銀河英雄伝説 〜無能なる俗物が勘違いで英雄に祭り上げられ、気づけば貴族連合盟主としてラインハルトと雌雄を決する件について〜   作:斉宮 柴野

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どうぞ最後までお付き合いください


双星墜つ

無数の閃光が、漆黒の宇宙空間を縦横無尽に飛び交う。

白、赤、緑、そしてピンク。

 

極彩色のレーザーとビームが交錯し、星々の瞬きすらも完全に掻き消していく。

 

戦場の中央宙域では、陣形という概念がもはや完全に崩壊し、個々の艦隊指揮官の直感と操艦技術だけが生存の確率を左右する、極限の乱戦状態に突入している。

 

その混沌の坩堝の中で、一際優雅に、そして背筋が凍るほど苛烈な動きを見せる艦隊がある。

オスカー・フォン・ロイエンタール上級大将が座乗する旗艦《トリスタン》を中核とする、ファルケンハイン軍の特務艦隊である。

 

その照準の先には、常に純白の総旗艦《ブリュンヒルト》が存在する。

 

「敵艦隊の狙いは明白だ!」

 

トリスタンの艦橋で、ロイエンタールが金と黒の双眸を鋭く細め、眼前のメインスクリーンを睨みつけながら声を張り上げる。

 

「ラインハルト・フォン・ローエングラムは、我が軍の総大将であるアルブレヒト閣下の首ただ一つを狙って、全火力をロンゴミニアドに集中させようとしている!だが、その焦りこそが最大の隙だ!我々も、あの純白のブリュンヒルトをこの場で落とせば全てが済む話だ!総大将の首を狙うのは向こうだけの特権ではないということを、あの金髪の若造に教えてやれ!」

 

「各艦、エネルギー充填率百二十パーセントを維持!目標、ローエングラム軍旗艦ブリュンヒルト!主砲、斉射三連!ラインハルトのあの鼻持ちならない傲慢ごと、宇宙の果てまで撃ち抜け!!」

 

トリスタンをはじめとする艦隊群が一斉に砲門を開き、ブリュンヒルトの予測回避軌道上を完全に塞ぐように、三次元的な包囲射撃を放つ。

 

だが、その死の網がブリュンヒルトに届く直前、物理法則を完全に無視したかのようなデタラメな機動で、横合いから凄まじい推進炎を噴き上げて割り込んでくる艦隊がある。

宇宙空間においてこれ以上ないほど目立ち、そして目に痛い色彩を放つ、マルガレータ・フォン・ヘルクスハイマー上級大将の率いる「桃色竜騎兵(ピンク・ドラグーン)」である。

 

「当たらんわ!!そんな教科書通りの射線など、乙女の直感の前では止まって見えるのじゃ!」

 

「……!!狙いはラインハルトか!オスカー父様め、なんというえげつない射撃のタイミングじゃ!」

 

マルガレータは、モニターに表示されるトリスタンの冷酷な弾道予測を見て、瞬時に育ての親の意図を読み取る。

 

彼女は自分の艦の被害状況など一切気にする素振りも見せず、すぐさま全軍に新たな指示を飛ばす。

 

「全艦、直ちに反転!父様の艦隊に我が軍の全火力を集中せよ!ブリュンヒルトの盾になるのじゃ!ラインハルトを落とされては、ジークの努力が全て水の泡になってしまうではないか!愛する男の夢を守るためなら、このピンクの装甲がどれだけ焦げようと構わんわ!」

 

クリームヒルトが強引な姿勢制御を行い、トリスタンの放つ光の矢の雨を、自らの装甲とシールドで真正面から受け止める。

 

衝撃でピンクの艦橋が激しく揺れ、オペレーターたちが悲鳴を上げる。

 

「閣下、無茶な機動です!被弾率が計算限界を超えています!」

 

「うるさいオーベルシュタイン!計算など後回しにせよ!愛の力でシールドを持たせるのじゃ!気合で出力を三倍に引き上げよ!」

 

 

エメラルドグリーンの超戦艦《ロンゴミニアド》と、純白の旗艦《ブリュンヒルト》が、互いの主砲の砲身が見えるほどの至近距離で激突しようとしている。

 

「……ラインハルト、自ら前に出てきたか。いいだろう、その度胸だけは褒めてやる」

 

彼の額には微かに汗が滲んでいるが、口元には不敵な笑みが浮かんでいる。

 

