ハーメルンにて連載中の『ダイヤのA〜世代最強右腕 ActII』の三次創作です
御幸2年生の春のセンバツ甲子園にて、降谷が(その時点での)エースの座と御幸の信任を取り戻すストーリー
御幸視点の三人称です
沢村の出番は少ないですが出てきます
※元ネタの二次創作のファンの方からのご意見も承ります。誹謗中傷はおやめください。作品への批判などでお願いします。

この物語の続きは、こちらにて。こちらは二次創作として書きました。
「青道、御幸2年生の春のセンバツ甲子園〜IFストーリー」
https://syosetu.org/novel/385086/1.html

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春のセンバツ甲子園は三月で、学年が変わる四月より前なので、御幸はまだ二年生、沢村と降谷は一年生でした。
タイトルと本文中のミスを訂正しました。





IFストーリー春のセンバツ

 これは、御幸二年生、沢村と降谷が一年生の時の、春のセンバツ甲子園。ある試合の光景。

 

 これは、原作にはない、もう一つのIFストーリーである。

 

 

 

 

 試合は、すでに七回。西東京代表の青道と北海道代表の巨摩大藤巻の対戦は、息詰まる投手戦となった。

 

 お互いにまだ一点も許してはいないが、対戦するチームの二人のエースたちにも、疲れの色が徐々に見え始めた。

 

 七回の巨摩大藤巻の攻撃、一番打者に打順がめぐってきた。春夏連覇を目指す強豪校の一番だ。クリーンナップではないが、侮れはしない。

 

 正捕手の御幸も、青道エースの足立惇(あだち じゅん)も、それはよく分かっていた。

 

「この打者は、アウトコースを手堅く流し打ちにして、シングルヒットにするのが上手い巧打者だ」

 

 御幸は声には出さず、内心で配球を考える。一番打者は、バッターボックスのホームベース寄りに立っていた。

 

「初球はインコース高めで、のけぞらせよう。ボール球でいい。惇のコントロールなら、デッドボールになることはない」

 

 サインを出して指示する。振らせてカウントを稼げたならもっと良いが、とりあえずは打ち気を外すだけでもいい。

 

 御幸は冷静に、足立惇の実力を高く評価していた。それは客観的な、投手としての実力への評価だ。そこに好悪の情は、ほぼ無い。

 

 ほぼ──そう、御幸は決してそんな私情を表に出す事はなかったが、本当は甲子園のこのマウンドで、エースナンバーを背負うのは降谷であって欲しいと思っていた。

 

 沢村には、まだ早い。沢村の伸び代を確信してはいたし、そのどこまでも高みを目指す努力を見てきたから、彼がいつかは日本中に、いや世界にも名を轟かせるような投手になると御幸は信じている。

 

 だが今はまだ残念ながら、惇だけでなく降谷よりも、ピンチの場面を任せられるような力量が足りない。

 

「でも、俺は信じている。いつかはお前が、世界に名を響かせるようなピッチャーになるって」

 

──だけど、沢村、お前が平凡なピッチャーのまま終わったとしても、俺の気持ちは変わらない。

 

 惇は御幸の内心を知らない。一年生の頃から天才と名高い、先輩の捕手のサインを見てうなずく。

 

「インハイ、ボールに。よし、ストレートで押し切る」

 

 巨摩大藤巻の一番だ。この回からまた上位打線となる。惇も決して油断はしていなかった。だが、それがかえって力みに、いや、ごくわずかなためらいとなって投球に現れてしまった。

 

 一つには、長丁場を力投してきた疲れもあったのだろう。体だけでなく、精神にも疲れは溜(た)まる。

 

 インハイのボール球は打者をのけぞらせるよりは、ストライクゾーン寄りとなり、また球速も落ちた。といっても、141キロはある。

 

 だが相手は、昨年夏の全国優勝校の一番バッターだ。そのほんの少しだけの、ためらいを見逃しはしなかった。

 

「やはり、俺の得意なアウトコースには投げてこなかったな」

 

 そのほんの刹那の間、明確な言葉にはならない瞬時の思考が、打席に立つ一番打者の頭をよぎった。

 

 しかし、インハイの球は打ちにくいものだ。速度のある球なら、なおさらに。上手く引っ張って長打にすることはできずに、真正面に打球は飛んだ。

 

「しまった……!」

 

 それでもかなりのスピードで惇の方へ飛んでいく打球を見て、御幸は思わず声を上げた。その言葉が、まだ終わらない内に。

 

「ピッチャー強襲! 足立投手、打球をかわしきれなかった! 打ったランナーは一塁へ」

 

 実況が叫ぶ。フィールドにいる御幸たちには聞こえない。

 

 テレビやラジオ、生配信を見聞きする者たちは、その緊迫した叫びを聞いた。

 

「惇!」

 

 御幸は思わず立ち上がった。

 

 鋭い打球は、故障から回復したばかりの惇の右肘を強く撃ったのだ。

 

