魅力的な異性に惹かれる事は悪い事じゃない。
互いに理解を示し、納得しているのなら他人が口をはさむ事ではない。
生き物は三大欲求に抗えないものだから。
ましてや、一度捨てた物に執着するなど愚かさの極みであろう。
魔理沙と鈴仙と……色んな女性と肌を重ねる事になってようやく気が付いた事だが、俺は意外と女性から好意的に思われているらしい。
特に、妖怪達からのアピールが凄かった。
「あやや~おじゃましますよ~」
「おっ、烏天狗が新聞配達ついでにエロい事しに来たぜ」
「おやおや魔理沙さん。安定期だからと言って激しい
「いーんだよ。祐希特製の魔法薬飲んでるし……時々しっかりとあ、あ、愛されたいし……」
「やれやれ、人間は弱いものと思っておりましたが……自身の欲求を満たすためには幾らでも強くなるもんですねぇ」
場所は魔法の森の霧雨亭。
烏天狗の射命丸文と魔理沙が平然と会話しているが、魔理沙はほぼ裸に近い状態で全身に
俺は自身の欲を抑えられない『至らなさ』に顔を覆い赤面の至りであるのだが、『新たなメス』の到来を察知した愚息がむくむくと力を取り戻していくのを感じて軽く死にたくなった。
「おやぁ~?『愛する妻が横に居る』にも関わらず、早速浮気に走るとは本当に……良い御身分ですね?」
「ほんと、私の旦那様は精力旺盛で困るぜ。ゆっくり風呂入ってから朝飯作るから、まあ
ニヤニヤと笑う烏天狗と、仕方ないなぁと笑いながら頬にキスをする魔理沙。
それじゃ、と一人風呂場へ向かう魔理沙を見送った後、すぐさま俺に飛び掛かってくる射命丸文。
「ふふふ……今日こそ私の身体にメロメロにさせてあげますねぇ……♥」
そう言って射命丸は、その短いスカートをたくし上げながら下着をずり降ろした。
◆
「くっ……イッ……くぅぅぅッ……♥」
「ぐぅ……出る……!!!」
今日は紅魔館の門。その前に立つ門番である紅美鈴の中へ
「えへへ。貴方とずっとこうしていたかったです♥」
紅美鈴とはそこそこ長い付き合いとなる。それこそ、幻想郷が紅い霧に覆われた異変の時からの付き合いだ。
何度も拳と拳を突き合わせる仲。今までは武人として見ていたが、紅美鈴は初めて出会った時から俺の事を男性としても見ていたとの事だった。
ブンブンと手を振る紅美鈴と別れ、霧の湖の中へ飛び込む。湖の中は見通せる程に澄んでおり、大きな魚が何匹も泳ぎ回っているのが良く見えた。
魔法や霊撃で元気な魚を何匹か生け捕りにしてると、大きな影が吸い寄せられるように俺に向けて突進してくる。
その突進に直撃した俺は、勢いそのままに霧の湖のほとりへ押し出された。
「ようやく捕まえたわ」
「ごほっ、ごほっ……わ、わかさぎ姫か。久しぶりだな」
「ほんとよ!私、ずっと待ってたのよ?」
霧の湖に住まう人魚、わかさぎ姫はプンプンと頬を膨らませて怒る。
わかさぎ姫ともそこそこ長い付き合いだ。俺が初めて霧の湖で魚釣りをしていた時にわかさぎ姫を吊り上げかけ、驚いたわかさぎ姫がそのまま俺を湖の中へ引きずり落としてしまった事から始まる。
水を飲んで溺れかけた小さな俺をなんとかほとりへ引き上げ、人工呼吸をして助けてくれた。まあ原因は釣り竿ごと湖に引きずり落としたわかさぎ姫なのだが。
それ以来、霧の湖に魚を採りに来る度にこうして顔を合わせる仲となった。当時の俺が拙いながらも魔法を見せればきゃあきゃあと喜び、水中呼吸の魔法を使って湖の中で一緒に散歩したり、魔法で水を固定して逆に陸上を一緒に散歩したりと、幼いころからの友達であった。
