銀河英雄伝説 〜無能なる俗物が勘違いで英雄に祭り上げられ、気づけば貴族連合盟主としてラインハルトと雌雄を決する件について〜   作:斉宮 柴野

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自由惑星同盟軍に、またしても厄介な季節が訪れました。
最高評議会の都合、国防委員長の思惑、元帥たちの疲労――
そのすべてが混ざり合って、ついに「第七次イゼルローン攻略戦」が発動します。


貧乏くじの第七次攻略と、詐欺師の登板

自由惑星同盟 首都星ハイネセン 統合作戦本部 最高幹部会議室

 

 

 

 

「……ふわぁ。……というわけで、第七次イゼルローン攻略戦が決定した」

 

ロボスは、鼻の下をハンカチで拭いながら、まるで「今日のランチはカツ丼に決まった」くらいのテンションで告げる。その言葉の意味を理解するのに、出席者たちは数秒の時間を要する。イゼルローン攻略。それは同盟軍にとって、「死の行軍」と同義語だ。過去6回挑んで、6回ともボコボコにされて帰ってきた、同盟軍のトラウマスイッチだ。

 

ガタンッ!!

 

椅子が後ろに倒れる音。一人の巨漢が、バネ仕掛けのように立ち上がる。

 

第11艦隊司令官、ウィレム・ホーランド大将だ。彼はヤンと組んで以来、少しだけ思慮深くなった……はずだったが、沸点の低さは相変わらずだ。

 

「(机を叩いて立ち上がり)またイゼルローンを攻めるですと?正気ですか!?」

 

ホーランドの怒号が、防音壁を震わせる。

 

「前回からまだ1年も経っていませんぞ!兵も艦も、修理と補充が終わったばかりだ!まだペンキも乾いていない艦もあるんです!それをまた、あの『死の回廊』に突っ込ませる気ですか!」

 

彼の主張はもっともだ。軍事的な常識で言えば、今の同盟軍に必要なのは休養と再編成だ。連続して大規模攻勢をかければ、現場が疲弊して崩壊する。

 

だが、ロボスは面倒くさそうに手を振る。

 

「仕方あるまい。これは最高評議会の決定なのだ。……軍人が口を挟む余地はない。文句があるなら、サンフォード議長に言ってくれ」

 

ロボスは、責任というボールをポイッと放り投げる。彼の特技は「昼寝」と「丸投げ」だ。

 

会議室の隅で、紅茶(持参)を飲んでいたヤン・ウェンリー中将が、深いため息をつく。 彼は、第13艦隊の司令官として、嫌々ながらこの席に座らされている。

 

「(気だるげに)……また、あのトリューニヒト委員長閣下が、人気取りのために提案したのですか?『強い同盟』を演出するために」

 

ヤンは、カップの縁を指でなぞる。

 

「あの方のやりそうなことです。アスターテでの『正直な演説』で支持率が上がったから、今度は『果敢な攻撃』でダメ押しをしようという腹積もりでしょう。……付き合わされる現場はたまったものじゃない」

 

ヤンの読みは鋭い。通常なら、ヨブ・トリューニヒト国防委員長が主導する案件だ。だが、統合作戦本部長のシトレ元帥が、苦虫を噛み潰したような顔で首を横に振る。

 

「いや、それがな、ヤン。……不気味なことに、今回の件に関して、トリューニヒト委員長は断固反対を貫いたそうだ」

 

「……はい?」

 

ヤンの手が止まる。ホーランドも、怒るのを忘れてポカンとする。

 

「反対?あのトリューニヒトが?」

 

「ああ。『今は国力を蓄える時だ。兵士の命を無駄にするな』とな。……会議で熱弁を振るい、最後まで派兵に抵抗したらしい」

 

「……」

 

沈黙。全員が、自分の耳を疑う。トリューニヒトが、まともなことを言っている。明日、ハイネセンの空から槍でも降ってくるんじゃないか?

