炎炎ノ消防隊読んだ勢いでソウルイーター久しぶりに読んだら、いつの間にか出来上がったので初投稿です
俺は思わず顔を覆った。
歓喜と恥に膝をつき蹲った。
多大なる絶望の混乱に、頭を掻きむしった。
どうにも覚悟を決めなければならない。
気落ちしたままひとりで帰路に着いていた。在籍する我が学校は、基本的にペアで行動させる仕組みになっているのだが、しかし俺は相方が決まっていない。
友と呼べる人間はいるのだが、今日はどうにも全員都合がつかないようだ。まあ、慰めてもらう心持ちですらないが……。
トボトボとした歩みに、なかなか進まない道の景色に、いっそう足が重くなってきた。
「はァ〜……」
なんだかなあ。なんでなのかなあ。出来るかなあ、これ?
答えの出ない悩みを喉の奥で反芻する。はっきり言ってどうしようもない事で、ただ覚悟するだけの事柄ではあるのだが、どうにも泣き言から前に進めない。
俺にもパートナーがいれば、前向きに答えにたどり着けたのだろうか?
いや、無い物ねだりか。いや、いやしかし、しかし……。
……キン、ガリッ……! ガラガラ……。
「……? 戦闘音か?」
堂々巡りを続けているうち、どこかから金属のぶつかり合う音や瓦礫が崩れるような音が聞こえて思考を遮られる。
この世界、あるいはこのデス・シティーで喧嘩など珍しくもないのだが、聞こえうる限りかなり鋭い音だ。
喧嘩ではなく本気の音。近づいてきている。
我が校、死神武器職人専門学校はヒーロー育成学校やら世界の警察などと言われることもある特殊な組織である。
多分やり合っている片方は生徒で、もう片方は死神様のリストに載ってる悪人だと容易に想像がつく。そういうもんだから。
偶発的な戦闘ではなく、そういう、懲らしめる感じの依頼で戦っているのではなかろうか。で、あるならば、手出しもいらない。巻き込まれる前にとっとと離れ……。
ドゴンッ! ガラガラガラ……。
「ハァ……ハァ……死武専生めェ゛……」
「だァから! ヘタクソが! もっと武器で受けろって!」
「う、受けてた! ぼくはやってた!」
「出来てねえ! 武器を庇うな!」
「……」
思ったより近くで戦ってたんだね。逃げ損ねたぜ。
見るからに殺人鬼です、って見た目のやつと、片手剣と言い争ってるボクっ娘が、ぶっ壊した煉瓦を撒き散らしながら目の前にエントリーしてきた。
なにやら言い争っている。
「だいたいいつもオメーは無駄にダメージ受けやがって、マゾか?!」
「
「っ……やっぱ我慢できねえ、離せっ」
殺人鬼(仮)そっちのけの口喧嘩は悪い方に収まったらしい。戦闘中であろうに武器の方が持ち手を拒絶し、やがて武器の形は人の形と成った。
彼らは武器に変身できる人間とそれを扱う戦士、つまりは死武専の武器と職人だということだ。
両刃の片手剣だった武器の女子生徒は、引導を叩きつけた。
「もうオメーのやり方には納得いかねえ! ペア解消だボケ! さよなら!」
「ちょっ……!? 今課外授業中っ……」
「そりゃいつまで経ってもアタシらが合うかよ、独りよがりでやってろ!」
そう言って職人を残して立ち去ってしまった。……波長の違いで解散?
この場には、ショックを受ける職人と、放置プレイを決められた殺人鬼(仮)と、完全傍観・部外者の俺。
俺は視線を彷徨わせて殺人鬼(仮)に焦点を合わせた。
そいつもどうすればいいのか分からなかったようで俺の方を見る。
視線が合って妙な時間が流れた。
会釈でもして離脱しよ。
そう思って苦笑いを決めてみたが、殺人鬼(仮)はどうやら武器に振られた職人を放置することに決めたらしい。
「……おぉ゛オ! お前をォ゛、畑の肥料にするぞォ゛ォ!!」
「げっ……俺かよっ。おい、職人! アンタの
「……! ごめんっ!」
仮は後ろにつけなくてよかったらしい。殺人鬼(真)は草刈り鎌を地面に切り付けて俺に振りかぶってくる。
職人に声をかけると意識を取り戻した。やっと俺という部外者に気づいたらしく、慌てて殺人鬼へ距離を詰めて無力化を図る。
流石に俺だって死武専生だから多少は動けるがっ……。
ギャリンッギャリンッギャリンッ!
