銀河英雄伝説 〜無能なる俗物が勘違いで英雄に祭り上げられ、気づけば貴族連合盟主としてラインハルトと雌雄を決する件について〜   作:斉宮 柴野

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イゼルローン回廊の戦いは、三つの戦場へと分かれていく。

帝国第二陣を足止めするウランフとアル・サレム。

要塞へ迫るアルブレヒト。

そして、トールハンマーの射線に挑むラインハルトとミュラー。

三国の主力が、ついに決定打を求めて動き始める。



神槌を躱す

【イゼルローン回廊】

 

アルブレヒトがヤンの罠を強行突破して前進したことで後方に取り残された帝国軍の第二陣。ワーレン、ルッツ、そしてメックリンガーの各上級大将が率いる三個艦隊およそ四万五千隻の大軍である。

対するは、ヤンから遅延戦闘の厳命を受けこの場に踏みとどまっているウランフとアル・サレムが率いる二つの艦隊であった。

 

「……何!?」

 

「ヤン・ウェンリーの第十三艦隊が反転しただと!?我々との交戦を放棄し背後を突くために自らが動いたということか!」

 

「このままでは、陛下がイゼルローン要塞とヤン・ウェンリーの間に挟撃されてしまう!陛下のところへあの魔術師を行かせるわけにはいかん!!」

 

「ワーレン提督!ルッツ提督!!状況は切迫している!全力で共和国軍を突破し陛下の援護に向かうぞ!我々の全火力を以て敵陣をこじ開けろ!」

 

通信に応じ、帝国軍艦隊の動きが一気に活発化する。

しかし彼らは単なる猪武者のように、強引に砲撃を苛烈に集中させるだけという愚かな真似はしなかった。

 

ワーレンとルッツ。帝国軍が誇る双璧に次ぐ実力を持つ二人の名将は、卓越した指揮能力と絶妙な連携によって嫌らしい戦術を展開し始めたのである。

 

「ルッツ、私が前面に出、敵のシールドを引き剥がす!貴官はその隙を突きピンポイント射撃で敵の機関部と指揮系統を沈黙させろ!」

 

「了解した、ワーレン!射線に味方を巻き込まないよう陣形を秒単位で流動させるぞ!」

 

ワーレン艦隊が突撃と後退を繰り返し、近距離で乱戦を仕掛けて敵の陣形を乱す。共和国軍が対応に追われ、一瞬でも陣形に隙間が生まれた瞬間にルッツ艦隊の長射程砲が、狙撃手のような精度で共和国軍艦艇の弱点を撃ち抜いていくのである。

 

近距離の乱戦と長射程の精密射撃。

 

全く性質の異なる二つの戦術を秒単位のタイミングで完璧に切り替え融合させながら、共和国軍の連携を崩そうと執拗に狙い続けていた。

 

「帝国軍の奴ら、流石に腐っても精鋭というわけか!連携が完璧すぎる!」

 

共和国軍の右翼を担う戦艦《盤古》、ウランフが指揮座から立ち上がり豪快に吼える。

 

「だがな、そう簡単に抜かせると思うなよ!ヤン総統が抜けて我々の壁は薄くなったかもしれん!だが、我々の誇りは微塵も薄くなってはおらんぞ!!」

 

「いいかお前ら!!背後のことは一切気にするな!あれは総統が必ず仕留める!我々が心配することではない!」

 

「我々の任務はただ一つ!!眼前の敵を足止めし、死んでも一歩たりとも通さないことだ!!シールドの出力を最大まで引き上げろ!陣形をさらに厚くし重層的な防衛線を再構築するのだ!!撃たれたら撃ち返せ!一発のビームも無駄にするな!!」

 

「ウランフ提督の言う通りだ!」

 

「敵は連携で崩そうとしてきている!ならば、こちらは徹底的な遅滞戦闘と小規模な局地戦の繰り返しで応じる!敵の射線に常にダミーの無人艦やデブリを配置しルッツの狙撃を妨害しろ!ワーレンの突撃には正面からではなく斜めからの牽制射撃で勢いを削ぐのだ!決して大崩れしてはならない!」

 

結果として共和国軍は数において帝国軍に対して不利であったにもかかわらず、ワーレン、ルッツ、メックリンガーという三人の上級大将が率いる帝国軍三個艦隊をこの宙域に釘付けにし、前進させない防波堤としての役割を果たし続けていたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【共和国軍旗艦《ヒューベリオン》】

 

ウランフたちの決死の奮闘はすぐさまヤンの元へと届けられていた。

 

「……報告します!ウランフ提督、アル・サレム提督の部隊、依然として防衛線を死守!帝国軍後続部隊の突破を阻止しております!」

 

「よし………」

 

「さすがはウランフ提督とアル・サレム提督だ。私の無茶振りを見事にこなしてくれている。これで、我々が後ろの敵を気にする必要は無くなったね」

 

戦術ディスプレイの奥、イゼルローン要塞の目前で孤立している巨大な光点《ロンゴミニアド》へと視線を固定する。

 