 

「はあ?……委員長の守護天使が、平和主義者に交代でもしたのでしょうか?それとも、悪いキノコでも食べたんですか?」

 

ヤンが真顔で聞く。

 

「それは歓迎してよいのか、それとも別の災厄の前触れなのか、判断に困る事態だな。……裏があるのは間違いないが」

 

シトレは、疲れた顔で眉間を揉む。トリューニヒトが「正論」を言うときは、必ず裏で何かを企んでいるときだ。今回の場合、「無理な出兵を強行した政府」が失敗した時に、「ほら見ろ、俺は反対したんだ」と言って、責任を回避しつつ政敵を追い落とす罠かもしれない。

 

「……今回の強硬な発案者は、サンフォード議長だ」

 

シトレが明かす。

 

「支持率低下に悩む議長が、一発逆転の博打に出たわけだ。『イゼルローン要塞攻略』というビッグニュースがあれば、次の選挙も安泰だと考えているらしい」

 

「(ため息)なるほど。……自分の椅子のために、兵士の命をチップにするわけですか」

 

ヤンは、呆れ果てて天井を仰ぐ。

 

「支持率低下に悩む議長が、一発逆転の博打に出たわけですか……。政治家の寿命を延ばすために、若者の寿命を縮める。……素晴らしい民主主義ですね」

 

皮肉たっぷりに言う。だが、誰も笑わない。それが、この国の救いようのない現実だからだ。

 

 

 

 

 

「まあ、政治の事情はどうでもいい」

 

ロボスが、話を強引に戻す。彼は、政治的な背景よりも、早く会議を終わらせて昼寝に戻りたいのだ。

 

「問題は、作戦の規模だ」

 

ロボスは、手元の端末を操作し、スクリーンに予算表を映し出す。そこには、あまりにも寂しい数字が並んでいる。

 

「だが、議会も金がない。アスターテの復興や、福祉予算の増大で、国庫はすっからかんだ。……よって、今回出撃する予算は『2個艦隊分』しか出ない」

 

「……は?」

 

ホーランドが、再びフリーズする。2個艦隊?通常、イゼルローン攻略には、最低でも4個~6個艦隊、数万隻の艦艇が投入される。物量で圧倒しなければ、あの流体金属の壁と「トールハンマー(雷神の鎚)」は破れないからだ。それを、たった2個?約3万隻?

「はあ!?イゼルローンを落とすのに、たった2個艦隊!?」

 

ホーランドが爆発する。

 

「なめてるんですか!これでは『勝て』という方が無理だ!敵は要塞砲を持っているんですよ!?竹槍で戦車に挑めと言うのと変わりませんぞ!自殺しに行けと言うのか!」

 

唾を飛ばして抗議する。当然だ。これは作戦ではない。ただの「やってる感」を出すためのパフォーマンスであり、兵士にとっては死刑宣告だ。

 

「……で、その貧乏くじを、我々(第11、第13艦隊)に行けと仰るので?」

 

ヤンが、静かに、しかし核心を突く質問をする。ロボスが、ニヤリと笑う。いや、ニヤリというよりは、面倒くさい仕事を押し付けた時の上司の顔だ。

 

「そうだ。……今、同盟の最精鋭は貴官らの艦隊だ」

 

ロボスは、もっともらしい理由をつける。

 

「アスターテで生き残り、敵を撃退した実績がある。他の艦隊は再建中だし、士気も低い。……貴官らにできなければ、誰も文句は言えまい」

 

つまり、「お前らなら、失敗しても言い訳が立つ」ということだ。成功すれば儲けもの。失敗しても、「英雄でも無理だった」と言って幕引きを図れる。完璧な捨て駒だ。

 

「……まあ、やってみてくれ。期待しているぞ」

 

ロボスは、あくびを噛み殺しながら言う。

 

「(血管を浮き上がらせて)ふざけるな!!」

 

ホーランドの理性が決壊する。彼は、自分のデスクを持ち上げようとする。物理攻撃の構えだ。

 

「それで無駄に死ぬ兵を、黙ってみていろと言うのか!部下は道具じゃない!予算の都合で殺されてたまるか!小官は承服できかねます!」

 

「まあまあ、ホーランド提督」

 

ヤンが、すっと立ち上がり、ホーランドの腕を抑える。

 

「(ホーランドの肩を抑え)閣下……落ち着いて下さい。机が割れます。これ、備品なんで壊すと始末書が面倒ですよ」

 

「だがヤン!こんな無茶苦茶な!お前は怒らないのか!」

 

