銀河英雄伝説 〜無能なる俗物が勘違いで英雄に祭り上げられ、気づけば貴族連合盟主としてラインハルトと雌雄を決する件について〜   作:斉宮 柴野

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皆さま、ようこそ。
今回の舞台は、銀河の片隅《ハーメルンⅡ》。
ここで、また一人の男が帝国史をねじ曲げます。

潜入、変装、悪ノリ、そしてうっかり革命。
彼の名は――ファルケンハイン准将。
帝国最大の怠け者にして、歴史最大の誤解製造機。

これは、若きラインハルトと再会した地獄の潜入劇。
教育目的(※本人談)、実態は完全なる趣味。
だが、ほんの「65点の努力」が帝国を揺るがせることになる。

笑ってください。
その笑いの裏で、銀河は確実に変わっていきます。


外伝「叛乱者」編
伏龍、潜入す ―ハーメルンⅡの奇跡―


フッフッフ!ラインハルトのやつめ、先日の歓迎会で油断してるに違いない。

まさか、俺が第二弾を用意しているとは思うまい。

そう、奴の驚愕する顔をもう一度この目で拝むのだ!

……うん、完全に趣味だが気にするな。

 

その夜、俺は作戦室に仲間を集めた。

アナスタシア、ロイエンタール、ミッターマイヤー。

真面目に仕事してた三人を呼び出して、唐突に宣言する。

 

「よいか諸君!明日、ケンプ艦隊が哨戒任務に出る!

そこに随行する《ハーメルンⅡ》へ、我々が潜入する!」

 

アナが目を輝かせた。

「まあ!再び潜入ですか、アル様!」

ロイエンタールが深々とため息をつき、手を額に当てた。

「またですか。閣下の潜入という言葉には、もはや不穏な響きしかありませんが」

「失敬な。今回は品行方正だ。任務の邪魔をしない。ただ観察するだけだ」

「つまりまた悪戯ですね」

「ぐっ……否定はしない!」

 

ミッターマイヤーが立ち上がって叫んだ。

「閣下!我々は軍人です!そんなふざけた計画に参加できません!」

「ふざけてない!真面目な教育的潜入だ!」

「教育的?」

「そうだ!若い士官がどう働いているか直接見るという、極めて建設的な調査!」

「……調査の名を借りた娯楽では?」

「お前は本当に真面目だな!だから髪が薄くなるんだ!」

「まだ薄くなってません!!」

 

アナが机を叩いて立ち上がる。

「アル様、変装は私にお任せください!映画顔負けのメイクを施します!」

「よし、頼んだ!」

ロイエンタールが横目で呟く。

「……また悪乗りする気満々だな」

「乗るなら本気で乗れ。半端な悪戯は芸術にならん」

「悪戯に芸術性を求めるな」

 

こうして決まった。

俺は新任の通信士官、ロイエンタールは砲術長、ミッターマイヤーは水雷長、アナは看護師。

誰がどう見ても怪しい布陣だが、アナの腕は確かだ。

変装に関しても天才だ。

いや、天才というより執念深い。

 

アナのメイクルームで、俺たちは次々と別人に作り変えられていった。

 

「はい、アル様、こちらのカツラをどうぞ」

「え、これ?ピンクじゃないか!?」

「印象を変えることが目的ですから」

「いや変わりすぎるだろ!誰も信じてくれん!」

「では青にします?」

「さらに怪しい!」

 

ロイエンタールは無言で鏡を見つめていた。

「……閣下、私はなぜ口ひげをつけられているんです?」

「砲術長と言えばヒゲだろ」

「先入観の塊だな」

「見た目が9割だ。戦場も人間関係も同じだ!」

「あなたの場合、9割がハッタリですが」

「うるさい!」

 

ミッターマイヤーは抵抗していたが、最終的に金髪のもじゃもじゃパーマを被せられた。

「俺は誰なんですか!?」

「自由人だ」

「意味が分かりません!」

「いいから動くな!そのまま笑え!」

「笑えるかぁ!!」

 

