の米花町へ。

 

 食欲に染め上げられた奈落のごとき瞳孔で、目指すはステーキハウス。

 

 今日の望月は肉を食らうのだ。

 

 幸い、ステーキハウスはさほど混雑はしていなかった。

 

 望月は案内されたカウンター席に据わり、ハイライトのない瞳でメニュー表を一望する。獲物を見定める肉食獣のよう、というのは望月の案内をした店員の証言である。

 

 そうして、望月は注文を口にした。店員は一瞬戸惑った顔をするが、注文を復唱し、「しばらくお待ちくださ~い」と離れていった。

 

 そばに座っていた客も、ぎょっとしたように望月を見やっていたが、彼女は相手にしなかった。

 

 そして、望月は座ったまま微動だにしなかった。

 

 食欲に染め上げられた双眸は、“至り”を見据えているのか、目の前のものは見ておらず茫洋としていた。

 

 昨今の若者にありがちなスマホいじりもすることなく、望月は刻一刻と注文した品が届くのをひたすら待っていた。

 

 「お先にサラダをお持ちしました」

 

 コトリッと置かれた木製のサラダボウル。その中のレタスと千切りにされたキャベツ、ニンジン、プチトマトに、たっぷりとかけられたドレッシング。

 

 一足早く置かれていたカトラリーの中からフォークを取り出した望月は、それをつつきだした。適度に野菜を取って、胃の腑に準備運動をさせるのは大事だ。

 

 だから、早く肉を食わせろ。口腔にあふれる唾液を詰め込んだ野菜に混ぜ込んで咀嚼しながら、望月は思った。

 

 肉だ。肉。肉が欲しい。早く早く早く。

 

 その時だった。

 

 何かむせるような声、そしてゴトンと何かが倒れるような音が店内BGMに混じって聞こえ、間髪入れずに響き渡った。

 

 「キャァァァァッ!」

 

 絹を裂くようなその悲鳴が。

 

 そしてそれと同時に、望月の焦がれた特大ステーキを食らうことは、那由他の彼方に失われたのだ。

 

 

 

 

 

 彼の名前は工藤新一。平成のシャーロック・ホームズ、日本警察の救世主、とも謳われた高校生探偵である。

 

 ある日、彼は・・・まあ、おおよその事は語るまでもないだろう。遊園地における危ない取引を目撃。周囲注意を怠った彼は背後から殴られ、口封じに毒薬を飲まされ、副作用で体が縮んでしまった。

 

 現在、彼は江戸川コナンを名乗り、幼馴染の少女、毛利蘭の父、毛利小五郎が営む探偵事務所に居候している。

 

 それに伴う悲喜こもごもと、血なまぐさい事件まみれの日々は置いといて。

 

 本日、コナンは小五郎の提案で、事務所3人組で近隣に新しくオープンしたステーキハウスを訪れていた。

 

 ステーキソースと肉の焼けるいい匂いに、3人は案内されたボックス席に座ってメニュー表を眺める。新規オープンの割引クーポンの付いたチラシが手元にあるのだ。酒飲みの小五郎が早速ビールを頼み、喉を鳴らしてぐびぐびと飲んでいる。

 

 毛利蘭も空手部主将を務めているだけあるし、育ち盛りの女子高生である。女の子らしくスタイルには気を付けているが、肉の魅力には抗えないらしく、どこかそわそわしている。

 

 コナンは幼児化の影響で胃の腑も縮んでしまったため大量には食べられないが、肉は嫌いじゃない。無難に子供向けのプレートを頼む。

 

 注文を待つ間、ふとコナンは奇妙な女が店に入ってきたのに目を止めた。

 

 ぱっと見は普通だ。肩で切りそろえた金髪。ぽっちゃりした体を薄手のコートに包んだ、ごく普通のOLだ。

 

 ただし、目つきが・・・そう、尋常ではなかった。瞳孔が開き気味で、ともすればやばいクスリの中毒症状を引き起こしていると誤解されそうだった。というか、コナンは誤解しかけた。

 

 ふらふらっとカウンター席に掛けた女は、メニューをざっと一望するや、注文を口にした。

 

 「すみません。リブロースステーキ300グラムをSセットで。ライスはガーリックライスの大もりでお願いします。あと、フィレステーキ180グラムとミスジステーキ180グラムもお願いします」

 

 「え・・・」

 

 呼びつけられた店員は、注文用のメモ片手に硬直しているようだった。

 