「怒ってますよ。腸が煮えくり返ってます。……でも、ここで元帥を殴っても、イゼルローンは落ちませんし、予算も増えません。むしろ、我々が更迭されて、もっと無能な指揮官が兵士を殺すことになるだけです」

 

ヤンは諭す。淡々と、しかし説得力のある言葉だ。

 

「……ぐぬぅ」

 

ホーランドが、ギリギリと歯ぎしりをして、椅子に座り直す(というか、ドカッと落ちる)

 

「……あんな要塞があの回廊にあるから、皆欲しがるのです」

 

ヤンは、スクリーンに映るイゼルローン要塞の画像を指差す。巨大な球体。銀河帝国の誇る、難攻不落の要塞。

 

「政治家も、軍人も。……喉から手が出るほど欲しい。だから、定期的に『取りに行こう』という話が出る。そのたびに、我々は付き合わされる」

 

ヤンは、帽子をかぶり直す。その目は、いつもの「昼行灯」ではない。魔術師の目が、怪しく光っている。

 

「……だったら、そろそろ我々にご融通いただきましょう。あの要塞を」

 

「……あ?」

 

ホーランドが顔を上げる。

 

「どうやるんだ?正面から撃ち合えば、数で負けるぞ?ミサイル代も出ない貧乏艦隊だぞ?」

 

「正面から叩くから金と命がかかるのです。……要は、中身だけ頂けばいいのです」

 

ヤンは、ニヤリと笑う。悪だくみをする子供のような顔だ。

 

「卵の殻を割らずに、中身を吸い出す方法があります。……内側から崩してしまえばいいのです」

 

「内側から……?」

 

「シトレ本部長」

 

ヤンは、上座にいるシトレに向き直る。シトレは、ヤンのその表情を見て、何かを察したように背筋を伸ばす。

 

「ローゼンリッター(薔薇の騎士)連隊……その指揮権をいただきたい」

 

「ローゼンリッター?」

 

会議室がざわつく。ローゼンリッター。帝国からの亡命者の子弟で構成された、同盟軍最強の陸戦部隊。だが、彼らは「裏切り者の集団」という偏見を持たれ、歴代の連隊長が何度も裏切っているという、いわくつきの部隊だ。劇薬だ。

 

「ヤン、正気か?彼らを使うのか?」

 

シトレが問う。

 

「はい。……詐欺師には詐欺師の、亡命者には亡命者の使い道があります」

 

ヤンは断言する。

 

「今回は、艦隊戦はやりません。……やるのは、史上最大規模の『演劇』と『不法侵入』です」

 

「演劇……?」

 

ホーランドが、ポカンとする。

 

「ホーランド提督。貴官の第11艦隊には、派手に暴れてもらいます。……囮として」

 

「囮!?俺が!?」

 

「ええ。貴官のその『あふれ出る殺気』と『突撃バカ(失礼)』な評判が、今回の作戦の要です。……敵の目を引きつけ、その隙に私が裏口からお邪魔します」

 

ヤンは、ウインクしてみせる。

 

「半分くれとは言いません。……あの要塞、丸ごと分捕って、ロボス元帥とサンフォード議長の度肝を抜いてやりましょう」

 

ヤン・ウェンリー。彼は、この瞬間、軍人であることをやめた。彼は、希代の詐欺師として、イゼルローン攻略という名の「グランド・ハイスト(大泥棒)」に挑むことを決意したのだ。

 

「……面白い」

 

ホーランドが、ニカっと笑う。

 

「乗ったぞ、ヤン!貴様の魔術、特等席で見せてもらおうか!……失敗したら、俺が貴様を殴って、二人で仲良く軍法会議だ!」

 

「それは勘弁してください……」

 

 

 

 

 

 

 

 

第13艦隊司令部 会議室

 

 

一人の男が入室してくる。長身、彫りの深い顔立ち、そして人を食ったような不敵な笑み。同盟軍最強の白兵戦部隊「ローゼンリッター」連隊長、ワルター・フォン・シェーンコップ大佐だ。彼は、敬礼もそこそこに、勧められた椅子にドカッと腰を下ろす。その態度は、「上官に対する敬意」という概念をどこかの惑星に置き忘れてきたかのようだ。

 

「……お呼びでしょうか、提督方」

 

