銀河英雄伝説 〜無能なる俗物が勘違いで英雄に祭り上げられ、気づけば貴族連合盟主としてラインハルトと雌雄を決する件について〜   作:斉宮 柴野

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今回の物語は、怠惰と混乱と再会の三拍子が揃った大喜劇。
帰還早々の辞令騒動、氷点下のアナ裁判、そして金髪少年への逆襲。
帝国史における最も不必要な英雄が、またもや銀河の均衡を乱します。

真面目な戦争がしたい?
残念、それはファルケンハインの辞書には載っていません。

今宵も彼の怠惰と愛と悪ノリが、イゼルローン回廊を熱く(※もしくは寒く)照らします。
笑って読んでください。そうでなければ、アナに処されます。


伏龍、イゼルローンに帰る(そして怒られる)

長い休養を終えた俺たちは、ついにイゼルローン回廊へ戻ってきた。

休養といっても、アナの反省強化合宿だったからな。

地獄のような鍛錬と、終わりのない説教。

精神と肉体を削られる毎日。

結果? 俺の精神力は地面を這っている。

 

だが、俺は学んだ。

人間、どんな地獄からでも這い上がれる。

なぜなら俺には秘策があるからだ。

 

イゼルローン要塞の司令部に到着した瞬間、司令官のクライストの顔が引きつった。

「また来たのか」という無言の殺意が目に宿っていた。

ふっ、残念だったなクライスト。

もう俺を追い出すことはできん!

 

——そう、俺の手には切り札があるのだ。

 

執務室に戻るなり、机の上で書類仕事に追われている三人の部下にドヤ顔で突きつけた。

「見ろ、これが俺の力だ!」

 

アナスタシアが眉をひそめる。

「……これは?」

ロイエンタールが即座に皮肉を放った。

「どうせまた高級娼館の予約票だろう」

ミッターマイヤーが少しだけ庇ってくれる。

「まあまあ二人とも。もしかしたら、奇跡的に有用な書類かもしれん」

「……ミッターマイヤー!それ、全然フォローになってないぞ!」

 

胸を張って高らかに宣言した。

「よく見ろ!これこそ統帥本部長シュタインホフ元帥閣下直々の辞令!

我がグレイマン艦隊の独立作戦権を認める正式な許可証だ!」

 

三人の目が見開かれた。

アナスタシアが震える声で言う。

「……い、いつの間にこんなものを……」

ロイエンタールが呟く。

「明日は宇宙嵐が吹くかもしれんな」

ミッターマイヤーが手を叩いた。

「衛兵!ここに閣下の偽物がいるぞ!連行しろ!」

 

「貴様ら!俺をなんだと思ってやがる!」

——その瞬間、本当に衛兵が入ってきた。

 

「おい待て!本当に連れてくな!俺は本物だ!」

「静かにしろ!」

「顔を引っ張るな!鼻もげる!やめろォォォ!」

 

アナは冷めた目で見下ろして言った。

「無能」

ロイエンタールは腕を組んで。

「怠惰」

ミッターマイヤーはニヤニヤしながら。

「色情魔」

 

「ミッターマイヤー!最後のだけやけに刺さるぞ!」

 

衛兵が一瞬動きを止めた。

「……本当に准将本人ですか?」

「そうだ!俺だ!ほら、この顔をよく見ろ!」

「……本物だな。変な意味で威厳がある」

「変な意味って何だ!」

 

ようやく解放された俺は、乱れた制服を整え、ため息をついた。

まったく、俺がいない間に部下の信頼度がどん底だ。

誰のせいだ? うん、主に俺だな。

 

アナが冷静に書類を確認している。

「……確かに本物の印章ですね」

「だろう!」

「でも、どうやって入手されたんですか?」

「え? えーと……ちょっとした政治的手腕というやつだ!」

「具体的には?」

「具体的に言うと……書類整理を手伝ったとき、机の上に置いてあったから……」

「盗ったんですね」

「違う!拾ったんだ!」

「拾う場所が統帥本部長の机の上ってどういうことですか」

「正義感ゆえだ!」

「泥棒の間違いです」

「やかましい!」

 

ロイエンタールが書類を受け取り、署名欄をじっと見つめた。

「閣下、これ……署名がシュタインホフではなくシュトルムホフになってますが」

「えっ!?どれどれ!?」

確かにホが多い。

「ちょっとした筆記ミスだろう!」

「筆記ミスで別人になるのが帝国の怖いところだな」

「やかましいわ!」

 

