「パ・パ・パ・パワー!
ガハハハ! ワシの名はパワー!
ウヌがデンジの話を聞きたいって奴かあ?
ワシは最近退屈しておったからのお……。
丁度いい! 面白い話をしろ!
んああ……?
なんじゃあ、マキマに話は通してあるぅ……?
それが?
ワシは公安の大統領なんじゃが?
ワシが一番偉いんじゃが?
ウヌの血でその制服を染めてやろうか?
…………なんじゃ、チョンマゲはうるさいのう。
なにぃ、デンジを探してくれるから素直に答えとけ~?
こいつが~~?
はっ。そんなことできるようには見えんなあ!
……はいはい、マキマの指示か。
人間は愚かじゃのう。指示待ち人間は人生の落伍者と知らんのか。
まあよいわ!
ワシは寛大だから寛大な精神で許してやる!
デンジのことじゃったか?
アイツはワシの百人の下僕のうちの一人じゃ!
ワシレベルになると人を使う側になるからのう。今はニューヨークに出張させておる! お土産はコペンハーゲンを頼んでおいた。今頃は土産物屋で探してるんじゃないか?
あ?
もういい? なんで?
え? 次の質問? れぜ?
ああ~、れぜ。懐かしいのう。昔はよく食っておったわ。
久々にれぜのフルコースが食べたくなってきた……。
……で、いつ奢ってくれるんじゃ?
ん? もういい?
あ、こら逃げるな! この……嘘つきがァ!!」
***
この遭難が普通の遭難と違うのは救助を呼べないという点だ。
デンジとレゼは追われる身。国際指名手配犯というわけではないけれど、むしろもっとやばい公的機関から狙われている。
下手に救助隊の世話になったりしたらそのまま拘束・引き渡しコースになる可能性だってある。
というかそれ以前にパスポートを持っていないし、レゼに至っては戸籍が無い。
よって遭難した時の定番であるSOSサインをあげるわけにはいかなかった。
朝になった。
見上げれば、巨大な入道雲がもこもこと弾力さえあるような存在感を伴って浮かんでいた。
青い空によく映える、このコントラストこそ南の島を象徴する景色だろうとレゼは目を細めた。
眩しくて、掌で陽射しを遮った。
視界いっぱいに広がる大海原を前に思いきり伸びをして深呼吸をすると身体の隅々から活力が湧いてくるようだった。
「さ~って。今日は何をしよっかな~」
ふと気付く。
起床後にすべきことが一つも無い。
いつもは何時までに外に出るから身支度を整えて……といった朝のルーティンに頭が支配されていた。だがそんなもの無人島には存在しないのだ。
ああ、なんて気が楽なんだろう。
何より人目を気にしなくていいのが素晴らしい。
隣部屋の人の気配、窓向かいの建物から誰かが見ていないかとか、その手の心配は一切不要なのだ。
振り向いた。
掘っ建て小屋の中ではデンジが手足を投げだしていびきをかいている。
「むふ」
悪戯っ子のような含み笑いが漏れてくる。
ステップを踏むように近付いて、無防備な頬に狙いをさだめてチューをした。
「う……んあ? あれ……?」
「朝~、朝だよ~。朝ご飯食べて学校行くよ~」
「はえ……? あれ、今なんかしたぁ?」
「ほらほら起きた起きた。早くしないと遅刻だよ遅刻! 食パン咥えて飛び出すよ!」
「キスした? ねえ今キスした?」
返答は微笑みを一つだけ。
踵でくるりとターンして、外に設置してある蒸留装置をひょいっと確認。無事に生成されていた真水を手にして舞い戻る。
「飲む?」
「ぜってえキスした……」
「じゃ私が飲んじゃおーっと」
デンジの目の前でペットボトルに口をつけて喉を潤した。
「ぷはっ。ん~おいしっ。ほらほらデンジ君も」
「えあ?」
「間接キス。したいんだろ~?」
「……します」
ごくごくと喉を鳴らすデンジを前に今日の予定を相談する。
「そうだなァ、水はもう自動でできるし、メシも何とかなりそうだし……」
「イカダとか作っちゃう?」
「もう? 早くね? せっかく無人島に来たんだから冒険してこうぜ~」
「宝箱でも探すのか~?」
「モンスター狩るってのもいいぜ」