「だが、勇気と無謀は違う。この俺の絶対防衛圏に踏み込んだ代償は、高くつくぞ。……各砲座、中性子ビーム全砲門開け!出し惜しみはするな!陽電子砲、一番、二番、ファイエル!!」

 

アルブレヒトの号令と共に、ロンゴミニアドの船体から、通常の戦艦の数十倍にも及ぶ極太のエネルギー波が解き放たれる。

 

「閣下!ロンゴミニアド・スピアの充填はどうなされますか!今の距離なら、照準を合わせるまでもなく敵旗艦を消滅させられます!」

 

オペレーターが、この超戦艦の持つ最強の兵器の仕様許可を求めて叫ぶ。

しかし、アルブレヒトは即座に首を横に振る。

 

「ロンゴミニアド・スピアは温存だ!まだ撃つな!エネルギーは全て通常兵器とシールドの維持に回せ!」

 

「な、なぜですか!最大のチャンスです!」

 

「馬鹿野郎、あんな大掛かりな兵器、一度撃てば再充填に時間がかかる上に、艦の機動力が著しく落ちるんだよ!それに……兵器っていうのはな、使わない時が一番恐ろしいんだ。あいつに『次の一撃で終わるかもしれない』という恐怖とプレッシャーを、常に頭の片隅に植え付け続けろ!ラインハルトの思考リソースを、その恐怖の処理に割かせるんだよ!」

 

同じ頃、ブリュンヒルトの艦橋では、警報音が絶え間なく鳴り響いている。

 

ロンゴミニアドから放たれた凄まじい砲火が、純白の船体を激しく揺さぶる。

 

「くっ……!」

 

ラインハルトが、指揮卓に強くしがみつき、激しい衝撃に耐える。

 

「シールドを突破されたか……!なんという理不尽な火力だ!」

 

「ラインハルト様!第一から第三までの防御シールドが完全に融解しました!このままでは船体に直接ダメージが!」

 

「構わん!だが装甲で弾け!ブリュンヒルトの装甲は紙でできているわけではない!機関部への被害さえ防げれば問題ない!」

 

「敵の懐にここまで深く潜り込んだのだ!これ以上ない距離だ。……全兵装、エネルギー回路直結!撃てぇ!!」

 

ブリュンヒルトの全砲門が火を吹き、至近距離からロンゴミニアドの分厚い緑色の装甲へと、持てる全てのエネルギーを叩きつける。

 

ズガァァァァン!!!!

 

宇宙空間に、音のない爆発の光が連続して咲き乱れる。

ロンゴミニアドを覆う幾重にも重なった多重シールドが、ブリュンヒルトの全力の砲撃を受けて激しく明滅し、光の波紋を広げる。

 

しかし、その緑色の光の壁は、ギリギリのところで砕け散ることなく、ブリュンヒルトの猛攻を弾き返し続ける。

 

「化け物艦め!!あれだけの集中砲火を浴びて、まだシールドが落ちないというのか!」

 

「兄上は一体、あの艦の防御力にどれだけの予算を注ぎ込んでいるのだ!全艦、砲火をさらに集中せよ!広く薄く当てるな、一点を穿て!必ずどこかに繋ぎ目があるはずだ!」

 

しかし、アルブレヒトはそれをただ黙って受けるような男ではない。

 

「一点集中だと?いつまでもそこには居ないぞ、ラインハルト!」

 

「俺が防御力だけのサンドバッグだとでも思ったか?この俺を甘く見るなよ!ロンゴミニアドの加速は、そこら辺の駆逐艦より速いんだよ!!全スラスター、一斉点火!敵の射線から完全に軸をずらせ!」

 

ブリュンヒルトの集中砲火が虚しく宇宙の闇を切り裂き、ロンゴミニアドはすでに別の座標から新たな死の光線を放つ準備を整えている。

 

「くそっ!あんな巨体でどうやってあの機動を……!」

 

「驚いている暇はないぞ!次弾、装填急げ!」

 

戦場は、完全に泥沼のシーソーゲームの様相を呈している。

 

その膠着状態を、強引なまでの力技で打破しようとする者がいる。

クリームヒルトを操る、マルガレータである。

 

「行かせぬ!!これ以上好き勝手に動かれては、ラインハルトが持たん!」

 

マルガレータが、モニターに映るトリスタンとロンゴミニアドの位置関係を瞬時に計算し、狂気に満ちた決断を下す。

 

「クリームヒルト、全速前進!トリスタンの牽制を振り切り、ロンゴミニアドの横っ腹を直接食い破る!多重シールドの展開が遅れている推進部の死角に、我が艦ごと突っ込むのじゃ!」

