魔法科高校の劣等生に転生したら生まれた時から詰んでいた件について(仮) 作:カボチャ自動販売機
今章最終話です。
──貴女では雪花のパートナーは任せられない。
そんな言葉に反論の一つも出来ないで、そうかもしれない、なんて思ってしまう自分に強さなんてあるはずがなかった。
雪花が何を抱えているのかは知らない。
でも、雪花が大きなものを背負っていて、それに雪花が人知れず苦しんで、心の奥底に隠しているのも知っていた。
分かっていたのに……見えてないふりをしたのだ。
どうしようもない自分、見守るだけしかできない、弱くてずるい自分。
ぐるぐる、ぐるぐる、と頭を巡るネガティブな思考。
きっとそれも自分の悪いところだ。
午後一発目の授業をサボってしまったことで、クラスメイトから随分と心配され、下校時も一緒に帰る?なんて友人から聞かれ、苦笑しながら断りを入れて、一人で歩く帰り道。
かつてないほど負のオーラを撒き散らしながら歩くあずさの前に、ふとその男は現れた。
「こんにちわ、お嬢さん」
白い白衣に黒い髪。流暢な日本語を話すが、その顔立ち、体格は日本人のそれではない。青い瞳は透き通るように透明で、浮かべた笑みは優しげ。
どこか不思議でチグハグな印象を受ける男だった。
「……貴方は……?」
「私はしがない科学者さ、でも魔法使いでもある」
あずさは小心者だ。それは警戒心が強いということであり、危険を察知する能力が高いということなのだが、その彼女が何故か彼には警戒することもなく、むしろ、旧知の中であるかのように親しみすら覚えていた。
「科学と魔法は表裏一体、だからこそ私は科学者であり、魔法使いでもある」
魔法使いではなく魔法師ではないのか、と疑問を抱きはしたが、彼は自分を魔法師ではなく、科学者であると名乗った。ならば魔法使いという言い回しは、何かの例えなのだろうと推測する。
そしてあずさのその推測は間違いではなく、実際、魔法使いという言葉が指しているのは魔法師のことではない。
「そして科学者であり、魔法使いでもある私はお嬢さんを導くためにこうして馳せ参じたというわけだ」
そう言って恭しく英国式の礼をする男。
その姿は魔法使いというよりも奇術師のよう。
「貴女には才能がある」
唐突に男は話はじめる。そしてあずさもそれを疑問に思うこともなく、話に耳を傾けた。
「もっと自分に自信を持つべきだ。貴女は誰にも代えられない唯一無二の存在であるべきなのだ。路頭の石のような者たちとは違う、
自分に多大な期待を抱くことはしない。そうすれば落胆も小さく、諦めもつくから。
自分程度の人間は沢山いるし、自分より上にはもっと凄い人たちが沢山いる。
だから、だから、だから、だから。
言い訳を、逃げ道を。積み上げて、連ねて、重ねて。そうやって生きてきた。
自分は弱い人間だ。
傷つくことはしたくなくて、小さく縮こまって、仕方がないと諦めて。
分かっていながらそれを改善する勇気もない。
「そもそも貴女は一校にトップで入学したはずではないですか。それはこの国の中でも随一の才能を持っているということに他ならない。そして生徒会長という任に就いた。何事でも長の立場に選ばれるものにはそれなり以上の人望が必要だ。さて、はたして貴女は何をもって自分は弱いなどと思うのでしょうか?」
思い出されるのは論文コンペ、横浜での出来事。自分は生徒会長だというのに、何も出来ずにただ見守り、守られているだけしか出来なかった。それのなんて弱いことか。守るべき、守りたいものを一つとして自分の力では守れない。それのなんて辛いことか。
清水の舞台から飛び降りるかのような気持ちで受験した一校。そこにトップで入学しようとも、生徒会長に任命されようとも、結局自分は弱くてずるい中条あずさのままで。
泣きたくなるくらい辛いのに、苦しいのに、結局は、ああ、仕方ない、と思ってしまう自分が嫌で。
けど、そんな自分を好きだと言ってくれる人がいて。
その人のことがどうしようもないくらい好きなのに、それさえも諦めようとしていることがもっと嫌で、そんな自分がもっと嫌いで。
強く、強くなりたい。
もう嫌だった。
守られるだけなのも、諦めるのも。
「えぇ、分かっていますとも。貴女が何を思い、何を欲しているのかは。ならば私はただ授けるだけ。貴女に授けましょう。
貴方の側にいたい。側にいると伝えたい。
ちっぽけな私でもそれができるというのなら。
貴方と一緒に歩んでいけるというのなら。
きっと私は──
翌日、中条あずさ失踪のニュースが学園を揺るがした。
次章、ついに最終章です。
全ての伏線を回収できるようにしたいんですが、バラまき過ぎて中々厳しい(汗)
既に完結まで大体の話は頭の中で出来上がっているのですが……衝撃の展開連続、シリアスフィーバー状態になるでしょう。
衝撃の展開はもうずっと前から伏線を仕込んでいるので、書くのを楽しみにしています。
では、また次章で!