自衛官だったけどスネークになったので世界大戦を阻止してみた   作:みどり色

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第9話 再会

—————どこだ、ここは?

何故俺は意識が無かった?

だがそんなことがどうでもよくなる位に身体が痛む。

顎に関してはまるでバラバラに砕け散ったかと錯覚するほどだ。

・・・・・錯覚だよな?

 

何か袋を被されているのか周囲は暗く、呼吸もし難い。

腕は縛られて吊るされている状態だ。

しばらくぶら下げられているんだろうか、体重の牽引で激しい痛みを感じると同時に麻痺感がある。

せめてもの救いは痛みが強いことだ。

この状態が長く続けば痛みが弱くなってくるだろう。

そうなれば腕に何かしらの後遺症が残る可能性が高くなる。

 

『言え。誰と連絡を取っていた?』

 

被り物のせいで周囲の音がくぐもってはいるが、その声はハッキリと聞こえた。

間違いなくヴォルギンのものだ。

 

『誰の命令で手引きした?』

 

同時に打撃音も耳に届く。

誰かが尋問—————拷問を受けているんだろう。

 

『意外と耐えるじゃないか。“GRU”に選ばれるだけのことはある』

 

フワフワとまだ現実感が薄い状態から、ヴォルギンの言葉がトリガーとなり意識が一気に引き戻される。

GRUだって?

そこにいるのはソコロフじゃないのか?

 

『さて、主役のお目覚めのようだ。コイツのようにお前も楽しませてくれるんだろうな?』

 

ヴォルギンが俺に向けて言葉を発していることは感覚的に理解できた。

そして“誰か”に向けられていた興味は既に俺に移っているんだということも。

 

『ふむ。そこそこ修羅場はくぐってきているようだな。喜べ、これから本当の地獄を見せてやる』

 

当たり前だ。

こちとらこのボディーに換装したときからICUにお世話になっているくらいだからな。

そんなヴォルギンはこれから始まるイベントに心躍る様子だ。

湧き上がる興奮を隠しきれていない。

俺は咄嗟に身体を緊張させようとするが、元々のダメージと吊るされている状態では上手くいかない。

 

『お前の狙いはなんだ? シャゴホッドか? ソコロフか?』

 

次の瞬間、腹部に強烈な痛みが襲ってくる。

腹筋に力を籠めることも叶わず、まるで内臓を直接殴られたような激痛だ。

 

 

 

まさか一度で終わるなんて思っていないだろう?

残念だがその通りだ。

 

『それとも遺産か!? 言え! 貴様の仲間は? 誰が手引きしている?』

 

ヴォルギンはまるでサンドバッグを叩くように、俺に打撃を加え続けてくる。

 

『タフな男だ。だがいつまで持つかな? まだまだ終わらんぞ』

 

俺は堪らず胃の中の物を口から吐き出してしまう。

頭をすっぽりと覆っている被せ物のせいで、逃げ場のない吐瀉物が俺の口の周りに留まり続ける。

俺は呼吸ができずに身体をジタバタと動かすことしかできない。

 

『・・・・・死んでしまうぞ』

 

『ふんっ』

 

そんな会話が聞こえた気がした。

すると次の瞬間、俺の頭に被されていた物が乱暴に取り除かれる。

 

外気の下に解放された俺は口から吐瀉物や涎、血などが混ざったオリジナルミックスをその場にまき散らす。

どうだ、めちゃくちゃ不快だろう?

これで少しはやり返すことができただろう。

 

冗談を言っている場合かって?

気を強く持たないとおかしくなりそうなんだよ。

 

粗方吐き終わった俺はバケツに入った水を一気にぶちまけられる。

さすがに不快過ぎたか?

ざまあみやがれ。

 

無理に笑みを浮かべようとしたところで目の前に上裸で椅子に縛り付けられた兵士が目に入る。

麻袋を被されていて顔は識別できないが、下の戦闘服からして確かにGRUの兵士のようだ。

くそっ、視界もはっきりしない。

誰だ?

セルゲイか?