アナは看護師用の白衣を身にまとい、満面の笑みでポーズを取った。

「どうです、アル様?」

「完璧だ!……だが、スカート短すぎないか?」

「行動の妨げにならない設計です」

「視線の妨げにはなりそうだ」

「減点です」

「うぐっ」

 

こうして完成した俺たちのチーム。

鏡の前に並んだ瞬間、全員が同じことを思った。

これ、どう見ても怪しい。

 

 

だが、もはや引き返せない。

一度走り出した馬鹿計画は止まらない。それが俺の人生哲学だ。

 

翌朝、俺たちは堂々と《ハーメルンⅡ》に乗り込んだ。

目的は「新任補充要員の視察」という建前。

アデナウアー艦長にもベルトラム副長にも知らせていない。

完全極秘、俺たちだけの潜入作戦。

 

 

 

 

 

 

 

ラインハルトたちが乗り込んでくる二週間前から、俺たちは《ハーメルンⅡ》に潜り込み、すっかり艦の一部と化していた。

通信主任フレーベル少尉(俺)、砲術長シャミッソー中尉(ロイエンタール)、水雷長デューリング中尉(ミッターマイヤー)、そして看護師リリア(アナ)

今では誰も俺たちが偽物だとは思っていない。

……まあ、時々アナが医務室で注射を打ちながら「アル様のこと考えてました♡」とか言って患者を震え上がらせてる以外は、だが。

 

さて、その日。

俺は通信席で鼻歌まじりに仕事していた。

いや、仕事をしてるフリしていた。

俺の本職は潜入調査官(自称)だからな。

そんな俺の耳に、艦内放送が流れた。

 

《新任士官の着任に伴い、全乗員はブリッジに集合せよ》

 

キタキタキタァァァァァ!!

ついに主役登場だ!

この二週間、俺がどれだけこの瞬間を待ちわびたと思っている!?

 

 

ついに、金髪の若造がこの艦に舞い降りる。

しかも航海長として。

ブリッジで俺と対面することになるわけだ。

完璧な変装で、俺を見破れるかな?

フッフッフ、見破れまい。

俺の変装を見破れるのは、アナのセクハラレーダーぐらいのもんだ。

 

……いや、あれはむしろ透視レベルだな。

 

――その頃、艦長室では。

 

アデナウアー艦長が、いつも通りのんびりした口調で新任者を迎えていた。

「ラインハルト・フォン・ミューゼル中尉と、ジークフリート・キルヒアイス少尉か。ほう、ミューゼル中尉は幼年学校を首席で卒業し、カプチェランカでも随分と活躍したそうだな。大したものだ」

「恐縮です。」

 

アデナウアーはにこやかに頷いた。

「ふむ。君たちのような若者が来てくれるのは嬉しい。

だがな、地上戦と艦隊勤務はまるで違う。

卿にはいきなり航海長を務めてもらうが、まずはこのベルトラム大尉の指示に従うように」

 

「承知しました」

「よろしい。……ところで」

 

ラインハルトが少し身を乗り出す。

「つかぬことをお伺いしますが、艦長。今現在はご本人様で間違いないでしょうか?」

アデナウアーが盛大に吹き出した。

「はっはっは!その質問は初めてだな!」

「えっ?」

「グレイマン閣下の悪戯好きも困ったものだが、安心しろ、私は本物だ」

 

 

はっはっは、さすがに覚えてやがったか!

先日のサプライズ歓迎会で、艦長を勝手に偽装したのを根に持ってるな。

……いや、根に持つな。

 

ベルトラム副長が渋い顔で言った。

「中尉、無礼のないように頼む。艦長は繊細なお方だ」

「はい、副長」

 

 男爵の家柄でこの歳まで少佐か。出世が遅い。無能な貴族だな。扱いやすそうだ

 

……あーあ、もう目に見える地雷原に突っ込んでるな、金髪。

 

艦長の笑顔の裏の「覚えてろよ」って空気、感じ取れてないのか?