「ふふっ。もう私より大きくなっちゃって、人間って成長が早いわね」
膨らませていた頬をしぼませて笑みを浮かべる。
わかさぎ姫の言う通り、初めて出会った頃は俺の身長は水辺で座るわかさぎ姫よりも小さかったというのに、今は頭二つ分は超えていた。
「ね、ねえ祐希?あの噂って、本当……?」
「あの噂?」
わかさぎ姫が顔を赤らめながら人差し指同士をつつき合わせつつ、遠慮がちに俺の眼を見る。
「そ、その……誰とでもエッチしてくれるっていう噂……」
「そんな噂が出回ってるのか……?」
確かに事実、愛する魔理沙だけでなく鈴仙や射命丸、それ以外にも多くの女性達と身体を重ねたが。母親とその友人とも肌を重ねてしまったが。そりゃ噂にもなるわ。
「だ、だから……その……わ、私ともしてくれないかなーって……」
「わ、わかさぎ姫……」
そりゃわかさぎ姫は一般的に美少女の部類に入る。だが、昔から知っている友達だというのにそういう事をするのは……
「だ、ダメ……かな……?」
そう言って、わかさぎ姫はその豊満な胸を露わにする。
俺は、昔からの友達だったというのに、自身の欲望を抑える事が出来なかった。
わかさぎ姫の眼前に突き出される、ズボン越しにむくむくと盛り上がっていく股間。
「わっ、わぁっ、お、男の人のがぁっ……」
両手で目を覆いながら、指の隙間から股間を凝視するわかさぎ姫。
「む、昔から知ってる仲の男とするのは抵抗ないので……?」
「た、助けるためとはいっても初めてのちゅーの相手なんだから意識するに決まってるでしょぉ……!そ、それに人魚って言っても、そういう事に興味はあるんだから!」
片手で目を覆いながらも、反対の手で内側から押し上げられるズボンをつつくわかさぎ姫。
爆発してしまいそうな情欲に耐えられず、俺は自分の意思でズボンを降ろした。
湖のほとりで何度かの
水中呼吸の魔法を咄嗟に発動出来たとは言え、水の中では力が何倍も上がるわかさぎ姫に一方的に良いようにされ続けた。
自分でも無尽蔵にも思えるような精力の強さで最後の最後で何とか逆転してわかさぎ姫を満足させることが出来たが、もし満足させることが出来なかったらこのまま一生を水の中で過ごす事になってしまいそうだった。
這う這うの体で霧の湖から身を引き上げると、既に時刻は夕方に差し掛かっていた。
大漁の魚を家に持って帰り、慧音母さんに渡す。
「ほぉ、随分と立派なヤマメにイワナだ。これは……ワカサギかな?随分と大きいな」
ワカサギと聞いて先程までの
それに気づいてしまった慧音母さんはため息をつきながら
「まったく……夕餉の後に、い、一緒に風呂に入るか……?」
頬を染めて、そう問いかける。
俺は、何も言わずに頷いた。
慧音母さんと約束通りに一緒に風呂に入り、気が付けばすっかり夜も更けていた。
風呂に入ったにもかからわず身体をドロドロに汚した慧音母さんは、着替えもそこそこに布団の中で気を失うように眠ってしまった。無理をさせてしまったかな……。
何となく寝る気になれない俺は、縁側から庭を眺めていた。
視界には満天の星空。半欠けの月が空高く上り、明日も好天の空であることを告げていた。
「良い夜だな」
音も無く俺の隣に現れたのは、頭から大きな二本の角を生やす鬼。伊吹萃香。
「……あれ、萃香お前……酒臭くない……?」
「おうどういう意味だいそれは。あたしだって女の子だぞ?体臭に気を配るときくらいあるよ」
いつも瓢箪の酒を浴びるように飲み、常に酔っぱらっているちんまり鬼が意味不明な事を言っている。それこそいつも持ち歩いている伊吹瓢が、今の彼女の手元には無かった。
