銀河英雄伝説 〜無能なる俗物が勘違いで英雄に祭り上げられ、気づけば貴族連合盟主としてラインハルトと雌雄を決する件について〜   作:斉宮 柴野

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自由惑星同盟は、勝利の熱狂に包まれていました。
イゼルローン攻略という歴史的快挙が、その熱をさらに増幅させ、政治家たちは民意の波に乗ろうと奔走します。

しかし、熱狂はいつも現実を忘れさせます。
財政、兵站、人員、そして理性。
これらを失った国家が、どこへ向かうのか――。

今回の章では、同盟最高評議会における「運命の会議」を描きました。
笑えるほど滑稽で、笑えないほど危うい、自由惑星同盟の縮図のような場面です。

どうぞ、銀河の政治劇をお楽しみください。


謎のグラフと、悪徳政治家の勝利宣言

自由惑星同盟 最高評議会ビル

 

 

 

その最上階にある円卓会議室は、重厚な木目調のインテリアと、防音完備の壁、ここに集う11人の委員たちは、同盟の頭脳であり、舵取り役だ。

 

だが、今の彼らの脳内CPUは、著しい処理落ちを起こしているか、あるいはウイルスに感染している疑いが濃厚である。

 

「諸君!見たまえ、このグラフを!」

 

評議会議長、ロイヤル・サンフォードが立ち上がる。彼は、一枚のフリップボードを高々と掲げる。夏休みの自由研究を発表する小学生のような、純粋かつ必死な眼差しだ。

 

そこには、二本の折れ線グラフが描かれている。一本は赤。右肩下がりで、地獄の底へと急降下している。もう一本は緑。ある地点からV字回復し、成層圏を突破する勢いで上昇している。

 

「……議長」

 

財務委員長のジョアン・レベロが、こめかみをピクピクさせながら口を開く。彼はこの評議会における数少ない良識派であり、苦労人だ。胃薬の消費量は軍部のヤン・ウェンリーと双璧をなす。

 

「その、ジェットコースターの落下軌道のような赤い線はなんです?」

 

「我が政権の支持率だ!」

 

サンフォードが即答する。あまりにも正直すぎる。

 

「急落している!暴落だ!ストップ安だ!このままでは次の選挙で我々は全滅だ!私の老後の計画も、君たちの再選も、全て水の泡だ!」

 

彼は悲鳴を上げる。イゼルローン要塞攻略という歴史的快挙を成し遂げたにもかかわらず、その後の「ヤン・ウェンリーをアイドル化しすぎた反動(グッズが品薄で暴動寸前)」や、慢性的な経済不況により、支持率は期待したほど伸びていないのだ。

 

「自業自得でしょう。経済政策の失敗です。軍事パレードよりも、パンの値段を下げるべきでした」

 

レベロが冷たく切り捨てる。正論だ。

 

「うるさい!パンなど焼けばいいだろう!」

 

サンフォードは逆ギレする。

 

「だが、見ろ!こっちの緑の点線を!美しいだろう!これが『帝国領へ大規模出兵し、勝利した場合』の予想支持率だ!V字回復だ!奇跡の復活だ!」

 

彼は緑の線を愛おしそうに撫でる。そこには、バラ色の未来(と、彼の再選)が描かれている。

 

「……質問ですが」

 

人的資源委員長のホワン・ルイが、手を挙げる。彼もまた、レベロと並ぶ良識派だ。

 

「そのデータは、どこのシンクタンクの試算ですか?統計局?それとも軍の情報部?」

 

これほど劇的な回復を示すデータだ。よほど信頼できる機関の、綿密なシミュレーションに基づいているに違いない。

 

サンフォードは、キリッとした真顔で答える。

 

「不明だ!」

 

「は?」

 

「ネットで拾った!作者は不詳だが、非常に説得力がある!」

 

ズコーッ!!