 

そしてブリッジ。

 

ベルトラムが乗員たちに呼びかける。

「全員、その場で聞くように。新任の航海長と警備主任だ」

ラインハルトとキルヒアイスが前に出る。

俺は背筋を伸ばし、完璧な演技で敬礼した。

「通信主任、フレーベル少尉であります!」

ロイエンタール改めシャミッソー中尉も渋い顔で敬礼。

「砲術長、シャミッソー中尉です」

ミッターマイヤーことデューリング中尉が、ぎこちなく笑っている。

「水雷長、デューリング中尉です!よろしくお願いします!」

……笑顔が固いぞ、モジャ。

 

ベルトラムが続ける。

「ラインハルト・フォン・ミューゼル中尉とジークフリート・キルヒアイス少尉、若いが実戦で武勲も立てている俊英だ。引き立ててやってくれ」

 

 

ほう、俊英だと?

俊英が俺の目の前で赤っ恥をかく、その瞬間がもうすぐ来るかと思うと、胸が熱い。

いや、別の意味で熱くなってきた。

アナが医務室での待機姿を思い出すと、色々な意味で危険だ。

 

さて、医務室。

 

ラインハルトとキルヒアイスは、最後に軍医ヨーンゾン先生への挨拶に向かった。

この先生、やたら優しい口調の小児科医だ。

「ようこそ《ハーメルンⅡ》へ。私はヨーンゾン。お二人とも健康には自信がおありだろうが、何かあれば遠慮なく来たまえ」

「ありがとうございます」

 

そして横に立つアナ――いや、看護師リリア。

真っ白なナース服、控えめな笑み、目元のアイラインは完璧。

だが口を開いた瞬間、全てがぶっ壊れた。

「アル様……じゃなかった、閣下……じゃなくて……先生、注射器どこですか?」

「そこだ、リリア君。……今、何かおかしな単語が混ざっていなかったかね?」

「気のせいです♡」

「う、うむ……気のせいか……」

 

 

気のせいじゃないよ。

今、確実にアル様って言ったよ。

ラインハルトの眉がピクリと動いたのを、俺は見逃さなかった。

 

「看護師さん、どこかでお会いしたことがありますか?」

「まあ、素敵! 初対面で“お会いしたことありますか”なんて、私にナンパする人、初めてです♡」

「……してません」

「恥ずかしがり屋さんなのですね♡」

「違います」

「お似合いですよ、お二人♡」と、ヨーンゾン軍医が無邪気に微笑んだ。

……地獄絵図である。

 

ブリッジに戻ったあと、ラインハルトがキルヒアイスに小声で言っていた。

「なあ、キルヒアイス。あの看護師……妙に見覚えがある気がする」

「そうですか?どちらかといえば、砲術長のほうがロイエンタール大尉に似ていませんでした?」

「……確かに。だが、まさかそんなはずはない」

「そうですよね」

 

 

そうですよね。まさかそんなはずはない。

今、あなたの目の前で笑ってるこの通信士が、あなたの天敵ファルケンハイン准将であるなんて、誰が思うか。

この完璧な変装を破るには、IQ三百でも足りん。

そう、俺は今、無敵。

しかも合法的にラインハルトをからかえる立場にある。

 

……この優越感、たまらんな。

 

そのとき、アデナウアー艦長がブリッジに入ってきた。

俺をちらりと見て、一瞬目を細めた。

「ん……どこかで会ったような気がするな」

「気のせいです、艦長」

「そうか。いや、何となく既視感がな」

「おそらく、前世の縁です」

「ほう、そうかもしれん。私は霊感が強くてな」

「……はい(こじらせ貴族め)」

 

 

こうして金髪コンビの新任着任は無事(?)終了した。

艦内はどこも平和……だった。

少なくとも、今のところは。

 

なぜなら、この数時間後、俺の潜入計画が想定外の方向に転がり始めるからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

潜入生活は、順調……のはずだった。

最初の数日はな。

だが、なぜか最近、俺だけ怒られている。

艦長にも、副長にも、やたらと怒られている。

ロイエンタールとミッターマイヤーは絶賛されているというのに、だ。

 

ベルトラム副長が怒鳴った。

「フレーベル少尉!報告書の書式が違うと何度言ったらわかるんだ!」

「す、すみません!」

「貴様、昨日も同じことを!」

「努力はしてるんです!」

「努力してるようには見えん!」

「うぅ……」

 

 

……くそ、なんで俺ばっかり。

いや、待てよ?

