プランB/楽園を探して   作:シャブモルヒネ

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今この世で君だけ大正解

 

――正直に言うと、上手くいくなんて思っていなかった。

  それでも駆け出さずにはいられなかった。

 

 

 

 正体がばれてしまい、任務に失敗したモルモットに残された選択肢は一つしかない。

 それ即ち、逃げること。

 国家と悪魔がそれぞれのイデオロギーと都合と欲望を理由に命を投げつけ合っているこの現世は再チャレンジが通用するほど甘い場所ではない。

 当然、私だって身を隠すつもりだった。

 でもどうしてだろう。

 あとは新幹線に乗り込むだけという段になって足が一歩も動かなくなってしまった。

 他の道は無い。敵地に居残ればジリ貧の死が待ち受けているだけと分かってるはずなのに、私は呆けたようにホームに立ち尽くしているだけだった。

 出発してしまった電車を見送って、何の覚悟も決めずに街へ出た。

 周囲を行き交う人々の隙間から誰かが私を見ている気がする。

 無線機で応援を呼ばれているかもしれない。

 狙撃手のライフルがこちらに照準を合わせている最中かもしれない。

 それでも私の足は危険を顧みず、見知った道のりを進んでいく。

 ただただ胸の高鳴りが苦しかった。

 自分でも掌握しきれない衝動に駆られて階段を一段飛ばしで登っていき、ビルの隙間に入りこむ。

 長い直線にすうっと視界が通り抜けていく。

 遠く、薄暗い裏路地の向こう側に、カフェ『二道』の窓が見えた。

 ここを真っ直ぐ進むだけでまた会える。

 

 デンジ君――

 

 私は雲を踏むような足取りで駆け出して、

 

「私も」

 

 そこで私は、

 

「私も田舎のネズミが好き」

 

 マキマに殺されたはずだった。

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 カフェ『二道』でレゼを待っている。

 待って待って待ち続けている。

 壁時計を見上げるとまだ一時間も経っていない。

 

 なあ、おかしくね?

 マキマさんとクソ映画を観てた時だってもう少し時間が経つのは早かった気がするぜ。

 逸る気持ちを抑えて鼻から息を垂れ流す。

 

 レゼは来るのか、来ねえのか。

 

 初めのうちはワクワクしていた。

 ジュースを飲み干して、カレー食い終わって、それでもレゼは来ない。

 メニュー表を眺めてみたり、脚を組み替えたりしてみてもレゼは来ない。

 来なかった。

 落ち着かない。

 壁時計を何度も見ていると、カフェのマスターが慰めみたいなことを言った。

 人生色んなことがあるからね、とか何とか。

 うっせえばーか。

 そっぽを向いていると、ふと変な感じがした。デジャヴってやつだ。なーんかアキに小言を言われてる時と同じなんだよな。世間はこーゆーふうに出来ている、だからオトナになれよって感じの、つまんない説教。そりゃ大抵がその通りだよ。分かってる。分かってますとも。

 世の中、宝くじが当たるようには出来てねえ。ここ一番の願い事は叶わねえ。そう言いたいんだろ?

 けどさ、それでも確率はゼロじゃねえ。

 1パーセントぐらいは当たるかもしれねえじゃん?

 だから給料全部かき集めて、リュックに荷物まとめて、家を飛びだしてきたってわけ。

 そのことに後悔はない。

 ないけどなぁ。

 やっぱ1パーセントは1パーセントなんかなぁ……?

 …………レゼは、どう思ってんのかな?

 来たいってぐらいは思ってくれてんのかな?

 あんまりそういうことを考えたことなかった。

 レゼにはレゼの事情がきっとある。

 ビームがさぁ、レゼは銃の悪魔の仲間みてえなことを言ってたし……仲間が居るってことは、俺にとってのパワーやアキみたいなのがレゼにも居るってことだよな?

