バーサス~再び交錯する平行世界~   作:アズマオウ

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アズマオウです。

キリトさんが色々変化します。メカニズムは強引です。ご都合主義、トンデモ科学満載です。ご了承ください。
では、どうじ。


第4話:Change~変化~

 俺――キリトはどこまでも落下していくシルバー・クロウを見下ろし続けた。空中の一点にとどまりながら。

 

「しかし、久しぶりにこの姿になったなあ……」

 

 俺は自分の体をじろじろと眺めた。黒を基色としたコート、背につられている巨剣、そして、ややうす暗い妖精の羽根と思わしきもの。さらに髪を触っていると、剣山のようにとんがっている髪の毛があった。これは、まさしく旧ALO(アルヴ・ヘイム・オンライン)影種族(スプリガン)≪キリト≫のアバターだ。

 俺はシルバー・クロウに空中でコンボを決められた時、絶体絶命だと思った。トドメの踵落としを決められたときは、さすがにまずいと思った。だから俺は、奥の手を使った。

 

 心意システムだ。心意システムで、俺の先程まで使っていたSAO時代のアバター、≪キリト≫から、旧ALOアバターへと変えたのだ。しかし、本来ならそれはあり得ない。

 何故なら心意システムによる変化はたった4つだけだからだ。威力拡張、射程拡張、移動能力拡張、装甲強度拡張しかなく、これを超える変化はない。

 だが、その限界を超越する方法はある。それは、俺の心意を”無理やり”システムに認識させるのだ。俺の今用いた心意はただのアバターチェンジに他ならない。本来ならそんなことは不可能だ。よっぽど熟練したものでない限り。では、どういうことか。

 俺のアバターチェンジを心意システムの変化に無理やり置き換えると、移動能力拡張、装甲強度拡張である。移動能力は変化しているうえに、装甲、すなわち装備なども変わっている。そう、システムに認識させるのだ。心意システムを運用しているシステムに。これを、心意システムの≪第二段階≫という。

 俺は、この変化を相当練習した。開発者でありながらそう言った無駄な努力をするのってどうなのかと思われても仕方がない。でも、いつかはレベル10になったプレイヤーと戦える。そう思ってこうした修練を積んできたのだ。

 

 そして今俺はそれを使っている。正直このアバターには思い入れがない。このアバターは、ALOに囚われていたアスナを助け出すために作り上げたものだからだ。このアバターには思い出すと吐き気がするくらいの痛みを刻み込まれた。心意とは、そういった思い出にも触れてしまうことがある。だからあまり使いたくはない。

 

 俺は物思いを振り払って、下降した。さすがは、シルバー・クロウ。受け身は膝をついてきちんと取れていて、落下ダメージを最小限に抑えている。俺はゆっくりと着地して、巨剣を垂れ下げる。シルバー・クロウは立ち上がり、構えた。だが、驚きは隠せていないようだった。

 

「さっきのは、いったいどうやったんだ?」

 

 シルバー・クロウは俺に問うた。実際それを説明するのはマキシマム面倒だ。しかも俺は、早く戦いたい。だから、こう返した。

 

「勝ったら、教えてやるよっ!!」

 

 勢いよく地を蹴り、横なぎに剣を払った。シルバー・クロウは慌てて体を後ろに倒して躱す。俺は流れるように第二撃目を繰り出す。しかしシルバー・クロウは躱す。速度は先程よりも遅いから、躱されやすいのだろう。なら……。

 

 俺は空へと舞った。空中戦で、勝負だ!

 シルバー・クロウも俺を追って空を飛ぶ。俺はシルバークロウを横目で見ながら、飛び続ける。しかしシルバー・クロウは速度を上げていく。このままだと追いつかれるだろう。だから俺は、早口でスペル詠唱を行った。

 

 俺は体を反転させ、シルバークロウをにらむ。手が発光し、光弾を放つ。それはやがてどす黒くなり、爆発した。すると、もんもんと煙幕が広がっていく。このスペルは、スプリガン専用の魔法で、煙幕によって視界を錯乱させるものだ。無論風などを起こせばすぐに取り払われるが、その隙に反撃にあう。つまり、仕切り直すには便利な技なのである。俺は過去にもこの魔法を使って勝利へと導いたことがある。

 俺はこのアバターが習得している暗視スキルを使って煙幕の中の様子を見る。腕で自身を守るシルバー・クロウの様子が見える。これなら、奇襲を仕掛ける隙はある。俺は、シルバークロウの背後へと回り込み、隙を図って突進した。