 

レベロとホワンが、椅子から転げ落ちる音が響く。昭和のドタバタ喜劇のような見事なコケっぷりだ。

 

「ソースなしかよ!!」

 

レベロが床から叫ぶ。

 

「ネットの拾い画像を政策決定の根拠にするな!どこの陰謀論者だ!」

 

「うるさい!ネットには真実があるのだ!とにかく、このグラフ通りになれば我々は安泰なのだ!」

 

サンフォードはフリップを抱きしめる。彼は信じているのだ。この緑の線が、自分を救ってくれる蜘蛛の糸だと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会議室の空気は、混沌を極めていく。議長の脳内はお花畑だが、現実は砂漠だ。

 

「とにかく!支持率回復のためには、パンでもサーカスでもない、もっと強烈な劇薬……すなわち『勝てる戦争』が必要なのだ!」

 

サンフォードが拳を振り上げる。

 

「イゼルローンを落とした今こそ好機!帝国軍は弱体化している!今なら勝てる!帝国領へ進攻し、悪の皇帝を倒して、銀河に平和と(我々の)高支持率をもたらすのだ!」

 

「反対です!」

 

レベロが立ち上がり、机を叩く。

 

「財政は火の車だ!イゼルローン攻略の報奨金や、新艦隊の設立費用で、国庫は空っぽです!これ以上の戦費調達など、錬金術でも使わない限り不可能です!」

 

レベロは、空っぽの財布を裏返して見せるようなジェスチャーをする。無い袖は振れない。これは物理法則だ。

 

「あら、レベロ委員長」

 

そこで、鈴を転がすような、しかし毒を含んだ声が割り込んでくる。交通情報委員長のコーネリア・ウィンザーだ。彼女は、派手なドレスに身を包み、扇子を優雅に揺らしている。評議会の「タカ派(主戦論者)」筆頭であり、論理よりも感情で喋るタイプだ。

 

「貴方は、偽善者ですわ!」

 

「はあ!?」

 

レベロが目を剥く。

 

「な、なぜ私が偽善者なんだ!?私はただ、通帳の残高の話をしているだけだぞ!?」

 

「金と命、どちらが大事なのですか!」

 

コーネリアが、扇子でレベロを指差す。

 

「帝国では、多くの民衆が専制政治の圧政に苦しんでいます!彼らを解放するために金を使うのが惜しいと言うのですか!人命よりも金貨を数えるのがお好きなんて……守銭奴!金の亡者!」

 

「(血管ピキピキ)なっ……!」

 

レベロの額に、青筋が浮かぶ。論点のすり替えだ。「金がないから無理だ」と言っているのに、「金が惜しいのか」と倫理的な攻撃に変換されている。

 

「国家が破産したら元も子もないだろうが!解放軍が行き倒れてどうする!兵士に給料も払えずに、何を食わせて戦わせるんだ!」

 

「愛と勇気ですわ!」

 

「腹が膨れるかァァァッ!!」

 

レベロの絶叫がこだまする。話が通じない。宇宙人と会話している気分だ。

 

「私も反対だ」

 

ホワン・ルイが、援護射撃に入る。彼は冷静に、タブレットのデータを提示する。

 

「人的資源は限界に来ている。アスターテでの死傷者130万人。……これ以上、若者を戦場に送れば、国内の労働力が不足し、産業構造が崩壊するぞ。誰がパンを焼き、誰が船を造るんだ?」

 

「ふっ……」

 

鼻で笑う音が聞こえる。コーネリア・ウィンザーが、スッと立ち上がる。その瞳は、現実を見ていない。遥か彼方、銀河の果てにある「理想郷」を見つめている。

 

「……ホワン委員長。貴方は、人間の精神の偉大さを忘れておられる」

 

朗々とした声。演劇の舞台のようだ。

 

(げっ、始まった……)

 

ホワンが顔をしかめる。彼女の「ポエム演説」が始まると、会議は長引く。

 

「自由!それは天から与えられた聖なる権利!重力にも縛られず、予算にも縛られない、魂の翼!」

 

彼女は両手を広げ、天井の照明を仰ぐ。

 

「我々の先祖が、氷の船で逃避行を続けたあの日から……我々の魂は銀河を翔ける風となったのです!肉体の限界?労働力不足?そんな些末なことは、自由への渇望の前には塵に等しい!」

 

彼女の陶酔は止まらない。

 

「進め!進むのだ!一億光年の彼方まで!我々の足跡が、銀河の道となる!ああ、見えます……圧政から解放された人々が、涙を流して我々を迎える姿が!」

 

「(怒鳴る)ポエムを詠むな!!」

 

