ラブコメ世界に戦闘系の能力は必要ですか?   作:ふくきたる

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第4話

「紹介するよ姉上!黒咲芽亜っていうんだ」

 

「初めましてーー!」

 

放課後。

2ーAクラスの前で、ナナがお姉様たちに新しく出来た友人の黒咲芽亜を紹介していた。

楽しそうに会話をしている輪の中から少し離れた場所で、それぞれの反応を確認している。

 

「えっ、何がダメなの?それって生物として、ごく自然な欲求でしょ?わたし興味あるんで、イロイロ教えてくださいね。せんぱい♡」

 

「へっ」

 

突然、黒咲芽亜さんは平然とした態度で、ダイタンな言葉を言い放った。

リトさんは顔を赤らめ、ナナと古手川さんは慌てた様子で、彼女にツッコミを入れる。

 

(黒咲芽亜さんか……、彼女もハーレム候補に入れるか検討するべきかしら…?)

 

先程の発言をわざわざリトさんに向けて言ったのは、何かしらの意味があると考える。

そんな中、こちらも顔を赤くさせて、リトさんに言い寄っている1人の女性を一瞥した。

 

(それにしても古手川さん…、あれは完全に嫉妬(ジェラシー)よね…。もっと素直になればいいのに。これはチャンスを見つけて後押ししないとね)

 

楽園(ハーレム)計画。

リトさんに密かに想いを寄せる、皆んなの幸せのために。

そして…、

私もリトさんからの寵愛を受けるために、

何としてもこの計画を、実現させなくてはならない。

 

 

◼️

 

 

「全く…、お姉様ったら…」

 

私は今、お姉様が発明した反重力翼を広げ、夕暮れが綺麗な彩南町の空を飛行していた。

 

「大切な用って言うからついて行ったのに、マジカルキョーコの着ぐるみショーなんて。こんな事なら最初からリトさんについて、家に帰るべきだったわ」

 

最愛の姉に、少しだけ悪態をつく。

今日は美柑さんも帰りが遅いという話は聞いていた。

必然的に、家で2人きりの空間が出来上がる。

そこでリトさんと、あんな事やこんな事に励む妄想をしていると、

 

「うふふ。……あら、いけない。ヨダレが……」

 

こんなはしたない姿は、まだリトさんには見せられない。

スカートのポケットからハンカチを取り出し、口元を綺麗に拭き取ると、ふと視界の端で、下校している彩南高校の制服を着た生徒たちを発見する。

 

(っ、!…なんであなたがそこにいるの。朝利吉綱っ!)

 

見つけていたのはリトさん、古手川さん。

…そして、朝利吉綱の3人だった。

道路にいたネコを見ながら、楽しそうに会話をしている。

 

(邪魔っ!せっかく、リトさんと古手川さんが一緒に下校しているというのに、あなたがいたらイベントも何も起きないじゃないっ。その状況は、ハーレム計画を進めるチャンスなのっ‼︎あなたの存在は邪魔でしかないのっ、早くそこからいなくなって‼︎)

 

朝利吉綱に向けて、私怨のようなものをぶつける。

最終的には、無理矢理にでも彼をあの場から退場させようと考える。

すると、信じられない光景を目にした。

 

(…え、うそ…。気付かれた…?)

 

一瞬だが、彼はこちらを見ていた。目も合った気がする。

そんなことがありえるのか?

さらに、

朝利吉綱はその後、私が思い描いた通りに2人と別れ、速やかにその場からいなくなった。

もはや怖い。あの人間はなんだ…。

私の心の中が、全て見透かされているように感じる。

 

朝利吉綱と別れた2人も、再び帰路へと歩みを進める。

 

(いや、違う。今はあの人のことはどうでもいい。リトさんと古手川さんに集中しなくっちゃ!)