 

そのまま周囲に目を走らせる。

原作通り、この拷問室にはヴォルギン、オセロット、EVA、GRUの兵士数人、そしてザ・ボスがいる。

 

軽口の一つでも言ってやりたいが、顎が痛すぎて無理なんだ。

血も絶えず溢れてくるから冗談抜きで割れているかもしれないな。

だが苦しんでいる姿なんて見せてやらないぞ。

俺は口に溜まる血を無理やり胃へと送り込んでやる。

 

「さあ、そろそろ本気で行くか? 私の身体は1000万ボルトの電圧で帯電している。こいつはどうだ?」

 

そう言うとヴォルギンは手から電気を発生させ、触れてもいないのに俺の身体に流し込んで来る。

俺は今まで経験したことの無い種類の痛みにうめき声を上げることしかできなかった。

 

「さあ吐け! アメリカ(CIA)はどこまで知っている? 私の遺産が目的だろう?」

 

その間にもヴォルギンの拷問は続く。

弱気になるな・・・!

この苦しみから解放さるのなら何でも差し出したくなってしまうが、俺はヴォルギンに対する怒りの感情を湧き上がらせることでなんとか踏みとどまる。

 

「お前の目的はまさに“賢者の遺産”だろう? 言えっ! “遺産”の在処だろう!?」

 

「ぐ・・・あ、あぁぁぁあ」

 

「二度の大戦を通じて三大国が出し合った秘密資金だ! それが貴様の目当てだろう! 世界中に分散して隠された1000億ドル、その全ての記録だ! それが欲しいんだろう!?」

 

「が・・・あ」

 

「そうとも。“賢者の遺産”は私が守っている。このグロズニーグラードの地下金庫でな。貴様ごときに手は出せん!!」

 

いっそ殺してくれ。

この状況でヴォルギンに対する怒りの感情を持ち続けることは困難を極めた。

どうして俺は口を閉ざしている?

アメリカがどうなろうと俺には関係ないじゃないか。

全て洗いざらい話せばいい。

そうすればこの苦しみから解放されるはずだ。

 

「無駄だ。こいつは口を割らない。そう訓練されている。私が訓練したんだ」

 

そう言ってヴォルギンとの間に入って来たのはザ・ボスだった。

俺は力の入らない身体に鞭打ってなんとか顔を上げる。

すると複雑な表情を浮かべたザ・ボスと目が合う。

しかし彼女はすぐに俺から視線を外してしまう。

 

 

「・・・・・ふっ、ガキとはいえザ・ボスの弟子ということか」

 

興奮を抑えるように息を整えたヴォルギンは残忍な笑みを浮かべる。

だが同時に嫌な予感もする。

 

「貴様が口を割らないというなら“コイツ”に聞くまでだ」

 

ヴォルギンは再びバチバチと電気を纏うと俺に背を向けて椅子に縛り付けられているGRUの兵士へと向かって行く。

 

「“お友達”はお前が楽しむ姿を見たいらしい。くっくっくっ」

 

そう言うとヴォルギンは兵士に向かって電撃を放つ。

麻袋を被っている男の声はくぐもってよく聞こえないが苦痛の声を上げている。

 

「どうした? 貴様も楽しめ」

 

俺に振り返りながらヴォルギンは残忍な表情を浮かべる。

自分のせいで他の誰かが苦しんでいるという状況に果てしない無力感が襲ってくる。

 

「・・・・・ろ」

 

ヴォルギンは兵士に向き直ると電気を纏った拳で殴りつける。

椅子に縛り付けられた兵士はそのまま後ろ向きに倒れ込む。

 

「や・・・めろ」

 

ヴォルギンはそんなことは構わず倒れ込んで動くことができない兵士を跨いで殴りつける。

とても人間のやる所業じゃない。

 

「や—————」

 

「ふんっ!!」

 

ひと際激しい雷光と打撃音、俺の制止は誰の耳にも届くことはなかった。

少なくともヴォルギンの耳には聞こえなかっただろう。

 

ヴォルギンは兵士に口を割るように促すことを一度もしなかった。

情報を得るための手段ではなく、暴力自体が目的だった。

 

俺の中でかつてないほどの怒りが生まれるのを感じる。

ヴォルギンに対してだけじゃない。

何もできずに見ていることしかできない自分自身の弱さに対しても同様だった。

 