「こら、暴れるな! 勝手に人を殺すな!」
「バラバラにしてえ゛、ミキサァァ゛ァ!」
「ぐっ……。ぅおっ、いやっ、これっ」
無理! 当たったら死ぬ重さ!
職人の組み手をいなしながら俺へ乱撃してきた。
ガラ、ガラ、ガラと建物に当たった攻撃が瓦礫を増やしていく。やべ、回避できる場所が減っていってる!
避けきれなかった攻撃を思わず、手だけを武器化していなした。白い
ガンッ。鎌は弾けたが何の隙にもならない。戦闘なんて分かんねえよ!
「アァ゛? お前も死武専か?」
「! 武器だったのかキミ」
「ハンマー、か? ちいせえなァ゛!」
「……うるっせーんだよ! 人のコンプレックスをあげつらうなッ!」
「う!? おォ゛ぉ!」
元々最低だった気分がよりどん底へ向かう。その苛立ちをぶつけるように殺人鬼を蹴り飛ばせばそこそこ上手いところへ入ったようで、軽く突き当たりの壁へ吹っ飛んだ。
距離は取れたが、路地の位置取りが悪すぎる。どうするか。
「ハァ……帰りてえ」
「待ってくれ」
「あ?」
同じく立て直す余裕ができた職人が話しかけてきた。
「キミは……剣だな、それも片手剣! 武器になってくれる!?」
「この刃もクソもない手を見て何故そう思ったかは知らねえが、さっきのやりとり見て身を預けると思う?」
「む……しかし、ぼくは武器がなければまともに戦えない。……助けて欲しい」
まあ、そうだよなあ。
職人ってのは大体みんな魔武器無しでも何かしら動ける連中が多い。目の前のコイツもそこそこだ。
しかし本領はやはり、武器と職人の共鳴なのだ。
俺にパートナーはいない。今後もコイツが組んでくれるならかなり助かるが……見極めようにも時間はない。
手を貸すとして、その場合……俺の悩みの問題になってくる。
確認すべきことを、簡潔に……よし、よし。
「うーん、わかった」
「! ではすぐに……」
「俺を使うにあたって1の項目に同意してもらう必要がある」
「え?」
「『大切な人を守る』こと。……出来るか?」
これだけは、と思った問いに間髪入れず答えが返る。
「いつもやってる!」
「なら成立だ。よろしく、職人さん」
「よろしく、武器くん!」
ならば文句はない。コイツはきっと上手く俺を扱える。そんな予感がする。
覚悟は決まった。
覚悟は決まったのだ。
体の上から下まで武器へ
それは全てが白く、十字の意匠が施された────
「ギ、ハハハァ゛!! 刃のない剣? 全く怖くなァ゛い、さっきと変わらん雑魚ォ゛!」
「……なるほど?」
────刀身のない
殺人鬼は臆せず突っ込んでくる。俺たちを容易く狩れるという確信を得ている。
「
「
「ああ」
「ア゛、ハ、ハ、解ィィ゛ィ体ィ゛ィ!!」
俺たちにも、ヤツを容易く狩れる確信があった。
波長を受け取る。波長を大きくして返す。受け取る。返す。不思議な事だがごく自然に出来てしまえた。
受け取る。返す。その繰り返しが俺たちの魂を強くする。魂が熱を帯びる。
立ち向かうよう構え、見据えた。
俺たちの命が狩られるまであと、
3、2、1────。
『魂の共鳴』
刹那。
懐へ入り込み、俺たちの『刃』が殺人鬼の胸を貫いた。
剣の柄から伸びでた刀身は青白く輝く、プラズマ。
その高熱の切先は肉体を崩し、殺人鬼の魂だけが場に遺る。
「殺人農家"ファニー・ファニー・チッパー"、魂を回収する」
それ大丈夫な名前なの?
ヂヂ、刀身が消える。
自力で出すには死ぬほど疲れるプラズマの刀身が、職人と共鳴するだけでこんなに簡単に出力できるのかよ。すげー。
初めての武器としての戦闘、初めての共鳴。ちょっと感慨深いような、怖いような。
ていうか組んだばっかのパートナーとすぐ魂の共鳴とかできるもんなの……? すごいのは職人なのか?
