【魔法美容師(マジカルエステ)】を得た転生者は栄耀栄華の夢を見るか 作:好きな念能力は4次元マンション
水曜日は午前7時35分。その日も朝から
「追ってきたらこの裕福な家族ブッ壊してやるからな!」
「俺を追ってくるなよヒーロー共!」と家族連れを人質に取ってヒーローたちの追撃を躱そうとする異形型の
シンリンカムイや
「もう大丈夫だファミリー!」
どこからともなく現れ、背後から「MISSOURI SMASH!」の掛け声と共に一撃で敵を倒したのはNo.1ヒーロー・オールマイトその人。
「何故なら私が、通勤がてら来た!」
敵が倒れるよりも先にオールマイトは家族連れを助け出し、小脇に抱えていた。
通行人たちから歓声が湧き、オールマイトを称える。
「助かりました、オールマイト。我々も手をこまねいておりまして……」
「協力出来て何より! 遅刻するとやばいんでそれじゃ!」
オールマイトは警察に倒した敵を引き渡して雄英高校へ向かおうとするが、彼の耳が「ひき逃げ!」との悲鳴をキャッチする。
”誰かの助けを求める声”を聞いて動かないオールマイトではない。そのままジャンプをして悲鳴が聞こえた方角へ向かう。
「(速度が落ちた……。緑谷少年に『OFA』を譲渡した後、私の”力”は衰えつつある)」
オールマイトは6年前、宿敵である
しかし、退院した後も胃や肺の一部を失ったにも関わらず依然として自身を顧みないヒーロー活動を続けた事によって憔悴し、今ではトゥルーフォームというやせ細った姿*2がデフォルトになってしまった上、『OFA』を使用する筋骨隆々の姿、マッスルフォームでヒーロー活動ができる時間は1日約5時間ほどにまで短くなってしまっている。
現在、オールマイトは『OFA』を譲渡した後の”残り火”……使えば使うほどに失われ、消えていく
「(しかし、緑谷少年や修善寺少年……。次代のヒーローは確実に芽吹いている)」
己を救ってくれた、リカバリーガールの孫にして次代のリカバリーガール・修善寺念治。そして自身の”後継”、次代の平和の象徴・緑谷出久。
念治は先週末には緑谷の個性制御訓練のために自身の時間を費やしてくれ、緑谷の個性制御は何十歩も進んだ。
その後に緑谷と組手をしたオールマイトだったが、弟子の成長に嬉しくなってしまって加減を誤り、つい緑谷に腹パンをキメて嘔吐させた時、自身の学生時代の記憶がふと蘇ってしまい緑谷に謝罪しながらブルブルと震えていた。
失態を思い出したオールマイトはトラウマで震える腕で己の頬を叩き、気合を入れる。
「(私もしっかりせねば!)」
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緑谷に付きっ切りで行った週末の個性制御訓練は一定の成果を収めた。
個性『OFA』を全身に纏った強化状態、”フルカウル”である程度──オールマイトが一般
俺の目から見ても、”フルカウル”状態の緑谷は一般的な増強系の『個性』より多少ではあるが出力が高い。
週末の時間を使った甲斐があった。緑谷がヒーローになるのはオールマイトが弟子に取っている以上確定事項。2代目”平和の象徴”として
俺は
八百万と昼食を取った後、午後12時50分*3。イレイザーヘッドが教卓で今日の授業の概要を説明し始めた。
「今日のヒーロー基礎学だが、俺とオールマイト。そしてもう1人の3人体制で見ることになった」
「なにするんですか?」
「災害水難なんでもござれ。
人命救助訓練と聞いて、クラスメイトがヒーローの本分や大変そうなどとざわつく。
オールマイトが先週実施したヒーロー基礎学以降は戦闘訓練のように『個性』を使用する事はなく、座学や筋力トレーニングが主だったためだ。