シェーンコップの声は、よく響くバリトンだ。

 

「まさか、このシェーンコップに『お茶会』の招待状が届くとは光栄ですな。……もっとも、出された紅茶の色を見る限り、毒見役が必要なようですが」

 

「毒は入ってないよ。ただの予算不足の味だ」

 

ヤンは、カップを置いて苦笑する。

 

「呼び出したのは他でもない。……今回、我々はイゼルローン要塞へピクニックに行くことになった。君たちローゼンリッターにも同行願いたいと思ってね」

 

「ピクニック、ですか」

 

シェーンコップは、鼻で笑う。

 

「イゼルローン攻略戦の間違いでしょう。……また、あの大口を開けた要塞砲(トールハンマー)の前で、我々陸戦隊に『突撃』しろと?宇宙空間を泳いで渡れと仰るなら、酸素ボンベの準備が必要ですが」

 

彼の言葉には棘がある。無理もない。歴代の司令官たちは、ローゼンリッターをただの「便利な使い捨て戦力」として扱ってきたからだ。

 

「いや、泳ぐ必要はない。……今回は、戦わないからね」

 

ヤンは、あっけらかんと言う。

 

「……は?」

 

シェーンコップの眉が動く。

 

「戦わない?戦争をしに行くんですよね?」

 

「戦争というよりは……そうだな、演劇かな」

 

ヤンは、帽子を指でくるくると回す。

 

「君たちには、帝国軍の軍服を着てもらう。そして、帝国軍の巡洋艦に乗り込み、我々第13艦隊に『追われているフリ』をして、イゼルローン要塞に逃げ込むんだ」

 

「……ほう」

 

シェーンコップの目に、興味の色が宿る。

 

「『味方(帝国軍)がやられています!開けてください!』と泣きついて、中に入れてもらう。……そして、中に入ったら、司令室を制圧して、要塞のシステムを乗っ取る。以上だ」

 

ヤンは、まるで「コンビニに行って弁当を買ってくる」くらいの手軽さで説明する。

 

「……(ニヤリと笑い)ふっ……」

 

シェーンコップは、堪えきれないように笑い声を漏らす。

 

「帝国軍の軍服を着て、味方に追われているフリをして入港し、中から制圧する、と?……正気ですか?」

 

「正気だよ。……正面から撃ち合えば、予算が足りないからね」

 

「控えめに言って、軍人というよりは詐欺師の仕事ですな」

 

シェーンコップは、呆れ半分、感心半分で言う。軍服を着た詐欺師。それは、騎士道精神を重んじる(フリをしている)彼にとって、最高の褒め言葉だ。

 

「(腕を組み、豪快に笑う)違いない!ガハハハハ!」

 

隣で黙っていたホーランドが、突然爆笑する。声がでかい。会議室の窓ガラスが振動する。

 

「だがな、大佐。我々はもう既に六回も『強盗(正面攻撃)』に入っているが、失敗しているのでな。押し入ろうとするたびに、番犬(駐留艦隊)に噛みつかれ、警備システム(要塞砲)に焼かれてきた」

 

ホーランドは、身を乗り出す。

 

「だから、犯人もやり方を変えたというわけだ。……今回は、裏口からコソ泥として入る!」

 

「コソ泥……。大将閣下が仰ると、妙に迫力がありますな」

 

シェーンコップは肩をすくめる。

 

「詐欺師でも、押し込み強盗でも、イゼルローンという美女は、よほど人気なのでしょう。誰も彼もが手を出したがる」

 

ヤンが、遠い目をする。イゼルローン要塞。難攻不落の処女要塞。多くの兵士が、その「美貌(装甲)」に触れることすらできずに散っていった。

 

「なるほど、美女ですか」

 

シェーンコップが、足を組み替える。その表情は、獲物を狙うプレイボーイのそれだ。

 

「……美女と聞いては、このシェーンコップ、黙っていられませんな」

 

彼は、ヤンを真っ直ぐに見る。

 

「よろしいでしょう。小官がぜひ、その難攻不落の美女を籠絡してご覧に入れましょう。……口説き落とすか、あるいは強引に奪うか。ベッドの上でのテクニック(白兵戦)には、自信がありますので」

 

「(苦笑)頼もしい限りだ」

 