ミッターマイヤーが机を叩いて笑っている。

「いやぁ、久しぶりに来たと思ったら、開幕からネタを提供してくれるとは!さすが閣下!」

「貴様ら、俺をコメディ枠にするな!」

 

その時、ロイエンタールが悪魔のように冷静な声で言った。

「そういえば閣下、一週間前に帝都の高級娼館から、同時に五人の女性を呼び寄せて内密の遊戯会を開催された件について、ホーテン閣下への報告はまだでしたね?」

「おいぃぃぃ!!バラすなあああ!!」

 

アナの目が一瞬で氷点下に変わった。

「……アル様」

その一言に、背筋が凍る。

 

 

「そ、それは違うんだアナ!いや、正確には違わないんだが!でも事情があるんだ!」

「事情?」

「うん、その……ほら、士気高揚だ!」

「……どこの士気です?」

「えーと……女性陣の?」

「死刑です」

「即答かよ!」

 

ロイエンタールとミッターマイヤーは、もう笑いをこらえる気ゼロ。

ミッターマイヤーが拍手して言う。

「さすが閣下、イゼルローン一番の爆弾発言ですな!」

「貴様まで!」

「でも安心してください、閣下」

「なんだ!」

「次にホーテン閣下が来られた時、我々が代わりに詳しく説明しておきます」

「余計なお世話だ!!」

 

アナは立ち上がり、無表情で告げた。

「アル様、執務室の裏に懲罰用個室があるのをご存知ですか?」

「知らないけど聞きたくもない!」

「これを機に、ぜひ体験していただきましょう」

「いやだ!俺は反省してる!もうしない!」

「反省という言葉が似合わない方ですね」

「やめろアナ!暴力は全てを解決しない!」

「……理性は暴力に勝てません」

「怖いこと言うなぁぁ!!」

 

 

その日の司令部に、俺の悲鳴が木霊した。

壁の向こうでロイエンタールは冷静に報告書を書き、ミッターマイヤーは笑いながらコーヒーを淹れ、アナは微笑を絶やさずに拷問を続けていた。

 

こうして、俺のイゼルローン凱旋初日は幕を閉じた。

結論。

俺がいない間に、部下たちは立派に成長していた。

俺の立場は地に落ちた。

 

だが、いいか?

俺は負けていない。

まだ独立作戦権がある!(たぶん)

 

 

 

 

 

 

 

 

俺たちグレイマン艦隊は、ついに「独立作戦権」を手に入れた。

……いや、正確には「偶然拾った書類を元帥がうっかり認めちゃった」結果なんだが、細かいことはいい。

大事なのは、結果だ。

 

そして俺たちは、イゼルローン回廊で「ファイアーマン艦隊」と呼ばれるようになった。

戦火が上がれば即座に出動、火種を潰して帰ってくる。

燃え上がる戦線を一撃で鎮火させる俺たちの迅速な対応に、敵も味方も震え上がった。

……まあ、最近は俺たちが来ると敵が「ヤバい、あのバカが来た!」って勝手に撤退するから、実際ほとんど戦ってないんだが。

 

おかげでこっちは楽ちんだ。

艦隊が近づくだけで戦闘が終わる。

まさに歩く休戦条約。俺、存在が外交カード。

 

ただ、問題はある。

アナが立てた「哨戒任務ローテーション制」だ。

艦隊の分艦隊ごとに、交代で哨戒に出す方式。

表向きは合理的。だが実態は——ただの残業輪番制である。

 

その日も、俺は司令室のソファにだらけきっていた。

足を机に乗せ、冷たい紅茶を飲みながら天井を眺める。

「ふう……平和って素晴らしいな」

ロイエンタールがため息をつく。

「平和ではなく、敵が呆れているだけです」

ミッターマイヤーが笑った。

「でも結果的に被害ゼロですし、いいじゃないですか。閣下のカリスマの賜物ですよ」

「だろう?お前はわかってるなミッターマイヤー」

「カリスマ(※悪評)ですけどね」

「うるさい!」

 

そんな穏やかな日常の中、アナが端末を手にやってきた。

「アル様、ご報告がございます」

「また面倒な話か?」

「哨戒任務中の駆逐艦《ハーメルンⅡ》に、新たな士官が配属されたそうです」

「ふーん。誰だ?」

 

アナが淡々と告げる。

「ラインハルト・フォン・ミューゼル中尉と、ジークフリート・キルヒアイス少尉です」

 

……沈黙。

俺は口の中の紅茶を盛大に吹いた。

 