それを一睨みで黙らせると、イレイザーヘッドが再度口を開く。
「今回コスチュームの着用は各自の判断で構わない。中には活動を制限するようなものもあるだろうからな。訓練場は少し離れた場所にあるからバスに乗っていく」
イレイザーヘッドの号令でクラスメイトが粛々とコスチュームを受け取り更衣室へと向かう。
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バスに乗って訓練施設に向かう道中。蛙吹から緑谷の『個性』がオールマイトに似ているという鋭い指摘を受け、しどろもどろに誤魔化す緑谷を皮切りに各々の『個性』がどれだけプロに通用するかという話題になった。
「派手で強えっつったら、やっぱ轟、爆豪に修善寺だな」
「ケッ」
「確かに! 特に修善寺はどんだけできる事あるの!? って感じだもんね」
そっぽを向いた爆豪の言葉に被せて芦戸が言うと、皆の注目が最後列に座る俺に向いた。同じく話題に上がった轟は目を瞑っていて我関せずの状態だった。
「戦闘訓練で見せたもの以外にも色々あるよー。機会があれば披露できると思うけどね」
「ケロ。修善寺ちゃんは大丈夫だろうけど、爆豪ちゃんはキレてばっかだから人気でなさそ」
「んだとコラ出すわ!!」
爆豪の抗議の咆哮に蛙吹は「ホラ」とあっけらかんと言う。
それから爆豪の粗野な言動をイジる上鳴に再び爆豪がキレるが、イレイザーヘッドの鶴の一声で皆姿勢を正して黙りこんだ。
「低俗な会話ですわね、念治さん」
「うーん……。でもまあ、仮にもヒーロー志望なんだから粗野な言動もすぐに改善されるよきっと」
爆豪の発言を受けて眉間にしわを寄せる八百万に答え、バスは目的地にたどり着く。
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その13号の登場に沸き立つA組一同をよそに、イレイザーヘッドが小声で13号に話しかける。
「13号、オールマイトは? ここで待ち合わせるはずだが」
「先輩、それが……」
イレイザーヘッドの言葉に、
「通勤時に制限近くまで活動してしまったみたいで……今は職員室で事務作業をしています。『途中からなら参加できるから!』とのことで……」
「不合理の極みだな、オイ……」
今日の演習を含むヒーロー基礎学は5限から7限までになっている。1限50分の授業のため、
「(まあ、念の為の警戒態勢……。途中から参加できるならまだ良いか)」
「仕方ない、始めるか」
「はい。えー、始める前にお小言を1つ2つ……3つ……」
「(増える……)」
スペースヒーロー・13号の演説が始まった。
自身の個性である『ブラックホール』で人命救助を行っているが、”どんなものでも吸い込んでチリにする”力である事に変わりはなく、人を簡単に殺せてしまう力である事。
超人社会は『個性』の使用を資格制にして厳しく規制することで一見成り立っているように見えるものの、誰もが容易に”人を殺せる行き過ぎた力”を持っている事を忘れないで欲しい事。
「ですので、この授業では心機一転。人命の為に『個性』をどう活用するかを学んでいきましょう」
ご清聴ありがとうございました、とぺこりとお辞儀をする13号。
「そんじゃあまずは……」
概要を説明しようとした矢先、イレイザーヘッドは違和感を覚える。USJ中央の噴水近くを見ると、黒い渦のようなものが発生していた。そこから出てきたのは顔面に
──
「──っ、一かたまりになって動くな! 13号、生徒を守れ!」
「なんだありゃ? また入試の時みたいなもう始まってんぞパターン?」
「違う! 動くな、あれは
