銀河英雄伝説 〜無能なる俗物が勘違いで英雄に祭り上げられ、気づけば貴族連合盟主としてラインハルトと雌雄を決する件について〜   作:斉宮 柴野

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この会談は、平和のために行われた。

少なくとも、表向きは。


会談という名の戦場

【イゼルローン回廊・帝国側出口 旗艦《クリームヒルト》ドック】

 

普段であれば、主の華美な嗜好を反映したこの旗艦の空気は、優雅さを漂わせている。だが今日の《クリームヒルト》は、艦橋から応接区画に至るまで、目に見えぬ重圧に押し潰されそうになっていた。

 

将兵たちの胃の腑を冷たく締め付けているのは、他でもない。「帝国宰相来艦」という事実である。

 

ただの宰相ではない。書類の山に埋もれて判を捺すだけの老人であれば、ここまで神経をすり減らす必要はない。自ら設計図を引き、前線の泥を啜り、敵の挑発文書を前にして音もなく静かなる怒りを燃やす男。アルブレヒト・フォン・ファルケンハイン。現場の将兵にとって、彼は権力者である以前に、その一挙手一投足が予測不能な劇薬であった。

 

そして今、その劇薬がタラップを降りてくる。

出迎えのために整列していた将兵たちは、降り立つ人影を網膜に捉え、瞬きを忘れた。

視神経が脳へ送る情報を、理性が必死に拒絶している。だが、二度、三度と見直しても、その骨格と鋭い眼光は間違いなく帝国のナンバーツーのそれであった。

 

「はあ……はあ……マジでキツかった……」

 

吐き出される荒い息。宰相府の瀟洒な執務室から現れたとは到底思えない。顔面は油泥に塗れ、着用しているツナギは酷使された工廠の熱と煤の匂いを強烈に放っている。

まるで巨大なエンジンブロックの奥底から、そのまま削り出されてきたかのようだった。

 

ミュラーは、生真面目な面差しのまま、呼吸すら止めていた。いや、止めざるを得なかった。帝国宰相に向かって「なぜそのような乞食まがいのなりをしているのか」と問うべきか否か。彼の常識的な脳髄がショートするのに、およそ三秒の時間を要した。

 

「閣下!お待ちしておりました!」

 

反射的に靴音を鳴らして完璧な敬礼を捧げた後、ミュラーはどうにか言葉を絞り出す。

 

「……しかし、なぜそのように疲弊しておいでで?それに、そのお姿は……」

 

アルブレヒトは無造作に腕で額を拭った。布地に染み込んだ機械油が肌に伸び、不敵な面構えをさらに異様なものへと歪める。

 

「道中、整備兵に混じってエンジンやら何やらの調整を直接やりながら来たからだ!最高速を維持するには俺の微調整が必要だったんだよ!」

 

大真面目な咆哮に、ミュラーの胸の奥で何かが静かに崩れ落ちた。

 

「……突然、宰相閣下に現場へ混じられた整備兵たちも、さぞかし生きた心地がしなかったでしょうね……」

 

「何を言う!」

 

「俺は《ロンゴミニアド》も《ブリュンヒルト》も基本設計してるんだぞ!俺より機関に詳しい奴は帝国にはおらん!むしろ現場はありがたく学ぶべきだ!」

 

「学ぶ前に、心臓の鼓動が止まるかと思いますが」

 

「心臓が止まる前に推進器が止まったらもっと悪い」

 

「そこは否定しません」

 

「だろう?」

 

眼前の男の論理は、技術的にも戦術的にも完全に破綻がない。

 

最高権力者が工具箱を奪い取り、配線や燃焼効率にまで口を出し始めたときの現場のパニックは想像に難くない。だが、その常軌を逸した介入の結果として、予定時刻を大幅に前倒しして到着している以上、軍人として反論の余地はなかった。

 

「……そういえば、そうでしたね」

 

ミュラーの肩が、疲労感とともにわずかに落ちる。

 

「閣下はエンジニアでした」

 

