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映画のこのシーンで善逸とカナヲは過去の境遇がめっちゃくちゃ似てるなって……
※いつメン世界線なため、オリ主少し含みます
「オハナちゃん、だよね?」
春の匂いがする縁側で座っている蝶の飾りを付けた少女と金髪少年。
少年・善逸は少女の顔を覗くような姿勢で話しかけていた。しかし、少女は喋らなかった。それでも彼は喋り続ける。
「やっぱりオハナちゃんだ。聞いたことある音だからねぇ」
善逸は少女の隣に座った。この彼は那田蜘蛛山の件で毒によって蜘蛛にされかけており、今、少しずつだが順調に回復していっている。まだ任務に復帰出来る身ではないため、病衣を纏っている。
「ほんと久しぶりだよねぇ。オハナちゃん、さらに可愛くなっちゃって〜」
「…………」
「……"あの日"のこと怒ってる?そりゃあそうだよねぇ…」
少女が怒ってるという言葉も表情も出していない。相変わらず無言で穏やかな笑みのままだ。何故怒っていると思ったのか。それは彼の耳が人よりも聞こえ、人の気持ちも分かってしまうからだ。だから少女の気持ちも聞き取ることが出来たのだろう。
「…思い返せば、あの"檻"の中にいた俺らが今こうして生きているとは思わないよね……」
善逸と少女は"檻"の中で出会った。
子供の力で逃げ出せないように厳重な鉄で閉じ込められており、たとえ小さな身体の子でも抜けられないように閉じ込められていた。周りの子は泣く子も弱音を吐く子もいない。希望を失った子ばかり。泣いたら殺される。逃げ出したら殺される。抵抗したら殺される。もうどうすることも出来ないのだ。だから感情を押し殺して、人の指示通りに動けばいい。そう学習した。善逸もその1人だった。
「オラ、さっさと入れ!」
また一人、少女が檻に放り投げられた。男性は荒々しく鍵を閉め、足音を立てながら去っていく。
放り投げられた少女はゆっくりと起き上がり、たまたま空いていた善逸の側に座った。これが、善逸と少女との出会い。
「……君、名前ある?」
善逸が少女に話しかけた。でも…
「…………」
喋らない。無理もない。喋ったら殺されると叩き込められたのだろう。だとすると名前を与えてくれない環境を育ったかもしれない。あるいは名前があるだけで、呼んでくれなかったのだろう。
「俺ね、生まれた時から名前がなかったんだよね…でも今は名前があるけどさ…」
「…………」
「ここはさぁ…買い手によって強制的に名前変えられちゃうみたいんだよねぇ…せっかく名付けてくれたのに」
「…………」
「あ、こんな小汚い俺に話しかけられても困るよね、ごめんねぇ……でもさ…人間に買われたら今度こそ死ぬ気がするんだ…だから誰かに本音で話したくなっちゃって…」
「…………」
「……ねえ、どちらか買われるまででいいからさ…しばらく俺に付き合ってくれない?」
「…………」
こうして善逸は少女を心の拠り所として本音を打ち明ける日々だった。彼が一方的に喋るだけで、少女は相変わらず無言のまま。
「俺ね、行きたいところがあるんだ…海の向こうには大きくて、ずっと大きな大陸があって、俺たちが聞いたことがない言語で喋るらしい……でももう行けないかもなぁ…」
「俺が死んだらさ…鳥になりたいんだ……誰にも責められることもない、何も束縛のない…自由な空で飛び回りたいなぁ…でも俺は地獄に行くだろうなぁ…」
「俺、好きな子や付き合ってた子がいたんだけど…元気にしてるかなぁ…幸せにしてるかなぁ……ま、素性の知らない俺が知る権利ないもんな……」
善逸は自分の過去や願いを全て彼女に話していた。それでも一言も発さない少女。そんな少女がやっと、話した。
「なんで……どうでもいいことを話すの…?人に話したって…叶わないことを話したって……もう、何もかもどうでもいいことなのに……」
そんな言葉を聞き逃さずに一つ一つ聞き取っていた善逸は儚げな笑みを浮かべた。
「なんか話さないとさ……突然"プツン"と切れて…自分が自分じゃなくなりそうだから…心も体も……もうこれでおしまい…言いたいことは全て吐き出した……あとは、もう……ただただ指示の通りに動いて死ぬだけだからさ…」
少女はそれ以降言葉を発さなかった。何故ならこの善逸はもうすぐ売られるから。人に買われて、こき使わされて、使えなくなった時には捨てる。自分の力で何も出来ないまま終わるから。
「あ、そうそう……どうせ名前変えれてしまうんだろって思うけどさ……君の名前思いついちゃったんだ…」
「…………」
「"オハナ"って名前はどうかな?」
「…………」
「何となく君に花に似合いそうな気がしたんだ…ハナって名前だけだとさ…なんか物足りないなって……君はさ…もしいい人に拾われて、いつか幸せになって、大きくなったら…上品で美しい女の子になりそうなんだ……だから上品な花のように"オハナ"って名付けたんだ」
