「【
繰り出される超短文詠唱の音魔法。超短文詠唱といえどその威力は絶大でレベルのひとつ覆してしまう程だ。
しかし眼前に睥睨する『隻眼の黒竜』は僅かに後退りする程度だった。
「全力で撃ったのにこれだけか……」
白い髪を靡かせながらユーフィリアは呟く。
もう何度も魔法や剣技を黒竜に浴びせているがダメージらしいものは殆ど与えられていない。
Lv9のステイタスでは駄目かと内心結論付けていると異変が起こった。
黒竜の隻眼がギラりと輝き、口から黒煙が漏れ始めた。次の瞬間、燃え盛る赤黒い
「くぅっ……!」
何とか飛び退いて直撃は回避したものの熱波だけで肌が焼け、大地は溶けていた。
「なんて火力……」
食らったら最後一瞬で灰になってしまうと悟ったユーフィリアは冷や汗を浮かべた。そしてその汗もすぐに蒸発した。
戦慄するのも束の間黒竜は巨体を機敏に動かして歪で巨大な爪を振り下ろしてきた。ユーフィリアは
鋭い刃のような爪が通った大地は底が見えない程に裂けていた。
しかし身体中を覆う黒い鱗は尋常じゃないほど硬く、ユーフィリアの剣は弾かれた。
仰け反って硬直するユーフィリアに黒竜は尻尾を鞭のようにしならせ炸裂させてきた。
「がッ……!」
地面に叩きつけられたユーフィリアは吐血しながら体を起こす。
ぶつけられた胸部を覆う鎧は変形しており、肉体にも強烈な衝撃を与えていた。鎧が無ければ間違いなく体が弾けていたことが容易に想像できた。
「ふふ、まったく相手になってないな……ゴフっ」
血を吐きながらフラフラと立ち上がり剣を構える。
見下ろしてくる黒竜は既にユーフィリアを相手にも思ってなさそうにしている。
「勝てる道筋は……ひとつだけ。次が、最後――」
圧倒的な力の差を見せつけられているが、ユーフィリアの瞳は屈していない。
彼女の目にはこの『黒き終末』を討ち滅ぼしすことしか見えていなかった。
ユーフィリアの体を光が包む。その純白の輝きは、闇を貫き、荒廃した大地を照らしていた。そして大鐘楼の音が、静寂を引き裂くように響き渡る。ゴォーン、ゴォーン――まるで彼女の決意が形となったかのようだ。
黒竜の片目が細まり、鋭い咆哮が大気を震わせる。黒炎と影が絡み合う中、巨大な翼が広がり、攻撃に備えた。ユーフィリアの『英雄の一撃』を前に黒竜も身構えた。
ユーフィリアは震える手で白銀の剣を握りしめる。剣ひとつに収束された純白の光はユーフィリアの全てを合わせた一撃だ。
そして、彼女の足が地面を蹴り、一瞬のうちに間合いを詰める。黒竜はその大きな口を開き、燃え盛るブレスを放つ。しかし、炎すらもユーフィリアの輝きに飲み込まれ、光が闇を裂いて――――その一撃は黒竜の胸部を直撃した。
黒竜の鱗が砕け、深い傷が胸に刻まれた。ボタボタと赤い血が滴り落ち、大地を焦がす。
しかし、黒竜は倒れなかった。隻眼がユーフィリアに向けられる。痛みに咆哮を上げながらも、絶対的な存在感は健在だった。
ユーフィリアは折れそうになる膝を堪えて気丈に振舞う。
全ての力の今の一撃に込めたユーフィリアは限界だった。
あれ以上の攻撃はできない。それがわかっているから、死に様くらい格好つけようとしたのだ。
「がふッ……」
巨大な影が迫り、鋭い爪が腹を貫いた。温かい血が流れ出し、視界が徐々に霞んでいく。その中で、彼女は傷に苦しむ黒竜を見た。
「仲間がいたら、違ったのかな……」
もしもの可能性が脳裏を過ぎり頭を振る。考えたところで後の祭りだった。
ユーフィリアは瞳を閉じた。
そして、『最後の英雄』ユーフィリア・クラネルは闇に包まれた。
◇
その日のオラリオは騒めいていた。厳密にはバベル前だが。
ダンジョンの入り口というのもありいつもそこは冒険者が屯する場所であるが、いつにも増して騒々しかった。
