銀河英雄伝説 〜無能なる俗物が勘違いで英雄に祭り上げられ、気づけば貴族連合盟主としてラインハルトと雌雄を決する件について〜   作:斉宮 柴野

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宇宙戦は、知略と勇気のぶつかり合いだ――と言いたいところだが、
実際の現場は「副長の勘違い」と「部下の胃痛」でできている。
今回の《ハーメルンⅡ》は、そんな現場のリアルをお届けする物語だ。
戦火の中で輝くのは、英雄ではなくツッコミ力。
ベルトラム副長の地獄級指揮のもと、どうか我々の生存を祈ってほしい。
(祈るのも宗教の一環です)


ハーメルンⅡ航宙日誌:副長と魚雷と宗教と

小惑星の影に隠れた《ハーメルンⅡ》のブリッジは、地獄絵図だった。

敵は近く、味方はいない。

そして指揮権は、よりにもよってベルトラム副長の手にある。

つまり、戦況より危険なのは“味方”というわけだ。

 

副長が喚いた。

「いいか!敵を欺くぞ! 水雷長、魚雷を一発、至近の小惑星に撃ち込み、本艦が爆沈したように見せかけるのだ!」

 

 

出た、一発で解決理論。

戦場で最も信用してはいけないタイプのやつだ。

「とりあえず一発撃てば何とかなる」っていう発想。

これで何とかなった試しがあるなら、俺は今ごろ英雄だ。

 

デューリングことミッターマイヤーが冷静に進言した。

「副長、一発では不可能です。駆逐艦一隻の爆発規模を偽装するには、最低でも三発の魚雷を、時間差で、かつ異なるポイントで爆発させねば、経験ある艦長ならすぐに見抜きます」

 

副長の顔が引きつった。

「な、生意気な……! だが、時間がない! すぐに実行しろ!」

 

 

いや、お前が時間を浪費してんだよ。

議論してる今の30秒で、もう敵の索敵波が届いてるっつーの。

 

通信席で、こっそりミッターマイヤーに親指を立てた。

「ナイス判断だ、モジャ。副長の暴走を抑えた功績で、あとで昇進確定だぞ」

「閣下、声が聞こえてます」

「バレたか」

 

その横で、ロイエンタールが腕を組んでつぶやいた。

「この副長、本気で我々を沈める気かもしれませんね」

「同感だ」

「どうします?」

「……祈る」

「それ、戦略ですか?」

「宗教だ」

 

 

祈るしかない。

俺は軍人だが、信心深いんだ。

自分のミスを誰かが代わりに引き受けてくれる宗教を信仰してる。

 

副長が怒鳴った。

「発射準備完了か!」

「はい、三発装填完了しました!」

「三発? 一発でいいと言ったはずだ!」

「では、私が責任を取ります」

ミッターマイヤーが毅然と答える。

副長は顔を真っ赤にして黙り込んだ。

 

 

うーん、若いのに肝が据わってるな、モジャ。

この艦で唯一の正常な頭脳かもしれん。

いや、アナを除いてな。

 

いや、アナは頭脳じゃなく感情で動くタイプだった。

「アル様、理屈は後です♡」って言って俺を引きずり回す。

……あいつ今どこにいるんだろうな。

この艦の中にいるはずなんだが、妙に静かだ。

嵐の前のアナ、ってやつか。

 

ミッターマイヤーが的確に指示を出す。

「第一魚雷、発射!」

ドンッ!という音が艦内を震わせた。

小惑星の表面に閃光が走り、破片が飛び散る。

「第二魚雷、発射!」

また爆発。

「第三魚雷、発射!」

ドーン!

周囲の空域が爆炎に包まれ、センサーには見事な残骸信号が映し出された。

 

オペレーターが叫ぶ。

「敵艦、反応なし! 本艦爆沈を確認した模様です!」

ブリッジに歓声が上がる。

副長が胸を張る。

「見たか! 私の作戦が成功した!」

 

 

おいバカ、誰が何を見た。

成功したのはミッターマイヤーの判断だ。

お前はただ怒鳴っただけだ。

このまま戦後報告に『ベルトラム副長の英断により一命を取り留めた』とか書かれたら、俺は幽霊になって抗議に行くからな。

 

ロイエンタールが冷ややかに呟く。

「閣下、彼の自信は宇宙より広いですね」

「うむ。だが脳みそは惑星衛星レベルだ」

「それは……大きいのか小さいのか」

「質量は軽い」

「……比喩の癖が強いですね」

 

 

まあ、なんにせよ助かった。

これで敵の目を欺けたなら、数時間の猶予はできる。

問題は、その数時間でどうするかだ。

 