イレイザーヘッドの動きは迅速だった。まだ状況を把握していない切島たちA組生徒を一喝し、目を保護するゴーグルを装着。戦闘態勢に入った。
「13号に……イレイザーヘッドですか。
「やはり先日のはクソ共の仕業だったか」
先週のマスコミが雄英の敷地内に侵入した事件で、雄英バリアの一部が破壊されていたためにこの数日間、校舎を離れる授業の際には複数の教師を伴って行うというのは雄英バリアが破壊された当日に校長によって決定されていた。
校長の懸念が当たっていた上に、こうも容易く雄英に侵入されてしまった事に内心舌打ちをするイレイザーヘッド。
「オールマイトどこだよ……。こんなに大衆引き連れて来たのにさ……」
イレイザーヘッドたちが立っている場所を見て、目当ての人物がいない事を確認した白髪の敵。
「子供を殺せば来るのかな?」
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「13号避難開始! 学校に連絡試せ! 電波系の『個性』が妨害している可能性もある。上鳴も『個性』で連絡試せ」
「ウッス!」
イレイザーヘッドが的確な指示を飛ばし、
彼が戦闘している間に13号が俺たちを避難させようと入り口へ移動していたところに、先ほど敵集団を移動させた『個性』を持つ黒モヤのような
「散らして、
「(一瞬でここに移動してきた事も踏まえると、こいつの個性は『ワープ』の類い!)」
八百万の場所は俺の右斜め前。”練”とオーラ放出で一気に跳躍すれば移動させられる前にこの黒モヤの範囲外に出ることができる。
「百ちゃん──っ!」
”練”をして一歩踏み出した俺の足元には、既に敵の黒モヤが仕掛けられていた。この黒モヤは体から直接伸びている。つまり、この敵は体自体が黒モヤであり、それは腕を伸ばしているようなものであるはずなのだが。
「(なんで!? コイツ、生命エネルギーが感知できない!?)」
俺は”纏”や”練”など、オーラを纏った状態であれば他人の生命エネルギーを感知することができる。そしてこいつはこのモヤからも、本体を見ても生命エネルギーを感じ取れない────つまり。
「(人形!? いや違う。ワープができる人形なんて物、今のサポートアイテムの技術で、それも
しかし、俺のオーラは俺の考えを”現実”として否定している。コイツは”動く死体”なのだ。
侵入した敵のうち何者かの『死体を操る』類いの個性にかかった者かと考えたが、死体の細胞は時間経過でどんどん死滅していく。それは個性因子も例外ではない。
オールマイトが教師になったこのタイミングで『ワープ』個性の人間が丁度良く死に、その死体を利用して雄英襲撃? ──それこそありえない。
脳内で高速思考しながら脱出を試みるが、俺は勢いよく踏み込んでしまった足から抵抗空しく敵の黒モヤに飲まれてしまった。
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俺が飛ばされたのは噴水のあるセントラル広場の空中。天井に触れられるくらいの高所で、何もせずただここから落ちれば潰れて即死だろう。
先ほどイレイザーヘッドが飛び出して戦っている場所でもある。落下しながらセントラル広場を確認すると、イレイザーヘッドは未だ戦闘中。多数の敵を相手取っていた。
俺は懐から銃を取り出し、全身にオーラを込める。
「──イレイザーヘッド! 一掃します!」
「修善寺!?」
”凝”をした足からオーラを勢いよく大量に放出し、着地の衝撃を無くして周りの敵連中に既にオーラの充填が完了している銃口を向ける。
「<
銃口から無数の念弾が放たれ敵を襲う。
俺が持つ対多数の技だが当然、撃つ敵が多ければ多いほど消費するオーラ量は多い。