「あー……ちょっと霊夢に取られてねぇ」
「……なんかあったのか?」
「いやお前お前。お前が原因だよ」
「俺が?……ここの所博麗神社に行ってないけど」
「だからだよ。霊夢のヤツず~~~~~っと不機嫌でな。私のお酒全部ぶんどって、酒浸りさ。なんかあるとすぐ針とかお札投げてくるし、おかげでみんな神社に寄り付かなくなって、更に霊夢の飲酒量が増える一方でさぁ。何とかしてくれよぅ」
「そう言われてもなぁ。……顔も見たくないって言われたし」
ふと、自分で口に出して気が付く。
霊夢に、顔も見たくないと言われた時。確かに心臓が破れるんじゃないかというほどに深く傷ついていた筈であったが。思い出したくもない記憶であった筈だったのだが。
今はもう、何とも思ってない事に。祐希は気が付いた。
「……まあ、そんなに荒れてるなら友人として見に行くか」
「おっ!そうかそうか!いやー良かった良かった!魔理沙のヤツと結婚したっきりで、もう神社に来ないんじゃないかって思ったけどなんか大丈夫そうだな!」
「そんなふうに思われてたのか?」
「そりゃあな。あんなふうに霊夢と別れたっきりで、そのまま一生過ごすんじゃねえかって思ってたからな!もーずっと霊夢のヤツが殺気ついてて怖―――ん”ん”っ。美味い酒が飲めなくてねぇ、すっかりシラフの萃香ちゃんよ」
「そういえば萃香がシラフなんて初めて見たな」
「そりゃあたしも真面目な時くらいシラフにもなるさ。……ここ千年はそんな時なんて無かったけど」
「だろうな」
「『だろうな』?おーいそれどういう意味で言ってるー?あたしの事バカにしてるー?バカの分際であたしの事バカにした今?」
「痛ててっ!引っ張るな口を!!」
横に座っていた萃香がそのまま飛び掛かり、俺の口に両手を掛けて引っ張る。
ふわっと、鼻に女の子らしい匂いが入り込んでいく。
「……」
「……」
旺盛な息子は、出番を今か今かと待ち構えていた。
「ふぅ~ん……?」
「いっそ殺せ……」
にたぁぁ~と口元を歪める鬼。
「なんだよ、あたしの事そういう目で見てたのか?」
「うるせっ!いつも吐き気を催す程の酒の匂いさせてるくせに、なんで今日に限ってちょっといい匂いさせてんだよ!」
「言ったろ?あたしだって
「……?お前そういうキャラじゃないだろ……」
「なんだよ、大きくしてるくせに」
そう言って伊吹萃香は俺の衣服を強引に脱がす。
「うわ……これがみんなを鳴かせてきた
「マジマジと見るなよ……」
「いやいや、自信を持ちな。男のここはデカけりゃデカい程良いんだから。うひひっ、もう何百年ぶりの交合かな……あたしの事も、楽しませてくれよぅ……ん、ちゅぅ……」
ニタニタと笑いながら、唇を重ねる伊吹萃香。ぷにぷにとした舌をねじ込み、絡ませ合う。
ほんの僅かに感じる、酸味のある甘さ。舌に感じる新鮮な果物のような甘さを少し意外に思いながら、萃香を布団の上に運んでいった。
◆
人間の里~博麗神社への道中。
俺は伊吹萃香を肩の上に乗せながら空を飛んでいると、見知った緑髪の少女と出会った。
「こ、ここここんにちわ祐希ひゃん!」
「……おう、こんにちは早苗」
顔を真っ赤に染めてブルブルと震えながら近づいてくる少女、東風谷早苗。
彼女は元外来人としての縁もあり、何度も会話する仲である。時折俺を連れて魔法の森の入り口に建っている香霖堂に訪れ、外の世界の物品を眺めるような仲でもある。
