バーサス~再び交錯する平行世界~   作:アズマオウ

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どうもアズマオウです。今回で決着します。
ですがまだ、終わりではないですね。ではどうぞ。


第6話:Settlement~決着~

 私、黒雪姫は自宅にいた。小さなソファーに一人コーヒーを飲みながら、物思いに更けるのが趣味だ。

 今日はどんなことを考えているか。それは今日あった少年のことだ。今日、ひとつ下の学年の少年と廊下でぶつかった。それだけなら些細なことだ。だが、あの少年は私をどこか寂しそうに、悲しそうに見ていた。一体何の意味があってあんな目をしたのだろうか。

 気のせいだ。そう切ってしまうことだってできる。だが、なぜかあの少年のことが頭から離れない。太っていて、背は低く、いつもうじうじしている少年の姿は私の記憶にーー。

 

ーーいつも? そもそも私はあの少年にあったのは今日がはじめて……のはずだ。だが、何故だろうか。彼が一度や二度、この家に訪れたような気もする。

 

 そう、目を閉じるとなぜか思い起こされるのだ。彼の、心から笑っている様子が。

 

ーーというかなぜ私は独り暮らしをすることになったのだ? 曖昧だ。なぜ両親と暮らさなくなった? 当たり前のように感じていたから、あまり感じないが。

 

 私は独り暮らしをしている。だがその経緯はなぜか覚えていない。昨日一度両親に電話したが、相手にされずすぐに切られてしまった。

 とりあえず私はもやもやした気分を晴らすべくシャワーを浴びにいった。服をすべて脱ぎ捨て、シャワーヘッドからお湯を出す。私は自信の控えめな胸を見る。それを見てなぜか劣等感を覚えた。こんな小さなそれではと、鬱な気分にもなった。一体なぜだ? 別に気にしたことなどないのに。

 それだけではない。左腰の辺りにある傷も、覚えがない。しかもなかなか深い傷だ。一体どうすればこんな傷がつくのだろう。しかも、誰かを守り抜いたという謎の充実感まで浮かび上がる。謎が多すぎてイライラしてきた。

 私は早めにシャワーを浴びるのをやめて、体を拭く。ラフな部屋着に着替え、ダイニングまで向かう。牛乳を一杯飲むためだ。でも、今まではお茶を飲んでいたはずなのに、何故だろう。

 私は冷蔵庫を開けて牛乳を取り出す。ちょうど夕食の時間帯になったので、同時に冷凍のビーフシチューを取り出す。サラダまでついているという、栄養に配慮した食品だ。私はそれを電子レンジに入れて温める。

 フォークやコップを用意し、私はテーブルに座る。3分間じっとレンジを見つめる。すると……。

 

『あぁ、僕の大事にとっておいたお肉がぁ……』

 

 誰の声だ? あの少年の声か? だがなぜ? ただの赤の他人でしかないのに……!

 しかも、私の正面の椅子に座っている。そこで、もうひとつのビーフシチューをパクパクと食べている。頬にソースをつけたままだった。

 

「お前は何しているんだ!? 早く出ていけ!!」

 

 私は正面にいる少年に怒鳴る。すると嘘のように消えていた。フォークも、コップも、私の分だけだった。ただあったのは、電子レンジの音だけだった。

 とりあえず自分の食事をとるために、電子レンジへと向かう。熱々のビーフシチューをテーブルにおき、早速いただく。

 

「頂きます……」

 

 私は小さくいうと、口をつけ始めた。普通に美味しい。だが……。

 

ーーあれ?

 

 テーブルに何かが垂れた。ポタ、ポタポタと落下するそれは一体なにか。私は泣いているのか? 悲しくもなんともない……いや、今はなぜか悲しい。でも、理由は、知らない。

 

ーー今日の私はどこかおかしいのか?

 

 涙をぬぐおうと、腕をあげる。しかし、涙は止まらない。何故だ? 一体今日はなんなんだ?