「戦利品はお肉と毛皮?」
「肉! 食いてぇ~」
島暮らしの主食と言えば魚や貝になる。
育ち盛りの若者としては肉が欲しくなって当然だろう。
幸いここは南国だ。
無人島でも水牛や野鳥、トカゲが生息しているらしい、とレゼは説明した。
「場所によっては野生の豚もいるらしいよ。あと蛇とか。どう? デンジ君は蛇、いけそう?」
「食う!」
決めてしまえば早かった。
二人で腕をまくってためらいもなく藪の中を突き進んだ。
デンジは草木を刈り払うマチェット代わりにチェンソーを振るい、レゼは時々大岩や木によじ登って周囲を見回す役目をこなす。
二人とも物怖じしないタイプなので獣道でさえない原生林をハイペースで開拓していくことができた。
「むっ。デンジ隊長~! 前方20メートルの木の上に未確認生物を発見しました!」
「なに~。いったいどんな肉なのかね!?」
「羽があって、クチバシがあるであります!」
「それはもしかして鳥という生き物なのではないかね!?」
「鳥! そう、あれは……スズメであります!」
「へえ~、スズメって日本以外にもいるんだ……」
そうやってずんどこ進んだり登ったりしていった。
ちなみに山で遭難した時はむしろ登る方がいいんだよとレゼが説明したが、デンジは納得しようとしなかった。どう考えても下りなきゃ帰れないだろう、と。議論は白熱し、デンジは太陽を追いかけて行けば真っ直ぐ進めるからいつか脱出できるだろうという結論に達した。レゼは「君の体力は無限なのか?」と呆れた。
崖をよじ登り、尾根に出て、小さな山のてっぺんに到達した。
結局、水牛も豚もトカゲも見つからなかった。蛇すらも。
それでも少年少女の顔は爽やかだ。
巨木の根に腰を下ろしてペットボトルを回し飲む。
息をついて頂上から見下ろす景色は――雄大だった。
「わー、海広~~い! 地球ってほんとに丸いんだ……」
「あっち見てみろよ。ほら、俺らん小屋じゃね? 小っちぇー」
高所を通りぬける風が火照った肌に気持ちいい。
これでおにぎりでもあれば最高かもしれない、とデンジは呟いた。
「干物ならあるよ」
「食う。でもやっぱ肉も食べてえよな~」
「何か見つかるといいんだけどねー」
「明日も探してみようぜ」
「……ねえ」
「うん?」
「あのさ、デンジ君はコーラ飲みたい?」
少し違った色の声だった。
「ここって安全だけど、多分お肉は食べられないしコーラも飲めないよ。それでもいい? テレビもないし漫画もないよ?」
「ん~~。レゼは?」
「デンジ君が決めて」
「俺かぁ」
デンジ、腕を組み、
「今はこれでいいんじゃね? で、肉食いたくなったら島出りゃいいじゃん。そんでまたここ帰ってきてもいいし、全然違う島でもいい」
「ぷっ。自由すぎだろー」
「先のことなんか分かんねえ。レゼと一緒ならどこでも楽しいし」
「……へえ~~」
レゼ、えいっと座り場所をデンジの隣に寄せる。
「ち、近くね?」
「デンジ君はぁ、せっかく二人きりなのに離れてるなんて寂しいって思わない?」
「思う……ます」
レゼはくすくすと笑いながら上目遣い。
肩と肩が触れ合っている。
どころかレゼは更にぐりぐりと寄ってきてデンジは大いにたじろいだ。
甘い香りとほんの僅かな汗の匂いが漂ってくる。
肩口には美少女の顔。
ごくりと唾を飲みこむ音がして、自分の喉だとデンジは後から気がついた。
「お、俺ェ! 分かんなくて、ちゃんとしなきゃって思っててぇ……っ! 俺、俺……ちゃんとできてる……?」
「デンジ君は、私のこと好き?」
「好きぃ!」
「だったらさ、全部正解なんだよ?」
女はピアニストのような細い人差し指を男の心臓に突きつけて、告げた。
「ここに私への気持ちがある限り」
もやもやと。
デンジの脳裏に一ヵ月前の問題が蘇ってきた。
問い一。
俺に金玉はついてるか?
そんなの勿論、ついているに決まっていた。
休みが全部なくなっちゃった。
この作者は書くのがクソ遅いので次話はしばらく後になります。