「え・え・ええ~~!? 私ってお父さんとお母さんの子どもじゃないってことになってるの!?」
両親から私の出生について聞こう企画、二日目。
いきなり衝撃の事実を食らった。
その衝撃たるや、お母さんとの特訓でカウンターを食らったときか、背負い投げを決められて受け身をとれなかったときと同じぐらいの威力があったと思う。
なのにお父さんもお母さんもけろっとした顔だった。
「書類上はね。書類だけ」
「血縁はちゃんと俺らと繋がってるから大丈夫」
その神経が私にはさっぱり分からない。
いくら実の父親・実の母親と暮らしているって事実が変わらなくても、あなたは養子に出された子なんですって言われて平気でいられるわけがない。
けど二人とも「手続きがどうなってるかなんて小さなこと」なんて宣っている。
そんなのは政府がやろうと思えば消したり書き加えたりできるからどうでもいい、ってさ……。
そりゃあ本質こそが一番大事だろうけど、自分の存在を証明するものが一つ偽物になっていると聞かされたら普通不安に思うよね。
「――で? 私は村長さんとこの家系の一人ってことになってるんだ……? うわあ~。これってちょっと、いやかなりショックだよ……。どうしてそんなことになってるの?」
「だってお母さん、戸籍無いから」
「へ」
「俺はあるけど、もう死んでることになってるんじゃねえかな? 確か失踪して七年経ったらそうなるはずだし」
「し、失踪……」
「とにかくそういうわけでな、俺らはこの国に存在してる証明が無いんだわ。居ない奴の子どもに登録できるわけないだろ?」
「あの時は村長のお婆さんに相談してね……。あそこの家、役所の人と融通効くのもあって受け入れてもらえたの。エリにとっては複雑だろうけど、これってとてもありがたいことなの。だって名無しの権兵衛じゃ学校にも通えないし病院にだって行けないんだから」
「そう……。そう、なんだ……」
「だいじょぶか?」
「ダメかも……」
「エリ。一つだけ分かってもらいたいのは、私たちはこれが最善だと思ったから実行したってこと。割り切れない部分はあったけど、それでも私みたいな存在していない人間にはしたくなかった」
「うん……。ちょっと整理つけたい」
私はふらふらと立ち上がり、リビングから自室へ移動した。
ばたりとベッドに倒れこむ。
頭の中で正論の糸がこんがらがって団子になっていた。
ほどくには時間がかかりそう。
自分が何にショックを受けているのかも分からないような状態だ。
私は何が一番嫌なんだろう?
そう考えて、村長の家の子どもにならなきゃいけないかもしれないのが怖いんだと気付いた。
むくりと起き上がり、リビングに顔だけ覗かせる。
お父さんもお母さんもソファーに座ったままこっちを見ていた。
「ねえ! 私ってずっとこの家に住んでいてもいいの?」
「あん? 当たり前だろ?」
「あっちの家で跡取りがほしいとか言われて引っ越すようなことってない?」
「ないない。そこは話ついてっから」
「そう、なんだ。今までと変わらなくていいんだ……?」
「ああ。仮にしがらみってやつが面倒くさくなったら最悪ぜ~んぶポイして家族三人どっかに行っちまえばいい」
「そ、それどこまで本気?」
「全部本気だけど? そもそも俺とお母さんはそうやってこの国に来たんだしな。慣れてっからどうとでもなる。そん時ぁ任せとけ」
「……お母さんとしては、エリにはちゃんと学校に行ってほしいな」
「ん……。分かった」
私は頭を引っ込めて再びベッドにダイブする。
さっきよりは少し落ち着いている、と思う。
とりあえず――そういうことならまだいいか。
今日の結論。
お父さんとお母さんは法律上存在していない人間だった。
私は戸籍の上では余所の家の子ってことになっている。
以上。
う~ん。
ハードボイルドな生い立ちのキャラクターって恰好いいって思ってた。
いざ自分がなってみると……思っていた以上にヘヴィだぜ。
***
お母さんがどんな仕事をしているのかは分からない。
家でノートパソコンの前でカタカタ文字を打っていたりすることもあるし、スーツを着てどこかに出掛けることもある。
家に居るときに「何してるの?」って聞くと、「ブログの更新」とか「ゴーストライター」とか「トレード」とか答えてくる。
外に出るときに「どんな仕事をしに行くの?」って聞くと、「仲介」とか「調査」とか「探偵」って答える。
そんな人、いる?
