タイトルの通りです。
筋肉に不可能はない。

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初投稿です。
色々と至らない点がありますゆえ、深く考えず暖かく見守ってくれますと幸いでございます。


第1話

 筋肉とはなんだ?

 収縮することで力を作り出し、骨を引っ張って関節を動かす役割を担った体の組織か?

 確かに一般的な認識はそうであろう。

 

 だがそれは断じて筋肉の本質ではない!

 筋肉とは魂だ。筋トレとは生命活動、ひいては天命だ。

 この世で唯一信じられるものがあるとすれば、それは極限まで鍛え上げられ、磨き上げられた己の筋肉に他ならない。

 

 筋肉とは全であり一である。

 己がこの世に生まれた以上、筋肉を鍛え上げるほかの道はないのである。

 それが生まれてきた使命であるのならば。

 

 

ーーー

 

 

 明治時代後期、日本で鉄筋コンクリートが使われ始めた頃、俺こと無忌ムキオはこの世に生を享けた。

 産声を上げるよりも前に俺は本能で悟った。

 

 筋肉の極致へと至らねば、と。

 

 タンパク質、ヒップスラスト、プロテイン、超回復、ランジ、ミネラル、古事記、成長ホルモン、腹筋背筋。

 悟りを得た瞬間、俺の脳に神は多くの知識を流し込んでくださった。

 

 俺の人生は筋肉で出来ていた。

 朝昼晩、寝ても起きても筋肉のことばかりを考えて生きてきた。

 

 筋肉を身に着けるにあたり基本的なことは自身の生活習慣の中で運動、食事、休養の三つをバランスよく取ることだ。

 

 まずは運動だ。

 スクワットや腕立て、腹筋背筋などの基礎的なトレーニングを始め、見落とされがちなふくらはぎや首の筋肉まで徹底して鍛えぬく。

 トレーニングの最中、筋肉の悲鳴が聞こえる。

 神から与えられしこの筋肉を虐めぬいていると考えると胸が締め付けられる思いだが、より高みへと至るためならばと更なる熱を漲らせてより一層激しく打ち込み続ける。

 

 次に食事だ。

 当たり前だがトレーニングをすれば筋肉は傷ついてしまう。

 この傷ついた筋肉を修復する過程で肉体はより強い筋肉を作ろうとする。

 これを超回復という。

 そしてトレーニング終了後の30~60分は筋肉がエネルギーを最も吸収しやすいゴールデンタイムだ。

 トレーニング前に炭水化物を取りエネルギー切れを防いだ後、トレーニング後にタンパク質を摂取することでより効率的に筋肉を鍛え上げられるのである。

 

 そして休養だが、ここで俺は天に与えられた才能に心の底から深謝した。

 俺の体は一週間連続して動き続けても、三時間ほど寝れば元の調子に戻るのだ。

 ショートスリーパーなんて比ではないこの能力により、俺は普通の人間の何倍もの速度で筋肉を身に着けることができたのである。

 

 

 ただひたすらに己を高め続ける。今も昔も、そしてこれからもこれだけは変わらない。

 そして11歳の夏、まだ若かりし俺をはるか高みへと連れて行った存在である鬼、その最初の個体と出会うことになる。

 

 

 俺がいつも通りに筋トレをしているとどこからともなく悲鳴が聞こえた。

 人を助けぬ者筋肉を鍛え上げる資格なし。

 すぐさまトレーニングを中断し、100m2秒のこの鍛え上げた俊足を使い全速力で向かった。

 現地に辿り着くと角を生やした男が涎を垂らして、可憐という言葉がよく似合う年ごろの少女を襲っていた。

 俺は男の腕を壊さぬよう慎重に掴む。

 しかしながらそれでもミシという音が響き男が顔をしかめてしまった。

 相変わらずこの世のものは脆すぎる。

 

「ぐっぅぅ、テメ、何しやがる」

 

 少女を掴んでいた手を放し必死に俺の手を振り切ろうとする。

 少女は手を離した瞬間に逃げ出したので後は暴れるこの男の対処だけだ。

 無駄だ。若いながらも鍛えに鍛え抜かれたこの腕から逃れることは不可能。

 どれだけの力を加えてもびくとも……っな。

 

