銀河英雄伝説 〜無能なる俗物が勘違いで英雄に祭り上げられ、気づけば貴族連合盟主としてラインハルトと雌雄を決する件について〜 作:斉宮 柴野
今回は、元帥府を舞台にした帝国の日常回です。
イゼルローン戦後の緊張感の裏側で、彼らがどんな会話をし、どう過ごしているのか。
戦略でもなく、政治でもなく、
「愛」「嫉妬」「労働」「胃痛」が渦巻く帝国の日常をご覧いただければ幸いです。
コメディですが、キャラクターたちの素顔や関係性が垣間見える回となっています。
肩の力を抜いて、帝国の午後をご堪能ください。
帝都オーディン 元帥府
部屋の中央にある執務机。そこでは、帝国軍の良心にして、銀河一の苦労人、ジークフリード・キルヒアイス大将が、山のような書類と格闘している。
彼の赤毛は、窓から差し込む陽光を受けて美しく輝いているが、その背中には「帰りたい」という文字が幻視できるほどの疲労感が漂っている。彼が戦っているのは、同盟軍でもなければ、反乱分子でもない。背後から忍び寄る、金髪の「猛獣」だ。
忍び足。軍靴の音を完全に消し、気配を殺して近づく影。マルガレータ・フォン・ヘルクスハイマー中将。15歳。イゼルローン要塞での勤務を経て、現在はラインハルト元帥府の幕僚(という名目のマスコット兼爆弾)として帝都に帰還している。ツインテールを揺らし、獲物を狙う猫のような目で、彼女はキルヒアイスの背後に立つ。
ガシッ。
「……!」
キルヒアイスのペンが止まる。右腕に、温かく、そして柔らかい感触が絡みつく。逃げ場はない。ロックオンされている。
「(キルヒアイスの腕に絡みつき)……のう、ジーク」
甘い、とろけるような猫なで声。耳元で囁かれるその声は、精神攻撃に等しい威力を持っている。
「見てみよ。……妾、背も伸びたぞ?見ろ、この成長ぶりを」
マルガレータは、キルヒアイスの二の腕に自分の胸を押し付けるようにしてアピールする。確かに、10歳の頃に比べれば、少女から女性へと脱皮しつつある。背も伸びたし、全体的に丸みを帯びてきている。だが、それを職場で、しかも上官(キルヒアイス)に対して物理的に主張するのは、セクハラを超えてテロ行為だ。
「こんなにも美人に育ったぞ?……出るところも、少しは出てきたじゃろう?ん?」
彼女は上目遣いで、キルヒアイスの顔を覗き込む。その瞳は、「さあ、褒めろ」「そして食いつけ」と訴えている。
キルヒアイスは、石像のように固まる。視線は、頑なに手元の書類(補給物資のリスト)に固定されている。ここでおっぱい……いや、彼女の身体に視線を向ければ、その瞬間に「見たな!責任取れ!」と外堀を埋められることを、彼は本能で理解しているのだ。
「(冷や汗を流しながら、書類から目を離さず)……そうですね。……成長されましたね、マルガレータ様。部下としても、女性としても」
当たり障りのない、教科書通りの回答。だが、その額には冷や汗がナイアガラの滝のように流れている。
「うむ。素直でよろしい」
マルガレータは満足げに頷く。だが、攻撃の手は緩まない。むしろ、ここからが本番だ。
「ならば……」
彼女は、さらに体を密着させる。心臓の鼓動が伝わってくる距離。
「……そろそろ、食べ頃と思うんじゃがのう?」
「ぶふっ!」
部屋の隅で紅茶を飲んでいたアルブレヒトが、吹き出す音が聞こえる。キルヒアイスは、鋼鉄の意志で動揺を抑え込む。食べ頃。フルーツか何かか。いや、彼女が言っているのは、もっと生々しい「捕食」の意味だ。
「(即答)いけません。マルガレータ様」
キルヒアイスは、0.1秒で却下する。自動応答システムのようだ。
「早いのう!即答か!……なぜじゃ?妾は不満か?家柄か?それとも年齢か?帝国の法律では、14歳になれば結婚できるぞ?」
マルガレータが頬を膨らませる。可愛い。客観的に見れば、絶世の美少女が拗ねている図だ。だが、当事者にとっては地雷原でステップを踏んでいるようなものだ。