 つまり俺と一緒に逃げるってことはそいつら捨てろってことになる……。

 うーーん。

 俺ぁ花火ん時に「働きながらレゼと会うんじゃダメなの?」って断っちまってんだよなぁ。

 だったらレゼも同じような感じなんかな?

 仮に俺と逃げたいって気持ちがあったとしてもそうできない事情ってやつがあるのかも。

 ……いや、でもさ。

 1パーセント!

 1パーセントはあるんだから。

 あるよな?

 

 壁時計をまた見上げてみる。

 さっきと5分も変わっていなかった。

 

 

 3時になった。

 来ねえ。

 

 4時になった。

 来ねええええええ。

 

 5時になった。

 来てくれーーー。

 

 6時。

 考えるな。心を無にして待つんだ。

 

 7時。

 いつもなら家で夕飯食ってるな。

 

 8時。

 アキは1人でメシ食ったのかな。

 

 9時。

 用意した花束がしおれてきた。

 

 

 マスターがまた可哀想な奴を見る目で俺を見てくる。超うぜえ。

 

「あの子は可愛すぎた。住む世界が違ったんだ」

 

 うるさい。

 

「いつかデンジ君にはピッタリな女の子が現れるよ」

 

 どーでもいい。

 分ぁーってるよ、レゼがタカネの花ってことぐらい。

 でもよ、俺はレゼがいいんだ。全賭けしたんだ。来てくれ~~って思ってるぐらいいいだろ。

 けど、なあ。

 やっぱアレだったか。

 宝くじだったか。

 99パーセントのハズレの方だったか~。

 これもう終わっちゃってる気がする。いつまでも粘ってる俺がバカなだけな気がしてきた。

 もしかしなくてもアレだ。フラレたってやつだよな。

 俺、フラレたんか。

 もう座りっぱなしでケツが痛えよ……。

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

「……?」

 

 気がつけば、裏路地に倒れこんでいた。

 

 私は確かにマキマに殺されたはず……?

 

 事態が把握できない。

 ひとまず意識を失ったままのふりをしながら身体の状態を確かめた。

 

 切断されたはずの右腕――繋がっている。

 貫かれたはずの胸部――穴が塞がっている。

 周囲には――生き物の気配は感じられない。

 

「夜になってる……?」

 

 ゆっくりと身を起こしてみた。

 やはり誰も襲ってこなかった。

 不可解だ。

 

 どうして私はまだここに居る?

 

 マキマがボムの心臓の利用価値を知らないはずがない。私の死体を放置する理由は? 生かして利用した方が価値がある? 敵なのに? それとも放置せざるをえなかった? 例えばマキマも手を焼くような第三者がやってきたとか……。

 

「あ」

 

 顔を上げれば目の前にはカフェ『二道』。

 それだけで十分だった。

 私が始末されなかった理由なんてどうでもいい。例え魔女の気まぐれであろうとも、その果てにボロ雑巾のような死が待ち受けていようとも関係ない。

 一歩、また一歩と近付ける事実に気持ちが浮き立ってくる。

 信じがたい思いで指を伸ばせばドアに触れることができた。

 開けることもできた。

 聞き慣れたドアベルの音に感謝する。

 息もせずに店内に視線を巡らせた。

 居た。

 たった一人の少年がそこに居た。

 

 ああ、そうか。

 すっかり忘れていた。

 これが期待するって感情だった――

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 はーーーーー。

 帰るかぁ。

 帰りたくねえけど。帰んなきゃしょうがねえ。帰りたくねえけど。

 けどここまで待ったとなるとケツを上げるにも踏ん切りってやつが要る。

 どーすっか。

 次の客が来たら帰っか。

 つってもこの店、全然客来ねーけどな。

 大丈夫かよこの店。レゼが辞めたら潰れるんじゃねーの。

 

 あ、店んドアが開いた。

 客来たかあ。

 よし、じゃあこれが最後の1パーセントだ。

 この賭けが外れたらもう帰ろう。

 ったくよー、一体誰だよ。こんなガラガラの店に来るような物好きはよ~……?