「さて、お前も同じようになりたくなかったら洗いざらい吐くんだな」

 

「・・・・・」

 

「ふん、まだまだ元気そうだな」

 

俺は自分の中で生じた怒りをぶつけるようにヴォルギンを睨みつける。

脳内に分泌されたアドレナリンが身体中の痛みを忘れさせてくれた。

 

ヴォルギンは電撃を纏った拳で殴りつけてくる。

一回、二回と拳が飛んでくるが俺は痛みを制御できた。

変わらずにヴォルギンを睨みつけ続ける。

それが面白くないのか、ヴォルギンの顔には次第に苛立ちの感情が浮かんでくる。

 

「タフな男だ。それは認めよう」

 

荒くなった息を整えたヴォルギンは纏っていた電気と拳を収めながらそう口にする。

そして吊るされた俺の周囲をゆっくりと回りながら言葉を続ける。

 

「大したものだ。この私が言うんだ。誇っていいぞ」

 

目の前で仁王立ちになったヴォルギンは俺を見下ろす。

好都合だ。

獲物がわざわざ目前までやって来た。

湧き上がる怒りのままヴ再びォルギンに視線を固定する。

 

少しの間だけ視線が交差したが、ヴォルギンは再び部屋の中を回ると突然雄叫びを上げながらコンクリートでできた壁を全力で殴りつける。

奴の拳は深々と壁にめり込んでいる。

 

「・・・・・気分直しだ。私の部屋へ」

 

ヴォルギンは壁から拳を引き抜くとタチアナ(EVA)に向かって声を掛ける。

しかし怯えた演技をしているEVAはヴォルギンの言葉に反応しない。

 

「—————来い」

 

すると入り口まで歩みを進めたヴォルギンは釘を刺すように言葉を残していく。

上官が拷問室を後にしたため、周囲の兵士たちは椅子に縛り付けられていたGRUの兵士を引きずりながら去っていった。

 

「大佐の拷問に耐えたな」

 

SAAでガンスピンをしながら俺に声を掛けたのはずっと傍観していたオセロットだ。

彼の胸元では“苦い経験”をした時の45口径が照明を鈍く反射している。

 

「耐え抜いた奴を見て初めて分かった。悪くない・・・・・究極の表現法だ!」

 

興奮した様子のオセロットに視線を向けてやると彼はビクッと身体を緊張させる。

そして、まるで逃げ場を求めるかのようにこの場に残っていたザ・ボスに視線を移す。

しかしすぐにガンスピンをしながら部屋を後にしていった。

 

その後ろ姿を見送るザ・ボス。

生まれてすぐに“賢者たち”に奪われた我が子と思いがけない再会を果たした彼女の心境は一体どういったものなのだろうか?

 

ザ・ボスは一瞬EVAの方を見た後に俺に近づいてくる。

EVAは手で顔を覆って涙を流している。

ボスは演技だと気づいているのかもしれないが、今のところは放置することにしたのだろうか。

 

「・・・ジャック、このままでは確実に殺される。逃げるんだ」

 

「・・・・・」

 

俺は返事をしなかった。

ただ彼女の瞳を見つめ返すのみだ。

何故かって?

身体中痛くて答えている場合じゃないんだよ。

 

「そう・・・お前も“特別な感情”を抱いたようね」

 

ザ・ボスはそう言い残すと拷問室から去って行った。

特別な感情?

何を言ってやがる。

俺がただ怒っているだけだ。

 

ザ・ボスが部屋から出ていくとまるで何事もなかったかのようにEVAが俺に近づいてきた。

ハリウッド女優顔負けの演技力だ。

 

「脱出路を用意したわ。ここを出て西へ向かって。それから渡り廊下の下をくぐって北へ行くのよ。マンホールが開けてあるわ。マンホールから下水道へ降りて、下水道の北の扉が開けてあるからそこから要塞の外へ出られるわ。装備も私が回収してある。後で合流しましょう」

 

EVAは一通り言い終わると出口に向かって歩いていく。

自動ドアが開くとちょうど外からGRUの兵士が二名が入ってくる。

 