そこに二人の冒険者がやってきた。
「なんだかどよめいていますね」
「そうだね」
都市最大派閥【ロキ・ファミリア】に所属する第一級冒険者のアイズ・ヴァレンシュタインと、【派閥大戦】を経て今や誰もが認める『英雄候補』となった【ヘスティア・ファミリア】のベル・クラネル。
二人はいつもの市壁の上で秘密の特訓をした後に軽くダンジョンに行こうとここまで来たが、異変に顔を合わせた。
「あっ、ベルくん! ……と、ヴァレンシュタイン氏」
「エイナさん!」
そんな二人のもとにハーフエルフの女性が駆け寄ってきた。
彼女はギルド職員でベルの担当アドバイザーでもあり、密かにベルに想いを寄せる人物でもあった。
ベルを見つけ喜色満面で声をかけたが隣にベルが懸想する金色の美少女を見つけ声のトーンを落とした。
「二人ももしかしてあの騒ぎに?」
「はい。”も”ってことはエイナさんも?」
「うん。冒険者間のトラブルとかはギルドも把握しておかないといけないから」
それからベルは二人を伴ってバベルへ足を進めた。
本人はあまり自覚はないが、美少女二人、オラリオ最強の女剣士で【人形姫】とも言われる美貌の持ち主のアイズとギルドの受付嬢の中でも一二を争う人気のエイナを侍らすようにしている様子に周囲は嫉妬の眼差しを送り続けていた。
「あんのエロ兎め……」
「派閥大戦で見直したがやっぱ男の敵だ」
「あぁ。俺らのエイナちゃんを独り占めしやがって」
「エイナちゃんもいいが俺はアイズたんだな」
「つまりその二人を侍らす兎は?」
「「
この時ベルは悪寒が走り、心なしか足が早くなっていた。
三人は人が群がる空間を突き進む。アイズとベルの知名度のおかげか周りが道を開けてくれるのですらすらと前へ行くことができたのだ。
そして進んだ先に辿り着いた。
そこには一人の少女が佇んでいた。
周りの様子から彼女が異変の元凶だということが三人にはわかった。
ただ一人、アイズだけは目の前の少女を見て平静を崩していた。
さらさらの白い髪を靡かせ、緑とルベライトのオッドアイの少女は目を引く綺麗な容姿をしている。だがアイズにはそんな少女が別のものに見えた。
白とは全く違う闇に。アイズが心の底から憎むあの漆黒の竜の気配がした
「ぁあああああああああ!――――【テンペスト】!!」
「アイズさん!?」
その瞬間、アイズは衝動のままに愛剣を抜き去り魔法を展開した。すぐ傍にベルはともかくステイタスも持っていないエイナがいるにも関わらず全力の風を放出して、突貫した。
「さて、次の遠征だけど……」
【ロキ・ファミリア】本拠地『黄昏の館』。
そこでは主神ロキと団長フィン、それからリヴェリアとガレスが集まって話し合いをしていた。
議題は近々行われる遠征のこと。それについて話を展開していると、ラウルがノックもなしに部屋に入ってきた。
「団長! 大変です!」
「ラウル? どうしたんだい? そんなに慌てて」
汗をかきながら飛び込むように入室してきたラウルは真剣な表情をしている四人にウッとなりながらも口を開いた。
「そ、それが、アイズさんが街中で魔法を使って暴れたという情報が……」
「なに!?」
「なんやて!?」
その報告に反応を示したのはリヴェリアとロキだ。二人はこの中でも特にアイズを目に掛けているからこそ動揺を露わにした。
「ラウル。それは本当か?」
フィンが冷静沈着な様子を保ったまま問いかけた。その姿にラウルも徐々に平静を取り戻していった。しかし先の報告はラウルが錯乱したわけではなかった。
「はいっす。今ほどギルドのエイナ・チュールさんが血相を変えてやってきてそう伝えてきたっす。また、団長たちにすぐにギルドに来てほしいとも」
「エイナちゃんがかいな。そら信じるしかないな~」
「どうするんじゃ、フィン」
