プランB/楽園を探して   作:シャブモルヒネ

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おやすみエリ

 

 この機を逃してはならないと思った。

 

 

 お母さんがお風呂に入ったのを見計らい、ソファでテレビを眺めていたお父さんに声をかける。

 

「ね、ね。一緒にお母さんにおやつ作ってあげようよ」

「え? 俺も? なんで?」

「だって怒らせちゃったじゃん」

「もう怒ってないよ。俺めちゃめちゃ謝ったから」

「そういう問題じゃないの。ちゃんと歩み寄りたいって気持ちを伝えなきゃ」

「だ~いじょうぶだって。今はちょっと気まずくなってっけど明日になったらケロリだから。俺、分かんの。もう何百回も怒らせてきたから」

「お父さんさ、他に付き合った女の子いないでしょ」

 

 お父さんはぎょっとする。

 

「あのね、お父さん……。謝った、許します、はい終わり……じゃダメなんだよ? こういうのは積み重なってくんだから」

「そーなの?」

「ヤバいよ。嫌われちゃうよ?」

「まさか~。お母さんに限ってそりゃねえよ。…………ないよな?」

「いいからホラ、立って立って! やって損はないんだからさ!」

「え~。大丈夫だと思うんだけどなぁ……」

 

 お父さんのシャツを引っ張ってキッチンに連れて行く。

 材料を並べて、鍋を火にかけた。

 二人、キッチンに並んで生地をこねていく。ちらりと見上げると作業に集中しているお父さんの横顔があった。

 黙ってちゃんとしてればカッコいい方だと思うのに。

 おやつはどうにかお母さんが戻ってくるまでに完成させることができた。

 私は現れたお母さんを呼び止めて、一緒に食べようと誘う。

 お母さんは「こんな夜にまた食べるの?」と渋ったけど、私がお父さんを連れてくると事情を察したようだった。

 

「今日はごめんね。私が聞きたいって言ったの。お父さん、酔ってたから変なことまで言っちゃったみたい」

「あ~、と。調子乗って……スイマセン……」

 

 あとはもう勢いだ。

 お母さんを無理やり座らせて、私たちも両隣に座って食べろ食べろと騒ぎたてる。

 箸を持たせ、お皿を目の前に持ってくる。「私とお父さんの二人で作ったの!」と言えばいちころだ。

 お母さんは苦笑いしながら一口食べる。

 

「どう?」

「美味しいよ?」

「ホントのところは?」

「ん~……ちょっと大雑把な感じかな」

「ほらぁ~。お父さんが適当だから~」

「な、なんだよ。一緒に作ったんだろ~? エリにも半分責任あんだろうよ~」

 

 そうやって三人で夜のおやつを食べた。

 食べて、お皿が空になったところで切りだした。

 

「あのね、お母さん」

「なに?」

「お父さんがしたお話の続き、教えて」

 

 お母さんが何か言う前に、頭の中で用意していた言葉でまくしたてていく。

 

「元々、私に色々教えてくれるって話だったでしょ? それを知らないと困ることになるって。お母さんとお父さんが駆け落ちをすることになった経緯ってとても大事なポイントだと思うな。どう?」

「それは……そうかもだけど」

「ね? お母さんが言いたくないところは言わなくていいから。大事なところは教えてほしいな?」

「……ん~」

「私も半端のままじゃすごく気になるもん。お母さんからちゃんと聞きたい」

「んんん~~」

「話してくれないなら、お父さんに聞くけど」

 

 お母さんは、愛想よく笑う私に困り顔を見せ、食べてしまったおやつの皿を眺め、ふぅと溜め息をついた。

 

「……分かった。降参」

「やったっ!」

 

 お母さんは「エリも上手くやるようになったね……」と肩を竦め、私に「お母さんの教育のおかげです」と返されると苦笑いを浮かべていた。

 

「ただし、お母さんが全部話すから。お父さんは余計なことを言わないって約束すること」

「するする! 俺約束しちゃうよ~!」

「で、どこまで話したんだっけ?」

「花火のときにお母さんがガチ告白をしたシーンまで」

「……違うから!」

 

 お母さん、カッと目を見開いて、

 

「あれはっ、ガチではっ、ありませんっ! 任務! 任務ですから!」

 

 と拳を握って主張した。

 なんで敬語?

 

「だってあの時はお父さんと一緒に逃げれ……ソ連まで連れていければ、任務達成なんだから……。普通に考えて、そっちの方が楽だから、そうしただけ。分かるでしょ?」

「じゃあ全てはお父さんを穏便に連れて行くために告白したってこと?」

「そうっ!」

「そのために一週間もイチャイチャしてたってこと?」

「そうっ! ……イチャイチャはしていませんけど!」

「ふぅ~~ん」

「なにその顔。信じてないの?」

「別に~。ただお母さんのイメージに合わないなぁって思って」

「私のイメージどうなってるの?」

「なんか筋が通ってない感じがするんだよねー」

「エリ、全然分かってない。そういう合理的じゃないところも含めて演技なの。それがプロのお仕事なの」

「お父さんはどう思う?」

「俺は本気だと思ってたよ……。ショックだわ~」

「くっ」

「でもよぉ、ちょっとぐらいは気持ちあったろ? 正直何パーセントぐらいだったよ?」

「な、何が?」

「あの花火ん時にさあ、どれぐらい本気で俺と逃げてもいいって思ってたかってこと」

「…………、…………っ」

 

 う~わ。どう答えるか超悩んでる。

 これってやっぱりガチだったんじゃないの。

 