「これより我々はただ一つの目標にのみ全力を注ぐ。……アルブレヒト・フォン・ファルケンハインの首一つに集中するんだ。……さあ、マジックの総仕上げと行こうか」

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

【帝国軍旗艦《ロンゴミニアド》】

 

 

「今だ!!」

 

「包囲していた共和国の足並みが乱れたぞ!これ以上ない絶好のチャンスだ!!」

 

先ほどまで彼を閉じ込めていた『クアッド・クリームパン』の包囲網は一部が大きく崩れほころびを見せていた。

 

「この機を逃す手はない!」

 

「全艦、機関出力最大!包囲網の隙間を縫って要塞の前面へと肉薄しろ!要塞の懐、ギリギリの距離まで張り付くように潜り込むんだ!」

 

「『ロンゴミニアド・スピア』のエネルギーを百二十パーセントまでチャージしておけ!要塞の流体金属の壁に至近距離から全力でぶっ放してやる!いかに流体金属といえどエネルギーを分散させる間もなく至近距離から一撃を食らえば、外壁ごと貫通して仕留められるはずだ!!」

 

それが成功すればイゼルローン要塞は一撃で沈黙する。

アルブレヒトの命令により、《ロンゴミニアド》をはじめとする直属艦隊が前進を開始する。

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

【共和国軍・第五艦隊旗艦《リオ・グランデ》】

 

 

「……なるほどな。敵の狙いは我々の艦隊との至近距離での『平行追撃』に持ち込むことにあるな」

 

「では、閣下!我々は後退して要塞に射線を譲りますか!?」

 

副官が進言するが、ビュコックは首を横に振った。

 

「馬鹿を言え。我々が後退すれば敵はそのまま要塞に張り付いて、あのバカでかい主砲で要塞の壁を撃ち抜いておしまいじゃ。……それに」

 

「乱戦そのものは今この場において、数で勝っている我々共和国にとってはむしろ望むところなんじゃよ。皇帝が自ら死地に飛び込んでくるというのなら喜んでお迎えしてやろうではないか」

 

指揮席の通信マイクを力強く握りしめる。

 

「全艦、これより後退を一切禁ずる!敵艦隊に対しこちらも全速力で突撃し正面から激突して乱戦状態を作り出せ!陣形など構わん、個々の艦長の判断で敵の横腹に食らいつけ!トールハンマーの射程外で相手が根を上げるまで殴り合うぞ!!」

 

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

【帝国軍旗艦《ロンゴミニアド》】

 

「ハッハッハ!来たな、ビュコック!」

 

「こちらの意図を読んであえて乱戦に持ち込んで数の有利を生かそうという腹か。なるほど、腹の据わった見事な判断だ……!だがな」

 

「俺たちの戦術をただの力任せの突撃だと舐めてもらっちゃ困るぜ。……さあ見せてやろう。我々の『浸透突撃』にお前たちの足がどこまでついてこれるかな??」

 

「なっ……!?」

 

《リオ・グランデ》のブリッジで副官が驚愕の声を上げた。

真正面から巨大な一つの塊となって激突してくると思われていたファルケンハイン艦隊が。

 

激突のほんの数秒前、突如としてその巨大な塊を数十隻単位の無数の「小集団」へと細かく分裂させたのである。

 

「陣形が……バラバラに!?」

 

分裂した無数の小集団はそれぞれが独立した意志を持っているかのように、複雑な軌道を描きながらビュコック艦隊の陣形の隙間をすり抜けていく。

 

そしてすり抜けた瞬間に、各艦艇の死角からピンポイントでビームを浴びせかけてきた。

 

「くっ……!前方だけでなく全方位から攻撃が来ます!!敵の動きが速すぎます!捕捉できません!!」

 

オペレーターたちが声を上げる。

 

「これが皇帝アルブレヒトの真骨頂……変幻自在の高機動戦法か!」

 

ビュコックは指揮席の肘掛けを強く握りしめ、苦々しい表情を浮かべた。

 

「見事な操艦技術だ。大軍をこれほど細かく制御し流体のように扱うとは。これでは我々の数の有利が生かせん……!」

 

ファルケンハイン艦隊の『浸透突撃』は共和国軍の陣形を内部から食い破り、着実に要塞へと距離を詰めていく。

アルブレヒトの戦術は完全にビュコックの目論見を上回っていた。

 

「よぉーし!!そのまま行け!主砲のチャージ、急げ!!」

 

あと少し。

あと少しでこの忌まわしい要塞の壁に風穴を開け、ヤン・ウェンリーに絶望を突きつけることができる。

 

しかし。

その勝利のシナリオに横槍が入る。

 

「……報告!!」

 

「後方より急速接近する大艦隊の反応あり!!」

 

「なんだと!?ワーレンたちが破られたのか!?」

 

振り返る。

 

「ち、違います!!敵の識別信号、ヤン・ウェンリー総統の旗艦《ヒューベリオン》!!ヤン艦隊!!反転して背後より突っ込んできます!!」

 

「ちっ……!!」

 

「あの魔術師の野郎、戻ってきやがったのか!つーか、なんで俺ばかり狙うんだよ!!」

 