 

「うえっえええ!?」

 

 1パーセントがそこに居た。

 照れくさそうな笑みを浮かべながら上目遣いでこちらを伺っている。

 

「レッ、レゼ!?」

「えへ。来ちゃった」

「なァ……っ、なんでェ!?」

「だって、デンジ君が待ってるって言ったんでしょ? もしかして来ない方が良かった?」

「来て良い来て良い!」

 

 ぱあっと可憐な笑顔が咲いている。

 けれど会ったばかりの頃とは少し違う。ぎこちなく目線を左右に揺らしながら言葉を探している。艶やかな唇が開きかけて、すぐに閉じる。

 なんもかんもが分かんないまま立ち上がり、そこに居るって確かめようと近寄るとレゼは大げさに仰け反った。

 

「ちょっ、な、何この花束~? わざわざ買ってきたの?」

「いやさ……その、いいの?」

「ん? 何が?」

「俺と一緒で。そのさ、レゼにはレゼの」

 

 ぴっ、と少女の細い指が突きつけられた。

 

「んーちょっと違うなあ。……問題ジャジャン! こういう時に男の子が言うべき台詞は何でしょう!」

「そりゃあ……」

 

 ははあ、なるほど。

 つまりこういうことだな。

 

 問い一。

 俺に金玉はついてるか?

 勿論ついてるに決まってる。

 

 息を大きく吸いこんだ。

 天井を見上げる。

 

 レゼは来た。

 俺は1パーセントを引き当てた。

 見たかアキ。世間の小賢しい大人ども!

 俺ぁ今、最強に無敵だぜ!

 

「一緒に行こうぜ! 世界の果てまでよお~!」

 

 レゼは目尻を緩ませてにんまりと頬を赤らめる。

 

「うん。私をどこまでも連れて行って」

 

 

 

 

 

楽園を探して

 

 

 

 

 

 青い空。白い雲。

 南国の陽射しが焼けつくように降り注いでいる。

 ひりつく肌を潮風がふわりと撫でていく。

 遮るもののない開けた海岸沿いにデンジとレゼの二人がぼんやりと座っていた。

 ずぶ濡れのずだ袋だけを手荷物に、ただ二人、何をするでもなく海を眺めていた。

 浜辺に足を投げ出したままデンジが言った。

 

「とうとう辿り着いちまったなぁ……。世界の果てに」

 

 隣で三角座りをしているレゼが遥か彼方の水平線を見つめながらぽつりと零す。

 

「そうかなぁ」

「色々あったけど一緒に旅できて良かったぜ」

「そうかなぁ」

「えっとぉ……あ、そういえばクルーザーの運ちゃんは?」

 

 レゼは無言のまま首だけをゆっくりと巡らせて波打ち際に目を向ける。

 つられてデンジも視線を向けた。

 白い砂浜に波が寄せては引いている、その流れに合わせてマネキンのようなものがごろごろと転がっていた。そのマネキンはえらくガタイのいい中年男の姿をしていて、浅黒い肌で、腕には派手な入れ墨があって、顔面には勲章傷が走っていた。白目をむいてぴくりとも動かない。

 当たり前だ。生きていないんだから。

 

「し、死んでる……」

「いい人だったよねー」

「いや、悪い人だろ……。俺たちんこと売り飛ばそうとしてたし」

「でも殺さなくてもよかったよねー」

「おっ、俺じゃねえ! あの悪魔が! こいつが連れてきた悪魔が暴れて勝手に死んだんだろ!?」

「そうとも言うねー。ま、そっちはいいの。自業自得だから。でもさ、デンジ君もちょーっと暴れすぎたんじゃないですかねえ?」

「そっそんなことなくね……?」

 

 レゼはいっそう目を細め、澄み切ったコバルトブルーの海面から突き出した真っ赤な船首を見つめた。

 深い溜め息をつく。

 けして取り戻すことのできない遠い過去を振り返るかのような重苦しい溜め息を。

 

