銀河英雄伝説 〜無能なる俗物が勘違いで英雄に祭り上げられ、気づけば貴族連合盟主としてラインハルトと雌雄を決する件について〜 作:斉宮 柴野
勝利のための手段とは何か。
民を守るとはどういうことか。
そして、権力を握る者は何を選び、何を切り捨てるのか。
本章は、アルブレヒト・フォン・ファルケンハインが
優しい兄から帝国政治の中心へと変貌する瞬間を描きます。
英雄の影と、凡人の知恵が交差するその刹那、
帝国は静かに、しかし確実に分裂へと向かい始めます。
どうか、その始まりをご覧ください。
帝都オーディン 軍務尚書府
ここは銀河帝国の軍事行政の中枢であり、同時に俺にとっては「書類という名の白い悪魔」と戦う最前線でもある。
窓から差し込む午後の柔らかな陽光。香り高いコーヒーの湯気。そして、目の前に積み上げられた、エベレストよりも高い未決裁書類の山。完璧なコントラストだ。平和と絶望が同居している。
「……ふあぁ」
欠伸が出る。顎が外れそうなほど大きな欠伸だ。このまま机に突っ伏して、夢の世界へ亡命したい。イゼルローン要塞が落ちてからというもの、敗戦処理だの、責任追及だの、再配置だの、仕事が倍増している。俺の平穏な老後計画(まだ20代だが)は、音を立てて崩壊しつつある。
「閣下。お口が裂けていますわよ」
冷ややかな声と共に、新しい書類の束がドンと置かれる。アナは今日は完璧なポニーテールにして絶対零度の視線が冴え渡っている。
「アナ。……俺は今、宇宙の真理について考えていたんだ。すなわち、『なぜ人は働き、そして死ぬのか』という哲学的な問いだ」
「それは『サボって寝たい』という欲望を哲学的に言い換えただけです。……それより、ご報告があります」
アナの表情が曇る。嫌な予感がする。彼女がこういう顔をする時は、大抵ろくでもないニュースだ。「皇帝陛下のペットが逃げた」か「リヒテンラーデ公がまた長話をしている」か、そのどちらかだと思っていたが、現実はもっと斜め上だった。
「……先日、閣下が提出された『辺境星域の住民避難計画』ですが」
「ああ、あれか。同盟軍が来る前に、住民と物資を奥地へ逃がすやつな。……承認されたか?輸送船の手配は急がせろよ」
これは人道的な計画であり、同時に俺の財布(納税者)を守るための完璧な策だ。反対する理由がない。誰にとってもウィンウィンだ。
「……それが、却下されました」
「ぶふっ!!」
コーヒーが霧状になって噴出する。書類が茶色いシミで汚れるが、そんなことはどうでもいい。
「……何?却下?誰が?」
「陛下からです。勅命により、計画は白紙撤回。……輸送船団の編成も中止命令が出ました」
「(書類を放り投げ)……はあ!?」
椅子がガタッと倒れる。
「陛下から直々に却下されただと?理由は何だ!『避難先のホテルのグレードが気に入らない』とか、そんなふざけた理由じゃないだろうな!」
「理由は……『出征前の景気づけに、逃げ腰な姿勢は許さん』とのことです」
「………………」
時が止まる。俺の脳内で、何かがプツンと切れる音がする。
「……景気づけ?」
「はい。『帝国軍の威信を示すためにも、一歩も退かずに迎え撃つべし。民衆が逃げ惑う姿は、兵士の士気に関わる』と」
「……」
窓の外のノイエ・サンスーシ宮殿を睨みつける。あの中にいる、豪華な服を着た老人の顔を思い浮かべる。
「……あの爺さん(フリードリヒ4世)、ついにボケたか?」
「それとも、自慢のバラ園の肥料に、自分の脳みそまで使っちまったか?民衆をすりつぶす計画を認めるとは……正気か!」
景気づけだと?戦争はお祭りじゃない。民衆が逃げ惑うのが士気に関わるなら、民衆が戦火に巻き込まれて死ぬ姿を見れば、士気はもっと下がるだろうが。想像力の欠如にも程がある。
「どうやら、リヒテンラーデ国務尚書からも強力な後押しがあったようです」
アナがタブレットを操作し、補足情報を出す。
「国務尚書曰く、『兵站の現地調達を容易にするため』という名目も付記されています」
「現地調達……?」
要するに、「略奪」だ。軍隊が食料を持たずに進軍し、現地で民家から奪って食えと言っているのだ。自国の領土で。自国の民から。
「度し難いな……。あの化石どもめ」
「文官のくせに、焦土作戦の何たるかもわかっていないのか。……人がいれば、敵はそこから搾取できる。人がいなければ、敵は何も得られない。……民を逃がすことこそが、最大の防御であり、攻撃になるというのに」
目先の「威勢の良さ」や「小銭」のために、戦略的な優位性をドブに捨てるとは。これが、滅びゆく王朝の末路か。頭が痛い。胃も痛い。
ピロリロリン♪
その時、デスクの上の通信端末が、間の抜けた電子音を奏でる。極秘回線の着信音だ。このタイミングで誰だ?ラインハルトか?それとも、リヒテンラーデ公からの「文句あるか?」という嫌味な電話か?