「むぅ。……ジークよ。お前は呑気じゃのう」
彼女は、脅し文句を変える。
「ぼやぼやしていると、妾のような極上物件、他に売れて売れ残ってしまうぞ?引く手あまたなんじゃぞ?貴族のボンボンどもが、毎日釣書(プロポーズの手紙)を送ってきておるのじゃぞ?いいのか?他の男のものになっても」
嫉妬作戦だ。「早くしないと誰かに取られちゃうぞ」という、恋愛テクニックの基本中の基本。だが、キルヒアイスという聖人君子には、そのテクニックは逆効果だ。
キルヒアイスは、ペンを置き、真面目腐った顔でマルガレータに向き直る。その瞳は、慈愛に満ちている。
「(真顔で)……それは素晴らしいことです」
「え?」
「どうぞ、婚活してください。マルガレータ様。……貴女のような素敵な女性なら、きっと素晴らしいパートナーが見つかるはずです。私も、心より応援いたします。なんなら、仲人も引き受けましょう」
「……………」
完璧なカウンター。「どうぞどうぞ」と背中を押された。しかも「仲人をする」という、恋愛対象外宣言のおまけ付きだ。
マルガレータの顔が、驚きから怒りへ、そして悲しみへと変わる。目尻に涙が浮かぶ。
「……ば、バカモノォォォ!!」
彼女は叫ぶ。
「誰が婚活などするものか!誰が他の男など見るものか!嫌じゃ!ジークでなければ嫌じゃー!!」
ダダをこねる子供のように、彼女はさらに強くキルヒアイスに抱きつく。もはやコアラだ。絶対離れないコアラだ。キルヒアイスの軍服が、彼女の涙と鼻水で汚れていくが、引き剥がすことは物理的に不可能だ。この少女、見た目に反して怪力(ラインハルトを投げ飛ばすレベル)だからだ。
「よしよし、泣かないでください……。仕事が進みません……」
◆
その「公開セクハラ(逆)」の現場を、サロンの特等席であるソファから優雅に眺めている観客たちがいた。アルブレヒト・フォン・ファルケンハイン元帥。ラインハルト・フォン・ローエングラム元帥。そして、その妻ヒルダと、アルブレヒトの副官アナスタシア。帝国のトップ4(+家宰)が、昼下がりのティータイムを楽しんでいる。
「………キルヒアイスも大変だなぁ」
アルブレヒトは、クッキーを齧りながら他人事のように呟く。彼の目には、同情の色が浮かんでいるが、助け船を出す気配は微塵もない。面白いからだ。
「モテる男は辛いねえ。……まあ、あいつが優しすぎるのが原因だがな。『嫌です』って言って投げ飛ばせばいいのに」
「それができないのが、キルヒアイス提督の美徳であり、弱点ですね」
アナスタシアが、紅茶のおかわりを注ぎながら微笑む。彼女は、マルガレータの「恋する乙女(猛獣)」としてのアプローチを、生暖かく見守っている派だ。
隣のソファでは、ラインハルトがコーヒーを飲んでいる。彼は、親友が襲われている光景を見ても、以前のように「浮気者!」と激昂したりはしない。少しは大人になったのか、あるいは「姉上」という絶対的なストッパーが存在することを知っているからか。
「(コーヒーを飲みながら)……全くだ。キルヒアイスも隅に置けん男だ」
ラインハルトは、苦笑する。かつては、マルガレータに嫉妬して投げ飛ばされた彼だが、今は余裕がある。なぜなら、彼の手元には「最強の切り札」があるからだ。
「先日、キルヒアイスの元に、姉上(アンネローゼ)から手紙が届いてな」
ラインハルトが、話題を提供する。アンネローゼ。その名は、この場にいる全員にとって「逆らってはいけない絶対神」と同義だ。
「ほう?なんて?『元気にしてますか』とかいう時候の挨拶か?」
アルブレヒトが身を乗り出す。
「いや。……もっと、こう、実務的で、かつ詩的な内容だった」
ラインハルトは、記憶を反芻するように空を見る。
「美しい筆跡で、こう書かれていたそうだ。……『ジーク。貴方は優しい人ね。誰にでも優しくて、誰からも愛される太陽のような人。……でも、太陽は一つでいいのよ』」