「でしたじゃない。でもある。だ」

 

「肩書ってのは増えることはあっても減らないんだよ。面倒なことにな」

 

「実に閣下らしいご見解です」

 

アルブレヒトが浴場へと向けて歩み去った後、ドックの重苦しい空気は奇妙な熱狂へと変質していた。

油の匂いが残る空間で、整備兵たちがざわめき始める。

 

「……宰相閣下って、ほんとうにレンチを投げて寄越すんだな」

 

「しかも回転方向まで口で言いながらな」

 

「『そこ締めすぎると軸が泣く!』って怒鳴られた」

 

「機械が泣くって何だ」

 

「知らん」

 

困惑と疲労の奥底から、理屈ではない高揚感が彼らの顔に浮かび上がっている。泥と油に塗れ、自分たちと共に限界の速度を絞り出した。その事実は、理路整然とした演説よりもはるかに強く、現場の魂に火を点けていた。

 

(これだから、あの人は厄介なのだ)

 

上に立つ者が現場を視察するだけなら、よくある茶番だ。だが、文字通り現場の血肉となって完璧な成果を叩き出す上官は、尊敬と恐怖、そして極限の疲労を同時に撒き散らす。「凄まじい」と平伏しつつ、「頼むからもう二度と来ないでくれ」と懇願したくなる。その強烈な矛盾こそが、アルブレヒト・フォン・ファルケンハインという男の真骨頂であった。

 

そこへ、足音も立てずに歩み寄る気配があった。マルガレータである。

 

完璧に計算された軍服の着こなし、乱れ一つない金髪。つい数日前まで子供のように駄々をこねていた少女とは、どう見ても別個体にしか見えなかった。

彼女は静かに、完璧な角度で一礼する。

 

「閣下。お待ちしておりました」

 

「マルガレータ。向こうの出方はどうだ?」

 

「できる限りのことはやりました」

 

「乙女の演技も含めて」

 

「上出来だ」

 

「……とりあえずシャワーを浴びて油を落としてから、あの年金泥棒との会談に臨む!」

 

「そのほうがよろしいかと」

 

ミュラーが間髪入れずに進言する。

 

「さすがにその格好で歴史的会談は……」

 

「分かってるよ!」

 

アルブレヒトは舌打ちを交える。

 

「俺だって一応は美観を気にする!」

 

「一応なんですね」

 

「宰相の品位は大事だろ」

 

「では最初から油まみれになるのをおやめください」

 

「それとこれとは別問題だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【旗艦《クリームヒルト》 特別応接室】

 

 

 

浴場で、帝国宰相の肉体から工業油が洗い流されている頃。

 

ヤン・ウェンリーは、特別応接室の豪奢なソファに深く身を沈めながら、訪れない会談相手をぼんやりと待っていた。

 

正確に言えば、相手が遅れているわけではない。むしろ、常識的な航行スケジュールを完全に無視した異常な早さで、彼らはこの宙域に到達している。それだけで、これから相対する男の異常性が皮膚を粟立たせていた。

 

帝国宰相アルブレヒト・フォン・ファルケンハイン。数多の噂を重ね合わせれば、「彼ならやりかねない」という妙な納得感がヤンの内で燻っている。

 

「やっぱり来るの、早すぎないか」

 

隣に座るトリューニヒトが、優雅な笑みを崩さずに応じる。

 

「必死なのでしょう。こちらも総統自ら出向いておりますし」

 

「総統という肩書で、他人事みたいなことを言いますね」

 

「実際、行くと決めたのは総統閣下です」

 

「そうだけどさ」

 

 

 

やがて、扉が静かに開かれた。

姿を現したのは、寸分の隙もなく軍服を着こなした帝国宰相だった。

洗練された身のこなし、清潔な金糸の刺繍。

 

ヤンは、わざと少しだけだらしない動作で敬礼してみせた。

 

「はじめまして……ですね。直接お会いするのは」

 

「ああ。だが、戦場では『第六次イゼルローン攻防戦』の後半戦……あの見事な撤退戦は、貴官の手腕ではないかと見ているのだが」

 