レベロが、机上の資料を丸めて投げつける。

 

「会議中だぞ!ここは詩の発表会じゃない!具体的な数字を出せ!兵站はどうする!補給線はどう維持する!」

 

「(無視して)ああ、自由の女神よ……。貴女の微笑みのために、我々は血を流しましょう……」

 

「聞いてねえ!誰かこいつを摘み出せ!」

 

レベロの怒号も虚しく、会議室は「熱血ポエム」と「現実逃避」の波に飲み込まれていく。まともな人間がバカを見る。それが、衆愚政治の完成形だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この学級崩壊した教室のような状況を、一人の男が優雅に制する。ヨブ・トリューニヒト国防委員長だ。彼は、ミネラルウォーターのグラスを置き、まるでオーケストラの指揮者のように手を挙げる。

 

「(優雅に手を挙げ)……まあまあ、諸君。落ち着きたまえ。血圧を上げても、支持率は上がらんよ」

 

よく通る声。その一言で、怒号が止む。腐っても国防委員長。軍部を掌握する男の発言力は絶大だ。

 

「おお、トリューニヒト国防委員長!」

 

サンフォード議長が、救世主を見るような目ですがりつく。

 

「待っていたぞ!軍を統括する君なら、賛成してくれるだろう?現場のヤン提督やホーランド元帥も、貴官の命令なら喜んで出撃するはずだ!」

 

サンフォードは期待する。トリューニヒトは、自分と同じ穴の狢だ。権力欲の権化であり、選挙のためなら親でも売る男だ。だから、この「選挙のための戦争」に反対するはずがない。

 

トリューニヒトは、完璧に計算された角度で微笑む。そして、口を開く。

 

「いいえ。反対です」

 

「なっ……!?」

 

サンフォードがのけぞる。コーネリア・ウィンザーが扇子を取り落とす。レベロとホワンが、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をする。

 

「は、反対?なぜだ!?」

 

サンフォードがわめく。裏切りだ。昨日の友は今日の敵だ。

 

トリューニヒトは、人差し指をチッチッと振る。

 

「誤解しないで頂きたい、議長。……私は、道徳的な理由で反対しているわけではない」

 

彼は、堂々と宣言する。

 

「『選挙のために戦争をする』という点については、私は大賛成だ。むしろ、それ以外の理由で戦争をする必要があるのかね?」

 

「……は?」

 

全員がポカンとする。

 

「政治家として、権力を維持するのは当然の義務だ。選挙に勝つためには、パンも配るし、サーカスも見せる。必要なら、花火の代わりに艦隊も飛ばす。……それは政治家の『仕事』だよ」

 

彼は言い切る。悪びれもせず。むしろ、誇らしげに。

 

「(呆れて)……清々しいクズだな」

 

レベロが、本音を漏らす。ここまで開き直られると、怒りを通り越して感心すら覚える。 この男、自分の欲望に対して正直すぎる。

 

「だがね、議長」

 

トリューニヒトの声色が、冷徹なものに変わる。

 

「それは『勝てるなら』という条件付きだ」

 

彼は、机の上の資料を指先で弾く。

 

「現場の制服組(軍人)が『無理だ、勝てない、補給が続かない』と悲鳴を上げている。……あの好戦的なホーランド元帥でさえ、『今は休ませてくれ』と言っているのだよ?異常事態だと思わんかね?」

 

トリューニヒトは、全員の顔を見回す。

 

「その状況で、兵站の『へ』の字も知らない我々政治家が、無理やり『死んでこい』と命令する。……その結果、何が起きるか想像したまえ」

 

彼は、わざとらしく天井を仰ぐ。

 

「もし全滅でもしてみたまえ。……数万の兵士が死に、艦隊が宇宙の塵となり、同盟の国力が地に落ちる。……後世の歴史家は、我々を何と書くかね?」

 

沈黙。誰も答えられない。

 

「『衆愚政治の極み』『無能な愚物たち』『電卓も叩けない猿』……そう書かれますな。教科書の笑い者だ」

 

トリューニヒトは、自分の顔を指差す。

 

「私は、歴史書に『愚物』として名を残すのは御免だ。……『悪党』として書かれるのは構わんが、『馬鹿』として書かれるのはプライドが許さんのでね」

 