ヤンは頷く。この男なら、悪魔でも口説き落としかねない。

 

「ただし、くれぐれも演技力を頼むよ。……相手はあのファルケンハイン元帥の部下たちだ」

 

ヤンの声が、少しだけ低くなる。

 

「バレたら即、宇宙の藻屑だ。……セリフを噛まないようにね」

 

「ご心配なく。……嘘をつくのは、愛を囁くのと同じくらい得意ですから」

 

 

 

 

 

 

 

ハイネセン宇宙港

 

 

 

出撃を翌週に控えた夜。

 

「よし!決まりだ!」

 

ホーランドが、夜空に向かって吼える。

 

「第11艦隊は、第13艦隊の後方支援と、万が一の際の撤退路確保……そして何より、『派手な陽動』を担当する!」

 

彼の役割はシンプルだ。「俺を見ろ!」と叫びながら暴れ回ること。観客(帝国軍)の視線を釘付けにする、パレードの先頭車両だ。

 

「助かります、閣下。……というか、それが一番重要です」

 

ヤンは、寒そうにコートの襟を立てる。

 

「敵の目を外に向けていただければ、中の仕事がしやすくなります。……要塞の駐留艦隊をおびき出し、要塞司令部をパニックにさせてくれれば、侵入の成功率は跳ね上がります」

 

「任せておけ!」

 

ホーランドが、ヤンの背中をバシッと叩く。痛い。背骨が軋む音がした。

 

「俺の『芸術的艦隊運動』で、帝国軍の目を釘付けにしてやる!……右へ左へ、予測不能な動きで敵を翻弄し、『同盟軍が総攻撃に来た!』と錯覚させてやる!」

 

予測不能な動き。それは、単にホーランド自身も次に何をするか考えていないだけなのだが、結果として敵を混乱させるなら、それは立派な戦術だ。

 

「……ヤン」

 

ふと、ホーランドの声色が真面目なものに変わる。

 

「死ぬなよ」

 

彼は、ヤンの顔を覗き込む。

 

「お前は、この貧乏くじの作戦を立案し、一番危険な役割(侵入部隊の指揮)を背負い込んだ。……失敗すれば、お前が一番に死ぬ」

 

「……ええ」

 

ヤンは、夜空を見上げる。

 

「死にたくはありませんよ。……年金をもらうまでは」

 

「……ぶっ」

 

ホーランドが吹き出す。

 

「年金か!お前らしいな!」

 

「大事ですよ。老後の安泰こそが、私の人生の最大目標ですから。……そのためにも、さっさとこの美女(イゼルローン)を落として、退職金代わりに頂いて帰ります」

 

ヤンは、冗談めかして言う。だが、その目には、静かな決意が宿っている。無駄な血を流さない。最小の犠牲で、最大の戦果を上げる。それが、ヤン・ウェンリーの戦いだ。

 

「(退室しながら)……やれやれ」

 

二人の会話を、物陰で聞いていたシェーンコップが、肩をすくめて歩き出す。

 

「魔術師に猛牛か。……それに加えて、我らローゼンリッター。同盟軍も、役者が揃ってきましたな」

 

「さて、舞台の幕が上がる。……最高の演技で、銀河の歴史を騙してやりましょうか」

 

シェーンコップは、夜の闇に消えていく。その足取りは、これから戦場に行く兵士のものではなく、これから愛人に会いに行く男のように軽やかだった。

 

自由惑星同盟軍は、「予算不足」を逆手に取った、史上最大規模の「寸劇(イゼルローン攻略)」を開始するのであった。

 

観客は、銀河帝国軍。舞台は、イゼルローン要塞。主演は、ヤン・ウェンリー。助演は、ウィレム・ホーランドとワルター・フォン・シェーンコップ。脚本・演出は、貧乏神と幸運の女神の合作。




ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

今回の同盟編は、原作の「イゼルローン攻略戦」をベースにしつつ、
ホーランドとシェーンコップを全力で活かし、
ヤンの詐欺師としての天才性を中心に描いてみました。

あなたの感想が、次の方向性を決めます。
一言でも構いません。
「ここで笑った」「ここ熱かった」「シェーンコップどうかしてる」
そんなコメントが、作者の最大の力になります。

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