「げほっ、げほっ!……あの金髪七光りか!?また俺の目の前に現れやがったのか!」

ロイエンタールが静かに呟く。

「世間は狭いですね」

「狭いにもほどがある!」

アナがくすっと笑った。

「初陣の功績で昇進したそうですよ」

「なにぃ!?あの年で中尉!?ふざけんな!完全にコネ昇進じゃないか!」

「アル様も初陣で二階級特進なさいましたが」

「俺のは実力だ!」

「実力(※偶然の大爆発)」

「注釈をつけるな!」

 

ミッターマイヤーが笑いをこらえきれず、肩を震わせる。

「でも閣下、彼、すごいらしいですよ。敵基地を壊滅させたとか」

「そんなの誇張に決まってる!プロパガンダだ!」

「閣下も昔、同じような記事を書かれてましたよね?」

「……まあな」

「あれ、実際は?」

「俺が寝てる間にロイエンタールがやってた」

「それを堂々と自慢してたんですか」

「上官ってのは成果を誇示する生き物なんだよ!」

「最低の言い訳です」

「うるさい!」

 

アナが冷静に言った。

「でもアル様、ミューゼル中尉の配属先は、哨戒艦《ハーメルンⅡ》です。もし何かあれば、支援に向かわねばなりません」

「え、俺が!?」

「独立作戦権をお持ちですから」

「いやそれ拾った紙切れだぞ!?冗談で出しただけで本当に許可されたのが奇跡なのに!」

「奇跡を起こした男らしく、責任を果たしてください」

「アナ、それ嫌味入ってるよな?」

「事実です」

「事実ならセーフみたいな言い方やめろ!」

 

ミッターマイヤーが楽しそうに言う。

「でも閣下、今のうちにラインハルト中尉と仲良くしておけば、将来有利かもしれませんよ?」

「いらん!俺は媚びない!忖度人事断固反対!」

ロイエンタールが眼鏡を押さえながら冷静に言う。

「……帝国で一番忖度の恩恵を受けてるのは、あなたでは?」

「違う!俺のは期待値だ!」

「期待してるの、たぶん閣下本人だけです」

「やかましい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

着任の挨拶は普通、艦長までで終わる。

だが俺は考えた。

あの金髪七光りに、ちょっとした帝国式おもてなしをしてやろうじゃないかと。

 

グレイマン閣下に提案したとき、最初は渋い顔をされた。

「くだらん」って言葉が喉まで出かかってるのが見えたが、俺が「ラインハルト・フォン・ミューゼルを驚かせるチャンスです」と言った瞬間、閣下の顔がキラッと光った。

この人、意外とノリがいい。いや、悪ノリが好きというべきか。

 

翌日、我々は哨戒艦《ハーメルンⅡ》に向かっていた。

目的は公式な点検――という建前のサプライズだ。

閣下はノリノリで制服を着込み、階級章を少佐にすり替えて変装完了。

「ふふ、こういうのは久しぶりだな」

とご満悦である。

横でアナが眉をひそめていた。

「……まるで学園祭です」

「いいじゃないか、たまには」

「アル様が言うと不安になります」

「おい!」

 

俺たちは艦内の廊下に潜んでいた。

照明の明滅、金属音の響き、そして……ターゲット接近の足音。

 

ラインハルトとキルヒアイスが並んで歩いてくる。

相変わらず金と赤のツートンカラー。

戦場で映えすぎて狙撃されるタイプだ。

 

ラインハルトがぼそっと言った。

「ここの艦長は、ことなかれ主義の凡庸な貴族だと聞く。つまらん任務になりそうだ」

……言ったな。完全にフラグ立ったな。

 

廊下の角を曲がった瞬間、待っていたのは「偽装グレイマン少佐」。

堂々と腕を組み、低い声で言い放った。

「ほう?今、私のことを悪く言わなかったかね、新任の諸君?」

 

ラインハルト、見事なまでの石化。

キルヒアイス、目をまんまるにして固まる。

「か、艦長……!い、いえ、滅相もございません!」

 

俺は壁の向こうで腹を抱えた。

「ぷぷぷ!面白い!面白いぞ!」

アナが冷ややかに言う。

「アル様、声が漏れてます」

「え、マジで!?あっ」

 

ラインハルトの眉がピクリと動いた。

一瞬で察したな。くそ、気づかれたか!?

と思った次の瞬間——

 

「サプラーイズ!」

 

俺とミッターマイヤー、ロイエンタール、そしてアナまで揃って飛び出した。

グレイマン閣下も変装を解き、ドヤ顔で帽子を取る。

 

「よう、金髪の孺子!また会ったな!」

「はっはっは!驚いたかね、ミューゼル中尉!たまには、こういうのも良かろう!」

 

ラインハルト、放心。

キルヒアイス、爆笑。

 

「はっはっは!ラインハルト、見事に引っかかりましたな!」

「キルヒアイス!笑いすぎだ!」

「失礼しました、でも本当に顔が……はっはっは!」

 

笑いながら思った。

こいつ、こんなに笑うタイプだったか?