 わずかながらも俺の腕を動かした、だと。

 この細さでこれほどのパワーをもつとは。普通の人間を超越している。

 

 俺はふと脳裏によぎったことを思ったことを口にする。

 

「まさか、貴様も筋トレをしていたのか?」

 

「は?」

 

 この虚を突かれたと言わんばかりの表情。やはりそうだ。

 

「貴様の肉体、その細さに見合わぬパワー。間違いない、同士だな」

 

「なっ、何を言ってやがる」

 

「遠慮することはない。俺も欲しかったのだ。互いを高め合える友というものをな」

 

 一人で歩む道も悪くはないがやはり寂しさが付きまとってしまう。

 共に苦しみを分かち合える友の存在はこれまで以上に俺を高みへと連れて行ってくれるはずだ。

 

「道半ばの俺が言うのもなんだが、厳しく険しい茨の道だ。それでも筋肉への愛があれば、いかなる困難も乗り越えられるはずだ!」

 

「し、知らねぇよ!離しやがれ!」

 

「話す?友として認めてくれるということか。ならもっと語らせてもらおう。ではまずは俺の理想の筋肉の調和とバランスについてだな」

 

 そうして筋肉に対する愛を語り合っていると、朝日が昇り始めるのが見えた。

 友がどこかに立ち去ろうとしたのでその腕をさらに強く掴む。

 ボキッという音はこのときの俺の耳には入らなかった。

 

「待つがいい。まだ語り足りないのだ、友よ」

 

 かわいくじゃれてくる友の腕を掴み続ける。

 せっかく会うことのできた同士なのだ。

 連絡先すら知らずにお別れとは寂しいではないか。

 

 日が当たると同時に友は急激に炎上し灰と化した。

 

「ぎ、ぎゃぁ、ああああぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 俺はそれを口を半開きにしただ見ていただけであった。

 初めての友はなんとも珍妙な生き物であったのだ。

 

 

 そうして俺は最低限の荷物だけをもって同士を探す旅に出た。

 これまで筋トレ代わりに力仕事をして稼いでいた貯金は、はした金ながらも家族に残してきた。

 

 これまで俺は筋肉の道は一人で歩まねばならぬものだと思い込んでいた。

 しかし、あの出会いが俺の考えを変えた。

 共に高め合える者と出会いたい。その一心で期待に胸を弾ませ、軽すぎてもはや浮くのではと錯覚するほどの足取りで旅立った。

 

 しかし、俺のこの弾けんばかりの期待は裏切られた。

 

 旅の途中、何人もの同士を見つけた。

 みなその身に余る凄まじき膂力を秘めていた。

 しかしその力に溺れてか、人を殺し、あまつさえ食すという暴挙にでていたのだ。

 罪なき人を殺して至る頂など空虚そのものである。

 

 俺は道を踏み外してしまった同胞たちに介錯をした。

 不思議なことに急所を抉ろうが頭を捥ごうが彼らは再生し、涎を垂らして俺に襲い掛かってくる。中には珍妙な術を使うものさえいたほどだ。己の筋肉のみを使って戦わんとは、愚か者め。

 しかし陽光に当たるとみな灰になってしまうという共通点があったことから、意識を落として太陽で焼き殺す、ということを繰り返していた。

 地獄で罪を償い、来世ではどうか正しき道を歩み筋肉を鍛え上げてほしい。そんな思いを込めて同胞を焼き殺し涙を流した。

 

 浮足立っていた足が完全に地に着くまで同胞を介錯し続け、筋トレをしながらも同胞の介錯をする旅の日々。15歳になったある日、私は己を変える二度目の出会い、鬼殺隊の胡蝶カナエと邂逅することになった。

 

 

 その同胞との出会いは万世極楽教と書かれた物件を見た時だ。

 虹色の瞳をもつ者が視界の端に映った。

 これまでの旅で培われた経験から、俺はそいつが同胞であると一瞬で気づいた。

 

 俺は同胞を追い、女性を食べているところを見かけた。

 残念だ。これまで出会った同胞の中でもダントツで鍛え抜かれているであろうに。

 そしてレディーよ、すまない。俺があと少しでも早く来ていれば、君は死ななかったかもしれない。

 