「うわああ!」
「きゃあああ!」
悲鳴を上げて敵が倒れる。俺は負傷していたイレイザーヘッドを抱きかかえ、後方に距離を取る。
イレイザーヘッドを下ろすや否や、彼は
「修善寺、無事か!」
「すみません、イレイザーヘッド。黒いモヤを放つ敵に『ワープ』させられました。恐らく他のクラスメイトも別の場所に」
「……『抹消』の効果が切れたタイミングで逃がしちまったからか……。すまん。俺の失態だ」
「いえ、それよりお伝えしなければならない事が。黒モヤ敵とあの脳みそ丸出し敵ですが、あいつら生命エネルギーを発していませんでした。恐らく死体──」
「────脳無」
「──がっ」
俺の隣に脳みそ丸出しの大男が現れたと認識した時には既に、イレイザーヘッドは地面に叩きつけられていた。
「──なんっ」
間髪をいれずに、物言わぬ大男の右ストレートが俺に放たれる。全力の”流”で両腕に”凝”をしてガードするも、途轍もない威力で後方に吹っ飛ばされる。壁に激突するも、”堅”で体を守る。
「勘弁してくれよ……。子供の必殺技一発でダウンなんてさ……」
「(攻防力90の”凝”でも骨にヒビが入ってる……。これだけ俺が吹っ飛ばされ、激突した壁が粉砕されるような力。あいつのパンチを真正面から受けるのは”硬”でもしないと無理だ)」
瓦礫に埋もれながらクッキィちゃんでヒビの入った腕を回復する。
「(セントラル広場にいた敵全員に向けて念弾を放ったはずだ。あの手だらけ男が無事なのは恐らく、頑強そうな脳無と呼ばれた脳みそ丸出しの方が手だらけ男を庇ったから……。
脳無の方は十中八九”
目にも止まらない高速移動。更には黒モヤの
手だらけ男──こいつが指示を出しているのを見るに、”死体を弄んで
狙うは手だらけ男。『死体を操る』という発動系の『個性』と仮定すると、基本的に発動系は本人が気絶すると解除されるハズ。
……奴は俺を吹き飛ばして倒したと油断している。こちらを一瞥もせず上機嫌にイレイザーヘッドをなぶっているのがその証左だ。ここからなら気づかれずに狙撃して気絶させることも容易だ。
「(
銃にオーラを充填し、手だらけ男に向かって放出する。速度特化の念弾が奴のこめかみに当たる瞬間、すっと頭を逸らされて躱された。
「何……!?」
「危ない、危ない……。銃持ってる奴はこういう事するよなあ。わかるぜ? ヘッドショットは気持ちいいもんなあ?」
顔面に付けた掌の奥で俺を嘲笑っているのがわかる声音。得意げに念弾を避けた事を誇ってくる。
「(最善策は潰された。なら次善だ)」
今の俺にあのバケモノ染みた強さの脳無と手だらけ男を同時に相手取るのは不可能。なら、手だらけ男の指示が届かない距離まで脳無を吹き飛ばして、その間に手だらけ男を気絶させる。
ワープができるモヤ敵が此処に戻ってきたらこの策もおじゃんになる。13号がモヤ敵を相手取っている今しか勝機がない。
敵の最大戦力だろう脳無さえ吹き飛ばしてしまえば必ず隙が生まれる。そこでイレイザーヘッドを治癒すれば2対1。──勝てる。
己を鼓舞して起き上がり、両手の銃を構える。
「脳無に吹っ飛ばされたのに、まだ向かってくるのかよ……? いいね。オールマイトの前哨戦だ。──脳無、その綺麗な顔吹っ飛ばしてやれ!」
ごぉっ! と凄まじい勢いで俺に向かってくる脳無。手だらけ男の言葉通り、俺の顔面に向かって右拳を振るう。俺は”堅”の状態かつ2丁銃に”周”でオーラを纏わせる。
迫る右拳。
”周”をしていた2丁銃に”流”でオーラを流し、瞬間的に”硬”とする事で劇的に威力を上げたグリップエンドをその拳の小指球部分に思い切り叩きつけて拳を逸らす。
勢い余った拳で自分を殴る脳無。決定的な
「くらえ──っ!