「……ん?通信?」
相手が誰であれ、今の俺は機嫌が悪い。八つ当たりしてやる気満々だ。
「はい、こちらファルケンハイン。……今は『全世界を呪いたい気分』なので、用件は手短に頼む」
『フォッフォッフォ。……相変わらず、元気そうで何よりじゃのう』
モニターにノイズが走り、一人の老人の顔が映し出される。深い皺。白く長い髭。そして、年齢不詳の怪しい輝きを放つ瞳。
「(ギョッとして)……グ、グリンメルスハウゼンの爺さん……!?」
今は引退して悠々自適の隠居生活を送っているはずの老人だ。そして、ラインハルトを昔から知る、数少ない「食えない古狸」でもある。
「……まだくたばってなかったのか!いや、生きてるのは知ってるけど、なんか元気だな!引退してからのほうが肌艶良くないか?もう80になるだろ!」
画面の中の爺さんは、現役時代よりも血色が良く見える。背景には、南国のような植物が見える。リゾート地か?年金で豪遊しているのか?
『なんの。……まだまだ、お主らの行く末が楽しみでな』
だが、その目は笑っていない。深淵を覗くような、底知れぬ知性が光っている。
『先日もな、お迎え(死神)が来たんじゃが……。『一昨日きやがれ』と言うて、杖で叩いて帰ってもらったわい』
「……は?」
「お迎えって、帰ってもらえるシステムなのか……?」
クーリングオフ制度でも適用されるのか、死後の世界は。
「あんたなら、閻魔大王も説教して帰しそうだな。……『地獄の釜の温度管理がなっておらん』とか言って」
『フォッフォ。……地獄も満員らしいでの。わしのような小悪党が入る隙間はないそうじゃ』
老人は笑う。小悪党どころか、大妖怪だ。
「さて、久しぶりに顔を見せたのは、生存報告のためだけじゃあるまい。……何の用だ?ゲートボールの対戦相手でも探しているのか?」
『うむ。……単刀直入に言おう。今回の避難計画却下の件じゃ』
グリンメルスハウゼンの表情から、ふっと笑みが消える。
『あれは、単なる皇帝の気まぐれではないぞ。……どうやら、ローエングラム伯が裏にいるようだの』
「(目を見開き)……何?」
心臓がドクンと跳ねる。
「ラインハルトが?……どういうことだ?あいつは、今回の計画には関わっていないはずだ」
俺の計画だ。俺が立案し、俺が実行しようとしていた。ラインハルトには、「民のことは任せろ」と言ってある。あいつも、「兄上を信頼する」と言っていたはずだ。
『表向きはな。……だが、リヒテンラーデ公に『吹き込んだ』者がおる』
『「ファルケンハイン元帥の独断専行は、中央の権威を損なう」……。「民を逃がせば、兵士は戦う意義を見失う」……。そう囁いて、老人の嫉妬心と猜疑心を煽った者がおるのじゃ』
「……それが、ラインハルトだと?」
『あるいは、その懐刀……義眼の男と、ロイエンタールの娘かの』
オーベルシュタイン。マルガレータ。あの二人か。
俺の脳裏に、ラインハルトの顔が浮かぶ。真っ直ぐで、正義感が強くて、姉思いの弟分。俺のことを「兄上」と呼び、慕ってくれていたはずの青年。
「……なぜだ?」
「なぜ、そんな邪魔をする?民を守り、国を守るための計画だぞ。……あいつにとっても、メリットしかないはずだ」
『メリット……かの?』
意味深に首を傾げる。
『ファルケンハイン閣下。……お主は、ちと「できすぎる」のじゃよ』
「は?」
『民を守り、戦にも勝ち、経済も回す。……完璧な兄がおれば、弟は育たん。いや、弟の出番がない』
老人は、鋭い指摘を突きつける。
『政略的に、お主より有利に立ちたいんじゃろう。……今回の計画を潰し、民衆に地獄を見せる。その怨嗟をお主に向けさせ……自分は、あとから颯爽と現れて「解放者」として振る舞う』