つい先日、彼女の住む守矢神社の真の祭神である洩矢諏訪子と共に俺を訪ね、彼女の処女を貰ってやってよと言う言葉と共に肌を重ね合わせた仲でもあった。
「祐希しゃんッ!あ、あのあの!こ、こここ今夜また、またおおおぅぉおおお願いしてもよりょひいでしょうか!?」
「……ええと―――」
「ぅおーい、此処にあたしが居るって気付いてるかー?」
「えっ……あっ、えっ!?いつの間にそんなところに!!?」
「ずっと居たけど!?」
……何度も色んな女性と肌を重ねた俺の経験は、処女であっても初体験で身体に快楽をしっかり覚えさせることが出来るようになってしまったせいか、こうして
「……とりあえずその話はまた今度な。早苗、どうしてまたこんなところに居るんだ?」
「えぅ、あっ、その、最近霊夢さんの様子がおかしいって聞きまして、しばらく見てないですしちょっと見に行こうと……」
「そうか、じゃあ俺と目的は一緒だな」
「ひゃぅ……」
肩車している萃香と睨み合っていたと思えば、直後にまた顔を赤らめてブルブル震えだす東風谷早苗。嗚呼洩矢の神よ、貴方の行動はあまり実を結んでないようです。
「大丈夫大丈夫!もしアレだったら早苗の事貰ってくれればいいから!」
「ん?今なんか聞こえた?」
「ささささささあ!?な、なんでしょうかね!?(諏訪子様ッ!?彼は魔理沙さんと結婚してるんですよッ!!?)」
「なーに、幻想郷なら重婚オッケーだって!魔理沙も許してくれるよきっと!」
「やっぱり今なんか聞こえたな?」
「なななななんの事ですかね!!?それより博麗神社へ行きましょうさあ行きましょう!!(諏訪子様ッ!今晩のお夕飯抜きですッ!!!!)」
「なんでぇー!!?」
そのまま早苗に押されるように博麗神社へと向かって行った。
博麗神社、その近辺。
階段を登り切れば博麗神社の境内に入るというのに、その頂上すぐ下の階段に身を隠すようにかがんでいる少女が見えた。
「……そんなトコで何してんだいあうん」
「ビャッ!!?」
萃香が呆れたように声を掛けると、その声に驚いたのか緑色の髪の毛を逆立てながら跳び上がる高麗野あうん。
「お、驚かせないで下さいよ!」
「あんたが勝手に驚いただけだろう……で、何やってるんだい」
「……あれを……」
「あれ?」
あうんの指し示す方を見ると、殺気だっていると呼ぶに相応しい霊夢とアリスの二人が神社の空で激しい弾幕ごっこを繰り広げていた。
「霊夢さんがああして、神社に誰か来るたびに弾幕ごっこを仕掛けてるんです……」
「最近ならいつもの事じゃないか」
「そ、そんなにひどい事になってるんですか?」
「今日はもっとひどいんです!私が、霊夢さんに飲み過ぎですよってお酒を取り上げたらすごいいっぱい針を投げてきたんです!」
「あー……だいぶ荒れてんなぁ。まあ大丈夫さあうん。今日は秘密兵器連れてきてるから」
「うぅ……ゆ、祐希さん……霊夢さんをどうにかしてください~……」
「どうにか……ってもなぁ……」
あうんと同じように全員で階段下でかがみながら神社上空で撃ち合う二人を眺める。
直後、被弾したアリスが捨てセリフを吐いて何処かへ飛んでいった。アリスも荒れてるなぁ……。
「ったく、どいつもこいつも……」
激しくイライラしながら地上に降りてきた霊夢は、腰に下げていた伊吹瓢をあおるように飲んでいた。
「おいおい、ずっと飲んでたのかいあいつは……」
「いくら霊夢さんでも、あれじゃすぐに肝臓壊しちゃいますよ……」
「はぁ……まあ、霊夢に早死にされちゃぁ寝覚めも悪いよな。……とりあえずまあ、なんか出来る事はするが……期待すんなよ」