ヤンの胸の奥で、警戒の針がわずかに振れる。

 

「……そうですね。あの時は、一介の参謀だった私の策が採用されました」

 

「やはりか」

 

「あの時から嫌な予感がしていたよ。撤退戦が妙に綺麗すぎた。指揮官が優秀というより、誰か一人、頭の回るのが下にいるな、とな」

 

「褒められているのか、警戒されているのか微妙ですね」

 

「両方だ」

 

「改めて、初めましてだ。帝国宰相、アルブレヒト・フォン・ファルケンハインだ」

 

「自由惑星同盟総統、ヤン・ウェンリーです」

 

交わされる握手。

互いの掌から伝わる温度、骨格の硬さ、力の込め具合。そのすべてが、相手の精神の底をまさぐるための観測機器として機能している。

 

 

 

 

 

 

 

 

席につく。

ヤンの隣には、トリューニヒト。

アルブレヒトの隣には、マルガレータ。

 

構図だけを切り取れば、両国のトップが歩み寄る和平のテーブルだ。

だが、卓の下では、互いの動脈をいつ、どのように噛みちぎるか、そのタイミングだけを全員が冷徹に計り合っている。

 

「さて。俺が到着するまでの間、ずいぶんとウチのマルガレータに仕掛けていたそうで」

 

声帯の振動は穏やかだ。だが、紡がれる言葉には明確な毒が含まれている。

 

「……平和交渉に来たのか?それとも破壊工作に来たのか?」

 

トリューニヒトは、微動だにせず柔和な笑みを保つ。

 

「とんでもない。我々同盟には、ヘルクスハイマー閣下のファンが多いので、民意に従って『平和の贈り物』をご提案したまでですよ」

 

「民意は便利な言葉だな」

 

「困った時に出せば、大概の不純物が浄化される」

 

「閣下も帝国の改革者として、民の声の重みはご存知でしょう?」

 

「知ってるさ。だからこそ、それを盾にする奴もよく知ってる」

 

その時、マルガレータがアルブレヒトへ視線を向けた。

見開かれた瞳には計算し尽くされた純真さが、きらきらと光を反射している。

 

「ああ、閣下!」

 

「彼ら、色々言っておったぞ!フェザーンの航路データを返してくれるとか、莫大な資産をくれるとか!」

 

アルブレヒトは、演劇めいた大仰さで眉をひそめてみせる。

 

「おお!フェザーン強盗の利益を、こちらにも分けてくれると……?」

 

「ええ。あくまで『平和の架け橋となるヘルクスハイマー閣下個人に』であれば……と思ったのですが」

 

粘りつくような、嫌悪感を催すほどに絶妙な間。

 

「ヘルクスハイマー閣下ご本人は受けていただけそうな様子。どうですかな、宰相閣下?」

 

「却下だ」

 

張り詰めていた空気が、さらに限界まで引き絞られる。

マルガレータは弾かれたように立ち上がり、激高の表情を作り上げた。

 

「閣下!!それでは、私のこれまでの交渉の努力が!!ジークへの手土産が!!」

 

「黙れ!!」

 

「お前は宇宙艦隊司令長官だが、国家間の政治的な権限は持っていない!そんな裏取引は認めん!」

 

「しかし――」

 

「俺が決めた帝国の法だ!軍人の政治不介入!従えないのであれば、貴様でも直ちに逮捕するぞ!」

 

マルガレータは唇を強く噛みしめ、屈辱に打ち震える表情を顔面に貼り付けた。

 

完全に計算された演技。だが、そこには彼女自身の生々しい反発心も微量に混入しているように見えた。ゼロから作り上げた嘘よりも、真実の欠片を核にした嘘の方が、より深く人の心を欺く。

 

「………申し訳ございません」

 

糸が切れたように椅子へ崩れ落ちる。伏せられた睫毛の震えが、「理不尽な力で押さえつけられた不満」を見事に雄弁に語っていた。

 