 思わずコナンも目を丸くした。明らかに女性一人の食事量を上回った内容だった。

 

 しかし、すぐに気を取り直したらしい店員はスラスラと注文を復唱すると、「かしこまりました。注文の品が出来上がるまで、しばらくお待ちください」とそのまま引っ込んだ。

 

 思わずコナンは女性をまじまじと見やった。目つきこそあれだが、あんな体型でそれだけの食事をするとは。

 

 女性は相変わらず瞳孔が開き気味の眼差しで、茫洋とした表情のまま彼方を見やっている。そういうところが、ますますもっていけないおクスリの中毒患者めいて見える。

 

 世の中にはいろんな人間がいるんだなあ。

 

 探偵をしていると、知らず奇人変人と見えることもあるコナンは、一つうなずいた。

 

 そして、コナンが女性から視線を外してから間もなく。

 

 少し離れたところにある席にかけていた男性が突如喉を押さえてむせ返ったと思ったら、そのまま横倒しに床に倒れてしまったのだ。

 

 絹を裂くような悲鳴が轟いた。

 

 すでにビールで酩酊気味の小五郎は置いといて、すぐにコナンは男性に駆け寄り、救急車と警察の手配を叫ぶ。

 

 だが、男性は既にこと切れていた。

 

 コナンは素早く視線を店内には知らせる。誰もが悲鳴を上げて立ちすくむ中、あの女性はやはり茫洋とした表情と瞳孔が開いた目で彼方を見やっていた。

 

 

 

 

 

 どうして。どうして。どうして。

 

 望月は煩悶していた。

 

 明日は休日。仕事は残業なく終わった、ハッピーフライデー。おなか一杯肉を食べて、“至ろう”としていただけなのに。

 

 どうしてこんなことに。

 

 ガジガジとスープスプーンを噛みながら、望月は煩悶する。その瞳の瞳孔は開ききり、奈落の底じみた食欲が渦巻いている。

 

 おなかすいた。おなかすいたおなかすいたおなかすいた。

 

 あんなサラダじゃ足りない。肉。米。私に肉と米を!プリーズギブミー、ミートアンドライス!

 

 一欠片の理性が訴えた。人が死んでるんだよ。ご飯どころじゃないよ!と。

 

 だが、それはすぐに絶大なる空腹感に押し流され、意味をなさない単語の羅列となる。

 

 おなかすいた。おなかすいたおなかすいたおなかすいた。

 

 運ばれた被害者の男性、呼ばれた救急車と警察に、調理場もストップしているらしく、料理人が出てきて、シャッポにトレンチコートの目暮という警部さんに訊かれるままにあれこれと話している。

 

 それを横目で眺めながら、望月は奈落の底のようなまなざしを、おいしそうな写真が掲載されたメニューに向ける。

 

 サラダボウルはとうの昔に空になっていた。

 

 おなかすいた。肉と米!ステーキ!ガーリックライス!

 

 「おねーさん、大丈夫?」

 

 足元から話しかけられ、望月が視線を向けると、そこには眼鏡をかけた子供がいた。小学生低学年ほどだろうか。青い瞳に整った顔の理知的な子供だ。

 

 「大丈夫(おなかすいた)大丈夫(おなかすいた)大丈夫(おなかすいた)大丈夫(おなかすいた)

 

 全然大丈夫に見えない返答を壊れたレコードのように絞り出す望月は、それでもなお、一片の理性を振り絞る。

 

 空腹感をごまかすべく、少しでも腹の足しにすべく、お冷を飲み干し、氷を一つ口に含んでガリガリとかじった。

 

 うむ。噛み応えがある。クランキーチョコのようで、いけるいける。

 

 「大丈夫よ。心配してくれてありがとう、ボク。

 ボクの方も、あんまりうろちょろして、ご家族に心配かけちゃだめよ」

 

 「う、うん・・・」

 

 少年がちょっと後ずさりながら、引きつった顔をして言う。

 

 だが、望月にはそれ以上彼に向けられる余裕がなかった。なまじサラダを食べて胃の腑に準備運動をさせたうえでの中断である。生殺し、という言葉以上にひどい苦行だと望月は感じていた。

 

 「お、お姉さん、さっき毒殺があったのに、よくお冷とか口にできるね」

 

 「え?うん。だって、ここ、離れてるし。それにおなかが」

 