「行くしかないね。アイズが街中で魔法を使ったとなると余程のことだ。僕たちはすぐにギルドに赴く。ラウルは他の団員に混乱を招かないよう上手くやってくれ」
「はいっす!」
来た時のように慌ただしく出て行くラウルを見送ってからフィンは息を吐いた。
「まったく、これから遠征だっていうのに」
「そうは言ってもしょうがないわい。まずはあの子に何があったか知ることが先決じゃ」
「そうだね……ってあれリヴェリアは?」
「ママならラウルが行った瞬間に窓から出てったで」
思わず窓を見ると全開に開いており風でカーテンが思いっきり靡いていて、冷気が流れ込んできていた。
「……ここ、結構高いけど?」
「おう。まぁママやし、気にしたらアカン」
「それもそうか」
フィンは考えることを止めた。
時を同じくして、【ヘスティア・ファミリア】の本拠地『竈の館』。
そこにはフェルズの使い魔が手紙を咥えてきていた。
それを受け取った春姫から手渡され手紙に目を通したリリルカは悲鳴を上げていた。
「もぉおおどうしてベル様はいつも面倒事に巻き込まれるんですかぁ!?」
「ベル殿がどうかされたのですか、リリ殿!?」
リリの乱心に命が聞き返す。それにリリは、手紙をビタンッ! と机に叩きつけて吼えた。
「【剣姫】様が街中で人を襲ったようでベル様が巻き込まれたんです!」
「な、なにをやってんだあの天然っ娘は~!?」
「あの【剣姫】がですか……穏やかではありませんね」
横で聞いていたヘスティアは怒髪天を衝き、最近【ヘスティア・ファミリア】に入った新入りのリューは怪訝な顔を隠さなかった。
「それで、ベルは今どうなってるんだ? リリ助」
「ベル様はギルドにいるらしいです。あの【剣姫】様と一緒、に!」
「そうなのか。いまいち状況がわからねえな」
ヴェルフが首を傾げた。
それもそうだろう。
【ロキ・ファミリア】主戦力のアイズが暴れてベルが巻き込まれたかと聞けば、次はギルドでその二人が一緒にいると言う。
ヴェルフが困惑するのも頷ける。
「確かによくわからないけど! まずはベルくんをあの泥棒猫から取り返すんだ、みんな!」
「そうです! これ以上あの方にヒロインレースを独走させるわけにはいきません!」
「それでも、ここを留守にするわけにもいかない」
今すぐにでもギルドに凸りそうなヘスティアとリリだったが、リューが懸念を口にする。
少し前ならいざ知らず、今やオラリオはおろか世界的にも有名になった【ヘスティア・ファミリア】は良くも悪くも周囲の目を引く。
そのため本拠地を無人にしてしまうと良からぬ輩を招きかねない。
どうするべきかと二人がうんうん唸っているとヴェルフが口を開いた。
「あまりベルが危ないわけじゃないんだろ? なら俺はここに残るぜ。まだ作業途中の武具もあるしな」
「自分も少し……これから春姫殿と一緒にタケミカヅチ様のもとに行く約束があり」
「あぅ、ベル様も心配ですが千草ちゃんとも約束が……あぁどうすれば」
春姫はとても深刻そうに考え込んでいるが、少なくともヴェルフは残るというから無人になることはなくなった。それに【フレイヤ・ファミリア】の面々も陰ながらここの護衛をしてくれているので、寧ろ都市で一番安全な場所ですらあった。
そして懸念がなくなったことでヘスティアとリリ、リューの三人がギルドに行くことにしたのだった。
◇
ギルドにやってきたヘスティアたちだったが、ギルドの物々しい雰囲気に気圧されていた。
いつもこの大通りは露店が所狭しと出店されていたり冒険者たちがいたりで騒がしいのに、今は人の気配も殆どなく静まり返っていた。
そして像の面を被った者たち……【ガネーシャ・ファミリア】がギルドの入り口に構えていた。
「シャクティ、いったいどうなっているのですか?」
「リオン、いやリュー・アストレアか」
