敏腕ハンドラーである俺は勇者の扱いを心得てる 作:バショウ科バショウ属
――王国歴305年3月12日――
私は勇者に憧れた。
あの人たちのように皆を守りたい、そう青空に願った。
その憧れは、願いが叶ってからも変わらなかった。
私は天井世界を護るために空の脅威と戦った。
戦って、戦って、戦い続けた。
全身が膨れ上がって、醜い怪物に成り果てるまで。
でも、後悔はなかった。
たくさんの愛おしい人たちに見送られ、私は地上世界へ降り立つ。
呪いを振り撒く前に。
――王国歴305年5月21日――
私には勇者として誇りがあった。
でも、勇者を消耗品のように使い潰す地上世界は、それを簡単に打ち砕いた。
私を雇ったハンドラーは、とんでもない愚物だった。
勇者を殺せ?
開拓団を襲え?
そんな命令、聞くはずがない。
――王国歴305年5月23日――
役立たずはいらない、と売り払われた。
こっちの方から願い下げだ。
――王国歴305年■月■■日――
次のハンドラーは、怪物になった勇者に欲情する変態だった。
この醜い身体を舐めるように見つめ、奉仕を要求してくる。
理解できなかった。
気色悪い。
気色悪い。
気色悪い。
気色悪い!
――王国歴305年■■月■■日――
脱走は成功した。
でも、失敗だった。
私は捕まった。
使い捨ての道具を欲するハンドラーに。
――■■歴■■■年■■月■■日――
記憶から消し去りたくなる日々が続いた。
心を閉ざし、何もかもに噛みついた。
ついに廃棄勇者の烙印を押され、殺処分を待つだけ。
これでいい。
やっと解放される。
はやく殺して。
――■■歴■■■年■月■■日――
最後の最後に、新しいハンドラーが現れた。
防呪のコートもマスクもしていない、旧王国軍の黒い軍服を着こなす小柄な男。
ふざけるな。
こいつもろくでなしに違いない。
もういい!
はやく殺して!
――■■歴■■■年■月■■日――
混乱している。
手料理を食わされ、貴重な水を使った風呂に入れられ、防呪のドレスを着せられた。
なぜ、こいつは廃棄勇者を人扱いする?
他のハンドラーから嘲笑れても気にもしない。
私しか見ていなかった。
愚かなハンドラーだ!
そう思った。
でも、手料理を食べた時、なぜか涙が止まらなかった。
――■■歴■■■年■月■■日――
ハンドラーは切り捨てなかった。
開拓団への攻撃を拒否し、真っ向から反抗した私を。
それどころか望みを聞き、逆に護衛の仕事を受けてきた。
愚かなハンドラー。
――追伸――
次の仕事も、その次の仕事も、同じだった。
いつかグロリア金貨風呂に入ると言いながら、安い仕事を受けてくる。
変な人だと思った。
――■■歴30■年■月■■日――
なぜ望みを聞いてくれるのか、と問うと鼻で笑われた。
「道具が喋ってくれるのに聞かない持ち主がいるのか」だそうだ。
仕事の件も、折れた聖剣の件も、あくまで自分のためだと言い張った。
そんなことを宣うハンドラーは初めてだった。
消耗品に手間をかける必要はない、それが常識だった。
理解できない。
でも、不思議と不快な気分にはならなかった。
――■■歴308年■月■■日――
私は毎晩、ろくでなしの悪夢と戦っていた。
それを見かねたハンドラーは私の話を聞くなり、悪夢の住人に啖呵を切った。
「俺のグロリア金貨500枚に手を出してみろ。ぶち殺すぞ」と。
そして、子どもみたいなわがままを聞き入れ、眠るまで傍にいてくれた。
突き放そうとしなかった。
その日から悪夢を見なくなった。
夜の闇に安らぎを覚えた。
――■■歴308年10月■■日――
どれだけ嘲笑われようと涼しい顔をしていたハンドラーの怒声を初めて聞いた。
それは私を馬鹿にされた時だった。
真剣な声が耳に焼きついて消えない。
あの人は一度も勇者を嘲笑ったことはなかった。
この地上で私と向き合ってくれるのは、この人しかいない。
そう思った。
――■■歴308年10月■■日――
所作を自然と目で追ってしまう。
目が合うと嬉しくなってしまう。
やれやれと首を振るけど、決して怒ったりしない。
彼の名はハンドラー・アーチボルト。
私は、初めて地上に居場所を見つけた。
――王国歴308年10月17日――
忌々しいロックウェル型は完全に破壊した。
私はアーチボルトの命令を守ったよ。
自信満々な笑みを浮かべて褒めてほしい。
やれやれと首を振りながら、頭を撫でてほしい。
私、がんばったよ。
がんばったの。
どうして目を覚まさないの?
命令を待つ。
――追伸――
命令を待つ。
――追伸――
命令を待つ。
――追伸――
命令を待つ。
――追伸――
命令を待つ。
――追伸――
命令を待つ。
待つ。
――追伸――
待つ。
待ってる。
ずっと待ってる。
――追伸――
いつまで待てばいいの、アーチボルト?
――王国歴308年10月21日――
アーチボルトが目を覚ました。
目を覚ましたんだ。
神を呪う日々だった。
でも、今日だけは感謝したい。
――王国歴308年10月22日――
アーチボルトの声が聞ける。
それだけでいい。
――王国歴308年10月23日――
頭を乱雑に撫でてくれる。
犬みたいだ、なんて笑われた。
アーチボルトの犬、それも悪くない。
――王国歴308年10月24日――
私はアーチボルトの勇者、アーチボルトの剣、アーチボルトの犬。
――王国歴308年10月26日――
アーチボルトの隣が私の居場所。
二度と離さない。
――王国歴308年11月13日――
古代兵器を壊して回り、アーチボルトに褒めてもらう。
でも、もっと撫でてほしい、もっと触れてほしい。
わがままかな?
――王国歴308年11月20日――
わがままの一つや二つ聞いてやる、そう言ったよね。
じゃあ、アーチボルトがほしい。