もしかして、ロイエンタールとミッターマイヤーが有能すぎるせいで、

俺の普通が無能に見えてるだけじゃないのか?

 

そうだ、きっとそうだ。

あいつらの基準が狂ってるんだ。

ロイエンタールなんて、報告書を詩のように仕上げてるんだぞ。

ベルトラムに「これは報告書ではなく芸術だ」と言われてた。

芸術に勝てるか、俺が!

 

ミッターマイヤーも、やたらと仕事が速い。

「水雷システムの調整、すでに完了しました!」

「おお、さすがデューリング中尉!」

……速すぎる。

あいつ、寝てないんじゃないのか。

俺は寝る。絶対に寝る。

睡眠こそ帝国軍人の義務だ。

 

 

つまり、こういうことだ。

ロイエンタールとミッターマイヤーが100点の仕事をしている。

俺が65点の仕事をしても、相対的にマイナス20点に見える。

これだ!

俺の65点理論が破壊されているのだ!

 

仕方ない。

ほんの少しだけ本気を出すか。

ほんの、少しだけな。

 

通信記録の整理を始めた。

これまでまあ読めりゃいいだろだった手書きメモを、完璧なフォーマットに直す。

時刻、通信内容、返信記録、伝達経路。

すべて正確。

略号も公式規定通り。

ついでに報告書も清書。

「本文:三行で簡潔、補足:必要十分、署名:美字」

うむ、我ながら完璧だ。

65点の中では最高点だ。

 

だが、俺は知らなかった。

その65点が、一般的な駆逐艦クルーからすれば神の領域だったことを。

 

副長ベルトラムがその報告書を手に取り、目を細めた。

「……フレーベル少尉」

「は、はい!」

「お前……どうした? この報告書、完璧だぞ」

「え、あ、いえ……気まぐれです」

「気まぐれでこれか!? 昨日までの貴様はどこへ行った!」

「昨日の俺はもういません!」

「……成長したな……」

副長が目頭を押さえた。

なぜ泣く。

 

 

いやいや、ちょっと頑張っただけだって。

本気出してないぞ、俺。

 

次の日。

俺は通信処理でも65点を目指した。

受信した暗号通信を、手際よく解析し、最短ルートで転送。

ついでに確認報告も自動返信設定で完了。

なんだこれ、楽勝だ。

俺、天才か?

 

するとブリッジがざわついた。

 

「通信主任、どうやってあの暗号をあんなに早く?」

「いや、普通にマニュアル通りに……」

「マニュアル通り!? そんなやつ初めて見たぞ!」

「おいおい、フレーベル少尉すげぇな!」

「俺、あの人の下で働けるなんて誇りだわ……」

 

おい待て、やめろ。

そんな称賛いらん。

俺は65点でいいんだ!

 

 

気づけば艦内で俺の評判が爆上がりしていた。

「フレーベル少尉が書いた通信報告書は芸術品だ」

「ベルトラム副長も感動してたらしいぞ」

「艦長も『今後の標準フォーマットにしよう』って言ってた」

「やめろー!」

 

そんな中、ロイエンタールがブリッジの隅で腕を組みながら呟いた。

「……修正してきたな。やはり、この伏龍は、ただ伏しているだけではない。

その気になれば、これほどの精密な報告を仕上げるとは……」

 

ロイエンタール!違う!

俺はその気になったわけじゃない!

ちょっとやっただけなんだ!

 

一方そのころ、ラインハルトは通信記録を眺めて、真剣な顔をしていた。

 

 

 信じられん……。帝国軍の末端駆逐艦で、これほど正確な通信処理が行われているとは……!この帝国は、まだ底知れぬ力を秘めている。この若き通信士のような人材が、下に埋もれているのかもしれない。ならば、俺はそれを掘り起こし、新しい時代を築く!

 

 

いや待て、なんでお前が悟ってんだ!?

俺のちょっと頑張ったで政治思想が揺らぐな!