【ガネーシャ・ファミリア】の中に旧知の仲である団長シャクティを見つけリューは声をかけた。
「私らは警備としてここにいる。今はもう問題ないが【剣姫】が暴れたことは広く知れ渡ってしまったからな。民衆を安心させるためにも私たちが姿を見せる必要がある」
「なるほど」
「それより早く中へ入れ。役者は揃っている」
「ええ」
シャクティの言う通りに三人はギルドへ足を踏み入れた。
ギルドの中は今回の件の関係者以外人は居らず静寂が支配していた。ギルド職員すらも奥に引っ込んだのか姿が見えなかった。
「あっベルくん!」
「神様! リリにリューさんも。来てくれたんですね!」
「心配したんだぜまったく」
「本当ですよ。あの戦いも終わって漸くゆっくりできると思ったのに……」
椅子に座ったベルに感動の再会といった様子で接するヘスティアとリリ。ベルに怪我はなく本人も至って普通な感じにリューも安堵した。
そんな彼らを見つめる沢山の視線。
「おいこらドチビ、もっと早く来れんのかいな」
「なにを~!? こっちは急に呼び出されたんだぞ!」
「それはうちらかて一緒や」
「もとを辿ればそっちのヴァレン何某くんが起こした騒動なんだろう? 僕たちがそんなに言われる筋合いはないね!」
「くっ、まぁそれ言われたら返す言葉もないな。確かに今回はこっちが全面的に悪いわ。すまんかった」
あのロキが素直に謝罪し頭を下げた。
ヘスティアは絶句とした。
この
そんな中でのロキのまさかの行動にヘスティアに衝撃を与えていた。
「ま、まぁそんなに反省してるなら許してあげなくもないけど。ベルくんに怪我はなさそうだし」
「……チョロ」
「おいこら聞こえてるぞ」
そんな一幕が行われている中、リューはずっと疑問に思っていたことをベルに聞いた。
「ところでベル、あちらの女性は?」
じっとこちらを窺うように見ている見覚えのない少女。白い髪にルベライトの瞳をひとつ携えている彼女はパッと見ベルのように見えなくもなかったが、リューにはあの少女がオッドアイということもあり別の女性を想起させていた。
「その、あの人なんです。アイズさんが襲ったという人は」
「……うぅ」
なんとも言えない呻き声を上げたのはアイズだ。自分のやらかした行いに気付いたのか、
その子供のような振る舞いにリヴェリアは頭が痛そうにして、フィンとガレスは苦笑交じりにしていた。
「それで、どうしてこんなことがおこったんだい?」
ロキとの安定の喧嘩もしたヘスティアはまず事の説明を求めた。
ベルに特別おかしなことは起こっていないがやはり今の状況は親として面白くなかった。ことの次第によってはアイズとベルの接触を金輪際断たせてやる、と私情混じりに息巻いていた。
「えーと、アイズさんが彼女を別の何かに見えたとかで。それが原因でこうなってしまったんです」
「言ってしまえばアイズの勘違いから始まったようだね」
「は、勘違い?」
「……何だかリリには【剣姫】様が幼子のように見えてきました」
膝を曲げて小さくなっているアイズは気まずそうに目を逸らした。その横では本当に小さなアイズ――イマジナリーアイズが『返す言葉もないです』と書かれた看板を掲げていた。
「まぁその勘違いが随分物騒なんだけどね。何でも彼女が『黒い竜』に見えたとか」
「黒い竜?」
「それは……」
リューの脳裏に過去の光景が浮かぶ。
ダンジョン18階層に現れた黒い『異形の竜』を前に今より幼いアイズは暴走していた。あの時のようなことが今回も起こったのかと思うと【ロキ・ファミリア】の心労も目に浮かぶ。その時はリヴェリアやガレスの声も聞こえていなかった。
「今回は【
「いや、僕たちが来た頃には事態は沈静化されていた。……あの少女の手によってね」