「…………」
「まあ気に入らなかったら遠慮なく捨てちゃってもいいからねぇ……オハナちゃん」
ふと、少女の伸びきった前髪の奥で空虚な瞳に僅かな光が入ったような気がした。でも、その光はしぼんでいくように消えてしまった。
ある日、まだまだ指名されていなかった少女が突然買いたいという人がいた。その買い手は人を商品のようにそんざいに扱い、気に入らなければ酷いお仕置きをされるという有名な人だった。
そんな人にオハナを行かせてはいけないと思った善逸は反抗した。
檻の中に入ってきた人買いがオハナを連れて行こうとする腕に噛み付いた。
「いってぇなコイツ!!」
人買いは腕を勢いよく振り払えれば善逸は柵に力強くぶつけられた。それでも彼はオハナを行かせまいと人買いに叩いたり蹴ったりしていく。しかし貧相な子供の力では大人の力に敵わない。
「お前、余程売られてぇみてぇだな!だったらあの客を喜ばせてみろ!!」
「逃げて!!」
"逃げて"。それはオハナに向けての指示…ではなくメッセージだった。深い、深いメッセージだった。
逃げて、自分を幸せにしてくれる人に拾われて、幸せになって、いつか笑えるようになって、幸せに暮らして欲しい。だから……
「オハナちゃん、逃げて!!」
すると、オハナが走り出した。他の男性もいたが彼女を捕まえようとしても避けられ、素早く逃げていく。そんな自分の言葉に届いた彼女の姿に安堵した善逸はまた、儚げな笑みを浮かべる。
その後、買い手に対しては確認不足によりオハナは既に他の買い手の元に渡ってしまったということにし、代わりに善逸を差し出したという。
「……だって、オハナちゃんには幸せになって欲しかったから…」
オハナと善逸に名付けられた少女が怒っていた理由は善逸が自らを犠牲にして自分だけ逃げ出したことだった。そうしなければ、善逸は酷いお仕置きに遭わなくて済むと思ったから。
「…………ナ……」
「うん?」
あの時のように、ずっと無言だったオハナが喋った。
「カナヲ……それが今の名前…」
『オハナちゃん』
「善逸が名付けてくれた名前……似てたから……選んだ…」
オハナ
ハナ
カナ
カナヲ
「それだけじゃない……呼吸が花だったから……いつか善逸に気付いてくれるかなって………」
名前も呼吸もされるがままに与えてくれたのではない。密かに、本人も気付かないほど密かに、無意識に選んだから。
「最終選別で…善逸がいると何故か思って……参加した……そしたら…………いた…」
途切れ途切れながらもあの時のように彼女の言葉を聞き漏らさずにしっかりと聞いていた善逸。彼女の話を聞いた善逸は照れくさそうに微笑んだ。
「そっか……なんか照れるなぁ」
「…………でも気付いてくれなかった…」
「それはごめんなさいねぇ!?あの時は恐怖でしかなくて余裕が無かったからさ!!」
「……どう、かな…?」
「ん?」
カナヲは自分の手を胸に置いて、善逸の方を見た。その顔は密かに純粋な子供のように、何か期待しているような表情を浮かべていた。
「私……綺麗になった…?」
カナヲは善逸に名付けられた由来をしっかりと覚えていたようだ。勿論、善逸も覚えている。彼は彼女に対して温かな笑みを浮かべた。
「うん、物凄く…すっごい綺麗になったよ」
そして、彼女は喋らなくなった。代わりに、今までの穏やかな笑みが、いつもより嬉しそうに微笑んでいた。
「ここの蝶屋敷の子たち、いい人だよねぇ。あの檻とは違って悪い音がしてない」
「…………」
また喋らなくなってしまったが、彼女はきっと善逸の話を聞いてくれているだろう。彼女の中の音を聞きながら善逸は話し続ける。
「しのぶさんは医療について専門性があるし、あの可愛らしい笑顔も含めて安心できるよねぇ」
「アオイちゃんは…申し訳ないけど少し苦手だけど、なんだかんだ俺たちのことを見てくれているよねぇ」
「きよちゃんたち癒されるよね。小さな子なのに俺たちのために頑張ってくれているよねぇ」
「ほんと、いい人たちに囲まれているねぇカナヲちゃんは」
「俺?俺は幸せだよ。俺のことを受け入れてくれる仲間がいるし、可愛い子もいるしさ」
「なんだかんだしぶとく生きてきた結果、こんなにも幸せがだんだんと寄ってきてさ…こんな俺が幸せになってもいいのか、不安になってしまう時あるよ…」
そんな時、善逸の耳にいつもと違った彼女の音が入り込んでくる。そんな音に見開いた彼はは微笑んだ。
「……うん、明日も明後日も…いつまでも一緒に生きていて欲しいよねぇ」
「チュンッ!!チュンチュンッ!!」
「カアアアァーッ!死亡!!胡蝶シノブ死亡!!上弦ノ弐ト格闘ノ末死亡ーーーーーッ!!」
「お願いだから目覚まして、莉々愛っ!!!」
────好きな人や大切な人は漠然と 明日も明後日も生きている気がする それはただの願望でしかなくて 絶対だよと約束されたものではないのに 人はどうしてか そう思い込んでしまうんだ