「おう、期待して待ってるぞ」
「頑張ってください祐希さん!」
「ふぁ、ファイトです!」
三者三様の応援を受けながら、神社の境内へ立ち入る。
身を隠しているわけでもなく、至極当然のように霊夢は侵入者に気が付いた。
侵入者が誰か、それを確認するよりも早く袖から退魔針を瞬時に取り出し、侵入者へ向けて投げる。
「誰よ。今私は凄く機嫌が悪いの。すぐにどっか行かないと、死んで後悔することになるわ……!」
「そうかい。生憎だけど、結婚したばかりだしまだ死神の世話になる訳にはいかんなぁ」
「……あー?」
高速で投げられた針を全てつかみ取り、霊夢に返す。そこでようやく侵入者が誰かに目を向けた霊夢は、俺と目が合った。
「―――ッ!貴方……!!!」
「よう。霊夢が肝臓ぶっ壊して死ぬ前にちょっと会いに来たぜ」
霊夢の眼が赤く光る。直後飛んでくる霊撃とお札、陰陽玉から放たれる大量の弾幕が俺を襲う。
「何しに来たの……貴方の顔は見たくないって言ったでしょ……!!」
「ああ、聞いたな」
ほぼゼロ距離から放たれる弾幕全てを避け、躱し、直撃する物だけを斬り捨てる。
「出て行きなさい……神社から……私の、
「嫌だね。なんで俺よりも弱いヤツの言う事を聞かなきゃならないのさ」
「ッッッ!!!」
さらに激しくなる弾幕。しかし、幾ら放ってもかすりもしない。当たらない。
「うッ……あああああああ!!!!!」
酒が回って自棄になっているのか、長い大幣を振り回しながら弾幕を放ちつつ接近戦を仕掛けてくる。
満開の桜吹雪よりも濃い弾幕濃度。その中で舞うように大幣を振るい、
だが、しかし。弾幕の雨も、大幣の舞いも、全てを避ける俺には当たらない。
「分かってるだろう、弾幕勝負で俺に勝てないって」
「五月蠅い五月蠅い五月蠅いィ!!!」
一太刀。
二太刀。
霊夢の放つ弾幕が、全て霧散する。
「なッ……」
「酔い覚ましには十分だろ」
散り散りになった霊力の残滓が境内を満たす。色とりどりの光が、風に吹かれて舞い散っていく。
崩れるように地面に座り込んだ霊夢に近づく。
「霊夢」
「五月蠅い!変態!浮気者!」
「あっはい」
変態、浮気者。それはもう本当におっしゃる通りです……。
霊夢の言葉に何も言えなくなってると、霊夢の赤い眼が滲んでいく。
博麗霊夢は、悪夢を見続けていた。
「帰って。貴方の顔なんて見たくもないわ」
夜になる度に、眠る度に悪夢を見続けていた。
「貴方の声も聴きたくない、何処かへ消え失せろ」
後悔と懺悔の記憶。彼の傷ついた顔を夢で見る度、心にささくれが立っていく。
彼の顔を見たくない、本心ではあった。彼の声を聞きたくない、それも本心ではあった。
でも。だけど。
彼のほにゃっとした笑顔が見たい、これも本心であった。彼の優しい声が聴きたい、これも本心であった。
悪夢は博麗霊夢の心の中で際限なく膨れ上がっていく。自分以外の誰かと懇ろな仲になる夢、そういう行為をする所を、傍でただ見せられるだけの夢。
……そして、それに苛立ってしまった愚かな少女が、想いを向けている少年に酷い言葉を掛け続ける夢。
いつからか、眠るのが怖くなってしまった。布団をかぶり、目を閉じる。眠ることなく、唯々長い時間を暗闇の中、一人で。そうして、雄鶏が朝を告げる声と共に目覚めた
悪夢は、まだ醒めていなかった。
いつもなら、ほにゃっとした笑顔で、優しい声で、くだらない会話をする相手が来ない。
いつまでたっても、来ない。