魔法を行使したLv6のアイズを止めたという事実に警戒が高まる。
件の白い少女は全員からの視線を一身に受けて、閉じていた口を開いた。
「……強ち、彼女の勘違いも全くの的外れでもないかもしれない」
「それはどういうことだ?」
理解できないといったリヴェリアが問いかける。彼女だけでなく、全員が疑問符を浮かべた。今の言葉を素直に受け取るなら白い少女の正体は黒い竜ということになる。しかし神であるヘスティアやロキをしても目の前の存在は純粋なヒューマンにしか映らない。
疑惑の視線が強まっていく中彼女は平然と爆弾を投下した。
「なにしろ――つい先刻まで私は『隻眼の黒竜』と戦っていたのだから」
突然の爆弾発言に一同は凍り付いた。
『隻眼の黒竜』。それは下界の悲願である『三大冒険者依頼』の最後のモンスターだ。既に他の二体はゼウス、ヘラの両ファミリアの手によって倒されたが、その英雄たちですら黒竜には届かなかった。
そして、両ファミリアが消え去って15年。今のオラリオは来たる決戦の時に備え力を蓄えている最中で間違っても北の大地で眠る黒竜を刺激しようとはならないのだ。
それなのにこの白い少女は彼の竜と戦ったと言う。これにはあのフィンですら理解するのに時を要した。
「……えーっと、ロキ?」
下界の人間の嘘がわかるロキに視線を遣り真偽を確かめたが彼女は頭を振った。つまり嘘はついていないということ。
「自分、何者や」
ロキが鋭い眼差しを突きつける。警戒からフィンとガレスの得物を持つ手に力がこもり、リヴェリアはアイズを隠すようにした。
ベルから聞き出した情報では彼女は暴走したアイズを素手で制圧したと言う。それだけでも軽く見積もってもLv7は固い。その認識だったのにあの『黒竜』と戦ったとあってはその認識は甘いと言わざるを得なかった。
少なくともLv8ではないかと睨むと三人に白い少女はケロリと言った。
「私はユーフィリア・クラネル。【ヘラ・ファミリア】所属のLv9」
しかし目の前の相手は想像を超える怪物であった。
「【ヘラ】やてぇ!? あのヒステリックババア復活したんか!?」
「……頭痛が痛い」
騒ぐロキを横目にフィンも馬鹿になった。矛盾を孕んだ言葉を言ってないともうやってられんと思考を放棄したのだ。
しかし、そんな彼らを押しのけ騒ぐ者たちが。
「クラネル!? きみっ! 僕のベルくんとどんな関係なんだい!?」
「勝手にヘスティア様のものにしないでください! でもリリも気になります! まさかここに来て許嫁が押しかけてくる展開はいりませんからね!」
「……やはり今からでもリュー・クラネルに」
「「エロフは黙ってろ(ください)!!」」
女三人寄れば姦しいとは言うがにしても騒ぎ過ぎである。
ユーフィリアは鬼気迫る表情でベルとの関係を問いただしてくる二人に引き攣った顔をしているし、フィンはハーレムっていいなぁとぼんやり考えて、どこかの黄昏の館の女狂戦士が鬼の形相をした。
ガレスは身構えていたのが馬鹿らしくなり、リヴェリアは本気で頭痛に苛まれていた。
ギルドは混沌としていた。
◇
「さて、気を取り直して話を進めようか」
少し時間を挟んで落ち着きを取り戻したことでようやくまともな話し合いが行われそうだった。
「確認だけど、君は【ヘラ・ファミリア】所属のLv9……それからベル・クラネルと同じ姓を持っている、でいいね?」
「えぇ」
最後の確認は横からとんでもない圧をかけられたことで渋々聞いた。「いいね?」というのも横の二人に対するものだったかもしれない。
「頭が痛いな」
「フィン」
「これは本当にさ」
先程の醜態を思い出し咎めるようなリヴェリアにフィンは毅然と返した。
「正直嘘をついてるんじゃないかと疑ってる。【ヘラ・ファミリア】というのを考えても都市外でここまでレベルを上げるなんて信じられないな。それか、隠れてダンジョンに行っていたのかな?」