「お、俺のせいじゃない」

 

 じろり。

 

「俺のせい、かなぁ……?」

「デンジ君さあ、船の底までぶった斬っちゃダメだよ」

「すんませんでした……」

 

 レゼの物憂げな視線の先でクルーザーの船首がゆっくりと海中に沈んでいく。

 仮に今ここでデンジとレゼが変身して武器人間パワーを奮っても引き上げることはできないだろう。

 デンジは首を竦め、横目でこっそりレゼを窺った。

 不機嫌そうに唇を尖らせている。

 眉間に皺を寄せてうんうんと唸っている。

 

(クソ可愛い)

 

 鼻の奥をくすぐる潮の香りを満喫しながらデンジは他人事のようにゆったりと天を仰いだ。

 

 ここは無人島だ。

 事前に調べたからよ~く知っている。

 マキマのいる日本に留まるのは全方面的にヤバイと力説するレゼと手を繋いで海外へと飛び出してからもう一ヵ月が経過した。

 今は東南アジア諸国を縦断中だ。

 自分たちはいわゆる追われる身ってやつで人目を気にしてコッソリ生きていかなきゃいけないのは流石に分かっている。

 でもせっかく南国に来たんだからバカンスぐらいやってもバチは当たらないとも思っていた。

 だからどっかの島に遊びに行こうと思った。

 観光地は追っ手を警戒するレゼの気が休まらないから却下した。

 人が少ないところ……ならいっそ誰もいない場所がいいとデンジは考える。

 そして選ばれたのがこの無人島というわけだ。

 必要経費は野良悪魔をハントして闇市に売っぱらって貯めた。安宿でごろごろしながら計画を立てるのは楽しかった。最高の一日になるぞと胸が高鳴った。

 それがまさか貸し切ったクルーザーの運転手が観光客をカモにする悪徳業者とは思わなかったし、ましてや悪魔と組んでるなんて夢にも思わなかったのだ。

 

(ま! 起きちまった事ぁ考えなくていっかぁ!)

 

 ふと海面を見ると、自分たちが乗ってきたクルーザーはもう完全に沈んで見えなくなっていた。

 遭難が確定した。

 デンジには人がいる島がどっちの方角にあるかも分からない。

 だが不安はない。レゼが傍に居るだけで無限にやる気が湧いてくるからだ。

 

「なあ~! せっかく来たんだし遊ばね? 海だぜ海!」

「あのさあ」

 

 レゼはわざとらしく頬を膨らませ、前髪の隙間からデンジに抗議の視線を投射する。

 だがデンジにはまったく刺さらない。

 へらへらと笑うだけだ。

 しばらく向き合う形になっていたが先に折れたのはレゼの方だった。

 

「……はあ~~あ! ダメだー! 全然怒る気になれませーん!」

「あ?」

「せっかくだから一回喧嘩してみたかったのによー」

「なんで?」

「喧嘩したことないでしょ。私たち」

「うん。……うん?」

「してみたいだろ~、喧嘩」

「そおかあ? 仲良い方がいいんじゃね?」

「人生これ経験ですよ。よく聞くでしょ~? 私のカレシがさ~、みたいな惚気。あれ言う側をやってみたかったな~」

「か、かれし……」

 

 彼氏ってことは恋人だ。

 恋人。恋人。恋人。

 デンジの頭の中で甘酸っぱいワードが鳴り響く。

 

 自分とレゼは恋人なのか。

 いやそりゃそうだろ。

 キスもしたし駆け落ちみたいなこともしてる。好きだし。

 でも恋人ってこういう感じで合ってんのか?

 

 初めてのデンジには分からないし相談できる第三者もいない。

 恋人関係とは何なのか。

 何をすべきなのか。

 していいのか。

 ……しちゃっていいのか。

 匙加減は全く分からない。それでも声を大にして言いたいことはただ一つ。

 

(してぇ! そういう行為してー!)