「……ふむ。深いな」
「そして、結びにはこうあった。『貴方が他の女性にうつつを抜かすようなことがあれば……それは、私に対する不敬罪に問います』……とな」
「(ブッ!!)」
アルブレヒトが、またしても紅茶を吹き出す。不敬罪。皇帝の寵姫に対する裏切りは、国家への反逆。つまり、「浮気したら死刑」という宣告だ。
「(意訳)すると、こうなる。『他の女を見たら殺す』。……シンプルかつ強力なメッセージだ」
ラインハルトは、涼しい顔で解説する。姉の独占欲を、誰よりも理解している弟ならではの解釈だ。
「(苦笑)……それは大変ですね」
ヒルダが、頬を引きつらせながら笑う。彼女もまた、アンネローゼの「圧」を知る一人だ。
「法的拘束力はありませんが……精神的拘束力は無限大ですわ。キルヒアイス提督、その手紙を読んでから、女性とすれ違う時は必ず目を伏せるようになったと聞きます」
呪いだ。愛という名の呪いだ。
「(震え)アンネローゼ様、怖ぇー!……見えてるのか?このサロンの様子が、シュワルツェンの館まで見えているのか?」
アルブレヒトは、思わず周囲を見回す。盗聴器か?それとも、愛の波動で感知しているのか?
「キルヒアイス、逃げ場なしかよ。……前門の虎(マルガレータ)、後門の狼(アンネローゼ)そして横には、変な気を起こさないように監視している弟(ラインハルト)……あいつの人生、ハードモードすぎないか?」
「フン。光栄に思うべきだ」
ラインハルトは、カップを置く。
「姉上にそこまで想われているのだ。キルヒアイスは幸せ者だ。……マルガレータ如き小娘に、入る隙など1ミリもないわ」
彼は、キルヒアイスに抱きついているマルガレータを見ても、余裕綽々だ。「遊ばせておけばいい。どうせキルヒアイスの心は姉上のものだ」という、絶対的な確信がある。
「……お前、本当にブレないな」
◆
俺は、目の前に座る人物を見て、呆れを通り越して感心していた。ヒルデガルド・フォン・ローエングラム伯爵夫人。通称ヒルダちゃん。彼女は、出産からまだ数ヶ月しか経っていないというのに、軍服(マタニティ仕様ではなく、特注のスリムなやつだ)をビシッと着こなし、書類の束を片手に涼しい顔で座っている。顔色はいい。肌ツヤも完璧だ。産後の肥立ちが良いとは聞くが、サイボーグか何かか?
「ところでヒルダちゃん。……産後まだ数ヶ月だろう?もう仕事復帰していいのか?アレクはどうした?夫(ラインハルト)が面倒を見てるわけじゃないよな?」
俺が尋ねると、彼女はカップを置き、自信満々に答える。
「ご心配なく!アレクサンデルには、厳選した超優秀なベビーシッターを雇いましたので!保育士資格を持つ退役軍人(女性)です!ちゃんと朝晩の母子の時間は取ってますわ!」
彼女の瞳に迷いはない。ワーク・ライフ・バランスの鬼だ。
「(キリッ)これからは、家庭だけでなく、ラインハルト閣下の参謀長として、公私共に全力を尽くします!私の居場所は、ゆりかごの前だけでなく、作戦卓の前でもありますから!」
言い切った。カッコいい。世の働く女性の鏡だ。だが、その言葉を聞いた夫の反応が、少しおかしい。
「うむ。ヒルダ……いや、マリーンドルフ参謀長には助かっている」
ラインハルトが、真面目腐った顔で頷く。彼は、妻に対して上官のような、あるいは同僚のような口調で語りかける。
「彼女の事務処理能力と政治的判断は、俺の補佐として欠かせん。家では良き妻、軍では良き幕僚。……まさに、最強のパートナーだ」
「光栄です、閣下!」
ヒルダちゃんが、ビシッと敬礼する。ラインハルトも、鷹揚に頷き返す。
「……………」
「……………」
俺とアナは、顔を見合わせる。沈黙。何かがおかしい。新婚夫婦だよな?しかも子供が生まれたばかりだよな?なんでこの二人、職場の上司と部下みたいな空気を出してるんだ?いや、実際に上司と部下なんだが、家でもこれなのか?