マッチポンプ。俺を悪役にして、自分がヒーローになるための自作自演。
『いよいよ、野心を顕にしてきたというところかの。……黄金の獅子は、もう飼い猫ではいられんようじゃ』
重く響く。ラインハルトが、俺を喰おうとしている。兄殺し(社会的な)の牙を研いでいる。
怒りは……湧いてこなかった。代わりに、奇妙な納得感があった。
「……そうか」
◆
「……元帥では、満足できなかったか?」
独り言が、乾いた唇からこぼれ落ちる。
奴の手元にあるカードを数えてみる。帝国軍元帥という、軍人としての最高位。ヒルダちゃんという、才色兼備で政治力も抜群な、出来すぎた奥さん。アレクという、天使のように可愛い跡取り息子。キルヒアイスという、自分を裏切ることなど万に一つもあり得ない無二の親友。そして、アンネローゼ様という、聖母マリアも裸足で逃げ出すほど慈愛に満ちた姉。
「ロイヤルストレートフラッシュじゃないか」
人生というポーカーなら、勝ち確だ。チップを回収して、悠々自適にリタイアしても誰も文句は言わない。それなのに、奴はテーブルをひっくり返し、ディーラーの首を絞めようとしている。
「それでも、満足できなかったのか……?ラインハルト……」
理解不能だ。俺なら、アナが淹れてくれた紅茶と、週末の昼寝があれば、銀河の覇権なんて犬に食わせてもいい。奴の胃袋はブラックホールか何かでできているのか。
「(静かに)……英雄とは、常に飢えている生き物なのかもしれませんね」
傍らで控えていたアナが、書類を整理しながら呟く。その声は、諭すようであり、同時に諦観を含んでいる。
「現状に満足した瞬間、英雄はただの人になります。……彼らは、満たされない心という燃料を燃やして、歴史という荒野を走る機関車なのです」
「……飢えすぎだろ。胃下垂かよ」
燃費が悪すぎる。エコじゃない。
「俺なら、アナとイチャイチャできるだけで、宇宙の半分はいらないってのに。……いや、全部いらないな。宇宙よりも膝枕だ」
「(顔を赤らめず)……ありがとうございます。ですが閣下、今はノロケている場合ではありません」
冷静に現実という名の冷水をぶっかけてくる。彼女のこういうところが好きだが、今は少し優しくしてほしい。
「どうなさいますか……。避難計画の却下。そして、それに伴うラインハルト陣営のプロパガンダ。……このままでは、アル様の支持率に関わります」
彼女がタブレットを示す。そこには、早くも市井で流れ始めている噂話のデータが表示されている。『ファルケンハイン元帥は、自分の財産を守るのに必死らしい』『避難船が足りないのは、貴族が美術品を積んでいるからだ』根も葉もない、しかし大衆が最も好む種類の「物語」だ。
「支持率か……」
民衆の人気。今まで、それを武器にしてきた。「話の分かる貴族」「気さくな元帥」というブランドで、貴族社会と平民の間をらりくらりと泳いできた。だが、ラインハルトはそれを奪いに来た。真正面からではなく、泥を投げつける形で。
「……悔しいかと言われれば、まあ、少しはな」
信じていた弟分に背中を刺された気分だ。だが、ここで感情的になってはいけない。怒りに任せて行動すれば、それこそ相手の思う壺だ。俗物には、俗物の戦い方がある。
◆
「どうもこうもあるまい」
「ここで陛下に表立って逆らえば、それこそ『勅命違反』だ。……『陛下はボケた!』と叫んで避難を強行すれば、民衆は喝采するかもしれんが、宮廷での立場は終わる」
政略的に窮地に立たされる。リヒテンラーデ公は「待ってました」とばかりに俺を弾劾するだろうし、ラインハルトは「兄上は乱心した」と言って軍権を剥奪しに来るだろう。完璧な詰み筋だ。
「ラインハルトとリヒテンラーデの思う壺だ。……そんな三流脚本に乗ってやる義理はない」