2丁銃を両腕で構え、銃口にオーラを圧縮・収束させて超強力な念弾を放つ。
脳無を飲み込むオーラの奔流。凄まじい破壊音と共に周辺一帯の床が抉れ、土煙が俺を包む。
「くくくっ! ははははっ! 残念だったなあガキ? 脳無の『個性』は──」
なんで、吹っ飛ばしたはずの脳無が目の前に──。
「──『ショック吸収』だよ。『怪力』だとでも思ったか? 残念。コイツは素でオールマイト並の身体能力なんだよ!! やれ、脳無!」
先ほどとは比較にならない神速の拳が俺に向かってくる。
俺の最大火力である
本気じゃなかったんだ、遊びだったんだ。
拳速すぎだろ。オールマイト並って言葉に偽りなしってか。
今までの戦闘──生まれて初めての実戦でオーラの消耗が想定よりはるかに多い。もう全力の”流”で”硬”をするのは間に合わない。
嘘だろ。最近まで『個性』使えなかったんだぞ。
金も稼げてない。金持ちになるんだ俺は。
やっとだ。雄英に入学して、公安にも繋がりができて。
これからだってのに。
あー、なんでこんなに思考できるんだ。なんだっけ。
そうだ、確かタキサイキア現象だ。死ぬような事故にあった時、周りがスローモーションになったりするヤツ。
死──死ぬ? 俺、死ぬのか。
ふざけんな。
────────────────────────
水難ゾーンに飛ばされた僕、蛙吹さん、峰田君の3人はそれぞれの『個性』を駆使してなんとか
先週末に会得した”フルカウル”は残念ながら付け焼刃もいいところで、水中に潜む
そのため、峰田君の『もぎもぎ』を湖に投げ込み、指を犠牲にした100%デラウェアスマッシュで水面をえぐり、
「(修善寺君には、また怒られちゃうかな……)」
「とりあえず、救けを呼ぶのが最優先だと思う。このまま水辺に沿って広場を避けて出口に向かうのが最善」
「ケロ。そうね。広場は相澤先生が敵を大勢引きつけてくれて────っ、緑谷ちゃんあれ!」
「修善寺君!?」
相澤先生が敵を引きつけていてくれていると思っていたけれど、大量の敵は倒されており、相澤先生は頭から血を大量に流して倒れていた。その代わりに、修善寺君が脳みそ丸出しの敵と戦っていた。
「な、なんで修善寺が戦ってんだよ!?」
「多分、修善寺君も僕らと同じように飛ばされたんだ……! 多分、どこかの災害ゾーンとかでなくここに直接!」
「ええ。いくら修善寺ちゃんが強いと言っても、相澤先生の言葉を無視して戦場に飛び込んだりしないわ」
広場の戦闘は脳みそ丸出しの敵のパンチを上手く避けた修善寺君の反撃が放たれるところだった。
「くらえ──っ!
修善寺君の必殺技の咆哮と同時に、凄まじい破壊音と共に土煙が舞い上がった。
「す、すげえ。あの強そうな
「ケロ……!」
「修善寺君……!」
土煙が晴れると、そこには無傷の敵が。
「くくくっ! ははははっ! 残念だったなあガキ? 脳無の個性は『ショック吸収』だよ! 『怪力』だとでも思ったか? 残念。コイツは素でオールマイト並の身体能力なんだよ!! やれ、脳無!」
そう言い放った手だらけ男の言葉に従い、脳無と呼ばれた脳みそ丸出しの敵はその丸太のような腕を振るい、修善寺君の胴を貫いた。
「は────?」
言葉を失った僕たち。目の前で起きた事が信じられなかった。だって、あの修善寺君が──。
最後の抵抗だったのか、修善寺君が放った銃弾は明後日の方向へ射出され、
脳無と呼ばれた敵が修善寺君を貫いていた拳を引き抜いた。どくどくと血が流れ出ている。距離が離れていて聞こえるはずがないのに生々しい音が耳元で聞こえた気がした。
「う、うおえっ」
気が付くと、僕は嘔吐してしまっていた。峰田君は目を閉じていて、蛙吹さんも目を逸らしていた。
「死柄木弔」
「黒霧。13号はやったのか」
「行動不能にはできたものの……、散らし損ねた生徒がおりまして……。1名逃げられました」
「……は?」
手だらけ男は大きなため息を吐くと首を指でガリガリをかきはじめた。
「黒霧お前……折角良い気分だったのにさあ。お前がワープゲートじゃなかったら粉々にしてたよ……。さすがに何十人ものプロ相手じゃ敵わない。今回は帰ろっか」
ゲームオーバーだ、と連呼しながら
「
そう呟いた手だらけ男はいつの間にか、僕らの──蛙吹さんの目の前で掌を広げて彼女の顔を掴んだ。
「なんだ。少しはやるじゃないか、イレイザーヘッド」
顔から出血しながら手だらけ男を鋭い目で睨む相澤先生。『抹消』の個性で封じてくれたんだ!