 

歩き出してから数分、もうじき古手川さんとの分かれ道に到着する。

瞬時に頭を回転させ、上空から周りを見渡す。

すると彼らの近くに、校長先生がいるのを見つけた。

すぐに作戦を思い付く。

鞄からデダイヤルを取り出し、気付かれないように校長先生の背後へ。

 

(よ〜し、香りを嗅ぐだけで、テンションが最高潮になる【アドレナの花】を使って…)

 

「ひょっ⁉︎」

 

花の匂いを嗅いだ校長先生はいきなり服を脱ぎ出し、全裸になって走り出した。

 

「むひょーーーーっ、誰でもいいからペロペロしたいですぞ〜〜〜〜」

 

「こ…校長⁉︎」

 

「な…何でハダカ⁉︎」

 

突然、裸の校長が目の前に現れて戸惑う2人。

どんどん迫って来る校長先生に身の危険を感じ、リトさんは古手川さんの手を握り、走り出した。

 

「さすがリトさん!手をとって逃げるなんて、ロマンチックだわ♡」

 

結城家の方角へと、2人を誘導する事が出来た。

校長先生はもうお役御免、再び背後に舞い降りる。

 

「もう結構ですよ、校長先生。ご協力感謝しまぁす♡」

 

鎮静効果のある【ケンジャの花】を嗅がせると、校長先生は四つん這いになって落ち込んでいた。

 

「さてと♡古手川さんもまんざらでもなさそうですし…、なさそうですよね…?…い、いえ、きっと大丈夫です。このまま家に連れ込んじゃいましょう、リトさん♡」

 

校長先生はもういないが、気付かずに必死に逃げる2人。

そんな彼らに、ダメ押しの策を講じる。

 

「きゃっ」

 

「うわーーっ、ゲリラ豪雨か⁉︎」

 

デダイヤルからアメフラワーを呼び出し、2人の上に大雨を降らせる。

周りの人たちは驚いているが、そんなことは気にしない。

雨音がうるさくて会話は聞こえなかったが、計画通りに2人はリトさんの家に入って行く。

よし、次の作戦だ。

 

リトさんがお風呂場の前に用意したジャージをYシャツに変更し、屋根の上でPCを起動させる。

窓から見える景色を全てCGに差し替えて、まだ大雨が降っているように見せる。

前に仮想(バーチャル)ゲーム制作で覚えた知識が、こんな所で役に立つなんて思いもしなかった。

 

「さて、あとは【元素変換式バリア発生器】を使って………」

 

結城家を覆うようにバリアが張られ、強度を確認する。

 

(よし!これでもしお姉様が帰って来ても、時間が稼げるわ。カンペキ♡)

 

最後に、リトさんの部屋のベランダで、息を潜める様に姿を隠す。

後は古手川さんがリトさんの部屋に来るのを待つだけ。

少しの時間が流れると、リトさんの部屋の扉が開かれる音が聞こえた。

 

「結城くん…、シャワーはありがとう。でも…、他の洋服はなかったの?」

 

「え?ジャージじゃいやd…って⁉︎な…何、その格好⁉︎」

 

「何って…、あなたが用意したんでしょ!それより他の服は持ってないの⁉︎私だって恥ずかしいわよ、こんな格好…」

 

「え…、ご、ごめんっ‼︎ジャージの上下を用意したつもりだったんだけど…。と、とにかく、今新しい服を用意するよっ」

 

(っ、…思っていた展開と違う。いや、まだわからない。ここは作戦通りにーー、)

 

服を取りに行こうとベッドから立ち上がるリトさんに対し、それはさせまい!と部屋を停電させる。

 

「て…停電⁉︎たっ、うわっち」

 

「キャ⁉︎」

 

すると、リトさんのいつものが発動してしまった。

いきなり暗くなった部屋に驚き、足をぶつけて、古手川さんをベッドに押し倒してしまっていた。

 

「と…、ゴ…ゴメン、古手川ーー。…………、あ…」

 

2人はベッドの上で、至近距離で見つめ合っている状態。

ここからだと暗くて古手川さんの表情はわからないが、リトさんは倒れた衝撃で服が肌けてしまった古手川さんの姿を見て、顔を真っ赤にさせ、硬直していた。

 

(ああっ、ま…まだ押し倒すのは早いですよ、リトさん!このあと、雷とかで不安感を煽りつつ、少しずついいムードにしようと思ったのに…)

 

そう考えていたら、いつものノリが始まった。

 

「ハレンチなっ!」

 

古手川さんも顔を真っ赤にして、リトさんを突き飛ばして叫ぶ。

リトさんは突き飛ばされた勢いで、頭をフローリングに強くぶつけ、痛みでゴロゴロ転がっていた。

 

(あぁ、失敗してしまった。こんなチャンス滅多にないのに…)

 

古手川さんの怒鳴り声が、まだ聞こえてくる。

 

「あなたって人は、いつもそんな!少しは朝利くんを見習いなさいっ!」

 

「…………、は?」

 

耳を疑った。

 

(古手川さんは今…、なんと言った…。朝利くん…?…朝利くんとは、朝利吉綱のことか!ヤミさんとも親しげだったあの人間は、古手川さんとも仲が良いのかっ!)