「同胞よ。貴様はその女性の他に何人もの人間を食べたのだ?」

 

「あれぇ?バレちゃったか。それで君は?もしかして信者の人かな」

 

「信者などではない。俺は貴様と同じ志をもった同胞であり、道を踏み外してしまった貴様の介錯をしに来た。どうか抵抗しないでくれ。道を違えたとはいえ同胞である貴様を苦しめたくないのだ」

 

「んー?鬼殺隊の子じゃないのか。それに同胞?変な人間だなぁ。まぁいいや。見られたんだったらどうせ殺さなきゃだし。自己紹介が遅れたね。俺は童磨。君を救ってあげるよ」

 

「無忌ムキオだ。冥途の土産にでもするがいい」

 

 そういい歩いていく。

 童磨は鋭い二対の扇を両手にもち、振り下ろしてくる。

 首を狙った一撃だ。だがしかし、

 

「ーーほう、やるではないか」

 

 扇は俺の首を薄皮一枚斬ったところで止まった。傷口からたらたらと血が流れ落ちる。

 しかしまさか血を流すことになろうとはな。

 俺のこの筋肉で出来上がった強靭な装甲に初めてダメージといえるダメージを与えたのだ。

 

「な、粉凍りが溶けていく」

 

 童磨の出す氷の粉は俺の肌に触れた瞬間、筋肉の熱で融解する。

 

「下らぬ術に頼るとは、軟弱千万極まれり」

 

「っく、出鱈目な子だねぇ!呼吸も使わないし、見た感じ日輪刀ももっていないのか」

 

「日輪刀?くだらぬ。いつだって信じられるのは鍛え抜かれた己が肉体のみであろうが!」

 

 至近距離まで近づき、気絶させる前に抵抗力を減らすため両腕も捥ごうと手を伸ばす。

 

 血鬼術 霧氷・睡蓮菩薩

 

 手を伸ばした先に巨大な仏像が現れ、右肩の花に童磨が乗る。

 

 血鬼術 結晶ノ御子

 

 童磨の形をした小さき三体の人形たちが現れる。

 

 血鬼術 散蓮華

 血鬼術 寒烈の白姫

 血鬼術 冬ざれ氷柱

 血鬼術 凍て曇

 

 目の前の菩薩が強烈であろう冷気を吹きかけてくると同時に、童磨の出した三体の御子と童磨自身が血鬼術を使い俺の体を襲う。

 だがこの程度で俺の筋肉は負けん。

 俺は筋肉を操り心拍数を無理矢理を上げ、上昇した体温で冷気に真っ向から立ち向かう。

 

「同胞よ。なぜ貴様はそれほどの力をもちながらも人の道を外れた!」

 

 攻撃を全て受け切ってもなお俺の体は氷結することなく熱気包まれている。

 瞬きの間に三発もの打撃を空気にぶつけ、その衝撃波が直撃して御子が壊れる。

 次に正拳突きを繰り出し菩薩を割る。

 

 残った扇を振るおうとする童磨を捕まえ、抵抗力を奪うために両腕を捥ぐ。

 そしてそのまま気絶させようとしたところ、背後から近づいてくる足音に気づいた。

 

 花の呼吸 弐の型 御影梅

 

 両腕を捥いだ童磨の首を俺の背後から見目麗しい女性が現れ斬り飛ばす。

 童磨の首が跳ばされ灰になっていく。

 これは陽光にあてたときと同じ反応だ。

 

 いや、そんなことは今どうでもいい。

 今の動きは常人には不可能な代物であった。

 男女の差など筋肉の前では関係ない。この鍛え上げられた動き。まさか、まさか……

 

「お、お嬢さん。まさか同胞、なのか?」

 

「同胞、ってことはあなたも鬼殺ーーー」

 

「同胞なのだな!お前!人を殺した、もしくは食ったことはあるか?」

 

「ないに決まってるでしょう!失礼な人ですね」

 

 少し怒った顔をして言われた。

 そうか。ようやく出会えた人の道から外れない同胞。そうか。

 身体の中心から熱いなにかが込みあがってくる。

 

「そうか、そうか……そうかぁ」

 