「ぐぬぬ……!しかし!」

 

サンフォードが唸る。反論できない。「負けたら馬鹿扱いされる」というのは、真理だからだ。

 

 

 

 

 

 

会議室の空気が、トリューニヒトの独演会と化していく。彼は、この場の支配権を完全に掌握している。賛成派も反対派も、彼の言葉に耳を傾けざるを得ない。

 

「それにだ。……私が反対する理由は、もう一つある」

 

トリューニヒトは、ニヤリと笑う。それは、獲物を罠にかけた狩人の笑みだ。

 

「私はここで、議事録に残る形で、堂々と反対しておく」

 

「な、なぜだ!?なぜそこまで反対にこだわる!」

 

サンフォードが悲鳴を上げる。全会一致で可決したいのだ。責任を分散させたいのだ。なのに、軍トップが反対に回れば、失敗した時の責任が全て賛成派に降りかかってくる。

 

「簡単なことだ。……リスクヘッジだよ」

 

トリューニヒトは、まるで投資の講義をするように語り始める。

 

「もしこの作戦が可決され、強行され、そして大敗したとしよう。……私の予想では、9割方そうなるがね」

 

彼は、平然と味方の敗北を予言する。

 

「そうすれば、国民の怒りは爆発する。……『誰が無謀な戦争を始めたんだ!』とな。当然、賛成した君たち現政権は総辞職だ。サンフォード議長、君は政治生命を絶たれるどころか、夜道も歩けなくなるだろうね」

 

「ひぃっ……」

 

サンフォードの顔色が、青を通り越して土気色になる。

 

「そうなれば、どうなる?……国民は誰を求める?」

 

トリューニヒトは、自分の胸に手を当てる。

 

「『無謀な戦争にただ一人反対した、先見の明ある政治家』……つまり、反対を貫いた私が、救世主として迎えられる。……次期評議会議長の椅子は、私のものだ。違うかね?」

 

「(絶句)き、貴様……!」

 

レベロが、わなわなと震える。理解した。この男の企みを。

 

「味方が負けることを前提に……!数百万の兵士が死ぬことを計算に入れて、自分の出世を設計しているのか!悪魔か貴様は!」

 

レベロの怒号が響く。だが、トリューニヒトは涼しい顔だ。

 

「(ニッコリ)悪魔ではない。政治家だよ、レベロ委員長」

 

彼は、悪びれる様子もない。

 

「逆に、だ。……もし作戦が奇跡的に否決されたとしよう。戦争は回避される。……その場合でも、私は『兵士の命を大切にするハト派』『軍部の良心』として人気が出る」

 

彼は両手を広げる。

 

「つまりだ。……どっちに転んでも、私(自分)は人気があるから選挙には勝てる。君たちは落ちるかもしれないが、私は(・・)ね」

 

完璧な論理。完璧な保身。彼は、どちらのサイコロの目が出ても勝つように、あらかじめ盤面を操作しているのだ。自分だけが安全圏にいて、他人を地雷原に歩かせている。

 

「(頭を抱え)……なんて奴だ。無敵かよ」

 

ホワン・ルイが、深いため息をつく。勝てない。この男の厚顔無恥さと、生存本能には、どんな正論も通用しない。彼は「無敵の人」だ。失うものがないのではなく、失わないように他人を盾にする技術が神懸かっているのだ。

 

「さあ、どうするね?」

 

トリューニヒトは、投票ボタンに指をかける。

 

「私は反対票を投じるが……。君たちが、あくまで『破滅への行進』を選びたいなら、止めはしないよ?それもまた、民主主義の選択だからね」

 

彼は、選択肢を提示するふりをして、相手を追い詰める。「お前たちが破滅するのは勝手だが、私は巻き込まないでくれよ」という最後通牒だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サンフォード議長は追い詰められた。前には支持率低下という崖。後ろにはトリューニヒトという落とし穴。どちらに進んでも地獄だ。だが、何もしなければ、座して死を待つのみ(選挙での落選)

 

ならば。人間は、追い詰められた時、最も愚かな選択をする生き物だ。彼は、理性を捨て、願望にすがることを選んだ。

 

「(追い詰められて)……う、うるさい!うるさいッ!」

 

