GATE/BRAMA 三つの世界が交差した時 作:Kpt. Z.V.Jelačič
自衛隊の特地派遣方面隊の全てが無事に到着し、ノヴァ・ポロニア軍の「凱旋門演習」が正式に発動されたことによって、ノヴァ・ヴァルソヴィアでの防衛戦から返す刀でファルマートへ殴り込んだノヴァ・ポロニア各軍の部隊は第4軍と第5軍から抽出した陸軍部隊を主力としたファルマート遠征軍へ再編成され、これまでの末期戦さながらの寄せ集め状態から真っ当な軍の部隊となった。
……まあ再編とは言っても精々が郷土防衛隊の予備役と警官を送り返して兵員を正規軍の所属だけに揃えた程度のものであり、一部の部隊は陸軍将兵に憲兵や海軍の水兵、空軍地上兵が含まれていたりするのと徴集兵を普通に異世界の戦地へ投げ込んでいるのはご愛嬌。
ついでに派遣された陸軍部隊は装備する戦車を防御と引き換えに呆れるほど重くなったレオパルト2NPシリーズから、インフラも何もかもが未熟な特地での運用に(比較的軽量で*1)適した予備保管及び共和国軍戦車兵学校*2の近代化改修済み国産第2世代、あるいは第2.5世代主力戦車の
戦争とはいつだって敵の隙を窺って行動するものである以上、ノヴァ・ポロニア軍が手加減の用意をいそいそと始めたのを好機と見間違えた帝国軍は近隣諸国へ、関係者ではない部外者にとっては実に素晴らしい大義名分を掲げながら
……が、しかしよりにもよって帝国は踏むべきでない韻を踏んでしまった。
つまり、懲りもせずにのこのこと差し向けられた帝国軍──もとい連合諸王国軍──は盛大に鉄と火薬の嵐によって徹底的に擦り潰されてアルヌスの丘から叩き返されたのである。
王も兵士も関係なく平等に、敵の顔を拝むより先にその命を刈り取られ、華々しく散る事もなくただ灯は吹き消された。嘆きも命乞いも何もかもが炸裂によって掻き消され、肉薄を試みた勇気ある益荒男は人を殺すことに特化し、適切に調整された榴弾の破片に切り刻まれ。せめて命だけでもと盾に縋る兵は縋った盾ごと、緑の弾道を描いて飛び来る機銃弾によって薄紙の如く裂かれ、誰も彼もがただ一方的に斃れて逝った。
その地に栄光は無し、唯一有るは死のみ。
そう表現するしかない有様は、デュラン含めた連合諸王国軍のまだ無事な将兵にとってこれまでの常識を根底からひっくり返し、途方もない相手と戦うことになってしまった実感をもたらしていた。
「なんと、なんと言うことだ……アルグナ王よ、モゥドワン王よ、リィグゥ公よ……兵士達よ……お主らは、お主らは何処に……?」
ノヴァ・ポロニア軍が持ち込んだ最大口径・最長射程の火砲である210mm自走カノン砲*5の重榴弾から、自衛隊もノヴァ・ポロニア軍も、なんなら西側どころか中国すら愛用するド・バンジュ御大由来の155mm榴弾砲。ノヴァ・ポロニア戦車の120mmライフル砲と自衛隊の74式戦車が装備する105mmライフル砲と
砲弾の取りこぼしは各種小銃弾や機銃弾が、塵取りで掃き取るように薙ぎ払って行く。
さて、末路から先に言うと、連合諸王国軍は二度の昼間攻勢で10万のうち半数を擦り減らし、何の戦果もなく引き下がることとなった。
残念でもないし当然ではあるが、2人目の挑戦者である連合諸王国軍。その先鋒が明るいうちに撃滅されてから暫しの時が経ち、常人ならば床で夢の世界へと旅立っている夜更け。
明かりのない闇夜は見渡しが効かないことから、そこに活路を見出したエルベ藩王国の国王、デュランは戦闘──と呼ぶには烏滸がましいほどの虐殺──前より大幅に擦り潰されて数を減らした手元の軍勢を率いて暗闇の中、可能な限り音を殺して防衛陣地へと接近を、そして夜襲を試みる。
しかしその動きはノヴァ・ポロニア軍にも自衛隊にも読まれており、帰還不能点を越える時を今か今かと待ち構えていた。
「各員に告ぐ、現在敵部隊がこちらへ向かって移動中だ。配置に着き、迎撃戦闘に備えよ。射撃は士官の統制に従い、命令があるまで一切の発砲を禁止する」
「総員戦闘配置!戦闘配置!!」
「またかよ、クソ!三度目だぜ、今度は夜襲か!」
「DVD途中なのに」
「つべこべ言うな!急げ急げ急げ!!」
「暗視装置は外せ!