 嬉しさのあまり俺は感涙していた。旅を始めて4年、ようやく待ち望んでいた同胞に出会えたのだから。

 しかしこの喜びもすぐに打ち砕かれることを俺は知らなかった。

 

 

 

「つまり俺がこれまで同胞だと思っていたものは人を食べる鬼という種族でカナエたち鬼殺隊はそれを狩るための組織である、ということか」

 

「えぇ。その認識で大丈夫ですよ」

 

 意識が朦朧とし、眩暈を覚える。

 これまでの自分が根底から覆されていく感覚に吐き気を催し脈が狂う。

 息がうまく吸えず浅い呼吸を懸命に繰り返す。

 

 同胞など、始めからいなかった。

 俺は生まれて初めて絶望という感情が沸きあがり目の前の景色から光が失われていく錯覚さえした。

 

「あ、あぁ、あぁぁぁぁ」

 

 ドウホウナド、ハジメカライナカッタ。

 オレガドウホウダトオモッテイタモノハタダノヒトゴロシ。

 

「あの、 大丈夫ですか?」

 

 同胞だったもの、いやカナエが優しい声音で語りかけてくる。

 

「俺はこれまで、なにをやっていたんだろうな」

 

 朦朧とするなかで、ポツリと言葉が零れ出た。

 それだけ言って俺の意識が落ちた。

 

 

ーーー

 

 

 次に目が覚めたのはベッドの上であった。

 起き上がり人を探すために廊下を歩いていると左右に蝶を模った髪飾りを付けた青い瞳の少女を見つけた。

 少女もこちらに気づいたようだ。

 少し驚いた顔をしてこちらに近づいてくる。

 

「お目覚めになられましたか。今しのぶ様を呼んでくるので部屋に戻って少々お待ちしていてください」

 

 そういって足早にどこかに行ってしまった。

 人を呼んでくるようだ。

 俺も言われた通り部屋に戻るべきだろう。

 

 部屋に戻ってゆっくりしていると扉が開かれこれまた美しい娘が入ってきた。

 

「おはようございます。私は胡蝶しのぶというもので胡蝶カナエの妹です」

 

「あぁ、おはよう。無忌ムキオだ。何があったのだ?ここはいったいどこなのだ?」

 

「まずはそこからですね。ここは蝶屋敷、私たちの家で鬼殺隊の医療機関のようなものです。そしてあなたは姉さんの任務先で倒れているところを運んできて治療していたのですよ」

 

 なるほどな。おおよその事情はわかった。

 

「そうか、わざわざすまないな」

 

「礼は姉さんに言ってください。姉さん。あなたのこと背負ってここまで運んで来たのよ」

 

「なに?」

 

 俺の体重は既に120㎏を優に超えている。

 どれだけの距離かはわからないがそれを運んでくるとは、やはり常人とはかけ離れている。

 

「それで俺はどれだけの間寝ていたのだ?」

 

「今日も含めてだいたい5日ほどですね」

 

「なんだと!」

 

 5日も寝てしまっていたのか。

 使用されない筋肉は急速にその量と強さを失ってしまう。

 だいたい1週間寝たきりでは10~15%といったところだ。

 

 すぐさま不足分を取り戻さなくては。

 

「ありがとう。施しを受けてばかりでは申し訳ない。なので俺にできることがあればなんでも言ってくれ。では俺は今から筋トレをする」

 

「え?は?…き、筋トレ?」

 

「そうだ。失われてしまった筋肉をすぐさま取り戻さなければ」

 

 そうして筋トレを始めるとしのぶは呆気に取られた表情をした後、ほどほどにするように、と言って部屋から出ていった。

 部屋から出ていく前、

 

「お館様が是非一度お会いしたいとのことです。姉さんが帰ってきたら一緒に向かってください」

 

 と言い残した。お館様、話から察するに鬼殺隊のトップだろう。

 そんな人間が俺に用か。

 いや、今は筋トレに集中しなくては。

 

 

 俺はカナエに再開した後、そのお館様という者のいる屋敷へと行くことになった。

 どうやら何人かの隊士が背負って交代しながら進むそうだ。

 しかしどうにもあまい。こんなものやろうと思えば触れ合う肌から伝わる筋肉の動きで解読できてしまう。

 鬼殺隊とやらもまだまだだな。

 