 

驚きが隠せない。

すると、

 

「え?誰っ⁉︎誰かそこにいるのっ⁉︎」

 

「っ、!」

 

やってしまった。古手川さんに気付かれてしまった。

きっと無意識に出た先程の声が、部屋にまで聞こえてしまったのだろう。

古手川さんはどんどんこちらに近づいてくる。

これはマズい。とりあえず、屋根の上に逃げよう。

 

「ちょっ、これ、どーゆー事⁉︎結城くんっ。雨なんて全然、降っていないじゃないっ‼︎」

 

「え⁉︎ホ…ホントだ。窓には降っている様に見えるのに、外は一切降ってない…。え?なんで⁉︎」

 

終わった。

古手川さんに窓を開けられ、バレてしまった。

私の計画が、音を立てて崩れていく。

 

「あれー?家の前に見えない壁があるよーー?」

 

「姉上、何か変な発明品、使ったんじゃねー?」

 

下から声が聞こえ、玄関の様子を確認すると、お姉様たちが帰って来ていた。

バリアの足止めも、もう意味がない。

すぐに解除しようとすると、視界の中で閃光が走る。

 

(⁉︎バリアが…破られた⁉︎)

 

いきなりバリアが消え、お姉様たちが家に入っていく。

停電が直り、リトさんの部屋にみんなが集まり、賑やかな声がこちらにまで聞こえてきた。

 

(どうしてバリアが消えたのか…。あの閃光…、まさか外部からの攻撃…?わからない…。いや…、深く考えてもしょうがない。まずは、やるべき事をやらなくては…)

 

今回の出来事で、とある目的が生まれていた。

早速、明日から実行に移そう。

そう心に強く決意する。

 

 

◼️

 

 

翌日。

学校の休み時間、お姉様たちが所属している教室の前に来ていた。

一度、深呼吸をしてから、意を決して教室の中へと入る。

リトさんは、猿山さんを含め、他の男子生徒たちと集まっていた。

お姉様は、西連寺さんや籾岡さんたちと楽しそうに談笑している姿が目に入る。

古手川さんは…、どうやらいないみたい。

やはり、後輩が1人で入ってくるのは珍しいようだ。

歩く度にいくつもの視線が集まり、教室内が少しずつ静かになっていく。

お姉様はそれを感じとったのだろう。

不思議そうに周りを見渡し、私と目が合った。

 

「あーっ!モモ♪いらっしゃーいっ!」

 

とびっきりの笑顔で手招きをするお姉様。

それに応じる様に、彼女たちが集まるの席に向かう。

 

「失礼します、お姉様。西連寺さんたちも、こんにちは」

 

先に挨拶をさせてもらうと、西連寺さんたちは各々に返事を返してくれる。

そうすると、お姉様が話を切り出してくれた。

 

「それで、どうしたの?モモ。私?それともリトに用事?」

 

「いえ、今日はお姉様やリトさんたちではなく、別の方に用事がありまして…」

 

「へーっ、そうなんだ!珍しいね♪」

 

笑うお姉様を横目に、目的の人物をを探す。

いた!窓際の一番後ろの席に座っており、こちらに気づく事なく、ずっと空を眺めている。

彼の周りにだけ、綺麗に誰もいない。

 

もしかすると彼は、ヤミさんと古手川さんくらいしか友達がいないのかもしれない…。

 

「あっ、いました。ちょっと行ってきますね」と断りを入れてから、お姉様たちの席を離れる。

ゆっくりと歩いて、その人物の元に向かう。

彼の机の前に立ち、私は満面の笑みを浮かべて話し出した。

 

「朝利吉綱さん♪今、お時間よろしいですか?」

 

「…………、えっ?俺?」

 