当たり前だ。何故なら、二度と来るなと追い出したのだから。来るわけが無い。
夜になり、ふっと。気を失うように眠りに着いてしまう。悪夢の世界に引きずり込まれてしまう。
「れ、れ、霊夢……さん……!け、結婚を前提にお、お付き合い頂けないでしょうか!」
小さな彼の、一世一代の告白は酷いものだった。がくがくと震えている手足。緊張のあまり真っ青になってる顔色。……とてもよく、覚えている。
「アンタの事そういう目で見た事ないから無理」
同じように小さな女の子は、そんな彼の告白を無下に扱う。愚かな少女は、そんな小さな女の子の顔に拳を振り抜く。……しかし、まるで少女が存在しないかのように拳は無情にも女の子を通り抜け、女の子は何処かへ去っていく。
もし過去に帰れたならば。もしあの時、あんなひどい事を言ってなければ。
たらればの夢想が延々と続く。しかし全ては過去の事。過去を変える力を持たない少女は、現在の悪夢に苛まれ続ける。
寝ても、覚めても、悪夢は続く。
ささくれだった心に触れてくる者に針を投げ、耳障りな声を出す者に弾幕を飛ばし、いつしか神社には少女一人しかいなくなってしまった。
何故私は、あの時あんな事を言ってしまったのか。後悔ばかりが募る。泣きたくなるような思いに押しつぶされそうになり、ふらっと何処かへ飛んでいく。目的は無く、ただ、何処かへ行く。
悪夢は、現実となる。
「あっ♥ああっ♥祐希っ♥祐希ぃ♥」
「くっ……うぅっ……で、出る……!」
人気が無い筈の魔法の森。そこでサカり合っている男女一組。白黒の魔法使いと、四刀を佩いた少年。博麗霊夢は、声が聞こえるギリギリの距離でその光景を見てしまっていた。そして、魔法使いの少女と少年の左手薬指にはまっている指輪を見つけてしまっていた。
その指輪の意味を知らぬほど、世間知らずではない。全身の血の気がひいた博麗霊夢は、気が付けば神社の境内に戻っていた。
また、別の日。
博麗神社に誰も訪れなくなってしばらく、また何の目的もなくふらっと何処かへ飛んでいく。今度は、魔法の森を避けて。
迷いの竹林、その入り口でサカり合っている男女を見つけてしまった。
「くぁっ♥うぁぁっ♥ゆ、祐希ぃ♥」
「ふっ、ふっ……も、妹紅……!」
白い髪と紅白のモンペ姿の不死者と、四刀を佩いた少年。
なんで?どうして?疑問は尽きぬままに時間が過ぎ、二人に近づく新たな女性に気が付いた。
「あらあら、妹紅も立派に女の子なのね」
「て、てめっ……輝夜ッ……!」
そしていつの間にか、三人で交じり合っていた。
「ん……んふっ♥ね、祐希……また、
「おい祐希……♥輝夜以上に私に出さないと、許さないからな……♥」
二人の女性が取り合うように、少年を貪る。
その信じられないような光景に、まるで頭をぶん殴られてしまったかのような衝撃を受けた博麗霊夢はふらふらと神社へ戻っていった。
それから、博麗霊夢は飲酒量が増えた。嫌な事を忘れるように、全てを洗い流したくなってしまいたかった。
昼間は、とにかく飲んで、飲んで、飲んで。そうして、酔いつぶれたままに意識を無くす。そうしたら、悪夢すら見る事は無いから。
夜中に、ふと目が覚めてしまったら。目を閉じ、網膜の裏に少年の顔を思い浮かべながら、愛し合うような
神社にあった酒が無くなり、ふらっと訪れた鬼から酒を強奪して、しばらくたって……今日。
正直になれなかった自らの愚かな行いを。素直になれなかった愚かな自分の言動を清算する時が訪れた。
いま、目の前に立つ少年。愛しき少年。その、彼の優し気に気遣う目に。