 そして私はお館様とやらのいるこれまた大層立派な屋敷へと到着したのだ。

 案内された部屋に入ると目の前には病に体を犯されていることが目に見えてわかる人間がいた。

 まさかこれがーー、

 

「カナエ、わざわざありがとう。そしてムキオ、話には聞いているよ。私の名前は産屋敷耀哉。よろしくね」

 

 やけに落ち着く声だ。

 

「これまたご丁寧にありがとう。それで要件はなんだ?カナエに助けられたこの身でできることがあれば可能な限り応えよう」

 

「そうだね。でもまずは君に感謝を」

 

「感謝?」

 

「君があのとき倒した鬼は十二鬼月の上弦の弐、私たち鬼殺隊が百年以上にわたり討伐することが叶わなかった強力な鬼なんだ。そのことに心からの感謝を」

 

「トドメを刺したのはカナエだ。俺一人の力ではない」

 

「私は不意打ちで首を斬っただけです。私だけではあの鬼に勝つことはできなかったでしょう」

 

 そういえば、あの刀で斬った鬼は太陽で焼かれたかのごとく灰になっていった。なぜなのだろうか。

 

「話を続ける前に一つ聞きたいことがある。なぜあの刀で斬った鬼は太陽に焼かれたが如く灰になった」

 

「鬼殺隊の子供たちのもっている刀は日輪刀といってね。特殊な金属でつくられているんだ。あの刀で首を斬るか太陽で焼くことで鬼を殺すことができるんだ」

 

「なるほどな。合点がいった。それでまだ話というのはあるのだろう。時間というものは貴重なものだ。早く申されよ」

 

「そうだね。では単刀直入に、どうか私たちに協力してはくれないだろうか」

 

 まぁそんなところだろうとは思った。

 

「一応聞いておくがなぜだ?お前たちだけで鬼を狩るのではいかんのか」

 

「君は上弦の鬼と戦っても五体満足どころかほとんど消耗もしていない様子だった。そのようなことができる人はとても貴重なんだ。少なくとも私の子供たちの中にはいない。もし可能であれば、私の子供たちと共に戦い無辜な人々を鬼から助けて欲しいんだ」

 

「素直に首を縦に触れないな。俺は筋肉に人生を捧げることを決めている。一時的に協力するだけならば構わないが、無限に沸き続ける鬼を狩るのにあまりに長い時間を縛られては己の道を極めることができないかもしれない。いっそ鬼を殲滅するわけにはいかんのか?」

 

「それができるのなら苦労しないんだけどね。鬼の始祖である鬼舞辻無惨が生きている限りは鬼は生まれ続けてしまう」

 

「ならそいつを倒せばいいだろう」

 

「鬼舞辻が最後に姿を見せたのはもう300年以上前のことなんだ。それ以降しっぽも握らせてはくれない」

 

「なるほどな。つまりそいつを見つけ出して倒せば鬼は滅びの道を行くことになるのか」

 

 ならば話は早い。

 

「わかった。俺が奴を見つけ出して始末をつけてやる」

 

 そうして話を終え俺とカナエは蝶屋敷に帰っていった。

 俺の住む場所だが、家業で鬼狩りをしている煉獄家というところが住まわせてくれることになった。

 

 そこで出会った煉獄杏寿朗とはとても気が合った。

 俺と同年代ながらもその身を鍛え続け努力をしている。

 こういう奴だ。俺が友として求めていたのは杏寿朗のような人間であったのだ。

 あとはその熱量を筋肉にさえ向けてくれれば、いややめよう。

 人の行く道を無理矢理捻じ曲げるなどあってはならないのだから。

 自分で選んだ道にこそ価値が生まれるものなのだ。

 

 そうして筋トレの片手間に鬼を狩り続けること2年が経った。

 もうすっかり雪が降り始める季節だ。

 未だに鬼舞辻の行方はわからんちんである。

 

 手がかりの一つすら掴めない状況に辟易としていると、俺は素晴らしい方法を思いついた。

 筋肉に聞けばいいと。少し前では無理だったが今の筋肉ならできる。

 こういうときに信じられるのは己の筋肉のみだ。

 さあ答えろ筋肉よ。鬼舞辻はどこにいる。

 