僕はすぐに”フルカウル”を発動し、蛙吹さんの救出を試みる。
「手……放せぇ!」
「脳無」
感情が高ぶり、制御がブレブレのSMASH。制御可能な5%を大きく超過したそれは、目の前に現れた脳無の腹に直撃し完璧に無効化されてしまった。幸い、腕の感触から折れていない。
「いい動きをするなあ。スマッシュって……オールマイトのフォロワーかい? まあ、いいや君」
僕はそのまま、脳無に腕を掴まれそうになった時── ドン! という破壊音で床が割れた。
「もう大丈夫。私が来た」
修善寺君が空けた天井の穴から、オールマイトが来た。
────────────────────────
「今しがたの大きな
「待ったよヒーロー。社会のゴミめ」
薄ら笑いを浮かべる手だらけ男に対し、全く笑っていないオールマイト。
オールマイトが跳躍したと思えば、僕らはオールマイトの腕のなかにいた。一瞬で救けられたのだ。
「皆、入口へ。蛙吹少女と峰田少年は相澤くんを頼む。緑谷少年は修善寺少年を”フルカウル”で保健室まで運ぶんだ。予断を許さない。早く!」
「は、はい!」
「ケロッ」
僕らがオールマイトの指示通りに動こうとした時、相澤先生が力を振り絞り、僕にか細い声で囁いた。
「オー、ルマイトに伝えろ。あの脳みそ
それだけ言い残し、相澤先生は再び意識を失った。
僕は敵に聞かれないよう、オールマイトにだけ聞こえる声で話す。
「オールマイト! あの脳みそ
「何!? ……そうか、わかった!」
一瞬驚いた様子を見せたオールマイトだけど、すぐにいつもの笑顔に戻った。
そして敵の目の前に立ち、戦闘態勢を取る。
「死体とは趣味が悪いな、
「……なんで脳無が死体だとわかった? イレイザーヘッドか?」
「……どうやら、
「っち、カマかけか! ……はっ! 重役出勤ご苦労さん。あの黒髪のガキは腹をぶち抜いたんだ! もう死んでるんだぜ、オールマイト! お前が殺したんだ!」
「……っ!」
オールマイトが離れた場所で戦闘を始めた。
「修善寺君……っ」
お腹が
「なんだ……!?」
僕が”フルカウル”を発動して修善寺君に触れた瞬間、彼の個性──クッキィちゃんが出現した。
出現したクッキィちゃんは週末に見た時と姿がまるで違う。淡く発光して粒子のようなものが出ているし、スカートスーツではなく、翠色のワンピースを着ている。髪もピンク色ではなく金髪のロングヘアーになっているし、治癒の度に印象に残った注射器型のペンダントは無くなり、代わりに胸の辺り*4に入れ墨のようになっている。
「主の、望みを……」
修善寺君を見つめていたクッキィちゃんはそう言い、そのまま僕の胸に手を触れて、口にキスをしてきた。
その刹那、僕の体から体力やら生気といった類いのものが失われていくのを感じた。クッキィちゃんの呼吸に合わせてどんどん活力が吸い出されているようで、いつのまにか僕は立っていられなくなってしまった。
この感覚は覚えている。リカバリーガールの『癒し』を受けた時のようなあの感覚。それを数倍キツくしたような感じだ。週末に修善寺君に体を整えてもらっていなかったらそのまま気絶していたであろう脱力感。
僕の胸から手を離したクッキィちゃんの注射器の入れ墨は光り輝いていた。彼女はそのまま修善寺君の頬に両手を添え、優しくキスをした。すると、修善寺君は光りだした。眩い光に耐えられず、思わず目を瞑った。
「修、善寺君……?」