初対面のときは堅物の副官っぽかったのに。

やっぱり金髪のやつの隣にいると、ボケ側に引っ張られるのか。

 

グレイマン閣下はすっかり上機嫌で、艦長室の机に腰を掛けた。

「いやぁ、若いのを驚かすのは実に楽しいな!」

「閣下、軍人の威厳が崩壊してます」

「うるさいファルケンハイン。お前のせいで我々はこうして楽しくなっているのだ」

「え、俺のせい!?」

「責任は取れ。笑顔で」

「どうやって!?」

 

アナが小声でつぶやいた。

「……本当に学園祭」

ロイエンタールがぼそっと付け足す。

「文化祭実行委員・ファルケンハイン准将」

「やめろ!響きが地味すぎる!」

 

一方そのころ、ラインハルトは完全に自我を取り戻せずにいた。

「な、なぜ……こんな……下品な悪ふざけを……!」

「下品!? これは上品なユーモアだ!」

「どこがですか!」

「皇帝陛下もきっとお喜びになる!」

「やめてください!陛下を巻き込むのはやめて!」

 

ミッターマイヤーが苦笑しながら耳打ちした。

「閣下、そろそろやめませんか?彼、もう泣きそうですよ」

「うむ、そろそろ頃合いか」

「頃合いの使い方間違ってる!」

 

グレイマン閣下が立ち上がり、ラインハルトの肩を叩いた。

「若者よ、冗談の通じる軍人になれ」

「……は、はあ」

「あと、少佐を凡庸などと言うな。凡庸には凡庸の誇りがある」

「い、いえ、その……申し訳ありません」

「よろしい。では紅茶でも飲め」

「……はい」

 

完全にペースを握られてる。

金髪のプライドが粉々になってる。

俺の中で拍手喝采が鳴った。

 

……と思ったら、閣下がさらに爆弾を投下した。

「ところで、ファルケンハイン。せっかくだ、彼らの歓迎会を開こう」

「え?ここで?」

「そうだ。今すぐ」

「え、今!?」

「今だ」

 

閣下の命令は絶対だ。

顔を引きつらせながら、アナに目配せした。

「……例のアレを」

「例のアレとは?」

「非常食庫のカップ麺だ!」

「最悪の選択ですね」

 

五分後。

艦長室の机の上に、インスタント麺と粉ジュースと乾パンが並んだ。

アナが棒読みで言う。

「ようこそ、ハーメルンⅡへ」

ミッターマイヤーがフォローする。

「いやぁ、これぞ戦場の味だな!」

ロイエンタールが無表情で毒を吐く。

「歓迎というより罰ゲームですね」

 

ラインハルトが小さく呟いた。

「……帝国軍の現実を見た気がする」

キルヒアイスが笑いながらカップを掲げた。

「でも、これはこれで悪くないですよ!」

「お前は本当に前向きだな」

 

グレイマン閣下が嬉しそうに頷く。

「そうそう、軍人たるもの、楽しむ心を忘れてはいかん!」

「閣下、それを毎回現場で言うのやめてください。部下が混乱します」

「それも訓練の一環だ」

「違うと思う!」

 

 

こうしてサプライズ歓迎会は無事終了した。

ラインハルトの顔は引きつりっぱなし、キルヒアイスは腹を抱えて笑いっぱなし。

グレイマン閣下は上機嫌、アナは絶望、ロイエンタールは呆れ、ミッターマイヤーは片付け担当。

俺?

俺はただ一言こう思った。

 

……また面倒なやつらが増えたな。




お読みいただき、ありがとうございます。

ファルケンハイン艦隊は帰ってきました。
だが、それは戦場への帰還ではなく、地獄への帰還です。

彼が拾った一枚の書類から始まる新たな混乱。
それでも部下たちは動き、艦は進み、アナは笑い、そして世界は少しだけ明るくなる。
笑いとは、人類最大の防御シールド。
この艦隊は、それを信じて前進する芸術的災害です。

そして最後に、彼はまた出会ってしまう。
あの金髪の少年と、赤髪の青年に。
──歴史を動かす運命と、何も考えてない怠け者が再び交わる瞬間。

今小分けにしている章を

  • 週1で一気に読みたい(3万字くらい)
  • 毎日小分けでいい(4千字くらい)
  • 毎日なら文字数気にしない
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