「霊夢」
「う……ぅぅ……」
私への好意の視線。かつて存在していたその色が。ほんの少し前まで存在していた筈の、その感情が。
無くなっている事を、悟ってしまった。
「ほら、立てるか?」
優しく揺れる貴方の眼が好きだった。
小さな貴方が神社からいなくなって、とても後悔した。
とても、とても後悔したというのに。私はまた、同じ過ちを繰り返す。
大きくなった貴方を、神社から追い出してしまった。
学ばない愚かな私は、貴方が居なくなってしまってから後悔する。貴方が離れてしまってから後悔する。
優しい少年は、つい先ほどまで殺すつもりで弾幕を放っていた少女にも優しく手を差し伸べる。
自分と同じく天賦の才を持ちながら、努力を惜しまぬ武骨な手。
誰かを助け続け、手を差し伸べ続け、支え続けた手。
守るために戦い続けた手。新しいものを作り続けた手。
力強く温かい、手。
私はその手を両手で握る。縋るように、握る。
深い後悔は涙となって零れ落ちた。
「ぶぅ”う”わ”あ”あ”あ”ぁ”!!!ごべっ、ごべんな”ざい”っ”っ”!ひどいごどい”っでごべんばさ”い”い”い”い”い”い!」
「うっそだろお前そんな泣き方する子だっけ?????」
ぼろぼろ……超えてビシャビシャと涙が滝のように流れ出る。
差し出された祐希の右手に全力で縋りつく。もう離さないと、縋りつく。
「がお”も”み”だぐな”い”っ”でい”って”ごべん”な”ざい”い”い”!あ”な”だがい”な”い”と”ざみ”じい”い”い”い”い”い”!!」
目からも、鼻からもべちょべちょと体液が垂れ流される。
感情が抑えられない。ぐわんぐわんと頭が揺れる。
「ごめ”ん”ばざい”い”い”ッ”!!ごべん”なウッ……
ぼオろろろろろろろろ」
「おい嘘だろ嘘だろ!??!?!?」
強い感情のあまりに、今までしこたま飲んでいた酒が全部胃の中から逆流し、口から出てくるゲーミング女子力が祐希の脚を汚していく。
「う”わ”あ”あ”あ”ぁ”ん”!!!ごべんな”ざい”い”い”っ”!わ”だじも”ゆ”う”ぎに”だかれ”だい”い”い”い”う”ろろろろろろろろろ」
「……………………流石にゲロ臭い人は、ちょっと…………」
◆
夜、博麗神社。
霊夢と祐希は無事……無事?仲直り出来た。
ゲーミング女子力を全て出し尽くした霊夢は、完全に酔いから醒めた後に改めて祐希に対して酷い事を言ってしまった事を謝罪した。
今まで通りの関係に戻る事は無かったとはいえ、それでも新たな関係の一歩になったことは間違いなかった。
ゲーミング女子力まみれとなってしまった祐希はそのまま博麗神社の裏にある温泉に入って身体を洗っていた。
「お、お背中お流ししまーす……」
「ちょっと早苗!抜け駆けは許さないわよ!」
「一緒に入らせてもらうぞー!」
「わ、私もその……良いですかね!?」
人間二人に鬼と狛犬が温泉に飛び込んでくる。
少年は黄色い悲鳴を上げながらタオルで自身の身体を隠したが、多勢に無勢。
抵抗虚しくタオルを剥がされては温泉の中と外、そして布団の中で代わるがわる襲われ、日付が変わっても饗宴は続き、ついには日が昇るまで、空っぽになるまで搾られつづけた。
同時刻、魔法の森。
アリス・マーガトロイド宅。
光すら射さぬ暗い部屋の中。アリス・マーガトロイドは一人、人形を作っていた。
最近までは人間だったころの癖で食事も睡眠も取っていたが、今は一切の寝食を絶っていた。