俺は、デスクの上の通信機を指差す。
「アナ。……ブラウンシュヴァイク公と、リッテンハイム侯に通信を繋げ」
「……!義父のお二人に、ですか?」
「そうだ。……事情は説明し、こう伝えろ」
「『我々は陛下の御意志を尊重する』とな」
「……!」
「『同盟軍ごときに背を見せるなど、帝国貴族の誇りが許さない。我々は一歩も退かず、領地を死守する所存である。……つきましては、お二方にもご協力(と、貴族の利権保護)をお願いしたい』……とでも言っておけ」
へりくだる。媚びる。そして、彼らの肥大化したプライドと特権意識をくすぐる。あの馬鹿どもは、「ラインハルトのような金髪の若造が生意気だ」と常々思っている。俺が「貴族の味方」として振る舞えば、喜んで飛びついてくるはずだ。
「こちらは、門閥貴族たちの支持を盤石にするしかあるまい。……ラインハルトが平民の支持を取るなら、俺は権力の基盤を押さえる」
毒を食らわば皿まで。人気取り合戦から降りと、泥仕合に持ち込む。
「それでは、民衆の支持が、一時的にせよローエングラム伯に流れますが……」
アナが懸念を示す。当然だ。「民を見捨てて貴族と結託した元帥」というレッテルは、俺の額に強力な接着剤で貼り付けられることになる。
「(冷徹に)構わん」
「前に言ったように、帝国は門閥貴族のものだ。……腐っても鯛、腐っても貴族だ。軍の人事、予算、物流。この国の根幹は、まだ俺達が握っている」
理想論では飯は食えない。ラインハルトは理想を掲げるが、俺は現実を握る。
「民衆など……この根幹さえ抑えておけば、あとでパンの一切れでも投げてやれば戻ってくる」
極めて冷酷な、支配者の論理を口にする。
「公爵たちの領地と、俺の領地のところだけは盤石にしておけばいい。……避難計画が中止になっても、俺の私兵を使って、最低限の物資と民は隠す。表向きは『軍事機密の隠蔽』としてな」
「……他の領地は?」
「知らん」
「ラインハルトが焦土にしたいなら、させてやれ。……自分の描いた絵図が、どれほど凄惨な地獄を生むか、その目でしっかり見ればいい」
教育だ。これは、残酷な教育だ。覇道を歩むということは、血の海を歩くということ。その覚悟がないなら、最初から喧嘩など売るな。
「……承知いたしました」
アナは、深く頭を下げる。彼女の瞳に、迷いはない。
「冷徹なご判断、支持いたします。……貴方が悪名を被るなら、私も共犯者になりましょう」
「頼もしいねえ。……じゃあ、後でブラウンシュヴァイク公のご機嫌取りに付き合ってくれ。義父上の自慢話を聞くのは、拷問に近いからな」
「特別手当を請求させていただきますわ」
「いくらでも払うよ」
さて、反撃の狼煙だ。派手な花火ではない。地味で、陰湿で、しかし確実に相手の足元を腐らせる、大人の喧嘩を始めよう。
◆
数時間後。門閥貴族たちとの根回しは完了した。彼らは「よくぞ言った!さすが名門ファルケンハイン家!」と諸手を挙げて賛成してくれた。チョロいもんだ。
さて、次は軍事面だ。
「どちらにせよ、勝たなければこの話も必要なくなる。……同盟軍がオーディンまで攻め込んでくれば、俺もラインハルトも仲良く処刑台行きだ」
そこは共通の利益だ。だが、協力してやる義理はなくなった。
「全軍に通達!」
通信マイクを取る。相手は、俺の直轄下にある「貴族直轄軍」の提督たちだ。
「俺達(貴族直轄軍)は、この戦いは静観する」
「……は?」
オペレーターが聞き返す。
「聞こえなかったか?静観だ。……ケンプ、ロイエンタール、ミッターマイヤー、ケスラー……その他、俺の命令系統にある全員に連絡だ」
「『国境付近での待機』を命じる。……防衛ラインを下げろ。帝都オーディンの最終防衛線まで下がって、お茶でも飲んでいろ」
