「さっきはうちのパワーがすいませんでした。
……で、次は俺の番ですか?
いえ、俺の名前はチョンマゲじゃないです。早川アキです。
……はあ。
そうですか。
で、何が聞きたいんです?
大した手掛かりは伝えられないと思いますよ。
アイツは……。
そう、あの日……俺が帰ったら家からデンジの荷物が無くなってたんです。
それで今まで戻ってこない。
つまりアイツは自分の意思で出ていったんだ。
そんなバカのことなんて俺は知りませんよ。
…………。
はあ。
そうですか?
だったら敬語は止める。俺の方が年上だしな。
アンタもマキマさんから聞いていると思うがアイツは公安から監視されていた。行きそうなところなんて俺よりそっちに聞いた方が早いんじゃないか?
俺はアイツのことは大して知らない。せいぜい好きな食べ物ぐらいしか……。
え?
それでもいいのか?
大抵何でも食べる奴だったけど……甘いとか辛いとか味が濃いものが好きで……。
……ここではどんな生活をしてたか?
そうだな……。
とにかく行儀が悪かった。挨拶もろくにできないし服は脱ぎっぱなしで掃除は適当。何度注意しても直さない。ガキなんだよ。
いや、待て。
こんな話を聞きたいのか?
そういう個人の特徴を集めれば追跡できるような悪魔と契約してるとか……?
違う、のか?
なんなんだ?
アンタ真面目にやってるのか?
俺はデンジを探せるっていうから会ってやったんだ。
アンタが誰だか知らないが学生の遊びに付き合ってやる暇はない」
***
人間誰しも自分に嫌いなところがある。
直視したくない部分がある。
だからこそそんな自分を丸ごと全部包みこんでくれるような相手を探している。
そして同時に、
全てを包みこんであげられる相手もまた探している。
こんなことがあっていいのか。
こんなに都合の良い、思い描いていた妄想がそのまま実現したような、いやむしろそれ以上の夢のような……そんな
幸せ? 恋? 愛情?
漫画とか映画のクライマックスでいつも出てくるすごく凄いらしきもの。
誰もが大昔から文句も言わずに褒めちぎってるナニカってことは本当に正しくてスゴイものなんだろうとデンジは思っている。
なにせ作り話の中でさえ登場人物を好きになって物語を追いかけていくだけでいい気分になれるのだ。だったら現実でも同じようなシチュエーションを体験できたら同じようにドキドキしたりマジの本気になったり命に代えても誰かを守りたいとか思うことができるはずだ、と。
いつか自分も、と憧れていた。
だからセックスをしたかったのかもしれない。
でも本物は格が違った。
まさかこんなに、ここまで、致命的だなんて思わなかった。
完全に不意打ちだった。
まだ何も始まっていないのに初めて見る顔をしたレゼが蕩けた瞳の中で自分だけを映している事実に息が詰まりそうになる。
自分の全部を、それだけを見てくれている。
気がつけば衝突する寸前の惑星同士のように惹かれあっていた。
もっとくっついてしまいたい。境い目がなくなるほどに。自分たちは曲線でできた人間ではあるけれどピッタリと合わさることができるという確信があった。
この瞬間だけが全てになっていく。
まだ他人同士でいることが悔しくて頭がおかしくなりそうだった。
「コッコッコケー! コケェー!」
心臓が早鐘を打っていた。いっそ止まってしまってもいいと思う。
彼女の吐息を聞くために鼻先を犬のように擦りつけて視線を間近で絡ませた。
ああ、まるでこの世界で二人だけみたいだ――
「コーーケコッコーーーーー!」
――なんて、少しだけ夢を見てしまっただけ。
「うるっ……せえ! なっ……んなんだよぉ! 俺ぇ今! セッ…………だったのにィ!」
あ、あ、ああ、あああ~……!?
なんで! どうしてこんな時にニワトリが……?
熱がどこかへ消えていく――
絶望。掴みかけていたはずの
レゼもきっと同じ気持ちになっている、その想像だけが何よりも恐ろしい。もう冷えた、今は違う、そんなふうに言われてしまったら俺はもう一生
それでも少女の腕は緩んでいなかった。
自分を抱きしめたまま。
とくんとくんと心音が聞こえた。
胸に温かいものが満ちてくる。
感謝、そして理解する。
多分、きっとこれが愛だ。
その時ではない今になっても変わらずに抱きしめてくれている。
そんな彼女を全身全霊で守り抜こう。言葉ではなく魂に誓った。
そしてクソニワトリはブチ殺す。そう決めた。
振り向いて確認する。
そこに居たのは、ニワトリではなかった。
よく似た姿の、首の無い何かだ。
「ボクの名前はコケピーだコケ! 君たちと友達になりたいコケよー!」
悪魔だった。
「あっ」という自分の間抜けな声が空しく響く。
レゼの腕が振りほどかれて、彼女の指が首元のピンにかけられるのを見た。
どんっ、と胸元を押される。
温もりが消えていく、それだけが口惜しかった。
ボンッ
爆風と衝撃、火の粉にまみれたデンジは「アっちいいい!?」と叫びながら心中で涙した。
どうして。
愛とはこんなに儚いんだろう。