 少年の問いに答えかけた望月は、口の中で転がしていた氷の塊を、ガリンッと大きくかじって続く言葉を飲み込んだ。

 

 「大丈夫!お姉さん、我慢強いから!」

 

 「絶対大丈夫じゃないよね?!」

 

 「ほんとだよ!ほら!まだここに氷があるでしょ!これにここにある塩を振りかけて食べれば!ほら!塩アイス!美味しーよ!」

 

 「お姉さん落ち着いて?!」

 

 心配してくれる少年を安心させようとした望月の行動は、一周回って奇行に至り、少年を叫ばせた。

 

 空腹を我慢しようとした結果の望月の行動が、奇行に至るのはよくあることだ。誤魔化せたと思っているのは本人だけだ。

 

 なお、この後の事情聴取でも、望月は一切席から立ってない、被害者の席に近寄ってないことを周囲からの証言もあって、容疑者から即座に除外された。取り繕ってはいたが、空腹に理性を食い荒らされている望月の「大丈夫です(おなかすいた)」や、「メニューをずっと見てました(ステーキ食べたい)」という返答一辺倒にさじを投げられたともいう。

 

 望月の強い主張で、連絡先だけ残し、彼女はステーキハウスを後にした。もちろん、望月のみならず、他にも何人かそういう客はいた。もっとも、名探偵と名高い毛利小五郎がいるとかで、生名推理が見れる!と物見遊山で残る者もいたが。望月はそんなことに興味はない。

 

 ステーキハウスのオーナーらしい男から、「本日は申し訳ありませんでした。またのおいでをお待ちしてます」と即席らしい割引券(無期限)を配られたことは望月にとっては朗報だった。

 

 ステーキハウスとしては事件現場にされただけで大損害だったろうに、アフターサービスがよすぎる。

 

 が、腹の虫に理性を侵食されている望月は、もう限界だった。

 

 夜の街に繰り出した望月は、ふらふらと幽鬼のごとき足取りでふらつく。奈落の底のような食欲に支配された眼差しは、一周回って虚無を宿し始めていた。

 

 おなかすいた。おなかすいたおなかすいた。おなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいたおなかすいた。

 

 当てにしていた肉も米も食べられなくなった。分厚く肉汁たっぷりのリブロースステーキ。フィレ。ミスジ。鼻孔をくすぐるニンニクたっぷりのステーキソースと蕩けるバター。油と胡椒たっぷりの、パラパラでモチモチのガーリックライス。

 

 追い塩と追いソースでさらなる塩分をぶち込む。高血圧?脳梗塞・心筋梗塞?知らない子ですね。

 

 そしてそれらをたっぷりと胃の腑に詰め込んだ末の悦楽・・・“至り”・・・!

 

 それらが全て、駄目になったのだ。

 

 「ぐすっ、う、うぅぅ・・・!」

 

 望月はこみあげてきた衝動に鼻をすすった。目頭が熱い。こみ上げてきた衝動のままに、望月は従った。

 

 「うああああああああああああああああああぁぁぁぁぁ・・・!」

 

 望月は、街中で膝をついて泣き崩れていた。トリックを暴かれた犯人のように、最愛を亡くした遺族のように。

 

 失ったものを求めて、慟哭した。

 

 

 

 

 

 しばし通行人からぎょっとされながらも、どうにか己を奮い立たせて望月は、そのまま泣きはらした目で立ち上がり、ふらふらと歩き出す。

 

 ふと見上げた望月の目に飛び込んできたのは、24時間経営のファミレスだった。虚ろな望月の瞳に、煌々と輝くファミレスの看板が鏡のごとく映りこむ。

 

 誘蛾灯に誘われる羽虫のごとく、望月はファミレスの自動ドアに吸い込まれていった。

 

 

 

 

 

 「お、お待たせしましたー・・・」

 

 店員がちょっと引いた声を出しているのに、望月は気づかない。

 

 数秒前まで虚無を宿していた望月の瞳は、生気に彩られ、犬のようにハアハアと舌を出して息をしながら、零れ落ちそうになるよだれを我慢していた。

 

 アツアツの鉄板の上にどっかりと鎮座するのはハンバーグだ。ジュウジュウぱちぱちと音を立て、デミグラスソースが食欲を誘う。特大サイズのものだ。

 

 少し小ぶりなステーキと、併せて鎮座するエビフライ。付け合わせのコーン、ニンジンのグラッセ、ゆでぶろっこりも忘れてはならない。ステーキハウスのそれよりも、小さいくせに値は張るが、仕方がない。それでも望月は肉が食べたかったのだから。