「(小声で)……まあ、夫婦の形はそれぞれですから」
アナが、俺の耳元でフォローを入れる。
「(小声で)……そうだな。でも、夫婦なのに『参謀長』と『閣下』で呼び合うのか?家のリビングでも?『閣下、お塩を取ってください』『うむ、許可する』とかやってるのか?」
想像するだけで背中が痒くなる。さらに、俺の妄想(ゲスい方)が暴走する。
「夜の営みの時も、『閣下、突撃のご命令を』とか『弾幕が薄いぞ』とか言うんじゃないだろうな……。軍事用語で愛を語らうのか?」
「(顔を赤らめ)アル様!想像力が豊かすぎます!」
アナスタシアが、俺の足をヒールで踏む。痛い。だが、否定しきれないリアリティがあの二人にはある。彼らにとっては、愛の言葉よりも「補給線の確保」の方が、より深く絆を感じられるのかもしれない。変態だ。軍事変態夫婦だ。
◆
「で?兄上(アルブレヒト)」
ラインハルトが、話題を変える。俺が足をさすっているのを無視して、鋭い視線を向けてくる。
「お前たちの結婚式は12月だと聞いたが?まだ先だな」
「ああ。今年はイゼルローンのこともあったし、その後始末やら、カストロプの件やらで忙しくなりそうだからな。……年末になれば、少しは落ち着くだろうと踏んでいる」
俺は、窓の外の青空を見上げる。12月。ジングルベルが鳴る頃には、俺も晴れてアナ達と籍を入れ、正式に「世界一幸せな男」になる予定だ。それまでは、この不毛な書類仕事にも耐えられる。
「(窓の外を見て)……まあ、何もなければ、とは思ってるよ」
フラグだ。自分でも分かる。こういうことを言うと、大抵ろくでもないことが起きる。
「(不敵に笑い)……何もなきことなどあるまい」
ラインハルトが、悪魔のように笑う。彼は、平和な未来など信じていない。戦乱こそが彼の生きる場所だからだ。
「来ると思うか?兄上」
「……ああ、間違いなく来るだろうな」
「同盟軍の、大規模侵攻が。……あいつら、イゼルローンを取って調子に乗ってるからな」
「選挙対策、ですね」
アナが、冷徹に補足する。同盟の政治状況は、フェザーン経由の情報で筒抜けだ。サンフォード議長の支持率低下。挽回のための一発逆転劇。そのシナリオは、三流脚本家でも予想できるほど陳腐だ。
「ああ。勝てない戦でも、やらなきゃならんのが民主主義の政治家だ。……兵士の命を選挙の票に変える錬金術だよ」
肩をすくめる。くだらない。だが、そのくだらない理由で、俺たちの領土が踏み荒らされるのは我慢ならない。
「さて、辺境の防備は、俺(貴族直轄軍)の管轄だが……」
イゼルローン回廊を抜けた先。帝国領の辺境地帯。そこには、多くの貴族の領地があり、多くの平民が暮らしている。同盟軍が侵攻してくれば、そこが戦場になる。
「既に、住民たちの避難計画は練っている。物資や食料ごと、奥地へ移動させる。……同盟軍が来ても、そこにはペンペン草一本残さん」
焦土作戦。侵攻してくる敵に対し、物資を与えない。補給線を伸ばしきらせ、飢えさせる。古典的だが、最も効果的な防御策だ。
「焦土作戦か。……だが、民を見捨てぬとは、貴様らしい」
ラインハルトが感心したように言う。普通の帝国貴族なら、民を盾にして逃げるか、あるいは民を置き去りにして自分だけ逃げる。物資ごと避難させるなど、手間と金がかかることを嫌がるはずだ。
「当たり前だ。……勘違いするなよ?」
ニヤリと笑う。
「民は、俺の財布だ。納税者を置き去りにできるか。彼らが生きていれば、また税金を絞れる。死んだら一銭にもならん」
悪徳領主のような顔をする。これが俺のスタイルだ。
「戦後の復興のためにも、民は守る。……畑も家も焼くが、人間さえ残っていれば、また再建できる。復興特需で儲けるチャンスでもあるしな」
「……フン。相変わらず、口が悪いな」
◆
「民のことは任せた。……兄上の手腕なら、餓死者は出ないだろう」
ラインハルトは信頼を寄せる。そして、話題を「軍事」へと戻す。
「迎撃の作戦(軍事面)は、今、軍務省の地下にある戦略シミュレーション室で練らせている。……ヒルダとオーベルシュタイン、そしてマルガレータ嬢が頭を突き合わせて考えているところだ」