トリューニヒトの脳髄で、快感の電流が走る。

 

(効いている。これは間違いなく効いている)

 

公衆の面前での苛烈な叱責。それが演出であったとしても、心に刻まれた楔は必ず後を引く。政治の舞台において、一度へし折られた自尊心は、そう簡単に修復されるものではない。

 

ヤンもまた、思考の海に深く潜っていた。

 

(計算通りだ。ヘルクスハイマーのプライドを傷つけ、不満をためることには成功した……)

 

だが、その論理の底で、何かが微かに引っ掛かる。

ファルケンハインという男は、ここまで感情を剥き出しにして手の内を晒すような真似をするだろうか。いや、彼なら必要とあらばやる。だが、その「必要」を敵である自分たちにわざわざ見せつける理由があるのか。

 

(……待てよ。我々の目の前で、あえてこれほど露骨に叱責するとは……?私の狙いが、既に見抜かれているのか?)

 

「宰相閣下。彼女も帝国のためを思ってのこと。あまり目くじらを立てなさるな」

 

アルブレヒトの反撃は、思考の隙間を与えない。

 

「ヤン総統、それは立派な内政干渉に当たります。我が国の軍紀は私が正す」

 

「ごもっとも」

 

トリューニヒトが、油を注ぐように滑らかに介入する。

 

「そこは軍紀の問題ですから、交渉とは離れます。本題に戻りましょう。宰相閣下、我々が求めるのは和睦と不可侵、そして『貿易』です」

 

ヤンはトリューニヒトの横顔を視界の端に置きながら、冷徹な計算を続ける。

 

(仮にファルケンハインが見切っていようと関係ない。ヘルクスハイマー側に疑念なり不満なり、野心なりを芽生えさせれば、それだけで盤面はこちらに傾く)

 

敵の足元に火種を放り込む。それが完全に消火されるまでの間、敵の視線を内側に釘付けにできれば、それこそが真の勝利なのだ。

 

トリューニヒトの腹の底でも、同様の毒が煮えたぎっている。

 

(ファルケンハインが見抜いているかは五分五分ですな。しかし、ヘルクスハイマー側の心には十分『楔』としての効果があるでしょう。仮に彼女が見抜いていても、そう認識させるだけで効果があります)

 

騙されればよし。見抜かれようとも、その対処に相手の精神的リソースを削り取れればよし。政治とは、いかにして相手に無駄な出血を強いるかの遊戯である。

 

一方、アルブレヒトは二人の微細な表情筋の動きを観察しながら、内心で冷ややかな毒づきを繰り返していた。

 

(白々しい。狙いが見え見えだ。それにしても、マルガレータは演技がうまいな。この絶妙な「不満顔」、政治的にも逸材かもしれん)

 

この娘は、単なるロイエンタールの血を引く将という枠に収まる器ではない。戦場のみならず、この陰惨な政治の盤上ですら、さらに上の領域へと登り詰める化け物へと育つのではないか。

 

(余計なことを考えるな)

 

ようやく、交渉は本来の軌道へと乗る。

 

「両回廊を軍事制覇して、戦略的に圧倒的有利な条件を突きつけておきながら『対等』か。……どうやら、ヤン総統には新しい辞書が必要なようだ」

 

ヤンは飄々とした態度のまま、言葉を打ち返す。

 

「おや。私が総統になった時に、同盟の辞書も新しく出版しました。良かったら差し上げますよ?」

 

(本当にイヤミのセンスだけは天才的だな)

 

ここでテーブルを蹴り飛ばせば、ヤンに「帝国は平和を拒絶した」という侵攻の大義名分を与えることになる。だが、安易な妥協は帝国の首を絞める。

 

アルブレヒトは、唐突に視線を外した。

 

「時にヤン総統は、我が国の文豪ランズベルクの『銀河英雄伝説』はご存知かな?」

 

ヤンの目元が、わずかに柔らかく解ける。

 

「ええ、私も愛読しています。続きが気になりますが……」

 

「なるほど……貿易の真の目的は『それの最新刊』ですかな?」

 