 

その日の夕方、ブリッジで艦長が言った。

「フレーベル少尉、君の働きぶりは素晴らしい。

ケンプ中将に推薦文を書いておいたぞ」

「やめてください!!!」

「遠慮するな!」

「遠慮してます!!」

 

 

こうして俺のちょっと頑張ったが、艦全体を狂わせ始めた。

副長は俺に尊敬の眼差しを向け、

艦長は俺を次期副長候補とか言い出し、

ラインハルトは「帝国再興の希望」とか勝手に感動している。

 

ロイエンタールとミッターマイヤーはそれを横目で見てニヤニヤしていた。

「閣下、出世なさいましたね」

「次は参謀長ですか?」

「黙れ! 俺はただの65点マンだ!!」

アナが医務室から顔を出した。

「アル様、皆さんが次期艦長って噂してますよ♡」

「やめろぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

こうして俺の65点革命は、誰も望まぬ伝説を生んでしまった。

俺がただ真面目にやっただけで、帝国の士気が上がり、若き金髪が野望を膨らませる。

誰が得をしているのか、全くわからん。

 

――頼む。

次の作戦では、誰か俺の平均点を守ってくれ。

俺はただ、怒られずに昼寝したいだけなんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラインハルトとキルヒアイスが乗艦して三週間。

俺たち潜入チームの正体は、いまだバレていない。

……まあ、バレたところで「またか」と言われる気もするが。

 

あいつら二人は、順調に艦に馴染んでいた。

いや、馴染みすぎて怖い。

ザイデル伍長たち下士官と船外活動中に賭けをして勝ち、もう完全にヒーロー扱い。

「貴族も平民も同じ人間だ」とか言って、艦内人気トップだ。

しかも酒の誘いを断る理由が「未成年だから」

お前な、戦場で命張ってるのに、未成年を盾にするなよ。

かわいいにも程がある。

 

 

一方の俺は、最近艦内で頼れる通信主任として信仰されている。

いや、信仰しなくていい。

普通に扱ってくれ。

艦長が朝会で「フレーベル少尉を見習え」と言い出した時は、本気で辞表を出そうかと思った。

俺は65点で生きていきたいんだ!

 

……そんな矢先。

 

突然、アラートが鳴った。

「敵襲! 同盟軍です! 待ち伏せです!」

 

 

はい、きた。

俺、完全に呪われてる。

死神にGPSで追跡されてる。

多分、今も位置情報共有オンだ。

 

敵の砲火が艦を直撃。

轟音、振動、爆発。

ブリッジが地獄絵図になった。

 

「動力部に被弾! 出力40%まで低下!」

「艦首外板、損傷! 隔壁閉鎖!」

「艦長! 前方に敵影多数!」

 

その瞬間、ドーン!とすごい音がした。

アデナウアー艦長が吹っ飛んだ。

「ぐわっ!」

 

おい!

ドラマみたいな倒れ方すんなよ!

 

艦長は額から血を流しながら、苦しそうにラインハルトを見た。

「ミューゼル中尉……指揮を……頼む……」

「艦長!? 了解しました!」

 

 

うおおお!? おい、金髪坊やに艦の指揮を!?

正気か!?

よりにもよって一番トラブル起こしそうな奴に!?

 

ラインハルトはすぐ立ち上がった。

「取舵いっぱい! あの小惑星帯に身を隠す!」

ベルトラム副長が怒鳴る。

「馬鹿者! 敵の制宙権内に孤立する気か!」

 

 

おお!副長!

さすがだ!もっとやれ、もっと金髪を困らせろ!