頼むから優しく運んでくれ。

 

 

 

 

<収容所 独房エリア>

 

くそ、アドレナリンが引いてきたことで身体の痛みが酷くなってきた。

身体中打撲を負っているし、口の中は電球を突っ込まれながら“しこたま”殴られたみたいに酷い有様だ。

 

だが原作と違い、右目の視力は失っていないし仮死薬を撃ち込まれてもいない。

多少マシな状態だと思いつつ、“あの時”のスネークに同情する。

 

だが良いことばかりじゃない。

今の俺は無線機も医薬品の類も取り上げられている。

これでは治療もできなければ無線を飛ばして牢の扉を開けることもできない。

加えて仮死薬もないから“死んだフリ”も無理だ。

 

だが牢の扉には鍵穴もあるから物理的な解除は可能な筈だ。

問題はどうやってその鍵を手に入れるのかという点だ。

そりゃそうか()

 

んっんん!

とりあえず食事用のフォークがあるから手に取って同居人のネズミをキャプチャーしようとするが・・・・・中々にすばしっこい()

部屋から逃げられないように捕まえるのが至難の業だが、なんとか部屋の角に追い込むことができた。

 

「はぁはぁはぁ、手こずらせやがって。観念しやがれネズミ野郎・・・!」

 

心底怯え切った様子の食糧はガタガタと身体を震わせながら縋るような目で俺を見てくる—————ような気がする。

 

「食事だ」

 

その時、監視役の兵士が部屋に食事を投げ入れてくる。

・・・・・とりあえずあっちを先に食うか。

俺は地面に落とされた食事を拾い上げる。

さあ、どんな美味いものかな?

賢者の遺産という資金があるんだからさぞかし良いものを—————

いや蝙蝠ですやん()

 

忘れてたわ。

ここの連中は囚人に蝙蝠を食事に出すというとんでもないサイコパスだったな。

 

せめて人間の食べ物を出してくれ。

え?

ネズミは人間の食べ物なのかって?

すうー・・・人によるんじゃないかしら()

 

と、とにかくこんな物は食えん。

むしろ病気になりそうだしな←

 

俺は牢屋の扉に設けられている食事を入れる隙間?

名前は知らん()

その穴から食事を投げ返してやる。

 

「ん? いらないのか?」

 

それに気づいた看守は拾い上げてそのまま丸飲みしてしまう。

いや、ちょっと待て。

アイツ今なにかも確認しないで食っちまったぞ?

いや、まあ自分で出した食事だしメニューは何か知っているだろうけど・・・・・

え、なに?

ソ連の人たちって普通に蝙蝠食べるの?

ビックリし過ぎて一瞬身体の痛み忘れてたわ()

 

だが俺のHP(腹減りポイント)は日本経済のように低迷したままだ。

・・・・・さっきのネズミどこ行った?

 

部屋を見回すと端の方で丸まっている毛玉のような物体が目に入るが—————まあ放っておくか。

べ、別に中継基地でネズミ捕りを使ってキャプチャーしたヤツのことを思い出した訳じゃないぞ。

 

怪我のこともあるし、ひと眠りするか?

このチートボディーなら休息を取るだけで随分マシになる筈だ。

 

眠れなかったとしても横になるだけでも違うはずだ。

神経が過敏になっていて熟睡は無理そうだしな。

とりあえずカビと正体不明の汚れでコーティングされたベッドに横になる。

むしろ病気になりそうだが身体を横にできるだけで今の俺には天国のように感じる。

 

「・・・・・生きている」

 

一回深呼吸をすると自然と独り言が漏れてしまう。

まさかあの状況から生き延びることができるとは思わなかった。

もはや原作通りに事が進むとは思っていないしな。

ヴォルギンの気分次第では簡単に殺されていたかもしれない。

そう考えれば俺の運は尽きていないらしい。

 

「ふっ、死んだ方がマシだったかもしれないがな」

 

顔に笑みを浮かべると鋭い痛みが走るが、今はこの痛みが生を実感させてくれていた。

そして自分の中に“在る”ものもしっかりと感じていた。

拷問を受けていた時に生まれた“ある感情”は今は静かで小さいが確かに俺の中に存在している。

 