光が収まり目を開けると、白衣を巻きつけても窪んでいた修善寺君のお腹が膨れていた。
「う、……み、どりやくん」
「修善寺君!!」
修善寺君に巻きつけていた白衣を解き、体を自由にさせる。修善寺君のお腹は先程の光景が噓だったかのように綺麗で傷一つない。
「良かった……っ。本当に……!」
「──ありがとう、緑谷くん」
修善寺君は涙を流す僕の目を手で拭い、柔らかな笑顔でそう言った。
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念治の復活と時を同じくして、オールマイトと脳無の戦いは佳境に入っていた。
一時は脳無と黒モヤ敵──黒霧によって自由を奪われたオールマイトだったが、轟焦凍、爆豪勝己、切島鋭児郎の助力もありピンチを潜り抜けた。
「キミの個性が『ショック無効』ではなく『吸収』ならば、限度があるんじゃないか!? 私の100%を耐えるなら! さらに上からねじ伏せよう!」
オールマイトによる『OFA』100%を超えた拳のラッシュ。目にも止まらない乱打で巻き起こる風圧。誰も近づけない中でついに脳無の『個性』に限界が訪れる。
「さらに向こうへ──Plus Ultraァァァァl!」
オールマイト渾身の右拳が『ショック吸収』を持つ脳無を吹っ飛ばした。彼のラッシュが、『ショック吸収』の許容範囲を超過させたのだ。
脳無は吹き飛ばされ、USJの天井を突き破った。
「やはり衰えた……。全盛期なら5発も撃てば充分だったろうに。
「う、うおおお……!」
脇腹から血を流し、体も負傷しているものの、
「黒霧! ゲート……」
「逃がすか!」
オールマイトが敵たちを逃がすまいとするが、脳無との戦闘が響いているのか初速が遅い。黒霧の『ワープゲート』が死柄木を包もうとする刹那、死柄木の両腕両足が撃ちぬかれた。
「ぐあっ、……!? あのガキ、なんで生きてんだ!?」
「死柄木弔……!」
撃ちぬいたのは念治。
「今回は失敗だったけど……。今度は殺すぞ。オールマイト!」
死柄木と黒霧はワープし、USJを去った。
そのすぐ後に雄英のプロヒーローたちが到着し、残存している敵たちを確保して回ったのだった──。
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とあるバーにて。ワープした死柄木は床に倒れていた。
「ってえ……。両腕両足撃たれた……平和の象徴は健在だった。話が違うぞ”先生”!」
完敗だとしつつ、モニター越しの”先生”に問う。
見通しが甘かったなどと死柄木の行動を批評しつつ、脳無がその場にいない事を”先生”が問う。
黒霧が「吹き飛ばされ、正確な位置がわからなかったため探せなかった」と説明する。
「せっかくオールマイト並のパワーにしたのに……」
「まァ……仕方ないか。残念」
パワー、という言葉に死柄木は”1人”の生徒を思い浮かべる。
1人は銃撃を主とする戦闘方法の”修善寺念治”。脳無の『個性』によって無効化していたが、彼の身体能力や強さは死柄木から見ても相当なものだった。
「1人……ガキにしてはやたら強かったやつがいた……。身体能力と、回復技まで……。
「……へぇ?」
興味深げに死柄木の言葉に耳を傾ける”先生”。話を聞き終わり、「悔やんでも仕方ない!」と死柄木弔を励ます。
「我々は自由に動けない。だから君のような”シンボル”が必要なんだ、死柄木弔! 次こそ君という恐怖を世に知らしめろ!」