 

「か、閣下!それではこちらがトリスタンの格好の的になります!」

 

「構わん!肉を切らせて骨を断つ!それが桃色竜騎兵の美学じゃ!」

 

直線的で、自らの防御を完全に捨て去った特攻めいた機動に、トリスタンの艦橋にいるロイエンタールがハッと息を呑む。

 

「……いかん!マルガレータの奴、正気か!あのままではアルブレヒト閣下のシールドの死角に直撃する!」

 

ロンゴミニアドの装甲といえど、至近距離からクリームヒルトの全火力を側面に受ければ、機関部に深刻なダメージを負う可能性がある。

総司令官であるアルブレヒトを守ること。

それが、副官であるロイエンタールの最優先事項である。

 

「防御に回れ!トリスタン、推力全開!クリームヒルトの射線上に前に出て、閣下の盾として防げ!!」

 

トリスタンが、ロンゴミニアドを庇うようにして、クリームヒルトの突進コースの真正面へと強引に割り込んでいく。

 

「……!!」

 

「隙あり!!」

 

「父様がアルブレヒトを庇うために前に出る……その一瞬の陣形の乱れこそが、妾の真の狙いじゃ!!」

 

マルガレータは、最初からロンゴミニアドを落とすことなど考えていなかった。

彼女の真の目的は、ロイエンタールのトリスタンをロンゴミニアドの盾として誘い出し、その無防備な側面を撃ち抜くことにあったのだ。

 

育ての親の思考回路を知り尽くしている彼女だからこそできる、極めて残酷で、しかし見事な心理戦の罠である。

 

「主砲、エネルギー回路全開!ターゲット、トリスタン左舷機関部!斉射三連!!!!!」

 

クリームヒルトのピンク色の砲身から、極限まで圧縮された三筋の巨大な光の槍が解き放たれる。

 

その光の槍は、ロンゴミニアドを庇うために急速な機動を行い、完全に姿勢を崩していたトリスタンの左側面に、何の抵抗もなく吸い込まれていく。

 

ドガガガガーン!!!!

 

宇宙空間を引き裂くような、凄まじい衝撃と閃光。

トリスタンの装甲が、紙屑のようにひしゃげ、内部から連鎖的な大爆発を引き起こす。

 

「……なに!!」

 

トリスタンの艦橋が、経験したことのない激しい揺れに見舞われる。

 

ロイエンタールが指揮席から投げ出されそうになり、必死にコンソールにしがみつく。

 

自分の思考が、戦術が、自分が手塩にかけて育てた娘に、完全に読まれ、出し抜かれたという事実。

 

「直撃!左舷の装甲完全に沈黙!制御不能です!」

 

「被害拡大!動力パイプが断裂、核融合炉に引火します!このままでは艦が爆発します!」

 

「馬鹿な……!この私が、あんな小娘のフェイントに引っかかったというのか……!」

 

しかし、優秀な指揮官である彼は、絶望に浸っている暇はないことを即座に理解する。

 

「……総員、直ちに退避!脱出カプセルを全基射出せよ!急げ!」

 

次々と射出される小型の脱出カプセルを背に、艦は巨大な炎の球となって宇宙空間に膨張していく。

 

クリームヒルトの艦橋。

メインモニターには、炎に包まれて崩壊していくトリスタンの姿が、残酷なほど鮮明に映し出されている。

マルガレータは、指揮席から立ち上がり、その光景を瞬き一つせずにじっと見つめている。

 

「…………父様……」

 

「許せ……。これが、戦いというものじゃ。……妾は、貴方から教わった戦術で、貴方を乗り越えたぞ」

 

彼女は、軍服の袖で乱暴に目元を拭う。

しかし、拭っても拭っても、瞳から溢れ出す透明な雫を止めることはできない。

 

育ての親を自らの手で撃ち落としたという事実は、彼女の心にどれほどの勝利の歓喜よりも重く、冷たい痛みを刻み込んでいる。

 

「……ロイエンタールを討ち取ったぞ!」

 

マルガレータは、無理やりに声を張り上げ、艦橋のクルーたちに向かって宣言する。

 

「敵の右腕は完全に沈黙した!……次は総大将、アルブレヒトの《ロンゴミニアド》へ一直線だ!!このままの勢いで、一気に決着をつけるのじゃ!!」

 

その様子を、艦橋の隅から静かに見守っている男がいる。

パウル・フォン・オーベルシュタイン上級大将である。

 