 

 

 

『スネーク』

 

名を呼ばれたことで現実と夢の狭間でうろうろしているような状態から引き戻される。

“その名”で呼ぶということは俺のコードネームを知っている者ということだ。

 

身体にエネルギーを与えていたアドレナリンは姿を消しており、身体はガチガチに固まっているようだった。

しかし傷の状態は休む前よりも良くなっている。

この回復力には感謝しなくてはな。

 

俺は痛む身体に鞭打ってベッドから起き上がる。

牢屋の外には食事を持ったセルゲイの姿があった。

 

「セルゲイ、元気そうで何よりだ」

 

「・・・・・スネーク」

 

無傷の状態でいるということは尋問されていたのはセルゲイではなかったということだ。

とにかく無事で良かった。

 

しかしセルゲイの顔色は優れない。

申し訳なさそうな表情のままジッと動かなかった。

 

「それは俺のか?」

 

セルゲイは扉の隙間からロシア製のレーションを渡してくれる。

よりによってレーションかよ()

まあ、蝙蝠よりは“多少“マシか。

 

「悪いな、助かる」

 

そう言いながら食事を受け取るが、相変わらずセルゲイは無言のままだ。

その暗い表情はなんとかならないのか?

 

「それと“コレ”も」

 

セルゲイは少量だが医薬品の類を差し入れてくれる。

いくらチートボディーと言っても、治療するのとしないのとでは治るまでの時間は段違いだ。

それに感染症なんかも怖いしな。

抗生物質なんかは凄く助かる。

 

「ご親切に」

 

特に断る理由が無い俺は素直に差し入れを受け取るがセルゲイの顔色は優れない。

 

「スネーク、すまない」

 

「おい、やめろ」

 

「こうなったのは俺の—————」

 

「やめろと言っただろ」

 

俺はセルゲイの態度と言葉につい感情的になってしまう。

小さく燻っていた“感情”が勢いを取り戻すようだった。

だがこの感情はセルゲイに向けたものではない。

 

「お前が認めてしまったら、俺も認めることになるだろう」

 

気づいていたさ。

誰かが俺のことを売ったということくらい。

それがセルゲイの可能性が高いということも。

 

俺は無線でグロズニィーグラードに潜入したことも西棟に続く通路にいるということもセルゲイに伝えていた。

その後すぐにGRUの兵士に包囲され、ザ・ボスも現れたんだ。

疑うなって方が無理がある。

 

だがそれだけでは決定的な証拠にはならない。

だから俺はセルゲイが裏切り者だと“思わない”ことにした。

甘いと言われればそれまでなんだろうがな。

 

なのに、当の本人がそんな顔をしていたら“思わないこと”もできなくなってしまう。

自白しているようなものだ。

 

「何か・・・理由があったんだろう? 良いさ、まだ生きている」

 

あれだけヴォルギンに対する不信感を募らせていたセルゲイが俺を売るってことは“それなり”の理由がある筈だ。

だがその理由を知りたいなんて気持ちはこれっぽちもない。

敵兵を仲間にしていくという行為自体リスクの塊みたいなものだ。

組織が大きくなればそれだけ敵も多くなる。

原作のMSFやダイアモンドドッグズだってかなりの数のスパイが入り込んでいた筈だ。

 

まあ何が言いたいかというと、いつか訪れる筈だった裏切り行為が思ったよりも早く降りかかって来たってだけの話だ。

それ相応のリスクを背負っている自覚はあったし、それに対するリターンもあった。

命があるだけマシってもんだ。

 

「スネーク、俺は—————」

 

セルゲイが何か言おうとしたタイミングで看守が様子を見に来た。

あまり長く話し込んでもいられる状況でもないしな。

差し入れを貰えたこと自体イレギュラーだ。

セルゲイはそのまま背を向けて去って行った。

 

「食事だぞ」

 

看守はそう言うと蝙蝠を投げ込んでくる。

レーションもあるし、別にいらないんだけど()

俺は再び食事を投げ返してやる。

 

「ん? 悪いな」

 

デジャヴか?