 

 併せて届けられたのは、オムハヤシ。ガーリックライスの代わりにピラフでも頼もうとしたのだが、メニュー表でこの写真を見た瞬間にこれしかないと即決した。バターライスの上に広げられたトロフワ卵のオムレツ。その上にかけられたデミグラスソース、添えられたサワークリーム。

 

 「注文の品は以上で間違いないでしょうか?ごゆっくりどうぞー」

 

 伝票が置かれたのを尻目に、望月は姿勢を正した。

 

 これより始めるは、神聖にして正統なる儀式だ。何人たりとも邪魔は許されない。そして、望月はそれを始める合図をかけなければならないのだ。

 

 パシリと両手を合わせて、静かに礼儀正しく宣言する。

 

 「いただきます」

 

 素早く望月はカトラリーセットを手に取って、ハンバーグに手を付けた。切り分けるや、中からとろりとした白いものが零れ落ちる。そう。チーズだ。チーズinハンバーグ。

 

 フォークで口に含んだ瞬間、望月は確信する。あふれる肉汁、こってりしたデミグラスソース、マイルドなチーズ。アツアツのそれらが調和しながら、喉奥に流れ込んでいく。

 

 勝った!何にとかどうして、とかはどうでもいい。勝ったのだ。

 

 望月の脳内で、涙を流す自分がリングの中央で拳を突き上げているのが見えた。聞こえないはずのカンカンというゴングの音が鳴り響く。

 

 そこから、望月は理性を完全に置き忘れた。食欲に忠実な獣となった。ハンバーグ、ステーキ、オムハヤシ。カトラリーとスプーンを駆使して、望月はすさまじい勢いで攻略していく。合間に付け合わせをつまむことも忘れない。

 

 唾液と脳汁が止まらない。

 

 そして、最後の一口を食べきった。

 

 「はあ・・・幸せ(ひあわへ)・・・!」

 

 クタッと仰向けになるように座席の背もたれに体重をかけ、くったりと表情を悦楽に蕩けさせながら望月はつぶやいた。

 

 満ち足りた胃の腑。急激に血中を糖質・油脂・塩分が満ちていく。

 

 ようやくかなったドカ食い。ようやくたどり着いた“至り”。

 

 ファミレスの店員や客がちょっとひきつった顔で見やってきていることなど、悦楽に浸る望月の知ったことではなかった。

 

 

 

 

 

 「あー・・・終わった終わったあ・・・。

 事件を解決すると腹が減るなあ!」

 

 大あくびをしながら、毛利小五郎はステーキハウスのドアをくぐる。

 

 いつも通りコナンがトリックを暴き、いつも通り時計型麻酔銃で小五郎の首筋を打って、蝶ネクタイ型変声機で推理を話す。全く以て、いつも通りのローテーションが行われた。

 

 トリックの仔細については省略させていただく。コナンからしてみれば、過去の事件に類似事件があったので、それでサパッと解き明かしたのだ。

 

 小五郎はひと眠りしたからか、酔いもなくなりすっきりしたらしい。

 

 「ステーキは食えなかったが、今からでもどっか行くかあ!ラーメンとかどうだ?」

 

 「もう、お父さんってば!」

 

 カラカラ笑う小五郎に、蘭が苦言を呈するが、コナンは苦笑した。

 

 多分、死体を目の当たりにして食欲がないのだろうが、明日は部活なのだから、蘭も何か食べた方がいいとコナンは思う。

 

 「ん?」

 

 不意に、通りかかったファミレスの窓から見えた光景に、コナンはぎょっとした。

 

 そこには、ステーキハウスであまりの挙動不審ぶりにかえって容疑者から除外された女性がいた。

 

 ちらっと見えた程度だが、ものすごい勢いでカトラリーを動かして食事をしている。

 

 目が尋常じゃなかった。飢えた獣のそれだ。狂人のそれだ。

 

 ぽっちゃりして見た目にはかわいらしいかったのに、目つきと所作が全てを台無しにしていた。

 

 人間、いろいろあるもんだ。

 

 コナンは一つ、世間を学んだ気分になって、そっとその光景を見なかったことにした。

 

 

 

 

 

おしまい

 

*1
危険なので真似しないでください




 何か書きてえな、普段と違う奴、と思って、気分転換に書きました。

 お付き合いありがとうございました。

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