日中は、何かを探すように。あるいは海を漂う海月のように幻想郷中を移動し、日の沈んだ夜の間は世界から切り離されたような光射さぬ暗い部屋で延々と人形を作り続けていた。
アリス・マーガトロイドは、夜を憎んでいた。何故なら、暗い夜は悪夢を運んでくるから。
目を閉じれば、悪夢の世界。幸せそうな男女が仲睦まじく過ごす演劇の世界。しかしそこに
男性の役者はずっと笑顔で女性に愛を囁く。女性の役者はずっと笑顔で男性に愛を囁く。そんな
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。見せつけられる悪夢に、アリス・マーガトロイドは
しかし悪夢の世界は現実にまで及んでいた。
「ん……ぁ……くぅっ……♥」
「く……ふっ……うぅ……!」
風に乗って運ばれてくる、男女の息遣い。
女性の声は多種多様ではあるが、男性はいつも同じ人物の声であった。
アリス・マーガトロイドはその声を聞く度、全身の血が沸騰したかのように熱く、同時に凍えるような寒気を覚える。
また別の日には、妖精達の噂話が風に乗ってアリス・マーガトロイドの耳に届く。
「ねえ、知ってる?あの噂」
「知ってる知ってる。あの噂」
「魔法使いが結婚したんだって」
「旦那さんは誰とでも寝るんだって」
「みんなみんな旦那さんと一緒に寝たいんだって」
「人間も旦那さんと一緒に寝たいんだって」
「妖怪も旦那さんと一緒に寝たいんだって」
「みんなすっごい満足するんだって」
「わたしとも一緒に寝てくれるかな」
「楽しみだね」
「楽しみだね」
全身の血の気がひいた。立っていられなくなった。だってあの人はずっとずっと、私を追いかけてくれたじゃないか。ずっと待ってたのに。ずっと待っているのに。
だから、アリス・マーガトロイドは人形を作る。
日の光も、月の光も通さぬ部屋で人形を作る。
その部屋は。
本来であれば、その部屋は普通の部屋であった。
一つのテーブルに二つの椅子。それなりの大きさのベッド。本が数冊置かれている棚に、窓際には花瓶に挿されている一輪の花。
そこは、普通の客間であった。
しかしいつから。いつからかそこは光の射さない部屋となった。
何故か。
その部屋には、窓すら埋め尽くす程の数多もの人形が詰められていたから。
その人形は、まるで小さな男の子のようであった。両腕には炎のような、あるいは雷のような紋様が刻まれた男の子の人形。手には、魔法の杖が持たされていた。
その人形は、まるで思春期の少年のようであった。両腕には大きな火傷痕が刻まれ、その顔には横一文字に刀傷が残っていた。腰と背中に、あわせて4刀もの刀を佩いていた。
その人形は、まるで成人の男性のようであった。優しげに細められた目の、瞳の色は黒。オニキスが嵌め込まれ、その者の意思の強さを表現しているようであった。
人形一つ一つに個性があり、されどその人形達全ては
アリス・マーガトロイドは人形を作る。
ただ一人を想い続けて人形を作る。
その武骨な腕を想い出して人形を作る。
その柔らかな髪を想い出して人形を作る。
その優しげな瞳を想い出して人形を作る。
もはや、会う事の出来なくなってしまった少年を想い、自らを慰めるためだけに人形を作り続ける。
その人形は動くことは決してない。どれだけ精巧に作ろうとも、繰り糸を結ぼうとしても、
今日も、風に乗って男女の息遣いが聞こえる。
悪夢は、まだ醒めない。
-END2 人形で埋め尽くされた部屋-
魔理沙と祐希の子供は無事に産まれ、多くの少女達も懐妊したようです。めでたしめでたし。
では、次の分岐路で会いましょう。