看守は地面に落ちた蝙蝠を迷うことなく口に放り込む。

ソ連の連中が蝙蝠を常食していることはもはや疑いようがないな。

食文化に関しては相容れない確信を得た。

 

そもそも“食”に関して言えば我が国日本に勝る国は存在しないと思っている。

その辺でテキトーに入った店がどこも一定の水準を保っているのは他国ではあり得ないことだぜ?

 

是非ともあの看守を日本に招待したい。

固有の文化を否定する気はサラサラ無いが、日本の食文化の豊かさを普及したい衝動に駆られる。

 

あー・・・もう。

日本での食事を思い出してしまったことでゴミ(レーション)を食べる気が失せてしまった。

蝙蝠よりもマシというだけでレーション自体の味が向上する訳じゃない。

まあ腹減ってるから食うんだけどさ()

 

それにまだ体力は戻っていない。

脱出したところで野垂死ぬのが関の山だ。

今は身体の回復に専念すべきだろう。

俺は手早く食事を終え、セルゲイが差し入れてくれた医薬品を使って治療を行う。

 

 

 

 

食事と治療を終えた俺は極上な寝心地の監獄ベッドで休息を取っている。

原作と違って無線機が無いから誰かと連絡を取ることもできないし、鍵を開けることもできない。

一番手っ取り早いのは外の人間に開けてもらうことだ。

まあ頼んで開けてくれるのならそもそも俺はここにはいないだろう、クソッタレ。

 

その時、看守が再び近づいてくる。

いつも毎回同じ奴だ。

どうしてわかるのかって?

確かにGRUの兵士は全員目出し帽を被っているから顔は確認できない。

だが何故かこの看守は、額部分に“J”の文字が印字された目出し帽を身につけているんだよな。

 

「食事だぞ」

 

この後のことはあえて語る必要もないだろう。

看守が隙間から入れてくれた食事()を、俺はもはや洗練されたといっても過言ではないスムーズな動作で返品?する。

 

「ん? いつも悪いな」

 

もはや知り合いに話しかけるようなフランクさだ。

もうこの流れやらなくて良いから蝙蝠はお前が食べろよ()

んで俺にはちゃんとした人間の食い物をくれ。

 

ん?

おまいうみたいな視線と声をもらった気がするが気のせいだろうか?

 

「・・・・・お前、良い奴だよな」

 

「?」

 

「ホント、アメリカ人にも良い奴いるよな」

 

なんだコイツ、急に話しかけて来たんだが?

まさかあの蝙蝠を投げ返す行為が餌付けのような作用を?!

 

「どうしたんだ、急に」

 

「いや、なんだか懐かしくてな。実は戦争前はアメリカに住んでいたんだ」

 

へー、この看守にそんな裏設定があるとは知らなかった。

だからアメリカ人のスネークに心を開くのが早いのか?

まあ生粋の日本人である俺にアメリカ在住歴があるという言葉はなんのタクティカルアドバンテージもないがな。

 

「懐かしいなぁ、どうして冷戦なんだろうな。前は仲良くしていたのに」

 

看守は俺に背を向けて鉄格子に寄りかかる。

ワンチャン鍵持ってねーかな?

奴の腰回りを確認すると—————あった。

まさかのチャンス到来?

しかし手を伸ばし始めたタイミングで看守がこちらに振り返ってしまう。

 

伸ばしかけた手は行き場を失い、若干の気恥ずかしさを紛らわせる為に腕の調子を確認するように拳を握ったり緩めたり、曲げ伸ばしを繰り返す。

 

「腕の調子が悪いのk」

 

「いや問題ない」

 

決して食い気味だった訳じゃない。

決して。

看守は不思議そうに首を傾げるが特にその話題を引っ張るつもりはないようだ。

 

「家族はアメリカに残してきたんだ。こんな状況だし、元気にやっているのか心配だ」

 

「寂しいな」

 

「ああ、本当に。もう一度家族と会えるなら俺は何でもする」

 

ゲームではただの敵兵—————モブに感情移入することは無いが、現実ではこうやって一人一人に生活や人生があるのだと再認識させられる。

 

「ほら、これが家族の写真だ」

 

そう言うと、看守は俺に家族写真を見せてくる。

大丈夫?