サンフォードが机を叩く。駄々っ子のようだ。

 

「負ける負けると言うな!不吉な!勝てばいいんだろう、勝てば!」

 

彼は、フリップボードの「緑の線(妄想)」を指差す。

 

「イゼルローンを落とした今の同盟軍なら、勢いがある!ヤン・ウェンリーがいる!ホーランドがいる!彼らなら、きっと奇跡を起こせるはずだ!奇跡さえ起きれば、全て解決するのだ!」

 

思考停止。神頼み。国家の命運を、「奇跡」という不確定要素に全額ベットする。ギャンブル依存症の末期症状だ。

 

「そうです!議長のおっしゃる通りですわ!」

 

ここで、ポエム担当のウィンザー議員が立ち上がる。彼女の目は、完全にイッてしまっている。

 

「精神力です!自由を求める熱い心が、物理法則を超越するのです!補給線?弾薬不足?そんなものは、気合いでカバーできます!」

 

「(血管ブチギレ)物理法則は超えられんと言っているだろうが馬鹿者!!」

 

レベロが絶叫する。本日何度目かのブチギレだ。

 

「腹が減っては戦はできんのだ!精神力でミサイルが撃てるか!気合いでパンが焼けるか!貴様らはSF映画の見過ぎだ!」

 

レベロの正論は、虚しく響く。狂信者たちの耳には届かない。

 

「採決をとる!」

 

サンフォードが叫ぶ。もう議論は終わりだ。数の暴力で押し切る。

 

「帝国領進攻作戦に、賛成の者!」

 

バッ!サンフォードの手が挙がる。ウィンザー議員の手が、天を突くように挙がる。その他、自分の議席が心配な議員たちが、おずおずと手を挙げる。

 

過半数。圧倒的多数。

 

「反対の者!」

 

レベロ、ホワンの手が挙がる。そして、トリューニヒトの手が、悠然と挙がる。たった3人(実質2人と1匹の悪魔)

 

「……賛成多数!よって、帝国領侵攻作戦を決定する!」

 

サンフォードが、木槌を叩く。カーン!その音は、同盟の終焉を告げる鐘の音のように響く。

 

「目標は、帝国帝都オーディンだ!銀河の歴史に、我々の名を刻むのだ!」

 

サンフォードは、勝利を確信した(ように自分を騙している)顔で宣言する。拍手が起こる。乾いた、空虚な拍手が。

 

その喧騒の中で。トリューニヒトは、ゆっくりと立ち上がり、ジャケットの埃を払う。

 

「(肩をすくめ)……やれやれ。賽は投げられた、か」

 

彼は、誰にも聞こえない声で呟く。

 

「では、私は『敗戦の弁』と、その後に続く『議長就任演説』の原稿でも書き始めるとしようか。……忙しくなるな」

 

彼の顔には、微塵も憂いはない。あるのは、次のステージへの期待だけだ。彼にとって、同盟の敗北は「確定した未来」であり、それは「出世への階段」でしかないのだ。

 

「(涙目で)……終わった。同盟が終わった……」

 

レベロが、椅子に崩れ落ちる。彼は天井を見上げる。そこには、同盟の建国の父、アーレ・ハイネセンの肖像画がある。ハイネセンも泣いているように見える。あるいは、「お前ら、いい加減にしろよ」と呆れているかもしれない。

 

こうして。自由惑星同盟軍の、総兵力3000万人を動員する歴史的大遠征は、悪徳政治家の高笑いと、常識人たちの胃痛と共にスタートしたのである。

 

ヤン・ウェンリーが、このニュースを聞いて「辞表を出そう」と決意し、フレデリカに「却下します」と即答されるまで、あと30分。銀河は、更なる混沌へと突き進んでいく。




ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

登場人物たちは、それぞれ違う論理や願望を抱え、そして時に信じられない判断を下します。
その滑稽さと危うさが、自由惑星同盟という国家の魅力であり、悲劇の源でもあります。

もし、この回で
・笑ってしまった場面
・ゾッとした場面
・印象に残った議員
・「こいつだけは許せん!」と思った人物
などがあれば、ぜひ感想で教えてください。

帝国と同盟の内乱どちらから見たいですか?

  • 銀河帝国
  • 自由惑星同盟
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