「それも、切実な理由の一つですな」

 

アルブレヒトは表情筋を引き締め、本題の核心へとメスを入れる。

 

「我々も和睦には応じたいが、不安でね。両方の回廊を抑えられたままだと、いつ同盟の大軍に雪崩れ込まれるか……気が気でない」

 

トリューニヒトが、待ちわびたと言わんばかりに上体を乗り出した。

 

「なるほど……道理ですな。では、我々には『イゼルローン要塞』を帝国へ返還する用意があります」

 

(……来たか)

 

(イゼルローンはあくまで軍事要塞。金の成る木であるフェザーンを抑えることで、あくまで同盟が経済的に有利に出るための策か)

 

「それはそれは。我々が回廊を一つずつ持つと?」

 

「ええ」

 

「これで安全保障上のパワーバランスはイーブンとなります。しかし、貿易などの経済活動では、民間船はこれまで通りフェザーン回廊を使ったほうが使いやすいでしょう?」

 

極上の毒入りケーキだ、とアルブレヒトは直感した。

帝国の世論を鎮め、軍事的な不安を払拭するためには、喉から手が出るほど欲しい果実。

 

だが、それを飲み込めば、経済の心臓部を同盟に握られ続ける。しかも、イゼルローンはヤン・ウェンリーにとって自分の庭も同然だ。有事となれば、いつでも裏口から侵入できる計算まで含まれているに違いない。

 

「イゼルローンも人工天体ですが、輸送拠点としては悪くない」

 

アルブレヒトは、あえて毒の甘い部分を舐めるふりをする。

 

「俺が以前、色々と改革した時には、消費拠点としても悪くなかったですよ?」

 

ヤンが内心で首を縦に振る。

 

(しかし、この条件を正面から跳ね付けるのは難しいだろう?回廊の返却は、帝国にとっては喉から手が出るほど欲しい安全保障上の鬼門だ)

 

表の顔は、ひたすらに穏やかに。

 

「なるほど……。我が同盟のイゼルローン方面軍も、今や一つの消費拠点として栄えています。そちらはそちらで……というのも、大いに検討事項になりますね」

 

(ヤツの考えはもちろんわかっている。しかし、毒入りとわかったケーキを食べて、果たして維持できるか?あくまで経済的に有利に立ちたい同盟の狙いは見えるが……。今の帝国なら単独でももはや経済は回る)

 

決定的な言質を避け、彼は言葉を濁した。

 

「……十分に検討いただきたい。そのあたりが実務レベルで詰まれば、こちらも『不可侵』の検討もできる」

 

(帝国がすぐに瓦解なり分裂なりするのは出来過ぎだが、反乱や内部粛清が起こるだけでも、この戦力状態ならある程度版図を広げることは可能だ……。やれやれ、こんな血生臭いことを考えなきゃならない自分の立場が、心底嫌になる)

 

「わかりました。では……」

 

トリューニヒトが、絶妙なタイミングで幕引きを図る。

 

「では、大きな方針は確認したということで、お互いに実務者の打ち合わせへ移る、ということでよろしいか?」

 

「良かろう」

 

アルブレヒトが短く応じ、会談は終了の形を成した。

 

交わされる二度目の握手。

歴史の編纂者たちは、のちにこの場面を「建設的な意見交換が行われた」と無味乾燥に記すのだろう。

 

そしてマルガレータは、一切の感情を剥奪された冷たい瞳で、ただ無言で同盟の使節団を見据えていた。

 

その徹底した無表情が、ヤンとトリューニヒトの背筋に冷たいものを這わせる。

先程までの子供じみた怒りはどこへ消えたのか。恐るべき演技力なのか、それともこの得体の知れない冷酷さこそが彼女の本性なのか。

 

(扱いやすい娘だと思ったが……果たして、私は彼女の底のどこまでを測れていたのだろうか)

 

ヤンの胸の奥に、拭い去れない冷たい違和感がこびりついていた。




誰が一番得をした会談だったでしょうか。

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