 すると、足の筋肉がピクリと動いた。

 なるほど、あちらか。

 

 俺は100m0.8秒の神足を使い全速力で向かった。

 待っていろ鬼舞辻。

 

 

ーーー

 

 

 走る。走る。走る。辺りは暗闇に包まれ生き物の声が不気味に響く。

 山を9つと川を6つ、谷を7つ、町を3つ超えさらに山に入り走っていく。

 もう1日半は走っている。そろそろだと筋肉が伝えてきたので俺はさらに速度を上げる。

 

 山奥まで走り、ポツンと建っている一軒の家を見つけた。屋根には雪が積もっている。

 その家に今にも入ろうとしている身綺麗な男がいた。

 

「おや、私になにか用ですか?」

 

 筋肉の反応からあれこそが鬼舞辻無惨であると確信する。

 俺は奴にとびかかり真っ先に頭を潰した。

 

「多くの罪なき民の命を奪い続けてきたその報い、今ここで果たしてくれる」

 

 セリフを言い終わるよりも早くに頭が再生し、こちらに腕を振るってくる。

 

「鬼狩りぃぃ!」

 

 その腕を掴み、奴の筋肉を把握する。

 なんと驚くことだろうか。この男には5つの脳と7つの心臓がある。

 しかもその脳と心臓が高速かつ縦横無尽に体内を移動し続けているのだから驚嘆だ。

 

 ここにいてはこの家の人に迷惑をかけてしまう。

 そう判断し掴んだ腕から奴を遠くに投げ飛ばす。

 

 着地点は250mほど先であろうか。

 投げ飛ばした先の着地点に奴が来る前に辿り着く。

 落ちてくる鬼舞辻に12連撃を繰り出しそ脳と心臓を一度に破壊しようと目論む。

 

「ふん!!」

 

 しかし破壊できた脳と心臓は合計で8つだけであり他は外してしまった。

 鬼舞辻は俺から離れ距離を取る。

 

「なんなんだ貴様は!?」

 

「俺の名は無忌ムキオ。貴様を地獄に墜とすため、遠路はるばるやってきたのだ」

 

「くだらんことを。すぐに殺してやる」

 

 すでに回復している肉体から腕を伸ばし、背中から生えた管を使い俺に攻撃してくる。

 俺も無防備に受ければ傷がつくのは避けられん威力だ。

 さすがだがこの程度は屁でもない。

 多少の擦り傷覚悟でいつものように気絶させてやろうと近づく。

 

 避けろ!!

 

 筋肉がそう警鐘を鳴らしたためそれに従い咄嗟ながらも回避に成功する。

 しかし無惨はさらに追撃を加えてきたため迫りくる攻撃を傷が受けないように捌く。

 

「私は私の攻撃に自身の血を混ぜる。鬼にはしない。細胞を破壊し死に至らしめる猛毒だ。一撃でも掠ればお前の負けだ」

 

 なるほど。だから奴の攻撃に対して筋肉からの警鐘が鳴ったのか。

 初めてのことだからかなり驚いたぞ。

 だが、

 

「当たらなければどうということはない」

 

 俺はさらに近づいて無惨の鳩尾に一撃を入れ脳を一つ破壊する。

 効いている様子はない。攻撃を捌きながらさらに連撃を加え続ける。

 

 しかしあと一歩、脳と心臓を全てを一度に破壊することは叶わなかった。

 これが今の俺の限界なのか。

 そうして踏ん張り続けていると朝日まで後1時間ほどになった。

 

 そうして終わりが見えてきた瞬間、琵琶の音が響き俺の足元がなくなり落下する。

 油断した。

 

『上弦の鬼たちよ。奴を殺せ』

『鳴女、絶対に私の元に来させるな』

 

 筋肉がピクピクと動き、奴が発した指示がこちらにも的確に伝わる。

 奴の服を掴み道連れにしようとした瞬間、鬼舞辻の体が弾けた。

 

 咄嗟のことだったので300と少しの肉片しか潰せず落下し続ける。

 そのまま地面にたたきつけられそうになったので姿勢を立て直し着地する。

 着地した先は何やら奇妙な空間だった。

 重力が無茶苦茶で一つの小さな国がすっぽり入りそうな空間だ。

 