安全装置を解除し、夜闇の中をジリジリと迫り来る敵の軍勢。それを迎え撃つ為、事前に設定された地点を目安に照準を合わせ、命令が下るまでじっと待つ。
「総員に告ぐ!小隊長の指揮下に着け!統制射撃用意!!小銃は500m地点で発砲!機関銃は800mから発砲!事前に設置した標識を目安に照準!」
「逸って撃った弾は当たりもしなけりゃ蚊ほどの脅威にもならん!中尉殿の命令にだけ従え!それ以外は全て無視しろ!!」
「慌てるなよぉ……まだ撃っちゃいかん、命令と照明弾を待て───」
射撃陣地からの敵隊列の測距と伝達がされ、照明弾を打ち上げる迫撃砲兵は砲口に照明弾を宛てがい、ほんの少し押し込んでから手を離して落とす。
砲身内に落とされた照明弾は底へ到達すると共に弾尾の装薬が燃焼し、押し出されて砲身から飛び出て高く打ち上げられ、そして弾体に仕込まれたパラシュートが展開されて宙にゆらゆらと浮かばせる中でアルカリ金属の粉末やら諸々の薬剤が練り合わされた証明剤が燃焼し、真夜中の筈の地上を昼のように明るく照らして目を眩ませる。
「ぐっ……なんと、この明るさ……!」
「敵戦列視認!次弾装填、弾種引き続き照明弾!照準修正は近!」
「いかん!!全軍突撃ィ!馬は駆けよ!
「敵騎兵、襲歩に移行!戦車は砲撃開始!機銃と小銃はまだ待機!」
空にゆらゆら浮かぶ照明弾と、それに照らされる配下の軍勢に自身の軍略を見抜かれたと即座に察知したデュランは乗騎に拍車を掛けて走らせ、隊列を追い抜きながら突撃命令を叫ぶ。
そして、連合諸王国軍の将兵に戦車からの砲撃が降り注ぎ、着弾。炸裂した榴弾は断片と爆風を撒き散らし、周囲の敵兵を殺傷する。
しかし先手を取られたものの、デュランは勇ましく先陣を切りアルヌスの丘を駆け、兵士たちもそれに続いて駆け出す。
だが残念かな、彼が敵陣に堂々一番槍の栄誉を掴み取る……ことはなく、その途上で乗騎の脚は有刺鉄線に絡め取られて勢いよく投げ出される。
「デュラン様!今お助けします!」
「……敵騎兵が有刺鉄線を突破!後続の歩兵も接近しています!」
「宜しい!各員、統制射撃!短点射、
「総員、撃てぇ!!」
「逃げろ!皆逃げるんだ!!」
デュランが投げ出され、後続の歩兵が有刺鉄線を切って彼を助け起こしたその瞬間。ノヴァ・ポロニア軍は、自衛隊は一斉に射撃を開始する。
突撃破砕射撃。攻め寄せる人間の群れを効率的に薙ぎ払う為に陣地を組み、機関銃を据え付け、小銃を構えた歩兵を配して行われるそれを。彼らは真正面から浴びる事となった。
部下を救おうとしたデュランの懸命な警告は、兵士らに伝わるより先に銃砲弾が降り注いだことで掻き消され、昼の悲劇が再演される。
「効力射!弾着修正不要、照準を維持して砲撃を継続せよ!」
「兵士諸君、敵に鉛玉をたっぷりをご馳走してやれ!連中はどうも大食漢らしいからな、盛大にもてなしてやらんと我々は誰よりもケチなのだと笑い物になっちまう!!」
「でしたら変な噂が立てられないようにたっぷりと喰らわしたりましょうや!!そうすりゃあ他所でお喋りなんぞできなくなりますぜ!!」
「……これが……これが戦争だと……?こんなものが戦争であってたまるか……!」
「新波蘭さんは何言ってるか丸っ切りわからんが、随分とお喋りだなァ……戦争慣れしてるのかねぇ……」
一方的に銃弾を撃ち放つノヴァ・ポロニア軍と自衛隊。一方的に銃砲弾を浴びせかけられる連合諸王国軍。
地面に倒れ伏す兵士の屍から、弓と矢を手に取り、矢を番えて理不尽とすら言えるこの状況に対する憤りを込めた届かぬ一射を放つデュラン。
悲しくもその一射で戦況が変わることもなく、至近弾を諸に浴びて爆風に吹き飛ばされる。
斯くして、連合諸王国軍によるアルヌスの丘に対する攻撃は失敗に終わり。
兵と国を率いる各国の君主は戦場で蝋燭の火の如く吹き消され、斃れたが故に幸か不幸か命を繋いだ兵士達は敗残兵となり、散り散りになって各々の生き方を選んだ。
国から俺達を連れてきた王様やその手下はいないし、好きに振る舞ったところで誰も咎めやしないのだから、と抑えを無くした敗残兵達。ある者はただ故郷の帰路に着き、またある者は傭兵へ転身し、また別の者は山賊・野盗に落ちぶれ治安を乱して良民を脅かす……と言った具合である。
この点に関しては、指揮官級とも言えるデュランのような君主を排除してしまったノヴァ・ポロニア軍および自衛隊の不手際と言えなくもないだろう。
何せ、敗残兵を取り纏めて故郷へ撤退させられる人員は戦闘で纏めて死に絶えたか消息が消えた上、特にノヴァ・ポロニア軍は帝国領への進撃に際して補給路を維持する為にも治安戦の実行。つまり脅威となりうる山賊や野盗と敗残兵を徹底的に叩かねばならなくなった為である。
……とは言えど、曲がりなりにも超大国であるノヴァ・ポロニア軍は治安戦の経験も十分に有しているし、相手にするのはパルチザンやムジャヒディンなどではなく、地元民の支持なんぞ得られそうにもなく装備や練度も劣る破落戸共である以上は敗北どころか痛手を負うこともないが。