 

 だが流石のデンジもこの状況でそれを言い出せるほどバカではない。

 エロはしたい。

 したいけどするにも資格が要ると今のデンジは思うのだ。

 

 彼氏彼女ってのは対等なもんだ。

 えっちをするなら彼女に釣り合う立派な男じゃなくちゃいけない。

 

 レゼはとんでもなく優秀だ。

 密航する手引きをしたのもレゼだし、中国語や英語で買い物したり交渉してたのもレゼだ。

 それに比べて自分はどうだ。

 彼女にくっついて歩いてただけじゃないか。

 

(このままじゃ男のコケンに関わるぜ……)

 

 自分は学が無い。スキルが無い。

 戦うだけしか能が無い。

 これまではそれでもいいと思っていた。

 でも今は違う!

 

 デンジが密かに決意を固めているとレゼがパンッと手を打ち鳴らす。

 

「さーてそろそろマジメにやりますかぁ。遭難ですよデンジ君? これは大変な事態です」

「そうなんですか」

「そうなんです!」

 

 ふんすと気合一発、悲壮感ゼロの笑みを浮かべてレゼは言う。

 

「無人島ク~イズ! 遭難したらまずやるべきことはなんでしょ~?」

「はいハイハーイ! メシを確保する!」

「ぶぶー! 惜しい!」

「水!」

「正解! 天才!」

「よーしじゃあ池とか川とか探してくりゃいいんだな」

「違う違う! 水は作るもんですよ」

「えっ、そーなの?」

「生水はお腹壊しちゃうからねー。デンジ君はぁ、海岸に流れ着いている加工品を集めてきて下さい。ペットボトルとかドラム缶とか、コップの形してると最高。ビニールシートとかもいいね」

「了解! 任せろー!」

 

 言うやデンジは頬を叩いて気合を入れる。

 これはチャンスだ。

 頼りになるところを見せて希望の明日(えっち)へと繋げるのだ!

 

 

 

 

 

 すっかり陽が落ちて砂浜は真っ暗になっていた。

 波が打ち寄せる音がやけに響いている。

 浜辺と雑木林の境には、デンジが組み上げた掘っ建て小屋が鎮座していた。

 丸太を支点によく分からないシートをかけただけの簡易なものだったが小雨を凌ぐ程度には実用的に見える。

 入り口のところには石を凹の形に重ねた。中央に枯れ枝を重ねれば立派な焚き火場所の完成だ。

 

「ただいまー……ってすごっ!? 家できてる~~!?」

「子どもん頃、木ぃ切るバイトしてたからなァ」

 

 素っ気なくブッシュクラフトの続きに戻ろうとするデンジをレゼは大げさに褒め称えた。いい子偉い子! と髪をわしゃわしゃ掻き乱すとデンジはやーめーろーと抗議の声をあげる。手を払いのけようとはしなかったが。

 

「メシ! なんかいいもんあった?」

「大漁ですよお客さ~ん」

 

 レゼが背負ったズダ袋から食材を並べだす。

 

「まずは貝でしょー、カニさん~、山菜~、メインはお魚でーす」

「うおっ、すっげ……。え? 魚ってどうやって採ったの?」

「そりゃもう、ぼんっですよ」

 

 いわゆるダイナマイト漁というやつだ。

 水中で爆発物を爆発させて、その衝撃波で死んだり気絶して水面に浮き上がってきた魚を回収する漁法だ。ちなみに爆発により生態系を破壊するなど複数の問題があるため多くの国家では禁止されている。まあ今回ばかりは緊急事態ということで許してほしい。

 

 閑話休題。

 

 まずは火を熾そうという話になった。

 ボムの力を使えば早いのだがレゼは敢えて人力に拘った。

 曰く「スキルは身につけておくに越したことはない」とのこと。

 デンジは苦戦しながらナイフで焚きつけを作り、レゼが常備している火打石で火花を散らした。これが意外に難しい。デンジは根気強く試行錯誤を重ねて火を立ち昇らせることに成功した。小さな歓声が上がりハイタッチを交わす。