戦場で家族の話や、生きて帰ったら結婚するんだ系の話題は高確率でフラグになるけど()

 

「この子はジョニー、妻と二人でどうしているのか心配だ」

 

ジョニー?

思いっ切り英語圏っぽい名前だな()

 

「お前、ロシア人じゃないのか?」

 

「そうだぞ? ちなみに俺もジョニーだ」

 

は?

どういうこと?

 

「俺の一族は代々長男にジョニーと名付けるんだ。俺の親父もジョニーだし、爺さんもジョニーだ。だからこの子に長男が生まれたらその子もジョニーになる」

 

ジョニーのバーゲンセールにゲシュタルト崩壊してきた。(筆者)

ちょっと待て、代々ジョニーって—————

 

「特に深い意味は無いんだが・・・・・お前、腹が弱かったりするか?」

 

「ん? どうしてわかった? 家系なんだろうな。俺も俺の父親も爺さんも腹が弱いんだ」

 

いや確定ですやん()

前言撤回、コイツただのモブじゃないぞ()()()

 

コイツ、あれだ。

MGS1やMGS4で出てきたジョニー・佐々木の爺さん?か何かだ()

まさかこんな所でアキバの祖先に会うとは思わなかった。

え、これってゲームでも生起するイベントなの?

初めて知ったんだが()

 

「そうだ、これ返すよ。大佐からくすねたんだ。元はアンタのだろう?」

 

そう言うと、ジョニーはタバコ型麻酔銃を手渡してくれる。

俺は礼を言って装備を受け取る。

だが悪いな。

俺は葉巻派なんだ(キリッ)

はい、調子に乗りました。

この身体になるまで葉巻なんて吸ったことありません。

 

「お前、さっき『家族に会う為なら何でもする』と言っていたな? あれは本心か?」

 

「勿論だ。だがソ連軍人の俺がアメリカに住んでいる家族に会うことはできない。仮に会えたとしても家族に迷惑が掛かる」

 

「俺が会わせてやると言ったら?」

 

「・・・・・どういう意味だ?」

 

「お前がソ連に身も家族も全てを捧げるつもりがあるならそれも良いだろう。軍人としてこれ以上ないほどの忠義心だ。だがあの大佐に少しの疑問もないか? 盲目的に付き従っていてお前はそれで良いのか?」

 

「・・・・・」

 

「ジョニー、俺をここから出してくれ。そうすればヴォルギンもシャゴホッドも、俺が排除する。奴はお前の家族のいるアメリカに核を撃ち込もうとしている。それが祖国の・・・いや、ヴォルギンの方針だと言うならお前は黙って従うのか? 賛同するのか?」

 

「俺は・・・! ソ連の軍人だ」

 

ジョニーは明らかに揺れていた。

それは誰が見ても明らかだろう。

しかし彼は決して独房の鍵を開けなかった。

 

むしろそこにジョニーの人となりを垣間見た気がした。

同時にこいつが“欲しい”と思った。

 

「お前は、お前の信じる道を行けばいいさ」

 

「・・・逃げようなんて考えないでくれよ。俺に引き金を引かせないでくれ」

 

そう言うとジョニーは後ろ髪を引かれる様子で去って行った。

滅茶苦茶に“押せば”なんとかなったかもしれないが、どうしてだか奴の気持ちを尊重したくなっちまったんだ。

馬鹿だよな、俺も。

 

 

 

 

あれからまた少し経った。

ジョニーは同様に食事を運んでは来るが必要以上に俺と言葉を交わそうとはしなかった。

さて、いよいよ手詰まりな感じがするがここでいつまでも腐っている訳にはいかない。

無理やりにでもここを出る手を考えなくちゃな。

やはり死んだフリが一番良いかな?

ジョニーのことだから鍵を開けて俺の様子を確認してきそうだが、奴の良心を利用するようなことはしたくないんだよな。

 

・・・・・そんなこと言っている場合じゃないのはわかってる。

わかっちゃいる—————んだけどなぁ()

 

独房の中で腕組をしながら『うーん、うーん』と頭を捻っている俺の様子は、それはそれは変人のように映っていることだろう。

誰にだって?