「ほう?あの三人で?」
意外な組み合わせだ。ヒルダちゃん(最強の事務&政治担当)オーベルシュタイン(冷徹な謀略担当)マルガレータ(直感と暴力担当)
「ああ。全員優秀だからな。特にマルガレータ嬢は、作戦立案と状況予測が恐ろしく上手い。勘の鋭さは俺に匹敵するかもしれん」
ラインハルトは、かつて自分を投げ飛ばした少女を高く評価している。実力主義者め。
「……(ニヤリ)なるほど。優秀なのは認めるが……」
俺の脳裏に、ある光景が浮かぶ。密室。三人の天才。そして、それぞれの「背景(バックボーン)」にある、強烈すぎる感情。
「それは、オーベルシュタインが可哀想だな!」
「?どういう意味ですか?閣下」
ヒルダちゃんがキョトンとする。当事者には分からない地獄が、そこにはある。
「想像してみろ。あの冷徹な義眼の男がだぞ?」
「片や、『ラインハルト閣下LOVE♡(公私混同)』の新妻参謀長(ヒルダ)お前のことだ」
「は、はい……?(赤面)」
「お前は、作戦を立てる時も『これをすればラインハルト様が喜ぶかしら』『ラインハルト様の覇道のためなら星の一つや二つ』って考えてるだろ?隠しても無駄だ、顔に出てる」
「否定は……しませんが」
「そして片や、『ジークLOVE♡(暴走中)』の天才少女(マルガレータ)あの子の行動原理は100%『ジーク(キルヒアイス)に褒められたい』だ。作戦名の頭文字を並べたら『S・I・E・G(ジーク)』になるように調整しかねない」
「あり得ますね……」
アナが頷く。
「自分に全く興味がない、脳内がお花畑(ただし知能指数は激高)な『恋する乙女』二人に挟まれて、眉間にシワを寄せながら仕事をするオーベルシュタイン……」
想像するだけで涙が出る。あの「歩くドライアイス」が、ピンク色のオーラとハートマークが飛び交う空間で、一人だけモノクロの世界に生きている。
「男として、これほど惨めで、居心地の悪い職場はないぞ!胃薬が何箱あっても足りん!『私はここにいていいのだろうか』という哲学的疑問に押しつぶされそうだ!」
「(想像して)……確かに」
アナが吹き出しそうになる。
「あのオーベルシュタイン准将が、義眼を点滅させながら、こめかみを押さえて胃薬を飲んでいる姿が目に浮かびます」
「(真面目に)そうか?議論は白熱しているぞ?」
ラインハルトは、全く理解していない顔だ。
「時々、マルガレータ嬢が『ジークならこうする!ジークのために敵を皆殺しにする!』と叫び、ヒルダが『ラインハルト様のためなら、敵の補給線を断って干上がらせるわ!』と受けて立ち、オーベルシュタインが無言で天井を仰いでいるが……あれは、思考を整理しているポーズではないのか?」
「それが地獄だと言ってるんだよ!!」
天井を仰いでいるのは、神に助けを求めているんだよ。「なぜ私はここにいるのですか」と。
「可哀想な義眼の男……。彼には、後で特別ボーナスを支給してやろう。『精神的苦痛手当』だ」
心の中でオーベルシュタインに合掌する。来るべき帝国領侵攻作戦。それを迎え撃つ帝国軍の頭脳たちは、ピンク色のオーラと義眼の冷たい光の中で、着々と、そしてカオスに満ちた準備を進めていた。
同盟軍よ、覚悟するがいい。愛に狂った女たちと、ストレスで胃に穴が開きそうな男が紡ぎ出す作戦は、きっと常人の想像を超える「劇薬」となるはずだ。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
もし、一番笑った場面
好きになった(同情した)キャラ
逆に「お前は何をしているんだ」と突っ込みたくなった人物
続きで見たい組み合わせ
などありましたら、ぜひ感想で教えてください。
帝国と同盟の内乱どちらから見たいですか?
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銀河帝国
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自由惑星同盟