 惇はマウンドに倒れた。右肘を左手で抑えてうめく。

 

 試合は中断された。一番バッターは一塁ランナーとなって前園のそばに立っている。ようやく足立惇からヒットを打てたにも関わらず、複雑そうな顔をしていた。眼の前の相手チーム投手の様子を見れば、まともな神経をしていたら、素直には喜ぶ態度を見せられないのも当然であった。

 

 御幸はマウンドに駆け寄る。他の内野手も一斉にマウンドに集まってきた。

 

「惇、しっかりしろ」

 

 御幸はエースの傍らにひざまずく。

 

「大丈夫? 今、担架が」

 

 春市は心底から案じるように、そして惇をはげますように告げた。

 

 その担架が来た。

 

「ここは俺たちに任せて、大人しく休んでろ。ここまで抑えてくれたのを、無駄にはしない」

 

と、倉持。惇は担架の上に横たわりながら、弱々しくうなずいた。

 

「骨…やられてなきゃいいけど…」

 

 案じるように、運ばれてゆく担架を目で見送りながら、春市が言う。

 

「大丈夫、じゃなさそうだよな…」

 

 御幸は、ゆっくりと息を吐き出した。まさかこんな事になるとは、考えてもみなかったのだ。

 

 これが硬式野球の怖さだ。御幸は思い出す。

 

──去年の夏、三年生のエースだった丹波さんが、デッドボールを受けて出場できなくなったことがあったな。結局、西東京地区の決勝戦になっても、本調子には戻れなかったのを思い出してしまう。

 

「しかも打球だ。ライナー性の。人の手で投げる球とは違う」

 

 御幸は、もう一度深く息をついた。青道ナインの抱える空気が重苦しくなる。

 

 医務室へと運ばれてゆく惇を見送りながら、青道ナインは、もう一つの気がかりな事を考えていた。

 

 次にマウンドに上がるのは誰だろう?

 

 皆が、ベンチにいる片岡監督を見つめる。

 

 監督はうなずき、ブルペンにいた控えの投手の一人に登板を命じた。

 

 ウグイス嬢により、声高らかに投手の交代が告げられる。

 

「青道高校の、ピッチャー交代をお知らせします。足立惇君に代わりまして、降谷暁君がマウンドに向かいます」

 

「降谷が……」

 

 御幸はこちらに向かってくる降谷を見た。惇の輝く才能があっても、なお影に隠れず、その剛速球と恐れげのないマウンド度胸から『怪物』と言われてきた後輩の投手を。打つ方でも、高校野球としては一流クラスの打撃力である。

 

 御幸は、降谷を頼もしく思う。

 

──俺はお前を愛している、降谷。一年しか歳の違わないお前だけれど、まるで我が子のように愛している。

 

「御幸先輩」

 

 マウンドに立った降谷は、言葉少なに先輩キャッチャーの顔を見た。沢村と違い、あまり言葉も感情表現も豊かでないが、しっかりとした存在感がある。

 

「事実上の決勝戦と言われている試合だ。本郷から、必ず点は取ってやる。ここは、お前に任せたぞ。ノーアウトランナー 一塁だが、守り抜けるな?」

 

「はい。もちろん、そのつもりです」

 

 自信に満ちた眼差しが、御幸の視線と絡み合う。

 

 『怪物』の登場に、甲子園の観客席がどよめく。試合再開前のピッチング練習の際にも、その並々ならぬ力量は見て取れたからだ。

 

「すごいな。これが青道の『怪物』か」

 

「もの凄い剛速球だ。ここからでも見て取れる」

 

「球速と球質の重さは足立以上だよな。ミットの音が凄いぞ」

 

 球場の空気が、少しずつ変わってゆくのを青道ナインは感じていた。もちろん、自分たちの間に流れる空気もだ。

 

「よし、惇の負傷からの、イヤなムードはなくなった。これでいける」

 

 御幸はベンチのほうを見た。

 

「行け行け、降谷! ドンと行け! 行けなきゃ、いつでも代わってやるぞ!」

 

 沢村が、いつものようにムードを盛り上げ、皆を元気づけようとしている。御幸の口元に、微笑が浮かんだ。

 

──これでもう少し、メンタルとコントロールが安定してくれたら言う事無しなんだがな、二人とも。

 

 御幸は内心でつぶやく。

 

「だが降谷お前には、もちろん沢村にも、またまだ成長の余地がある。お前たちは、さらに高みへと羽ばたいてゆくだろう。それはきっと、いつかは惇をも超えてゆく。俺はお前たちを信じ、そして心から愛している」

 

 天才と呼ばれた、強豪校青道の四番であり捕手である若者は、そう口にした。誰にも聞こえないように、そっと。

 

終わり




この物語の続きは、こちらにて。こちらは二次創作として書きました。
「青道、御幸2年生の春のセンバツ甲子園〜IFストーリー」
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