「太郎丸!」
「ワンッ!」
セーフエリアと化したリバーシティ・トロン最上階の制圧を終えて一段落し、美紀の救出作戦を行おうとした矢先。
突如として現れた小型犬の柴犬に唖然としていた三人だったが、圭だけは見覚えがあるらしく太郎丸と叫びながらしゃがんでギュッと抱きしめた。
太郎丸と呼ばれた柴犬も見覚えがあるらしく、特に抵抗する素振りを見せずに嬉しそうな表情を浮かべていた。
「よかった…無事で…、ごめんね太郎丸…いきなり何も言わずに出て行っちゃって…」
「ハッハッハッ…!」
どうやら太郎丸と呼ばれている小型犬が圭の言っていた犬だったらしい、再会を喜びながらも太郎丸の背後から近づいた美乃里はそのままお腹を晒すように抱き上げていく。
「ふふっ…♪あっ圭さんちょっと失礼…はいっ!捕まえたー」
「わふぅ?」
ただ相当人馴れしているのか…あるいは美乃里の接し方が良かったのかは定かではないが、初対面の彼女に抱き上げられても太郎丸は暴れることなく観念した表情で大人しくしていた。
どうやらセーフエリアの外に出てきてるということで噛まれていないか確認がしたかったらしく、こちらに顔を向けたりして全周を隈無く確認する。
「美乃里お姉ちゃんなにしてるのだー?」
「んー?噛まれてないか確認、多分セーフエリアから出てきてしばらくウロウロしてるから念のためにね?」
まあ出会った時点で様子もおかしくないし毛並みも綺麗だったので、確認してみても噛まれた形跡もなく、問題なかったため、美乃里は大丈夫そうだと呟きながら圭に太郎丸を返していく。
「うん、大丈夫そう。はいどうぞ」
「ありがとう御座います、そういえば確認してなかった…危なかったー…」
すると太郎丸もそれをわかっていたのか嬉しそうな表情を先ほどよりも浮かべながら、圭のほっぺをペロペロと舐め始める。
一瞬彼女も驚きながらも嫌がる素振りを見せることなく舐められていき、美乃里たちも微笑ましい表情で見つめていくのであった。
「わふぅ♪」ペロッ
「わっ!?もー太郎丸そんな舐めないでー、もう置いていかないから〜」
「太郎丸!!」
「わん!」
「…!?」
圭が出ていったスタッフルームにて一人終わりの見えない籠城生活を続けていた私立巡ヶ丘学院高校2年生、直樹美紀はもう聞くことのないと思っていた親友の声と出ていった太郎丸の声を耳にするとハッとした表情を浮かべていた
最初こそ幻聴かと思ったもののハッキリと聞こえてくる声がそんな訳がないというもので、続けて聞こえくる声を耳にするや否や横になっていたソファーから慌てて飛び起きる。
ー今の声って圭!?しかも太郎丸の声も…いやでもそんなはずは……けど…さっきハッキリ聞こえて…ー
「よかった…無事で…、ごめんね太郎丸…いきなり何も言わずに出て行っちゃって…」
「ハッハッハッ…!」
「…っ!」
先ほどまで出入り口を叩いていた感染者の気配は感じられず、圭以外にも人の声が聞こえてくるということは本当に助けを連れて来てくれたということ。
それだけでも外の様子を確かめる必要は充分にあるため、美紀は必死で積み上げていたダンボールのバリケードを退かしていく。
「ふふっ…♪あっ圭さんちょっと失礼…はいっ!捕まえたー」
「わふぅ?」
ーさっきまでいた感染者の気配もない…それに圭以外のこの声…本当に助けを連れてきてくれたんだ…!ーガコッ
何処か遠くに行く前に早く確かめないと…そんなことを思いながら一心不乱にダンボールの山を退かした美紀は、扉に手をかけた途端にはっと我に返る。
まだ圭らしき声とほかの人の話し声は聞こえる…、しかし出ていった親友が助けを連れて戻ってくるというご都合展開が本当にあるのかと疑っているらしい。
ー…早く確かめ……って待って…そんなご都合展開…あるのかな…ー
なにせ何日目かも分からない籠城生活を続けているのだ、知らぬ間に気が狂っておかしくなっている可能性だって充分にあり得る話。
もし違って変な人にかち合い変なことをされるか、もしくはゾンビの大群に美味しく食べられるという無情な現実が脳裏を過ったことで開けようとしていた手がピタリと止まった。
ーもし…全然違う人で…変なことされたら…いやそれだけじゃなくてゾンビ大群で…美味しく食べられたら…そんな現実だったら…ー
それならいっそのことこのままのほうがいいのでは…そんなことを思っていた矢先、突然扉が開くと共に一人の少女が飛び込むように抱きついてきた。
一瞬感染者が飛び込んできたと誤解して振り払おうとした美紀だったが、聞き慣れた声に容姿を目の当たりにするとえっ…とその手を停めてしまう。
ーそれならこのままのほうが…ー
バンッ!