彼は無機質な義眼を明滅させながら、マルガレータの背中に向かって、誰にも聞こえないような微かな声で呟く。

 

「…………閣下……。お見事です。極めて合理的で、完璧な戦術でした」

 

「……ですが、貴女、泣いていますよ。……感情という非合理的なシステムは、時に人間をこれほどまでに非効率にさせるものなのですね」

 

冷徹な分析であると同時に、不器用な慰めの響きを帯びている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい!トリスタンが爆発したぞ!どうなっている!」

 

「ロイエンタールは脱出したか!?あの野郎、こんなところであっさり死ぬようなタマじゃないだろう!」

 

クナップシュタインがパニック状態のまま、必死にコンソールを操作する。

 

「不明です!爆発の規模が大きすぎます!光学センサーも熱源センサーも完全にホワイトアウトしており……カプセルの射出シグナルが確認できません!」

 

「くっ……!あの馬鹿野郎が!俺を庇って前に出るなんて、柄にもない真似をしやがって!後で減給してやるから絶対に生きて帰ってこい!」

 

しかし、彼には休んでいる暇はない。戦場は刻一刻と動いている。

 

「……アナ!アナはどうなっている!ブリトマートの状況を映せ!早くしろ!」

 

彼が叫んだ瞬間、モニターの表示が切り替わり、アナスタシアの乗る《ブリトマート》の艦橋が映し出される。

 

グリルパルツァーが、異常な速度でキーボードを叩き、データ解析を終えるところだった。

 

「……出ました! アナスタシア閣下、計算完了です!」

 

「どうしたの、アルフレッド!良い知らせでしょうね!」

 

「はい!キルヒアイス艦隊の攻勢の限界点です。奴らの陣形が、コンマ二秒だけ完全に伸びきります!この瞬間に全火力のカウンターを叩き込めば、バルバロッサのシールドを貫通し、再起不能に追い込めます!」

 

グリルパルツァーの報告に、アナスタシアの瞳が獰猛な光を放つ。

 

「良くやったわ、アルフレッド!流石は私の見込んだ副官ね!各砲座、聞いたわね!そのコンマ二秒に全てを懸ける!タイミングを合わせなさい!それに合わせて全門斉射!3、2、1……ファイエル!!!」

 

アナスタシアの号令と共に、ブリトマートの全砲門から、地獄の業火のような一斉射撃が放たれる。

 

一方の《バルバロッサ》艦橋。

 

「なっ……!」

 

「こちらのほんの一瞬の隙を、これほど正確に突いてくるとは……!なんという恐ろしい計算能力と、決断の速さだ!」

 

回避を指示する暇もない。

凄まじい衝撃が、バルバロッサの船体を直撃する。

 

「ぐああっ!」

 

クルーたちが次々と吹き飛ばされる。

キルヒアイスもまた、崩れ落ちた天井の破片をまともに受け、額から大量の血を流して膝をつく。

 

「提督!キルヒアイス提督!しっかりしてください!」

 

「……機関部、大破!動力の六割が断裂!シールド再展開不可能です!艦の制御が……効きません!」

 

ここまでか、と。彼の戦術眼が、これ以上の戦闘継続の不可能を冷酷に告げている。

脳裏に、出撃前に交わした言葉がよぎる。

 

『けして死に急ぐな。私のために、生きて勝ちましょう』

 

「…………これでは……約束が守れないな……。マルガレータ……。本当に、君には……すまない」

 

血を吐き出しながら、キルヒアイスは無理やり立ち上がる。

 

「……すみません。ラインハルト様……。僕は、ここで……お先に失礼します。あなたの宇宙を、最後まで見届けることができなくて……」

 

「全艦放送!バルバロッサはこれより、前方の敵旗艦ブリトマートに特攻を仕掛ける!」

 

「て、提督!?何を仰るのですか!」

 

「この艦はもう助からない!だが、この質量をそのままぶつければ、敵の先鋒を確実に道連れにできる!退艦希望者は直ちにカプセルへ向かえ!これは最後の命令だ!早くしろ!」

 

「我々も残ります!提督を一人で行かせるわけにはいきません!」

 

「馬鹿なことを言うな!生きてラインハルト様の下へ帰れ!……目標、敵旗艦!メインエンジン、オーバーロード!突撃ーーーっ!!」

 

真紅の巨艦が、致命傷を負いながらも、最後の命の炎を燃やし尽くして、恐るべき速度で突進を開始する。

 

「なっ……!?」

 

真っ赤に燃え上がりながら、バルバロッサが真っ直ぐにこちらへ向かって突進してくる。

 