 そうして困惑していると、目の前に5人の鬼が集まってきた。

 いや、この筋肉の反応からしてあと1人いる。

 目の前の鬼たちはみな目に上弦の印が刻まれている。

 観察していると、全身に入れ墨が入ったような鬼が話しかけてきた。

 

「素晴らしい。至高の領域に近い。お前も鬼にならないか?」

 

「待ちなさい猗窩座殿。この筋肉ダルマは私の美しき作品にします!」

 

 変な壺の言葉を無視し返答する。

 

「断る」

 

「残念だ。死んでくれムキオ。強く美しいままに」

 

 そうして拳を放ってくる。それを受け止めると蹴りを繰り出し距離を取る。

 

「これまで俺の誘いに乗る鬼狩りはいなかった。なぜだろうな?同じ武を極めるものとして理解しかねる」

 

「簡単な話だ。陽光を浴びれぬ肉体と化してしまってはビタミンDが生成できない肉体になってしまう。それは俺にとって大打撃だ。それに俺にはお前の言う至高の領域とやらが分かるぞ」

 

「ほう!なんだ!聞かせてみろ!」

 

「筋肉だ」

 

 俺以外の全員が困惑の表情を浮かべた。

 隙だらけだったのでその間に見つけていたもう1人の鬼の元に向かい頭を潰す。

 話によればこの単眼女が鳴女であろう。

 

 陽光の刺さないこの城で始末を5人の上弦を片付け地上に戻らねばならない。

 俺はかつてないほどの挑戦に心を躍らせていた。

 

 

ーーー

 

 

 鳴女の術で作られた空間から筋肉で地上までの道をこじ開け脱出した。

 上弦たちは今粉々になっているためもうしばらくは帰ってこないだろう。

 日が昇るまで後10分もない。

 早く無惨を見つけ出さなくては。

 

 さっきの勝負で触れ合ったことで俺の筋肉が鬼舞辻の筋肉を覚えた。

 先ほどよりも正確に居場所がわかるはずだ。

 幸い出てきた地点からそれほど遠くではなかったので俺は走って奴の元に向かう。

 

 見つけた。まだ俺に気づいていない様子なので後ろから攻撃しすべての脳と心臓を潰す。

 

「ぐぅ、なぜ」

 

「知らなかったのか?ならば教えてやる。筋肉に不可能はない」

 

 無惨は分裂して逃げようとする。

 それに対して俺は殴り続け体を弾けようとさせる力を外に逃がし続ける。

 そうして朝日が昇った瞬間。やつの体を肉が包み込み巨大な赤子のような姿になる。

 その瞬間、俺は鬼は鬼舞辻を蹴り上げ真上に高く上げた。

 

 今度こそ成す術のない鬼舞辻は陽光に包まれ消えていった。

 

 

 

 鬼舞辻無惨は死んだ。それによりすべての鬼もまた消え去った。

 その報告に最初こそ半信半疑だった鬼殺隊だがお館様の先見の明により本当だということがわかり大いに盛り上がった。

 直接報いを受けさせてやりたかったという思いは胸の内に残ってしまうがそれでも彼らはこれからまた新たな道へと進み始める。

 

 だが無忌ムキオの旅路は続く。

 彼の求めていた友はついぞ見つからず、己の使命は一人で掴み取る他ないということを理解した。

 ただひたすらに己を鍛えても求める頂の麓すら見えない。

 あとどれだけ突き進めば己が使命を果たせるのだろうか

 無忌ムキオは進み続ける。己を究極にまで高める筋肉を求めて。




「随分と想定が甘かったな連合軍よ。その程度の威力の爆撃で、俺の筋肉に傷の一つでも付けられると思っていたのか?」

「筋肉を鍛え上げる。これ以上に崇高な生き方があろうか」

「なに気にするな、上腕二頭筋もそう言ってる」

「まさか、同胞なのか?」

「超えるのはいつだって、己自身だ!」

「ここが、俺の求めていた頂」

次回『第二次世界大戦編』

続かないです。
初投稿がこんなんでいいのか俺。
最後少し雑になったのはご愛敬ということで。

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