 

ロイエンタールが俺の隣で小声で言った。

「閣下、副長の言う宙域……おそらく敵の伏兵がいますね」

「(内心)知ってる!最初からわかってた!もちろん俺は最初からラインハルト派だ!この副長こそが真の危険因子だ!」

 

そして案の定。

副長が指示した進路に僚艦が突っ込み、あっという間に蜂の巣。

通信が飛んできた。

《こちらレーベンⅡ! 応答を――ぎゃああああ!!》

……はい、消えた。

 

 

知ってた。

俺、最初からわかってた(2回目)。

むしろベルトラムの顔見た瞬間に「こいつやらかすな」って感じてた。

勘だけは異常に当たるんだよ、俺。

 

だが、ここからが最悪の展開だった。

 

ラインハルトが指揮を取って敵をかわしながら小惑星帯に逃げ込んだまでは良かった。

しかし、副長が突然叫んだ。

「艦長の命令もなく勝手に艦を動かすとは何事だ! 反乱罪で拘束する!」

 

「はああああ!?」

ラインハルトがキレる前に、俺がキレた。

「お前バカか!? 艦長死にかけてんだぞ!?」

もちろん、口には出せない。

俺の立場は今ただの通信士だからな。

出した瞬間にただの遺体になる。

 

副長は号令をかけた。

「ミューゼル中尉を拘束しろ!」

武装兵が動いた。

 

 

いや、マジかよ。

この展開、完全に知ってるぞ。

ここからだ。

この金髪が伝説を作る流れだ。

つまり――俺たちが巻き込まれる流れでもある!

 

ハーメルンⅡは孤立。

通信妨害も強く、増援は呼べない。

エンジンは故障中。

副長は発狂気味。

艦長は気絶中。

ラインハルトは拘禁中。

つまり――指揮官不在。

 

つまり、地獄。

 

ロイエンタールが静かに言った。

「閣下。おそらく、このままでは艦は持ちません」

「知ってる!」

「どうします?」

「とりあえず小惑星の陰に隠れる!」

「それ、金髪中尉の作戦と同じですね」

「ぐぬぬ……」

 

ミッターマイヤーが焦った声で言う。

「閣下!このままでは燃料が尽きます!」

「うるさい!今は命が尽きそうなんだ!」

「そういう意味じゃありません!」

 

 

いや、ほんとにピンチだ。

この状況、誰が見ても詰んでる。

もし俺がアナの膝の上で昼寝してたら、きっと今ごろ夢の中で幸せだった。

現実が辛すぎる。

 

俺は通信端末を叩きながら言った。

「ロイエンタール、ミッターマイヤー、頼まれごとがある」

「なんです?」

「ちょっと、拘禁室の見張りをどうにかしてくれ」

「脱出支援ですか?」

「違う!ただの様子見だ!完全に様子見だ!責任は全部お前らだ!」

「閣下、それ命令ですか?」

「命令だ!今のお前ら、俺より階級上だろ!?なら上官命令だ!」

「矛盾してませんか?」

「理屈で生きるな!勢いで動け!!」

 

ああ、アナ……

今こそお前の適度に無茶で正気の範囲内なバカ力が欲しい……。

医務室に避難してるって聞いたけど、絶対何か企んでる。

頼む、俺が死ぬ前に出てきてくれ。

 

敵の影はまだ遠くにある。

だが、確実に近づいてきている。

この艦の動力は不安定で、姿勢制御もままならない。

次の一撃を食らえば、ハーメルンⅡは終わる。

 

そのとき――

通信モニターにノイズ混じりの声が入った。

《こちら――ミューゼル――聞こえるか!――》

 

ラインハルトだ!

 

「金髪!? どこから通信してんだ!?」

《拘禁室だ! ベルトラムが何か企んでいる!》

「おい、冷静に話せ! お前が企んでるようにしか聞こえん!」

《黙れフレーベル!……いや、貴様、どこかで――》

「気のせいだ!!」

 

 

やべえ。

このままじゃ正体バレる。

ていうか、そもそもこの艦が沈む。

どうする、俺!?

 

……まあ、なんとかなるか。




お読みいただき、ありがとうございました。

本作では、「努力の65点が世界を変える」という逆説を描きました。
ファルケンハインにとって、完璧とは退屈の象徴。
彼の魅力は、怠惰の中に潜む人間臭さ。
だから彼が少しだけ頑張ると、世界の方が勝手に大騒ぎを始める。

彼は英雄ではない。
だが、凡人の努力が誤解されて奇跡を生むその象徴です。
そして、ラインハルトがその誤解から学びを得る──
つまり、銀河帝国の未来は、彼の気まぐれから始まったのです

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