副長が得意満面で言った。

「通信主任、すぐにケンプ艦隊に救難信号を送れ!」

「了解しました」

端末を操作するふりをしながら、実際には送信禁止に設定した。

救難信号を送った瞬間、敵に見つかる。

あの副長の指示を守ることが、最大の危険だ。

俺は自分の意思で生きる。

 

 

ああ、グレイマン閣下、あなたなら笑ってるだろうな。

「ベルトラム君のような男が一人いると、現場が地獄になる」って。

ええ、その通りです。

まさに今、地獄です。

 

ロイエンタールが俺の操作を横目で見ていた。

「閣下、信号、送ってませんね?」

「お前、ほんと目がいいな」

「義務なので」

「黙っててくれたら昇進推薦してやる」

「すでに准将の副官なんですけど」

「うるさい! じゃあメダルだ! ガチャガチャのやつ!」

「……価値ゼロですね」

 

ミッターマイヤーが笑いながら振り返った。

「閣下、敵の索敵波が遠ざかっています」

「よし、見事だ。副長も褒めてやれ」

「褒める?」

「心の中でな」

「了解しました」

 

副長は依然として勝ち誇っていた。

「よし! 我々の偽装が見事に敵を欺いたのだ! ハーメルンⅡは蘇る!」

「……いや、沈んだことになってるんですけど」

「なに?」

「いえ、何でもありません」

 

 

沈んだことにしておいて蘇るな。

それ、ゾンビだ。

 

ベルトラムが続ける。

「通信主任、これを記録しておけ! 本艦の偽装工作は完全成功だ!」

「はい、完璧に記録しておきます!」

(副長の愚行により奇跡的に成功と書き加えながら)

 

ミッターマイヤーが小声で言った。

「閣下、これで少しは休めますね」

「そうだな。……寝たい」

「今寝たら殺されますよ」

「じゃあ座ったまま目を閉じる。これは戦略的休息だ」

「名前つけたら許されると思ってる……」

 

 

こうして俺たちは、奇跡的に一命を取り留めた。

ベルトラム副長は自分の天才ぶりに酔いしれ、ミッターマイヤーは黙って働き、ロイエンタールは皮肉を溜め込み、俺は限界睡眠モードに突入。

完璧なチームワークだ。

……ただ一人を除いて。

 

アナの声が通信から聞こえた。

《こちら医務室のリリアです。爆発音を聞いて、患者たちが死んだふりを始めています。どうにかしてください》

「お前が始めたんだろ!!」

 

 

 

 

 

 

地獄は、まだ続いていた。

敵は去った。だが味方が残った。

つまり――危機は続行中だ。

 

機関長が血相を変えてブリッジに飛び込んできた。

「副長! 機関部の損傷は深刻です! 応急修理に最低でも六時間! さらに最大船速での加速には、通常時の三倍の時間がかかります!」

 

ベルトラム副長が青ざめた顔で叫ぶ。

「な、なんだと! これでは、亀も同然ではないか!」

 

(モノローグ)

亀に謝れ! 亀は泳げるし、繁殖もできるぞ!

お前の艦は爆発するだけだ!

俺の人生、終わった……いや、正確には上官によって終わらされる!

 

副長は額に汗を浮かべながら、必死に威厳を保とうとしていた。

「落ち着け、皆! 我々は帝国軍人だ! 冷静に、誇り高く行動せねばならん!」

 

 

はい出た、「誇り」ワード。

現場が詰んだ時の便利スローガン。

誇りで飯が食えりゃ苦労しないわ。

 

副長はブリッジの隅にロイエンタール(偽名:シャミッソー)とミッターマイヤー(偽名:デューリング)を呼び寄せた。

声を潜めて語り出す。

「……いいか、二人とも。万が一、敵に発見された場合は、本艦は潔く自沈する。帝国軍人の誇りを、叛徒どもに見せつけてやるのだ!」

 

 

出た! 潔く自沈!

一番いらない選択肢トップ3に入るやつ!

頼む、せめて生き延びるっていうワードを辞書に追加してくれ。

 

副長は目をギラギラさせながら続けた。

「この命、皇帝陛下に捧ぐ!」

(ブリッジ全員:シーン……)

誰も返事しねぇ。

 

 

ロイエンタールはいつもの氷の声で言った。

「了解しました、副長」

 

おい! 了解すんな! 演技がリアルすぎて本気にされるだろ!