 シルバー・クロウは俺の突進に気が付いたようだった。しかしその時には遅く、俺のパンチがシルバー・クロウの頬に突き刺さった。距離が離れたところで俺は巨剣を真っ直ぐに振り下ろした。

 だが、シルバー・クロウは、迫り来る剣を白刃取りで受け止める。バチっとシルバー・クロウの腕の関節部分が火花をあげる。俺は渾身の力を込めて剣を押し付けた。シルバー・クロウは必死に受け止める。しばらく競り合いが続いた。

 しかしこの均衡を破ったのはシルバー・クロウだった。突然シルバー・クロウが力を緩めたのだ。剣は前へと空振るが、彼は剣から離れない。そう、彼は剣に掴まったのだ。気づけば、彼の翼は折り畳まれていた。

 俺は、剣を降り下ろす勢いに逆らえず、大きく前のめりになってしまった。その瞬間シルバー・クロウは手を離し、再び翼を展開し、上昇する。そして前のめりになって制御するのに必死な俺の背中を蹴り付けた。

 

「ぐっ……!」

 

 どうにか羽根で制御したが、生じる痛覚に唇を噛む。だが、このくらい大したことはない。俺はきっとシルバー・クロウを睨んで、突進する。だがーー。

 

 俺の体が落下し始めた。何故だと俺は疑いながら背にある羽根を見た。すると、妖精の羽は黒い輝きを失っていた。これは確か……。

 

 俺が何かを思い出す前に、シルバー・クロウが突進してきた。このままではヤバイと思い、俺は背から落下しながら剣を構える。そして必死に羽根を動かす。

 だが、剣には重い打撃が加わる一方で、羽根も答えてくれない。ここでようやく俺は思い出した。今俺が使っているのは、旧ALOの、まだ滞空制限があったときのアバターだ。つまり今、その滞空制限になってしまったのだ。

 

ーーこんなところまで再現するなっての!

 

 俺は毒つきながらも、どうすればいいと考えていた。下をちらっと見ると、もう地面まであと30秒もないほどにまで距離が縮まっていた。このまま落下すれば間違いなく負けるだろう。そういかせるわけにいかない。俺は剣に殴り続けるシルバー・クロウの腹をソードスキル《弦月》で蹴った。攻撃を食らっていても使用できる点が強い。

 シルバー・クロウのラッシュはやんだ。その隙に俺はまだ残っている《弦月》の振り上げで体を反転させた。そして剣を地面へと突き立てた。ズガァァンとすさまじい衝撃が体を伝う。そのせいでダメージを多少受けたが、大したことはない。そう、こんなことで気にしている余裕などないのだから。

 俺は剣を捨ててその場から離れる。地面から落下してくるシルバークロウの一撃を受けるわけにはいかなかった。シルバー・クロウが地面に拳を叩きつけたが、そこには俺はいなかった。俺はちらっとHPゲージを見る。もう残りは5割もない。対して相手は7割もある。だったら次はーー。

 俺はイメージした。遥か20年前に存在した、3人目の《キリト》を。俺の記憶にあるその自己像は、ブレインバーストの中核が読み取り、心意システムを起動する。俺は任意で規定の信号に反応するようイメージし、正しく反応させる。システムがそれを認知して、俺のアバターに変化をもたらした。

 

 昔の因縁に巻き込まれた、美少年の姿へと……。

 

 

 

***

 

 

ーーまたか……!?

 

 僕は腕でかざしながら光り続けるキリトを見る。どうやらあの光は心意を使ったアバターチェンジらしい。しかしそれは実際には不可能だと思われる。何故なら心意には威力拡張、射程拡張、移動能力拡張、装甲強度拡張しかないからだ。あと考えられるのはポテンシャルだが、赤の王の《スカーレット・レイン》はそんな光を出さずとも形態を変えられた。心意でないと実際説明がつかない。だとしたら、これが心意の≪第二段階≫かもしれない。

 キリトの体を包む光が消えた。僕は腕をどかす。すると、またしても姿が変わった。

 肩まで伸びている美しい黒髪、丸出しのおでこ、海を思わせる大きな瞳、整っている輪郭。顔はまるで女の子だ。強いていうなら男の娘だ。

 背丈は先程よりもやや小さい。相変わらず黒を基調としており、装備は先程に比べてさらに簡素である。胸当てに長袖のコートだけだ。それに初期装備レベルにダサい短パン。そして腰にはーー右には細長い筒が、左には拳銃が納められていた。