まあ、とりあえず、課外授業は済んだらしい。
殺人農家なにがしの魂がふよふよと浮いている。
……あれ、この魂どうすんだろ。普通、武器が食べて回収するらしいけど(俺は今初めて悪人狩りの課外授業をやったので知らない)。
そもそも俺
「あの、職人さん? 俺、魂の回収とかやったことねーんだけど」
「えっ……で、でもキミ、全身武器化できるって……」
「ちょうど今朝初めて出来た」
昨日まで自分の形すら分かってなかったから、かなり嬉しかったことを誇ると職人は顔を引き攣らせた。それはそう。
俺たちの間には話し合いが足りていない。その事をお互い認識して話を進める。
「……NOT?」
「おう」
「…………とりあえず、死神様に相談してみる」
「つーか俺とアンタってこれからパートナーなの?」
「……そっちも一回話し合っていい?」
さっきバックれた子ね。職人側に問題がある風だったけど一朝一夕のキレ方じゃなかったから、戻ってきてくれたら御の字だろう。
正直な話、俺はもうコイツとペアを組む気でいたので、そういう願望だが。
「というか、キミのパートナーは」
「いないぞ」
「いない!!?? いや、まあ……」
「俺はアンタとパートナーになれたら嬉しいよ」
「……ありがとう」
ビビらせて悪いな。「今朝初めて」に思い至ってくれたようで何より。
「んじゃ色々決まったら連絡してくれ」
「わかった。今日はありがとう。……あ」
「どうした」
「名前聞いてなかった」
そういえばそうだったな。お互い名前も知らずに魂の共鳴をするだなんて……!
武器の状態を解いて少女に向き合う。
暗くなって際立つ金の髪色が俺の目に反射した。
「人に名前を聞くときはまず?」
「ん、そうだね。ぼくはクルックス。剣職人のクルックスだ」
「俺はバンリ。騎士であり魔剣でもある。よろしくクルックス」
「ん?」
スッと差し出された手に握手を返しながら応える。
少女、クルックスは笑顔だったのになにか小骨が喉に引っかかったような顔で俺を見てきた。
「なんだ?」
「騎士?」
「騎士だが」
「騎士王とかの?」
「騎士王とかの騎士だが、俺は騎士王ではなく『騎士』だ」
ここ大事。
イメージ的にはそうだが騎士王は畏れ多い。何に引っかかってんだ。
「イヤ、バンリは武器だから、
「聖剣の話はしないでください」
「ああ、ただ少し疑問に……」
「聖剣の話は二度としないでください」
「わ、分かった……」
「じゃあ俺は寮に帰る。死神殿からの沙汰は明日教えてくれ」
「おお……」
俺には少し特殊な知識がある。
それゆえに、どうにも受け入れ難い事が生まれつき多かった。
月に顔があって妙に地上に近いとか、首と胴が離れて死んだと思った人がなんか生きてるとか。
武器に変身する人間とか、死神様とか、魔女とか、鬼神とか、狂気とか、ファンタジー生物とか。
とかとかとか。
しかし今思えば、そんなもんは序の口であった。
ある日、俺が魔武器である事が分かったとか。
入学しても俺が武器になれずに悩んでたとか。
そのまま数ヶ月経って「流石に俺が武器ってフカシかも……」と思ってたこととか。
今朝、図書館で聖剣伝説を読んだ勢いで武器化に成功したこととか。
それが
俺には知識があった。
大昔には、刀身のない剣に炎を灯して戦う騎士王がいた。その剣こそ『エクスカリバー』と呼ばれ、今の世界では少し違う形で存在していること。伝説が残って人々に親しまれている。
知っていた。
騎士王。あるいは職人王アーサー。そのものが手にするは聖剣エクスカリバー。
昔のエクスカリバーの形状まんまが俺。
でも本物の聖剣は現存している。
そういう事を理解できてしまっていた。
俺の心の刃。
騎士王手ずからの聖剣と同じ形。
なのに同じ精神で戦えないなんてあっていいのだろうか? いやない。だから騎士になる覚悟を決めた。
俺の決めなければいけなかった覚悟がこれ。
そしていまだに、そして最も受け入れ難い事実が残る。
……この死と魂の世界において、最もウザい存在。100人中100人が『ウザい』と同意するレベル。
この世界のエクスカリバーはそういう存在だ。
「俺は!! あんなに!! ウザくねええ!!!!」
出会ってきたほぼ全員をイラつかせるような存在と近似値である俺。本当に嫌すぎる。
この事実が、深い絶望として俺の人生に横たわる事になったのだ。
何はどうあれ。
思うところはいろいろあるが。
アレと一緒であると思いたくない!!
逃げるように寮の自室へ駆け込んだ俺は、無理やり思考を停止させるように眠りについた。
バンリ
刀身のない剣。男。職人と魂の共鳴をすることでプラズマの刃を形作る。
複雑。
クルックス
剣職人。女。片手剣の女子生徒とパートナーを解消された。
死人(シド)先生
死武専の先生。色々教えてくれる。生前の姿。