お父さんみたいな何でも屋ならともかく、どこかの会社に雇われてるならそんな転々としないと思うけど。そういう雇用形態もあるとは聞く。でもやることがばらばらすぎると思う。
「お母さんも何でも屋みたいなものだから」
ちょっとよく分からない。
一つだけ確かなのは、どんな仕事をやると言って外出しても夕方には家に帰ってきているということだ。
夕食は大体お母さんが作っている。
お父さんは朝とか休みの日が多いかな。大体中華になるから朝は違うのにしてほしい。
朝。
そう、私の朝には日課がある。
お母さんとの特訓だ。
もう長いことやっているのに一度も勝ったことがない。というか勝てる見込みが全然ない。
お母さんの体格は細身な方なので筋力の差は縮まってきているはず。なのに毎回完封されてしまう。
多分、対応力の差だと思う。
こっちがどう動いてもいつの間にか受けられない空間を作らされて、そこに攻めこまれてしまう……みたいな?
特訓は、毎日課題を一つ設定されて、それを達成するまで朝ご飯が食べられない。
そうなるとこっちも必死になるから、自然と上達することになる。
訓練を始めた当初はオーソドックスな格闘技って感じだったけど最近はなんというかエグい手法が増えている。「こう来たら極めて折るチャンスだよ」とか言うんだけど、それってなんかダメじゃない? って思う。
色々格闘技のやっちゃいけないラインを越えてるんだよね。ひたすら実戦的っていうか。
昨日なんか首の絞め方だったし。意識を落とすやり方と命を落とすやり方。いいのかなぁコレって思いますよホント。
あと練習だとしても母親の首を絞めるのはすごく抵抗がある。「ちが、う、こう……」ってやり直しさせられるのスゴく嫌。それを言ったら練習台がお父さんに替わった。「なんで俺ぇ!?」って騒いでたけど、お母さんが耳元で何かを囁くと急にキリっとした顔をして「エリのためだ。しゃあねえな」と首を差しだしてきた。一体何を言ったんだろう。
ひとまず首が太いと罪悪感が減るっていうイヤ~な新発見をした。
お母さんって何をやってた人なんだろう。
暗殺者でもやってたの?
そう軽口をたたくと、
「それもあったよ」
って普通に返されたからビックリした。
え、ギャグ?
珍しいなって思ってたけど、「な~んちゃって!」が来ないんだよね。
うわ、ホントなんだ~……って分かった。
「あのお……それって聞くのに覚悟要るやつ?」
「要るよ? 世界のハードな人生送ってますランキングがあったら上位1%に入る自信がある」
「そ、そっかぁ。じゃあソフトめなところからお願いできます……?」
「うん……。ええとね、お母さんね、ある施設に閉じこめられてて少年兵みたいな感じだったの」
「待って! もう重い!」
「あと悪魔と一体化する実験みたいなのも受けてて」
「ごめん! ちょっと待ってください!」
「大丈夫?」
「こっちの台詞だよぉ……」
聞けば、その実験の時に悪魔の心臓を移植されて今の姿のまま固定されるようになったらしい。
つまりお母さんはこの後期中等学校の学生ぐらいの年齢でそんなどハードな体験をしたというわけになる。
こんな、まだ大人にもなっていない、華奢な女の子が……。
胸が苦しくなりすぎて思わず抱きついてしまった。
その身体は今の私よりちょっと成長しているぐらいだ。この小さな身体でどんな苦難を乗り越えてきたんだろう。
「エリは優しい子だね」
お母さんは私の背中をぽんぽんと軽く叩く。
「お母さんね、その施設でスパイ……みたいな教育も受けててね。だから格闘技とかできるんだ。色々……色々あったな。お母さんはもう慣れちゃっててへっちゃらなんだけど、多分、エリが想像できる最悪を三倍ぐらい酷くした話になるから、あまり教えたくはないかな」
「分かった」
「ま、教えられることとか、知った方がいいこと、知ってほしいことは伝えるから」
「うん」
「なので訓練は続けます。そろそろナイフの扱い方について教えるよ」
「待ってください」
「銃は調達できる当てがついたから、届いてからね」
「あのぉ、それって覚える必要あるんですか?」
「超必要。今のご時世、ナイフや銃くらい使えないとね。あと半端だと却って危ないからちゃんとプロ級にしてあげる」
「何のプロ!?」
お母さんは結構ズレていると思う。
このままだと悲しいだけの話で終わってしまいそうなので、「でも楽しい想い出もあったでしょ」と聞いてみた。すると秒で「なかったなぁ」と返ってきた。ドン引きした。
「あっ、と、うん……楽しいこと、あったよ? ええと~ちょっと待ってね~、今思い出すから」
「あ、うん」
「そうそう! 笑顔を作る訓練があって~」
「……」
「じゃなくて。……犬! 犬飼ってたの! 可愛かったな~」
「へえ~。名前は?」
「21号。私と同じ」
「ん?」
「ん?」
「えっと、それってどういう……」
「な、な~んちゃって。あはは」
なんかもう深掘りするのはやめようって思った。
のんびり投稿しようと思います。
やりたいシーンに全然辿り着きません。