 私は、正面の方向を見る。すると、一人の少年が背を向けて立っていた。梅里中の制服を着ている、太っちょな少年だった。

 

 

 

『ずっとそばに……いてくれませんか?』

 

 

 

「ーーーー!?」

 

 

ーー誰だ、私にそんなことを言うやつは? 誰なんだ!? おい!! 答えてくれ!!

 

 

『僕は先輩の゛騎士゛です。絶対に守ります』

 

ーー騎士? 何のことだ? 下らない冗談はやめろっ。

 

『先輩……僕は、あなたを裏切らない。何故なら僕はあなたの¨子¨ですから』

 

ーー何なんだよ……何を言っているんだ……いいから私にすべてを教えろ……お前は、そこにいるお前は……誰なんだよっっ!!

 

 

 

 ガタン!

 私ははっと我に返った。私が出した音にも関わらず、その音に私は我に返ったのだ。椅子は倒れ、お茶はこぼれ、ビーフシチューは床に落ちてしまった。私はただそれを呆然と見るだけだった。いつの間にか、少年は消えていた。

 

「は、はは……もう何なんだよ……」

 

 私は膝から崩れ落ちた。落ちたビーフシチューとお茶を拭いて、私はソファーへと身を預ける。

 

「もう、今日は疲れているんだ……寝よう、もう」

 

 私はそう言い聞かせ、瞳を閉じた。

 棚に飾っている睡蓮の花びらが一枚、散っていったのを私は見ていなかった。

 

 

 

 

***

 

 

 僕、シルバー・クロウは、キリトの胴を狙っている。全出力で加速されていく体と意識の中で。向こうの視線と狙いまで読める。向こうも僕と同じ、胴を狙っている。

 

ーーなら全力で、ぶつかるだけだ! 下手な小細工など、通用しない!

 

 僕は必死に右手を伸ばす。光も僕の戦意と共に伸びていく。黒雪姫先輩は最大50メートルは伸ばせた。僕にはそこまでは無理だ。精々5メートルが限界だった。だが、それでいい。それだけあれば、キリトには届く。

 

 残り10メートル。

 僕はキリトの揺れるコートの中央へと目を凝らす。

 

 残り9メートル。

 僕はキリトの突き出す剣のエッジを見る。

 

 残り8メートル。

 僕は自身の繰り出した心意技を信じる。

 

 残り7メートル。

 僕は大切なひとの想いを、力に変えたーー。

 

 

***

 

 俺は加速されていく意識の中、ただシルバー・クロウの胸を狙い続けた。まるで世界がそこしか見えないほどの集中力で。

 

ーー俺はただ、貫くだけだ!

 

 その想いを剣に込める。剣が紅に煌めき、鋼鉄の体へと向けられた。

 

 

 残り6メートル。

 シルバー・クロウの突き出す光が俺を狙う。

 

 残り5メートル。

 俺はその光を凝視し、シルバー・クロウの胸へと剣を突き入れる。

 

 残り4メートル。

 光は俺のコートへと触れ、それが焼けていく。俺の剣も、シルバー・クロウの腕を掠り、彼の体へと迫る。

 

 残り3メートル。

 俺の剣と、彼の光が、交差し。

 激しいスパークが。

 二人を離した。

 

 

 

 

 交差した二つの刃は後ろへと弾かれる。それにともない、互いの体もノックバックする。だが、ここでは終われない。足に力を入れ踏ん張る。シルバー・クロウ、いや、ハルユキも同様だった。ギラギラと燃える闘志を棄てずにいる。この戦いに決着をつけるだけしか、見えていない。

 キリトとハルユキは、踏みとどまった。そして、左腕に意識を集中させる。キリトは、黄色い光を、ハルユキは青の光を宿し、狙いを定める。キリトは過去の想い出と決意を、ハルユキは先を望む希望の意思を、それぞれの腕に込め、両者ともに技名を叫んだ。

 

「エンブレイザァーーーーーー!!」

 

「《光線剣(レーザーソード)》ーーーーーー!!」

 