言外に『
「疑いを持つのは必然。だけど私は生まれてこのかたダンジョンにもオラリオにも近づいたことはない。いや、生まれはここだったかもしれないが」
「ではどうやって……いや、まさか」
「あぁ。私は『竜の谷』でひたすら戦ってきた」
黒竜と戦ったという情報から思い至ったフィンにユーフィリアは回答を出した。
「……俄かに信じられんな」
「あぁ。レオンからお主のことは聞いたことがないぞ」
レオン・ヴァーデンベルク。オラリオ外にいるLv7の人物だ。【ロキ・ファミリア】の三首領とは旧知の仲で、過去にはオラリオを拠点にしていたが現在は都市外を飛び回りを教鞭を執っている。その中で『竜の谷』から出現する竜を倒す役割を担っている彼だが、ユーフィリアのことは欠片も聞いたことがなかった。
「それも無理はないだろう。私が彼に初めて会ったのはオラリオが消し飛んだ後だったから」
「そうか。オラリオが消し飛んでからレオンと会ったのか……って、は?」
あまりに自然に喋るから一瞬見逃しそうになりながらも、その言葉にリヴェリアは絶句した。
「それはどういうことだい?」
「私もヘルメスから聞いたことだが、『精霊の秘術』とやらが発動されたせいで英雄の都は一瞬にして消え去ったらしい」
「待てや! 精霊の六円環はうちらが戦力かき集めて止めたで!?」
ロキが叫喚を上げ机を叩く。
一連の騒動ではここまで至るのにファミリアの眷属を何人も失った。そして最近ようやく『
「……並行世界」
静まり返る空間に声が響き渡る。
「え、フェルズ、さん?」
ベルが呆然と呟いた。
視線の先には黒衣を纏った人物が実体を現し佇んでいた。
「……我々の世界は無限の可能性を秘めており、また些細なことが起きただけで本来辿る道は枝分かれして誰にも見通すことのできない未来になる。彼女はこことは違う世界の住人なのではないか? ウラノスはそのような見解を示した」
「そういうことかいな」
「え、えっ? どういうことだい?」
得心いったロキは握り込んだ拳をゆっくりと下ろし怒りを鎮めた。
対して理解のいっていないヘスティアはきょろきょろとしている。そんな姿にロキはあくどい笑みを浮かべた。
「ちゅーことはや。なぁユーフィたん」
「ユーフィたん?」
「自分とこの世界にこの少年……ベル・クラネルって子居たか?」
「いや、聞いたことないな。ロキやフレイヤの名は噂程度に流れてきたがヘスティアは知らない」
「な、なにぃいい!? ……ってもしかして!」
「「ベルくん(少年)がTSした世界って、ことぉ!?」」
ニ柱の歓喜と絶望の叫びが響き渡るのだった。
こんな感じの話を読みたいな~と思って書いたけど途中で力尽きました。
この後はユーフィリアとベルくんの血縁が明かされたりオッタルが殴りこんできたりするんじゃないかなと思います。
読了ありがとうございました。
以下ユーフィリアのステイタス。参考程度に。
Lv9
力 :S910
耐久:S903
器用:SS1070
敏捷:SS1040
魔力:SSS1109
魔導:B 耐異常:C 魔防:E 精癒:E 剣士:G 覇撃:H 天舞:I
《魔法》
【アルカディア】
・全癒魔法
詠唱式【清浄なる聖花、世を断絶する光。紅を隠し、異常を除き、瘴気を拒絶する】
《スキル》
【才禍再来】
・能力の常時
・戦闘時発展アビリティ『覇光』の発現。能力により補正がかかる。
・魔法【サタナス・ヴェーリオン】の発動権限を得る。
【終末撃滅】
・目的遂行するまで早熟する。
・思いの丈により効果上昇。
【聖鐘光】
・能動的行動に対するチャージ実行権。
・使用後24時間のインターバルを要する。
【飛竜本能】
・竜種との戦闘時、全能力の超高補正。