 

ーーつまり遠距離で牽制しようっていうことか。

 

 相手の意図を読んだ僕は、重心を前に倒す。銃に対しての回避能力は自信がある。ダイブアタックの訓練のときに、自作のプログラムで練習したのだ。先輩にそれは禁止させられたが、今でもこっそりやっている。

 銃さえ回避できれば、僕の勝ちだ。そう思い、勢いよく地面を蹴った。

 

「い、けぇっ!!」

 

 高速ダッシュで接近し、キリトの懐めがけて突進する。キリトは、右腰から筒を抜いて腰に引いた。まるで剣を構えたときのようだ。ということは、まさかーー。

 

 僕の拳がキリトを捉えたその瞬間、キリトは素早く筒にかけられていた親指をスライドした。すると、ブオンという電子音が鈍く響き、筒から光の棒が出てくる。あれはいわゆる、ビームサーベル、もしくはライトセーバーっていうやつだ。

 

ーーなんだって剣じゃないか!!

 

 僕はあきれながらも、羨ましく感じていた。ライトセーバーといえば、子供の夢だ。ある映画で、銃弾を弾き返すその様に僕は思わず興奮した覚えがある。続編はもう20本ほど製作されているほど人気である。

 ただ今はデュエル中だ。余計な思考は捨てなくてはいけない。ぐっと握りしめた拳を浴びせてやる。

 キリトはさっと剣を掲げて、僕の一撃を防御する。しかし、軽量な光剣故に威力すべてを殺しきれなかった。キリトはよろめき、懐を空かす。それを狙った僕は、回し蹴りを鳩尾へと見舞う。キリトは飛ばされていくが、すぐに受け身を取った。僕はキリトを追う。追撃するためだ。

 だが、そうはいかなかった。キリトは腰から拳銃を取り出して、接近する僕に突きつけたのだ。僕は反射的に動きを止めてしまった。本能的な命令だ、抗えない。

 だが、キリトはそれを待っていた。キリトは高速で接近し、剣を突き出したのだ。僕は回避が間に合わず、もろに食らってしまった。

 

「ぐわぁっ!?」

 

 体はいとも簡単に斬られ、痛覚と熱が生じる。一部えぐられている。僕は憎らしげにそれを見た。今もまだスパークしている。HPを見ると、残り6割ほどにまで減っている。あの光剣にはかなりの威力があると考えてもいい。食らうわけにはいかない。

 キリトは、 痛みに耐えている僕に拳銃を再び向けた。僕ははっと反応して、横へと飛ぶ。キリトの拳銃から弾がいくつも飛び、僕は逃げ続ける。何発か掠ってしまったが、それほどのダメージではない。残りは10発程度だろう。

 

「このっ!」

 

 僕は反撃しようと近くに出た。だが、キリトは拳銃を打ち続ける。一発、二発、三発。拳銃から火が吹かれ、僕へと襲いかかってくる。僕はどうにかかわしていくがあと何発残っているかはしらない。

 

 いや、この拳銃がなにか分かれば推測できる。

 

 黒光りする拳銃、なにより、珍しいピーナッツ型のトリガー。あとは、地面に撃たれた弾丸の、細長い形。

 そう、この銃はFN five-sevenである。ハンドガンにしては驚異の21発の弾数を誇る、実在する銃だ。ピーナッツ型トリガーのファイブセブンはいまではあまり見ないのでレアである。FPSプレイヤーとして、重機マニアとしては、黙ってはいられない。だが、銃弾は未だに僕を襲い続ける。

 

ーー9、8、7、6……。

 

 次々に撃たれる弾丸をかわしながら、残りを数える。10発は憶測だが、それを信じるしかない。

 キリトはトリガーに指を掛け続けて発砲し続ける。しかし、持ち方は素人だ。力が入りすぎている。そのせいで狙いが震えている。ということは、銃に関してはまるで素人なのだろう。もしかしたら、残りの弾数も把握していないかもしれない。

 

ーー5、4、3、2、1……!