 キリトの貫手と、ハルユキの剣がゆっくりと、しかし速く近づいている。空気が揺れ、地面がぐらついている。息づかいも聞こえる。そんなゆっくりとした時間だけれども。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一瞬の出来事でしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キリトの貫手と、ハルユキの腕が動きを止めた。加速した時間も、意識もそこで終わりを告げた。キリトの指は、ハルユキの喉を貫き、ハルユキの剣は、キリトの心臓部分を貫きーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 生命を示すゲージは、減少し、空になった。それも同時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 静寂。

 空虚。

 終焉。

 

 嘘のように、呆気なく終わった。終わりを示したのは、薄れゆく意識の中映し出された、¨Double K.O¨の文字だけだった。

 

 

***

 

 

 僕は、気がつくと現実世界の自室にいた。辺りを見渡すが、当然なんの変化もない。当然だ。あの壮絶な戦いも、黒雪姫先輩の言葉も、すべて1,8秒前の出来事なのだから。あの戦いが終わった後はなにもなかった。なにも起こらなかった。即刻現実世界に戻っただけだった。キリトの姿も、消えてしまった。

 

「…………終わったのか?」

 

 一人呟く。無論答えはない。だが、あれだけの戦いの後何もないだなんて、おかしい。だけど答えは浮かばない。まさかすべてが夢だったのか? いや、そんなのはあり得ない。あれはすべて、現実だった。

 

ーー考えるのもだるいや……。でも、あの戦いは楽しかった。怒りを抱いていたけれど、楽しくも感じたな。もう一度戦いたいな……。

 

 どこか充実した気分になった僕は、ピザを取り出す。今日はアンチョビピッツァだ。そういえば、あの人も好きだったピザだったな。そんなもの想いを胸に仕舞い込み、口にいれる。

 最後の一切れまで進み、口にいれた瞬間、ニューロリンカーのバイブが鳴った。僕は電源をいれる。電話だ。それも同じクラスの人間から。

 

「あ、有田。新井だけどさ。連絡網だ」

 

「連絡網か。で、なんだ?」

 

 連絡網だと聞いて少しだけ気持ちが沈む。明日学校だと言うことを思い出してしまうからだ。新井はそんな僕の心境なぞ気にせず、言葉を発する。

 

「さっき先生から聞いたんだけどさ、何でも明日演説会だろ? で、それについて変更があるんだって」

 

「変更!?」

 

 僕は思わず大声を出した。休みになる可能性が浮上してきたからだ。だが、現実はそううまくはいかないようだった。

 

「あ、ああ。来る人が変わったんだけどさ」

 

 なんだよ。なんなのよ。僕の希望を打ち砕きやがって。

 僕は涙が出てきそうだった。

 

「で、誰なの? 変な芸能人から誰になったの?」

 

「えっとね、桐ヶ谷和人だって。すげえよな、桐ヶ谷和人っていえばニューロリンカーを作っちまった人だしな……明日楽しみだわ」

 

「まじか!? そりゃ楽しみだな……。わかった、ありがとう。じゃあ他に回すから切るな」

 

「りょーかい。じゃあな有田」

 

「じゃあな」

 

 僕は受話器を切る。胸には少しのワクワク感があった。

 桐ヶ谷和人という人間はかなり知名度が高い。フルダイブ技術の研究者で、ニューロリンカー等のフルダイブの機械を開発したことで知られている。彼が明日の校内演説で語るとなればそれはものすごい騒ぎになる。

 

 だけれども。

 僕はどこか違和感というか、変な感じを覚えていた。桐ヶ谷和人という名前に。何の変哲のない名前なのに、何故か何かを感じてしまう。

 

ーーまあ、気のせいだろーな……。シャワー浴びて寝よう。

 

 僕は違和感をぬぐい捨てて、シャワールームに向かった。一日二回浴びるのが習慣だ。

 ざっと体も洗って連絡網を回して僕はベッドに体を沈み混ませて、眠りについた。今日のあの激闘を振り返りながら……。




次回はリアルでのキリトとの邂逅です。なぜキリトが学校に来たのか、それはご都合主義になりそうですが、理由はご用意しています。
では、後2回ほどになりそうですがよろしくお願いします。では感想、評価、お気に入り登録などお待ちしております。

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