一瞬で、教室の音が消える。

数秒後、大音量になってかえってきた。

 

「「「「「えぇぇぇぇぇぇえええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」

 

ほぼその場にいた全員の声が、教室中に響いていた。

 

「なんでモモちゃんが、朝利なんかのやろうに!」

 

「用事って、朝利くんなんだ…」

 

「えっ、てかさ。あんな人、うちのクラスにいたっけ?」

 

「なんであんな冴えない奴が、可愛い美少女後輩に声をかけられるんだっ‼︎俺にはそんな事、まだ一度もないんだぞっ⁉︎」

 

猿山さんを始めとする、クラスメイトから言われたい放題だった。

 

(クラスメイトにも認識されてないって…。こんなに言われて悲しくならないのかしら)

 

その本人の表情を見ると、

流石に予想外の出来事だったのか、目を丸くし、口を少し開けた状態で私を見ていた。

そんな姿が、不覚にも少し可愛いと思ってしまう。

 

「…あー、俺に何か用事でも?」

 

少し冷静になったのか、彼の口が動いた。

今日の目的は、【朝利吉綱をお昼に誘う】ことだ。

ただ注目が集まっているこの状況で、普通に誘ったとしても、聴き耳を立てた人たちが野次馬のように集まってくる可能性がある。

なので私は、彼の耳元に口を近づけ、こう囁いた。

 

「今日のお昼、ご一緒にどうですか?良いのであれば、お弁当を持って屋上に来てください。あと、この事は絶対に誰にも言わないでくださいね♪」

 

彼はびくりと肩を少し震わせたが、了解の返事をする。

目的は達成した。

すぐに教室に戻ろうと、歩き出す。

ドアを開ける前に、一度後ろに振り返ってから、柔和な笑みを浮かべる。

 

「お邪魔しました。お姉様方、それに先輩方、ご迷惑をおかけして申し訳ございません。私はこれで失礼します」

 

一礼し、ドアを閉める。

教室に向けて歩き出すと、

 

「朝利ぃぃいいい!てめえ、モモちゃんにさっき何て言われたぁぁあああっ!吐けっ、吐けや、ごらぁぁあああ!」

 

という野太い男性の声が複数、廊下まで聞こえてくる。

果たして、彼は無事に屋上に来れるのだろうか…。

 

 

◼️

 

 

そして時は動き出し、昼休み。

私はお弁当を持って屋上にいた。

用意しておいたお洒落なレジャーシートの上に座っている。

天候は晴れ、気温はやや高い。

だが、たまに吹く風がとても心地良く、いられない程の暑さではなかった。

しかし、屋上で待つこと数分。

朝利吉綱が、全然来ない…。

 

(もしかしてあの後、捕まってしまった?それとも元々、来る気はないとか…?)

 

いやいや、それはありえない。

だって、彼はちゃんと了承の返事をしていたではないか。

そんなことを考えていたら、屋上のドアが音を立てて開いた。

 

「ごめんっ、お待たせしちゃったね」

 

やっと朝利吉綱が現れた。

ようやくかと思いつつ彼の姿を見ると、少しだけ息を切らし、両手に麦茶のペットボトルを一本ずつ持っていた。

 

「女性を待たせるのは良くないですよ?あと、お弁当はどうされたんですか?」

 

単純に疑問だった。どう見てもお弁当の類を持っていなかったから。

 

「あぁ、それね。キミが帰った後、猿山たちがなかなかしつこくて。いつも教室で弁当を食べてる俺が、弁当を持って教室をでる姿を見られたら、余計に怪しまれると思ったんだ。だからモモには悪いけど、先に食べさせてもらったんだ。そういう理由で遅れたんだ、本当にごめんね」

 

申し訳なさそうな表情で謝る彼。

遅刻した理由について納得できたので、この事は不問にする。

 

「お詫びと言ってはなんだけど、飲み物を買ってきたんだ。君が何を好きかわからなかったから、麦茶なんだけど…。よかったら、飲んでね」

 

「えっ、あっ、どうも。…ありがとうございます。」

 

差し出された麦茶を受け取る。

正直、不意打ちをくらった気分だった。

まだそこまで親しくない相手に、想像以上に優しくされたからだ。

 

「ごめんね、食べていいよ。あと、お邪魔させてもらうね」

 