「し、しかし閣下!敵は数千万の大軍です!前線で迎撃しなければ、辺境が蹂躙されます!」
「構わん。……ラインハルト元帥が『全軍の指揮を執る』と張り切っているんだ。邪魔をしたら悪いだろう?」
「ラインハルトがどれだけ苦戦しようが、指一本貸すな。……援軍要請があっても、俺の許可なく動くことは許さん。『通信機の故障』とでも言って無視しろ」
「正規軍(ラインハルト麾下)だけで、同盟の大軍を相手にさせると?」
アナが確認する。ラインハルトの直属艦隊は精鋭だが、数は限られている。同盟軍3000万の大軍を、彼らだけで支えるのは至難の業だ。
「ああ。『俺一人でやれる』と粋がったんだ。……民を見捨て、兄を出し抜いてまで手に入れたかった『全権』だ。その重み、たっぷりと味わってもらおう」
お手並み拝見といこうじゃないか。天才ラインハルト・フォン・ローエングラムが、数で勝る敵に対し、どのような魔術を見せるのか。あるいは、数に押し潰されて泣き言を言うのか。
「……失敗すれば、それまでだ。その時は、俺たちが温存した戦力で敵を叩く。……そして、ラインハルトには反省してもらう」
完璧なプランだ。勝てばラインハルトの手柄(ただし民の犠牲という傷付き)。負ければ俺たちが救世主。どちらに転んでも、俺の立場は守られる。
ピロリロリン♪
また通信だ。今度はグリンメルスハウゼンの爺さんだ。
『……ふむ。内戦になるかのう?』
モニターの向こうで、老人がニヤニヤしている。状況を楽しんでいやがる。
「そうさせないように動くさ。……俺が引いた(静観した)ことで、表面上の衝突は回避された。あくまで『役割分担』だ」
「だが……不愉快な未来図しか浮かばないな。兄弟喧嘩にしては、規模がデカすぎる。何千万人が巻き込まれるんだか」
『フォッフォ。……若獅子は、一度手痛い火傷をせんと分からんのかもしれんの』
「火傷で済めばいいがな。……丸焼きになるかもしれんぞ」
モニターを切る。執務室に、再び静寂が戻る。
遠くの空に、戦雲が近づいているのを感じる。
ラインハルト。お前がその気なら、俺にも考えがある。お前は、俺を「優しい兄」だと思っているかもしれないが……。俺は、お前が思っている以上に、性格が悪いんだよ。
「『俗物』のしぶとさ、思い知らせてやる」
帝国の二大巨頭の間に、決定的な、そして修復不能な亀裂が走った。同盟軍の大侵攻を前に、帝国軍は事実上の分裂状態に陥る。それは、同盟軍の「敗戦前提の作戦」と相まって、歴史上類を見ない、カオスと泥沼の戦争へと発展していくことになる。
「……アナ。クッキーの予備はあるか?ストレスで糖分が足りん」
「はい、アル様。……今日は特別に、トリプルチョコをご用意しました」
「愛してるよ、アナ」
「はいはい」
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
今回は、アルブレヒトが初めて
「ラインハルトの覇道に真正面から対抗する」
という、非常に重い選択をする回でした。
皆さまにぜひ伺いたいのは――
アルの静観戦略をどう感じたか?
ラインハルトの行動は政治的に正しいのか、危ういのか?
グリンメルスハウゼンの忠告の意味
アナの支えの描写
兄弟の亀裂がどこへ向かうと思うか
あなたの意見は、続きの政治劇を書く大きな力になります。
帝国と同盟の内乱どちらから見たいですか?
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銀河帝国
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自由惑星同盟