 

ミッターマイヤーが少しだけ眉をひそめる。

「副長、しかし艦にはまだ……」

「うるさい! 若造は黙って従え!」

 

もうテンプレのように出てくるな、この展開。

 

副長が去った後、ロイエンタールとミッターマイヤーが目だけで合図を交わした。

あれは、俺にも分かる。

やるかの目だ。

 

 

こいつら、何も言わずに意思疎通できるのすごいな。

俺がアナと目を合わせたら、「今日どこサボる?」って話しかできないのに。

 

二人は静かにその場を離れ、警備主任室へ向かった。

キルヒアイスのところだ。

 

彼らの背中を見送りながら、通信パネルに向かってため息をついた。

「……これ、絶対あとで報告書に書かれるやつだな。上官の暴走を黙認した罪とかで」

 

ロイエンタールたちはすぐ戻らない。

その間、副長はブリッジの中央で、誰にともなく演説を始めた。

「我らが陛下の御旗のもと、死すとも不名誉に生きず!」

 

 

はいはい、また始まった。

こういうタイプはな、演説すればするほど沈むんだよ。

死すともって言った時点で、勝手に死亡フラグ立ててるんだ。

 

こっそりロイエンタールの端末を覗いた。

(記録メモ:ベルトラム副長、演説中に唾を飛ばしすぎ。前列二名、顔面被弾)

……仕事が早いな、こいつ。

 

副長の演説が終わる頃、ロイエンタールとミッターマイヤーが戻ってきた。

二人とも妙に落ち着いている。

「副長、報告があります」

「なんだ?」

「キルヒアイス少尉より、拘禁室の見張り交代について確認が入りました」

「ふむ、彼は真面目だな。良い若者だ」

 

お前の次の瞬間に、その真面目な若者に裏切られるんだよ……合掌。

 

副長が満足げに頷く。

「いいか、私は艦の誇りを守る。諸君も命を惜しむな!」

 

お前が一番惜しんでるだろうが。

そのビビった目で何が誇りだ。

 

副長が去った後、ロイエンタールが静かに言った。

「……さて、これで舞台は整った」

ミッターマイヤーが頷く。

「キルヒアイス少尉。今の艦長代理は、栄光ある死を選ぶつもりのようだ。我々は退屈な生を選ぶことにした。貴官の友人が指揮を握れるよう、協力しよう」

 

 

うおおおお、来た! このセリフ知ってる!

ここから金髪少年が大逆転して、英雄伝説が始まるやつ!

まさか俺、歴史の目撃者どころか巻き込まれ被害者ポジションか!?

 

……それにしても、ロイエンタールとミッターマイヤー、ほんと息ぴったりだな。

お互い目で会話してる。

言わなくても通じるとかいう高度な信頼関係。

羨ましいぞ。

俺とアナの信頼関係は、だいたい「言っても通じない」だからな。

 

あいつなら今ごろ医務室で、包帯巻いた患者にカロリーゼロの点滴打ってる。

「太らないから安心してください♡」とか言いながら。

もう一種の兵器だ。

 

 

それにしても、ほんとに最悪な状況だ。

敵は近く、エンジンは死にかけ、上官は自沈願望。

味方の有能組はクーデター計画中。

俺?

俺は通信機の前でコーヒー淹れてる。

 

「主任、非常時に飲み物を?」

「いや、緊張すると喉が乾くんだよ」

「それ、アルコールですか?」

「軍機密だ」

 

……そうだな、今の俺の仕事は沈没までにどれだけ平常心を保てるかの実験だ。

もしこの艦が助かったら、俺のコーヒーが奇跡の御守りとして信仰されるだろう。

……嫌だな、それ。

 

ブリッジの照明がちらついた。

オペレーターが叫ぶ。

「反応あり! 敵艦、距離12,000!」

ベルトラムの声が響いた。

「各員、最終準備だ! 皇帝陛下に栄光あれ!」

 

 

おい待て! まだ6時間経ってない!

エンジンも動かない!

今自沈したらただの自爆だぞ!?

 

ロイエンタールとミッターマイヤーが同時に動いた。

「行くぞ」

「了解」

 

あ、これマジで始まるやつだ。

クーデター・イン・ザ・駆逐艦。

頼む、俺は平和的に巻き込まれたい。

撃たれるなら、コーヒー飲み終わってからにしてくれ。

 

頼む、アナ。

俺が死んだら、報告書の中だけでもかっこよく書いてくれ。

……いや、無理か。

あいつ絶対、「アル様は慌ててコーヒーをこぼしながら殉職しました♡」とか書く。

 

はあ……

誰か俺を転属させてくれ。

次は温泉惑星勤務で頼む。




今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございます。
「戦場で最も危険なのは敵ではなく上司」――この真理を、あらためて痛感した回でした。
それでも《ハーメルンⅡ》のクルーは今日も生きています。
たぶん、いや、たぶん。

今小分けにしている章を

  • 週1で一気に読みたい(3万字くらい)
  • 毎日小分けでいい(4千字くらい)
  • 毎日なら文字数気にしない
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