「美紀!」
「わっー!?あっちょ!離れ…て……え?」
そこには数日前に出ていったはずの親友、圭の姿であり彼女は見上げると今にも泣き出しそうな表情を浮かべており、そんな親友の気持ちを察した美紀は強く抱き締め返した。
「…圭…圭…なんだよね…?」
「当たり前じゃん…!私じゃなかったらなんなのよ…!」
「…っ!!」
二度と会えると思ってなかった親友との再会、恐らくそれは美紀だけでなく圭も思っていたことかもしれない。
生きてて良かった…双方の口から溢れたその言葉と共に安堵しきった2人はそのまま出入り口の前で地面にへたり込むように抱き締めたまま座り込んでいくのであった。
「良かった…!もう…生きてて会えないんじゃないかって…」
「私も…美紀、生きてて本当に良かった…」
「それはこっちのセリフだよ…、本当に圭が生きてて…良かった…」
「無事に感動の再会が出来て良かったですね…」
「ええっ…、頑張った甲斐があったってもんよ…」
「よかったのだー、圭お姉ちゃんっ!」
再会を喜ぶ2人を見て安堵する3人、そのなかでも美乃里はここまで来るのに色々と大変だったが頑張った甲斐があったと内心そんなことを思っていた。
…がそれと同時こ妹である由紀のことが脳裏を過ぎり、何とも言えないような表情を浮かべていく。
ー良かった…無事に再会出来て…、頑張った甲斐が…ー
『ねえねえ美乃里お姉ちゃん!ゲームしよゲーム!』
『お姉ちゃんといると由紀すっごく楽しい…!』
「…由紀……」
今回のような感動的再会がすべてできるとは限らない、恐らくこの先最悪な再会を果たすパターンだって十二分にあり得る。
もちろん自分だけでなく瑠璃だって同じだろう…、もしそんな再会を果たした時…自分…いや自分達は冷静な判断を下せるのだろうか…
ー今回は無事に再会出来た…けど…毎回そうとは限らない…るーちゃんのお姉さんだって…由紀だって…ー
「そうなった時…冷静にいられるの…かな…」
そんなことを考えているとふと声をかけられたため、ハッとした表情を浮かべた美乃里は顔を上げると、そこには手をつないでこちらにやってくる2人の姿があった。
「――あっあの…!美乃里さん」
「っえあー圭さんどうかした?」
どうやら改めて紹介したかったようで、圭が美紀の名前を改めて名乗っていく。
もちろんこちらも名乗る必要があるため、美乃里は軽く咳払いをすると先人を切る形で自己紹介を済ませていき、それに続く形で瑠璃や優乃も続いた。
「あっえっと…一応改めてなんですけど…この子が私の親友の直樹美紀です、んで美紀。こちらの人たちが…」
「巡ヶ丘西警察署で警察官やってました、丈槍美乃里です」
「巡ヶ丘工業高校2年生の高野優乃です」
「鞣河小学校3年生の若狭瑠璃なのだー、みんなからはるーちゃんって呼ばれてるのだー」
3人の自己紹介が終わると改める形で美紀も自己紹介をしていくが、その際に警察官である美乃里に対して救助はどうなっているのかと訪ねる。
一瞬どう答えようか迷った美乃里だったが、正直に伝えた方が後々心の整理がつきやすいと思ったのでそのことを説明していく。
「私立巡ヶ丘学院高校2年生の直樹美紀です…あっあの…美乃里さん…でしたっけ?」
「うん、そうだけどどうかしか?」
「あっあの…もしかしてその格好…お巡りさんですよね…?その…救急って」
「あー………、実はね…」
その後彼女から経緯を聞いた美紀はそうですか…と何とも言えないような表情を浮かべながら視線を落としていき、美乃里も申し訳なさそうな表情で謝罪する。
すると圭がフォローする形でこの人たちがいなかったら自分は美紀と再会出来なかったと口にしていき、それは美紀も分かっているのか自分も同じだと答えていく。
「…ってな感じ、ごめんなさいね…期待捺せちゃった割にこんな結末にさせちゃって…」
「…そうですか…」
「でっでも!美乃里さんのお陰で私!美紀と再会出来たから…そのことは感謝してるっていうか…!」
「…分かってます、この人達がいなかったら私も……あの、美乃里さん」
それから美乃里に向き直ると、自分や親友を助けてくださってありがとう御座いますとお礼の言葉を述べると深々と頭を下げた。
だが本人はそこまで大したことはしていないと思っているため慌ててそこまでしなくていいと止めかけるが、圭もお礼をしたことで収拾がつかなくなってしまう。
「ありがとう御座います…、美乃里さんがいなかったら私も…圭もこうして再会なんて…」