 

 弾丸が僕を狙って飛んでいく。しかし、僕は全てをかわした。いま、もう弾数はないはずだ。キリトは、そうとはわからないのか、再び拳銃を構え、トリガーを引いた。

 しかし、いや、やはり乾いた音だけが響いた。弾は出てこない。キリトはいぶかしげな顔をして銃口を覗く。そしてようやく弾丸がないことに気づき、りロードしようと腰から予備の弾丸を取り出す。

 

 だが、近距離戦でのりロードは愚かだ。隙を与えてしまう。僕はそれを狙ってキリトの懐へと迫る。

 キリトは銃を捨て、とっさに剣を構える。だが、僕の狙いはキリトの手元だ。左からのロングキックを決めて、キリトの右手の甲へと命中し、筒が飛んでいった。これでキリトはもう武器がない。

 キリトは、舌打ちをしながらバックステップを繰り返す。だが、それを逃すはずもなく、僕は追随した。

 キリトは素早く走っていきながら再び全身を発光させた。また変身か……!?

 そうはさせないと、僕は心意技を使った。右手が白く光り、徐々に伸びていく。

 

光線剣(レーザーソード)!!」

 

 右手が剣のように鋭くなり、長くなる心意技の名前を叫んで、キリトへと接近する。心意技の妨害ができるのは、心意技のみだ。だからこれで、止める!

 僕の右手が答えてくれたのか、ほんの少しだけ伸びていく。貫手と化した僕の腕が、まばゆい光の塊へと抜けていきーー。

 

 僕は吹き飛ばされた。バチッと激しいスパークと共に弾かれ、地面に尻餅をついた。一瞬何が起きたかわからなかった。ただ、僕が認識できたのは、まるで壁にぶつかったかのような衝撃と、酩酊感のみだった。

 

 僕は、よろめく体をどうにか制御して立ち上がる。HPを見ると、5割ほどにまで減っている。続いてキリトを見ると、再び姿が変わっていた。

 顔は、最初に戦ったときと同じで、中性っぽい。服は簡素だが、どこかファンタジーゲームの衣装だ。背中には、1本の剣。

 

「いっておくが、俺の心意技は生半可な技じゃあ割れないぜ?」

 

 得意気にいうキリトは、剣を右手で抜いて、ぶらんとぶら下げる。剣は漆黒だが、どこか明るさもある。そう、まるで夜空のように淡く、それで美しい色だった。

 

 キリトはその剣をじっと見つめていた。悲しそうな瞳が覗けたが、すぐにそれは引っ込まれる。その後キリトは剣を腰に引いて構え、飛び出した。姿が霞むほどのスピードだ。だがそんなの、大したことじゃない。

 

ーーあいかわらずだな全く。……でも、次からが本番だ!

 

 僕は決意すると、若干キリトに遅れて前進した。

 

『先輩が見られなかった未来を僕は、見ます!』

 

 そんな想いと共に拳はつき出された。

 

 

 

***

 

 

ーーまさか、GGO(ガンゲイル・オンライン)のアバターがここまでやられるなんて、な。

 

 俺は、さきほど銃と光剣を落とした。銃弾はほとんど回避され、光剣はあっけなく飛ばされた。すなわち彼にはそんな子供だましな戦術は通用しないのだ。牽制しようなどという甘い考えを捨てるべきだった。これは俺のミスだ。

 だから俺は再び心意の光で姿を変えた。そう、突如巻き込まれた現実的な異世界で戦った、アバターへと。妨害されかけたが、心意の圧倒的な力で防いだ。シルバー・クロウの心意技は素晴らしかった。だが、まだまだだ。俺の心意を越えるのは無理だ。

 俺は、アンダーワールドで用いたアバターへと変化した。武器は¨夜空の剣¨で、漆黒だが美しく、友人の想いが込められている剣だ。あの世界でなくした、たったひとつの電子の命を忘れたことなど、ない。

 

ーーユージオ、一度だけでいい。俺に力を貸してくれ……。君の想いを、心意を、俺に分けてくれ。

 

 俺は願った。セントリア剣術学校の制服、夜空の剣を装備した4人目の¨俺¨にとって、掛け換えのない友人へと……。

 

 俺は地面を蹴った。これからだ。これからが本当のバトルだ。

 

『ユージオ、アリス、アスナ……俺は、必ず勝つ!!』

 

 今、俺ーーキリトの剣とシルバー・クロウの拳が、また、再び激突するーー!

 

 




ヴァイスのSAO2まだ買ってないんだよね。かわなきゃ。

っとどうでもいいですね。次回はガチファイトです!
では、感想、評価お待ちしております。

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