 デンジは自分が一歩進化した人間になれた気がした。

 

「おーすげー。人類の夜明けって感じ」

「キミは今まで猿だったのか?」

「わん!」

「まだ人間になれてなーい!」

 

 二人並んで胡坐をかいて、焚き火に手をかざした。

 採ってきた魚を枝に刺して火で炙ったり、拾ってきたボロ鍋に多様な食材をぶち込んだ。

 調味料のない原始的な味ではあったがデンジは気にせずに「うめえうめえ」とがっついていく。日中の肉体労働で腹を空かせているにせよタフなものだとレゼは感心した。

 

「雑草とかよく食ってたし何でも食えるぜ」

 

 そこから思い出話が始まって、デンジは臆面なく子ども時代の武勇伝を語った。

 小麦粉を水で溶いて飲んでいたという話にレゼは大げさに驚いたが、デンジは「あん時ゃ楽しみだったんだ」と懐かしむだけだった。

 

「私もサバイバル……とかやらされたなー」

 

 レゼもぽつりぽつりと語り始める。

 その体験談には陰のある生臭さがこびりついていたが、デンジは変な遠慮を見せたりはしなかった。耳を傾け、口を挟み、自然レゼも流暢になっていく。

 

「大変だったんだよ~」

 

 とにかく寒さを凌ぐのがキツかったこと、

 同輩の一人が毒キノコを食べて痙攣が止まらなくなったこと、

 野生の狼に囲まれた夜に、それまでフリでも仲良くできなかった奴と背中を預け合ったこと、

 それ以降、奇妙な信頼関係が結ばれたこと――

 

「別にそれで仲良くなれたわけじゃないんだけどね」

「嫌いじゃないんだ?」

「どーかなあ。結局気は合わなかったし。何故か組まされることが多くて喧嘩ばっかりしてた」

「へ~。なんかいいな、そういうの」

「えー? どこが?」

「だって俺、友達いねえし。喧嘩したことねえ。パワーとアキはなんか違うし」

「ふうん……。じゃあさ、そのうち喧嘩できる友達ができるといいね」

「そーだな。……あ、じゃあレゼともいつか喧嘩することあるかもだ」

「その時はどんな喧嘩しよっか?」

「んんー……できれば楽しいやつがいい」

「なんじゃそりゃ!」

 

 レゼは肩を竦めて立ち上がる。

 ズダ袋をごそごそ漁って、ベトナムのジャンク屋で手に入れたラジカセを取り出した。ツマミを捻るとアップテンポな曲調が流れ出してくる。

 色々あって疲れているはずなのに聞き入ってしまって眠る気になれなかった。

 見上げた夜空は信じられないほど澄み切っている

 

 

 

One Fine Day(あるゴキゲンな一日)

 

If I had a perfect d(もし最高の一日があれば)ay.

I ould have it start (こんな感じだろうな)this way.

Open up the fridge and have(冷蔵庫を開けて冷えた酒を持ち出すんだ) a tall boy, Yeah ! !

Then I’d meet up with m(そして友達と待ち合わせでもして)y friends.

Head out to the game aga(ゲームでもやりに出かける)in.

We don’t even really ca(誰が勝とうが気にしない)re,

Who Wins, Hey, Wins, Hey, One, Two,(さあ一緒に盛り上がろうぜ! 1 2 3!) Three ! !

 

 

 

 満天の星空と男女二人だけが寝そべる浜辺――その間の空間に不意に突風が通り過ぎていく。

 渦を巻き、螺旋状に空へと駆け上がる。

 砂の粒がきらきらと輝いた。

 吹き荒れる風に乗って、ぐるぐると、咲き乱れる花びらのように舞っていく。

 レゼは、あはっとおかしそうに笑う。

 デンジも同じように笑った。

 

 大の字になっていつまでも世界へと繋がる空を見上げていた。

 




映画がハチャメチャに良かったんですよ。
また観に行きますよ私は。
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