「はい、わかりました。では、いただきます」

 

食事を促された後、朝利吉綱は私とそれなりの間を開けて、レジャーシートに座った。

お弁当を食べている間は、終始無言。

彼は私の方は一瞥もせず、ずっと青空を眺めていた。

 

「ご馳走様でした」

 

お弁当を食べ終わり、ここからが本番。

ハーレム計画のために、この人を見極める。

まずは、彼の人となりを知るために軽い世間話をした。

その後に、古手川さんとの関係を話そうと考えていた。

けれどおかしい。

いつのまにか世間話に夢中になっていて、昼休みの時間が終わろうとしていた。

 

(え?なんで?おかしい、おかしい、おかしい。絶対におかしい。なんで私は、彼と普通に談笑しているの?)

 

本来の目的を忘れていた自分に疑問を持つ。

 

「そろそろ時間だね、教室に戻ろうか」

 

彼はシートから立ち上がる。

このままでは、まずい。次だ、次の作戦で挽回しなくては…。

 

「あのっ、放課後、一緒に帰りませんか?」

 

「…………うん、いいよ」

 

少し間があったけど、了承を得れた。

彼の表情が複雑そうに見えたが、気にはしなかった。

 

 

◼️

 

 

放課後、私は学校の廊下を走っていた。

目指している場所は、2ーAの教室。

帰りのHRが終わり、朝利吉綱の教室に向かおうとすると、担任の先生に捕まってしまった。

何でも、職員室で少し手伝ってほしいことがとの事。

正直断りたい…。

でも私は、この学校では優等生キャラ。

断る事は出来なかった。

その仕事が少々長引いてしまい、それなりの時間が経過していた。

 

(今思うと、場所も時間も指定していない。連絡先も知らないので、どうする事もできない。流石にもう、帰っているかもしれませんね…)

 

内心、彼はもう学校にいないと考えている。

一応、確認のために教室に向かっているのだ。

教室に到着し、急いでドアを開ける。

すると、たった1人だけ席に着いて、空を眺めている1人の生徒がいた。

その生徒は、朝利吉綱だった。

 

「遅れて…申し訳…ございません。」

 

「特に用事もないから平気だよ。俺は昼休みに遅刻したから、これでチャラだね。そんなに急いで来なくても良かったのに」

 

息を整えながら言う私を、気遣ってくれていた。

彼が席を立ち、椅子を片付ける。鞄を持って、こちらに歩いてきた。

 

「それじゃあ、帰ろうか」

 

「はい」

 

教室から出て廊下を歩き、それぞれの下駄箱で靴を履き替える。

 

そこで気づいたことがある。

基本的に、彼から私に話かけてくる事はない。

私に気を使っているのか、口下手なのか。

それともただ単純に、私に興味がないのか。

 

現在も2人で帰りの道を歩いているが、彼は無言だ。

だんだんと陽が落ちていき、少し暗くなった道路を電灯が光を灯し始める。

しかし、そんな事は関係ない。

私には聞きたい事が沢山あるので、遠慮せずに話し始める。

 

「あの…、朝利さんは古手川さんとよく一緒にいますよね。何か仲良くなったキッカケとかあったんですか?」

 

「…え、よく知ってるね。最近、転校してきたばかりなのに」

 

しまった。確かにそうだった。

切り出し方もいきなりだったし、これは不審に思われてしまったかもしれない。

どうにかしなくては…。

 

「あっ、いえ、私は少し前から古手川さんと交流がありまして。そこで古手川さんが、男性を毛嫌いしているきらいがあったので……。学校で彼女をお見かけした時に、朝利さんと親しそうに会話をしていたので少し驚いてしまい、何かキッカケでもあったのかな?と、ちょっとお聞きしたかったんです」

 

「あー、なるほどね。古手川とのキッカケかぁ…。まぁ、最初に思いつくのは、一年生の頃から同じクラスだった事だね。あとはよく彼女に怒られていたってのもあるかな」

 

(!知らなかった…。古手川さんがリトさんと知り合う前に、この人と古手川さんは友達になっていたなんて……。それに…)

 

「よく怒られていた…というのは?」

 