「特攻などと……!この宇宙時代に、そんな原始的な自爆攻撃を仕掛けてくるというの!?回避!全力で回避しなさい!」

 

「だ、だめです!」

 

グリルパルツァーが声を上げる。

 

「なまじ先ほどの一斉射の命中率を重視して、距離を詰めすぎています!スラスターを全開にしても、あの質量を持った船体の突進は……避けられません!直撃します!」

 

「そんな……!」

 

アナスタシアは、モニターの画面いっぱいに迫り来る、紅い死神の姿をただ見つめることしかできない。

彼女の脳裏に、愛する夫の顔が浮かぶ。

 

「まさか……私が、ここで終わるというの……?ここまで来て……?アル様…………!!ごめん……!!」

 

ドォォォォォォン!!!!!

 

バルバロッサの船体が、ブリトマートの腹部に文字通り突き刺さる。

 

装甲が砕け散り、二隻の戦艦の核融合炉が同時に臨界点を超える。

宇宙空間に、太陽がもう一つ生まれたかのような、超新星爆発にも似た連鎖爆発が起こる。

 

光が混ざり合い、そして全てを白く塗りつぶして、二隻の艦は完全に宇宙から消滅する。

 

アルブレヒトは、真っ白にホワイトアウトしたメインスクリーンを、ただ呆然と見つめている。

 

「……アナ……?」

 

震える声が、口から漏れる。

 

「アナスタシア……?おい、冗談だろ……。お前が、こんな……こんなところであっさりと……」

 

オペレーターたちも、声を発することができない。

 

「アナ……!アナスタシアァァァァ!!!!」

 

血を吐くような絶叫が、艦橋に響き渡る。

 

ブリュンヒルトの艦橋。

ラインハルトもまた、同じように凍りついている。

 

「キルヒアイス……?」

 

彼は、モニターの向こうの光の残滓に向かって、力なく呼びかける。

 

「おい、キルヒアイス……返事をしろ。お前、さっき『またあとで』って言ったじゃないか……。俺と約束したじゃないか……」

 

「キルヒアイス!!返事をしろ、キルヒアイス!!!俺をおいていくな!!」

 

彼もまた、床に膝をつき、髪を振り乱して絶叫する。

 

 

 

「……ラインハルト……。許さんぞ……!」

 

アルブレヒトの全身から、凄まじい殺気が噴き出す。

 

「お前が……お前さえ、こんな無意味な戦いを仕掛けてこなければ!お前さえ、銀河を手に入れるなどと馬鹿な野望を抱かなければ、アナは死なずに済んだんだ!俺たちの平和な生活をぶち壊しやがって!」

 

「ラインハルトーーー!!!!!貴様だけは絶対に許さんぞ!!お前のその傲慢な野望ごと、俺がこの手で粉微塵に引き裂いてやる!!」

 

その声は、ブリュンヒルトの艦橋にもハッキリと届く。

ラインハルトは、涙で顔を濡らしながらも、ゆっくりと立ち上がる。

彼の蒼氷色の瞳には、アルブレヒトに対する底知れぬ憎悪と殺意が宿っている。

 

「黙れ!!黙れ黙れ黙れ!!」

 

ラインハルトもまた、通信機に向かって叫び返す。

 

「お前こそ……お前さえ俺たちの邪魔をしなければ!!お前が不条理な権力を振りかざさなければ、キルヒアイスは死ななかった!キルヒアイスを!!俺の半身を!!」

 

「アルブレヒトォォォ!!!」

 

帝国で最も愛され、彼らの精神の支柱であった二人の将星を同時に飲み込み、この戦いは凄惨な、一切の容赦のない「殺し合い」へと変貌を遂げたのだ。

 

愛する者を理不尽に失った二人の英雄に、もはや妥協や交渉の言葉は不要である。

残されたのは、ただ目の前の敵を完全に滅ぼすための、冷たい鉄と火の雨だけである。




ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

キルヒアイスとアナスタシア。
二人をここで退場させる決断は、物語全体を大きく変えるものです。

・特攻という選択は妥当だったか
・ロイエンタールの撃沈はどう感じたか
・アルとラインハルトの慟哭は過剰だったか
・ここから先、二人はどう変わるべきか

ぜひ率直なご感想をいただければ嬉しいです。

宇宙を統一するのは誰だと思いますか?

  • アルブレヒト
  • ラインハルト
  • ヤン・ウェンリー
  • マルガレータ
  • ロイエンタール
  • ルビンスキー
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