「あっえっ…!そっそんな頭を下げなくても…大したことは…」
「いいえ大したことじゃないですよ…!美乃里さんがいなかったらどうなってたことか…、本当にありがとう御座います!」
「け…圭さんまで…」汗
そんな三人を見ていた優乃と瑠璃は、自分たちも美乃里と出会ってなければこの世にはいなかっただろう…そんなことを思いながら、改めて彼女に心の中で感謝の気持ちを述べていくのであった。
美紀と圭が再会を果たしたのと同時刻、巡ヶ丘市内某所、私立巡ヶ丘学院高校からそれなり離れた場所にある駐在所。
もとい椎名の家の前には見慣れたハイエースタイプのキャンピングカーと巡ヶ丘総合病院ドクターカーと書かれた救急車、神奈川県警と書かれた白黒のミニパトが身を寄せるように止まっている。
そんな駐在所の室内、リビングとキッチンが併用されている部屋には胡桃や椎名達を初めとし、唯華、徹といった新しく合流した生存者達が交流を行っていた。
「……えっと…では此方から…、巡ヶ丘総合病院で看護師として勤務してました、雨宮椎名の母親。雨宮唯華です」ペコッ
「同じく巡ヶ丘総合病院で医師をやってました。御浪徹です」
2人の自己紹介が終わると慈が先人を斬る形で自身の名前をを名乗っていき、椎名以外のメンバーもそれに続く形で自己紹介を済ませる。
「えっと…私立巡ヶ丘学院高校で国語教師をしています、佐倉慈です」
「佐倉先生、いつも椎名がお世話になってます」ペコッ
「いっいえ!こっこちらこそ…」
ーこの人が雨宮さんのお母さん…、綺麗だし感じが良さそう…ー
「はーい!3年生の丈槍由紀でーす!」
「巡ヶ丘学院高校3年生の恵飛須沢胡桃だ、よろしく」
「胡桃さんと同じ3年生の若狭悠里です」
「柚村貴依だ、よろしくな。椎名のお母さんとお医者さん」
その後自己紹介が双方終わると双方が今日までどういった経緯を歩んできたなど、徹と慈が代表する形でかわりばんこに話しながら説明をしていく。
「ひとまず双方の自己紹介は終わったから…、後は今日までの経緯だな…。こっちから話してもいいか?」
「ええっ…、お願いします」
そんな2人の会話を聞いていた椎名だったが、ふと胡桃がお母さんと再会出来て良かったな?と小声でそんなことを投げかけていく。
「では…」
「なぁ椎名」
「…?どうしましたか胡桃さん」
「良かったな、お母さんと再会出来て」
もちろん家族の安否が分からない人だらけなのであまり公にできるほど喜べないが、それでも会えないと諦めていた椎名にとって母親との再会だけでも嬉しいのは間違いない。
「…まああまり周りの目もあるので…公には喜べないですけど…、再会出来て良かったです。ぼぼ諦めてい最中だったので余計に」
するとふと胡桃がそういえば椎名のお母さんって美人だよな?と唯華を横目に呟いていき、椎名もよく言われますと答えながら、お陰で家族と見てもらえないことがまあまああったと話していく。
「…ってかさ椎名、今思ったんだけど…お母さんべっぴん過ぎないか?歳いくつだよ」
「40ですね、まあそのおかげで家族と見てもらえないことがまあまあありましたけど…」
そんなやり取りを見ていた悠里はふと脳裏に、可愛がっていた小学3年生の妹、若狭瑠璃のことが過ぎり何とも言えない表情を浮かべていた。
あの日騒動が発生した時間帯はいつもなら、既に家に帰って共働きの家族と学校から帰ってくる自分を待っているはず…。
「……」
ー…るーちゃん…ー
もちろん当時屋上に避難して落ち着いたタイミングで慈のスマホを借りて家に何度かかけたものの、回線がパンク状態になっているのか連絡は繋がらず、本人が携帯を持っていないということもあってメールやメッセージでのやり取りは出来ない始末。
ー恐らくあの日も家で帰りを待ってたはずなんだけど……、電話をかけても繋がらないし……メッセージもるーちゃんスマホ持ってないから…ー
…今までは由紀達のお姉さん的存在としてあまり意識しないようにしていたものの、椎名が母親と再会したことによって意識せずには居られずにいた。
ー今まではお姉さん的立ち位置で意識せずにいたけど…椎名さんがお母さんと再会したのを見ると……ー
出来れば直接家に行って確かめたい…が今勝手なこと言ってみんなを困らせるわけにはいかないという気持ちも相まって上手く言い出せない悠里は、複雑な表情を浮かべながら椎名と胡桃のやり取りをみていくのであった。
「………」