「その、恥ずかしい話なんだけどね。俺はとても朝が苦手でさ、全然起きられないんだよ。高校生になってから訳あって一人暮らしになったからさ、起こしてくれる人がいなくて。よく学校に遅刻してたんだ。今は風紀委員だけど、一年生の頃の古手川はクラス委員でね、それはもう厳しくて厳しくて。だから遅刻する度に凄い怒られて、反省文書かされたり、クラス委員の手伝いをさせられたりしてたね。でも、そこからよく話す様になって、徐々に仲良くなった感じかな」

 

「そ…、そうなんですね…」

 

(え、何この人…。古手川さんの話になったら、凄い口数が増える。えっ?もしかして…古手川さんの事が好きだったりするの?)

 

そう思うと、いても立ってもいられず、ストレートの聞いてしまった。

 

「でも古手川さんは、綺麗ですし、スタイルもいいですし、女性としては憧れてしまいます。朝利さんはそんな女性と親しくしていますが、ふとした瞬間に何か思うところとかはありますか?たとえば、古手川さんとお付き合いがしたい!だとか…」

 

その瞬間、私の目は奪われた。

心の底から楽しそうに笑う彼の姿が、とても綺麗だったからだ。

鼓動がドクンと高鳴る。

 

「あははっ。面白い冗談を言うね、モモは。キミはそういうことに鋭そうだから言ってしまうけど、気づいてるでしょ?古手川の気持ちが誰に向いているのか」

 

「それがわからなくなってしまったから、現在進行形で、あなたに探りを入れているんですよっ‼︎」

 

と言いたいところだが、流石に言えずに口を噤んでしまう。

彼は続ける様に口を開く。

 

「俺はさ、古手川の事を応援してるんだ。彼女は反射的に彼を怒鳴ってしまう事が多いけれど、素敵な女の子だって知ってるからさ。幸せになってほしいんだ、俺の初めての友達でもあるから」

 

「っ、!」

 

まただ。またこの感覚…。

昼休みと放課後の短い時間しか一緒にいなかったが、この人からは何か特別なモノを感じる時がある。

今はまだ上手く表現できないことがもどかしい。

 

彼に近づいたのは、楽園計画のため。

この人が計画の邪魔になるなら、何をしてでもリトさんたちから引き剥がそうと考えていた。

でも既にこの時点で、そんな事どうでもよくなっていた。

今はもう、彼の事をもっと知りたいとすら思えている。

 

思考をぐるぐるさせているとT字路に差し掛かる。

私は左で、朝利吉綱は右の道。

「また学校で」と挨拶をして、反対方向に歩いていく彼の背中を見続けていた。

明日も一緒に帰れたらいいな、と心に強く思いながら。

 

 

◼️

 

 

放課後の下校中。

隣にいるのはもちろん、朝利さん。

終始無言なこの状況も、彼の隣なら心地良く感じれる。

あの日から三日連続で一緒に帰っていると、最初は上手く表現できなかったものがわかる様になっていた。

 

それは大空。

彼の隣にいると、大空に包まれている様な感覚がする。

何をしても笑って許されるような、心の奥でこの人に甘えたくなる衝動に駆られる時がある。

 

(なんだろう、この気持ち。リトさんに向けている恋の気持ちではない。けど似たような感情が溢れてくる)

 

なんだろう、父や母を思う気持ち?……いや、違う。

ナナを思う気持ち?……これも、違う。

お姉様に思う気持ち…………っ、!

そうだっ、お姉様だ!

お姉様を思う気持ちに似ているんだっ‼︎

 

その瞬間、ハッキリと気づく事が出来た。

 

「…お、兄様?」

 

「へ?」

 

無意識に声が出ていた。顔が瞬時に赤くなる。

もう駄目だ、気づいてしまった。

お兄様になってほしい、一緒にいてほしい、甘えたくなる、でも時にはちゃんと叱ってほしい。

色々な感情が込み上がってくる。

どうすれば良いのかわからなくなり、全力で駆け出してしまう。

「えっ?ちょっ、え?」という声が聞こえたが、無視をしてしまう。

 

全力で走り出してから数秒、後ろから「またね、モモ!」と言う大きな声が聞こえた。

何も言わずに逃げた自分に対して、優しく気づかってくれているその言葉に私の胸は大きく高鳴っていた。

 

 

 

 

 

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