そんなこと知らんがな!(逆ギレ)

 

その時、何かが聞こえた気がした。

気のせいだろうか?

あるよね、電話が鳴っていないのに鳴っているように錯覚する時。

 

・・・・・また聞こえた—————気がした。

これはどっちだ?

いよいよ俺の頭がオカシクなった方に1億ジンバブエドルを賭けよう。

 

【オ—————ン】

 

いや、俺の頭がオカシクなった訳じゃないのであれば気のせいではないぞ?

誰だ?

その可能性が高いとか言った奴?

怒らないから名乗り出なさい。

 

【オジ—————ャン】

 

スゥー、なんだか聞き覚えがあるような。

 

【オジイチャン、オジイチャン!】

 

もはや懐かしさすら覚えるこの声・・・というか鳴き声はジ・エンドのオウムじゃないか?

記憶が確かならこの地域にオウムは生息していないとウチのやぶ医者が言っていた気がする。

やぶ医者の言っていることだから信用できないけど()

 

『な!? この鳥、どこから入って来た!?』

 

なんか向こうの方でわちゃわちゃしている声が聞こえてくる。

天文学的な確率でたまたまあの鳥がこの場に現れたわけじゃないのであれば—————

 

【チー! チー!】

 

「おま、どうしてここに?」

 

鳴き声を上げながらピョンピョンと跳ねながら姿を現したのはジ・エンド戦後に別れたツチノコだった。

 

【チー! チー!】

 

言葉は分からないが何を伝えたいのかは理解できた。

コイツはジ・エンドと戦った森から俺を追ってきたのだ。

なぜだか目から鼻水がチョチョ切れそうになるが何とか抑え込む。

風邪でも引いたか?

 

「喜ぶのは後だ。看守の腰にここの鍵があるんだが手に入れられるか?」

 

【チー!】

 

ツチノコは『任せろ!』とでも言うように頼もしさすら感じさせる鳴き声を上げて姿を消した。

遠くの方では相変わらずジョニーとオウムがやり合っている声?音?が聞こえる。

 

『な、なんだ!? うわぁ!!』

 

ジョニーの叫び声が聞こえた後に、ひと際大きい音が建物の中に響き渡る。

それを最後に辺りは静かになった。

 

【オジイチャン、オジイチャン!】

 

【チー!】

 

・・・・・まるで動物園だな。

人間の方が檻の中というのは笑えない冗談だが。

 

「よくやった」

 

俺はツチノコが咥えている鍵を受け取り、もはや賃貸料が掛かりそうなほど滞在した(ような気がする)牢から出る。

監獄エリアから出る前にある程度の装備を確保する必要もある。

・・・・・の前にジョニーの状態を確認するか。

 

死んでるのか、気絶しているのか不明だがとにかく額にJの文字がある兵士は仰向けで倒れていた。

状態を確認すると気絶しているだけのようだ。

あー、後ろ向きに倒れ込んで後頭部を打ったんだな。

頭を打たないようにするのは受け身の基本だろうに()

 

とりあえずジョニーのAKと装備を頂く。

っていうかコイツ、即席ラーメン持ってやがった()

喜んで蝙蝠喰ってたくせにラーメンの美味さを理解できるとは思えない。

これは俺が貰っておこう。

その方がラーメンの為でもなるだろう。

 

俺の即席ラーメンはセルゲイ、ミハイル、ニコライの三人に食わしちまったからな。

あの時の腹の減り様は相当なものだったんだろう。

火傷することなんてお構いなしに一瞬で平らげていたな。

あの時のことを思い出して、つい笑ってしまう。

 

・・・・・セルゲイには後で話を聞かないとな。

このままフェードアウトなんて許さないぞ?

 




はい、お疲れ様でした。

まさかのセルゲイ兄さんの裏切り()
正史と違って医療品や無線機も取り上げられていましたね。
良いのか悪いのか、仮死薬も撃ち込まれていないし()

ようやくツチノコと再会できました。
いやぁ寂しかった。
置いて行かれたにも関わらず健気に追いかけてきたと考えると作者の涙腺崩壊不可避()

それではまた近いうちに・・・・・
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