 お母さんは、今まで見たことがないほどの迷いっぷりだった。

 左に座っている私にいい顔をしたいという見栄と、右に座っているお父さんに誤解されたくないという本音の板挟みになっている。

 その綱引きの末に捻り出された答えが、これだった。

 

「……50%」

「ええ~~!」

「ええ~~!」

「なに? 文句あんの?」

「でもさ、ホントは違うんだよね? その時のお母さんはお父さんにメロメロになってて運命を共にしてもいいってガチで思ってたんだよね?」

「メロメロじゃないし! そんなこと思ってませーん!」

「えっ。マジかよ。俺もうレゼの何を信じていいか分かんねえ……」

「はあ? デンジ君がそれ言う? あの時、信じてたのは私の方なんですけど。なんで一緒に来てくれなかったの? そんなにマキマがよかったか。はあ~、コイツとんだ裏切り野郎ですよ」

「ちっ、ちげーから! あん時ぁマキマさんは憧れみたいなもんで……まだ分かってなかったんだよ!」

「へ~~。まだ“さん”を付けるんだぁ」

「いや、だから……やめ! この話もうやめ!」

「ええ~~」

 

 むう。ここが一番聞きたいところだったのに。

 真相はお母さんの胸の中。『とにかくお父さんが誘いを断った』という結果だけで締めくくられてしまった。

 

 その後の展開は、お母さんが実力行使に出てお父さんと悪魔パワー激突の大バトルになったという話だった。

 この辺はざっくり飛ばされた。

 驚いたのは、最後は引き分けに終わったということ。

 お母さんはプロ級の体術を持っているし、どうやら空も飛べるみたいで、対するお父さんは格闘技なんて全然できなかったって言うし、悪魔の力もチェンソーを出すだけ? みたいだし……それでよく互角に持ちこめたなぁって思う。

 

「で、最後はアレだよな」

「……まあ、うん」

「え、なになに?」

「お母さんがな、もう時間切れだって逃げようとしたんだよ。俺は引き留めた。一緒に逃げねえ? って」

「ストップ」

「へっ」

 

 お母さんストップがかかった。

 

「お父さん、口出し禁止。絶対変なこと言う」

「言わねえよ~」

 

 ピンときた。

 ここだ。ロマンスの匂いがする。ぷんぷんする!

 

「え~~! 聞きたい聞きたい!」

「ダメ。大体エリ、親の恋バナなんて聞いてもしょうがないでしょ」

「しょうがなくないよ~!」

「ていうか、待って。そもそもなんで暴露大会になってるんだろ。エリが将来困らないように経緯の要点だけ話せばいい話だよね?」

 

 ちっ。バレたか。

 

「そう、そうだよね。うん。そうします。……とにかく、私はあの時、お父さんからの誘いを断った。それで、なんやかんやあって、やっぱり一緒に逃げようってなったの」

「待ってよ~。それじゃ片手落ちだよ~。その“なんやかんや”を教えてよ~」

「ダメ。絶対ダメ」

「そんなぁ~」

 

 こうなったらもうお母さんはテコでも話さない。

 もうちょっとだったのに。

 お母さんの誤魔化し方から察するにかなりのロマンティックエピソードが隠されているはずなのに~。

 今度こっそりお父さんに聞いてみよーっと。

 

 そこからはシンプルな説明で終わった。

 二人で日本を脱出し、ユーラシア大陸を旅して南下して、色々あってこの村に辿り着いた、と。

 その辺りの細かな話は機会があったらまた教えてくれるみたい。

 そこも興味あるといえばあるけど。

 

「そういえばお母さんたちってどんな悪魔の力が使えるの?」

 

 ずっと気になっていたことを聞くと、二人、顔を見合わせた。

 

「やっぱ知りてえか」

「うん」

「エリ。悪魔とか契約とか気になってるでしょ。全然いいものじゃないんだけど、勝手に見に行かれても困るから今度ちゃんと教えてあげる」

「ええっ、ホント!?」

 

 意外な提案だった。

 お父さんが言い出すことはあっても、お母さんは絶対に反対する側って思ってたのに。

 

「そういうわけで現場に連れてってやろうかって話をしててな。ほら、パワーがサボってるって言ってたじゃん? 社長に確認したらマジっぽくてさ、一回ちゃんと駆除しとこうってなったわけ」

「お母さんも行くから、現実を見ておきなさい。悪魔がどんなに危ない生き物なのか、人間がどれだけ無力なのか。デビルハンターだってヒーローじゃないの。何人も死んでるってあの社長さんからも聞いてるでしょ? ……まあお父さんが平気な顔してやってるから勘違いしちゃうんだろうけど」

「いつ? いつ行くの?」

「来週の週末。一般人には退避してもらうからホントはエリは入っちゃダメなんだぞ。学校の友達には言うなよ」

「へえ~、へえ~!」

 

 お母さんはやれやれって感じに眉を寄せていたけど、私はワクワクを止められなかった。

 だって普通の人じゃ絶対に見れない世界を見られるんだから!

 しかもお父さんはこんなことまで言うんだ。

 

「誰もいねえから俺らも本気出せるよな」

「エリも連れていくし最初からなっとこう。前衛と守備を役割分担しよ」

「おっけー」

「あの、本気って?」

「んー、変身みたいなやつ?」

「変身!? お父さんとお母さん、変身できるの!?」

「まあ、できるけど」

 

 それって……日本のバトル漫画で見る覚醒するみたいなヤツ!?

 

 二人に詰め寄って聞いたけど、当日のお楽しみだって。

 変身、変身かぁ。

 どんなだろう?

 

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