「公国軍がいるだろうが!!なんでそっちを無視してわざわざ俺のケツを掘りに来るんだよ!空気読めよ、魔術師!!」

 

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

【共和国軍・旗艦《ヒューベリオン》】

 

「……よし」

 

「ファルケンハインは要塞に近づくために陣形を細かく分裂させ深く浸透しすぎた。そのおかげで自身の防御は手薄になっている。……第五艦隊は乱戦に付き合いながらも私の動きに合わせて両翼に大きく広がる陣形をとってくれているね」

 

ヤンの指示を受けたビュコックはアルブレヒトの浸透突撃を受けながらも決して崩れることなく、左右に大きく広げる陣形へと移行していたのである。

それはまるで巨大なすり鉢の底にアルブレヒトの艦隊を誘い込むような形であった。

 

「見事な連携だ。さすがはビュコック提督」

 

「さあ、ここからがマジックの種明かしだ。ユリアン」

 

「はい、総統!」

 

「ビュコック提督とデータリンクを完全に同期させろ。そしてこのままファルケンハイン艦隊をトールハンマーの射程へと押し込むんだ」

 

「……というわけで攻撃を強化しろ。一気に押し潰すぞ」

 

 

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし……!邪魔な共和国艦隊の主力は兄上が引き受けて、注意を逸らしてくれたな!」

 

視線の先には、宇宙の闇に浮かぶ巨大な人工天体の姿がある。

 

「ヤンが《ロンゴミニアド》に気を取られている今この瞬間こそが好機だ。……このまま全速力で要塞に肉薄するぞ!難攻不落の殻を俺のこの手で直接叩き割ってやる!」

 

号令に将兵たちは歓声で応え、土星エンジンの出力をさらに一段階引き上げる。彼らの狙いはイゼルローン要塞本体の攻略に絞られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【イゼルローン要塞指令室】

 

 

「……やれやれ。艦隊単独でこの要塞に真正面から挑んでくるだと?」

 

「狂ったか、金髪の孺子め。……いや、随分と舐められたものだな。我が国の留守番部隊がただ指をくわえてお前たちを歓迎するとでも思っているのなら、その甘い考えごと宇宙のチリにしてやる」

 

「トールハンマー発射用意!!目標は向かってくる公国軍艦隊のど真ん中だ!照準が合い次第、躊躇なく撃て!!!!」

 

要塞表面、流体金属の海が生き物のように波打ち大きく左右に割れていく。

そしてその割れた隙間から、トールハンマーの砲口が宇宙空間に向かって姿を現した。

 

音の存在しない宇宙空間であるにもかかわらず要塞の周囲の空間そのものが震動し、エネルギーの収束音が次元を超えて響き渡るかのような錯覚を引き起こす。

 

トールハンマーの砲口の奥深くで青白い閃光が渦を巻き、星々を消し飛ばすほどの莫大なエネルギーが臨界点に向けてチャージされていく。

その圧倒的なエネルギーの奔流を、公国軍の索敵システムが感知した。

 

「報告!!」

 

「前方、トールハンマーの発射シークエンスを確認!!莫大なエネルギーが収束しています!照準、我が艦隊の中央にロックオンされています!!」

 

トールハンマーを真正面から食らえば、どんなシールドを張ろうとも艦隊の半分以上が一瞬にして蒸発してしまう。それは彼らも重々承知している事実である。

 

しかし。

《パーツィバル》にいる「雷光」ことミュラーは、冷や汗を浮かべながらも常軌を逸した命令を絶叫した。

 

「全艦、まだ避けるな!!そのまま直進を続けろ!!土星エンジンの出力を限界の百二十パーセントまで引き上げ、アイドリング状態で待機しろ!!」

 

「ミュラー提督!?何を仰っているのですか!このままでは直撃します!!」

 

副官が抗議するが、ミュラーはモニターを睨みつけたままさらに声を張り上げる。

 

「相手が撃ったと確認した瞬間に、土星エンジンの全推進力を爆発させて急速離脱する!!!」

 

失敗すれば文字通り一瞬で宇宙の塵である。

公国軍の将兵たちは恐怖で歯の根を鳴らしながらも、ミュラーとラインハルトに対する信頼を胸に土星エンジンのスロットルに手をかけその瞬間を待つ。

 

そして。

シェーンコップが冷酷に「撃て」と命じた瞬間。

 

宇宙空間を染め上げる青白い雷撃が走る。

エネルギーの奔流が、公国軍の中央に向かって光の柱となって襲いかかる。

 

「今だぁぁぁっ!!全艦、回避ぃぃぃ!!」

 

通常の艦船ではあり得ない、搭乗員の肉体を限界まで押し潰すような超加速。

さらに艦の姿勢制御を瞬時に行うシステムがフル稼働し、物理法則を無視したかのようなスピードで散開していくのである。

 

「ぐっ……!!」

 

《ブリュンヒルト》でラインハルトは襲い来る強烈な重力加速度に身体をシートに押し付けられ、苦痛に顔を歪める。

 

「なんという加速だ……!少々キツいが……!だが、これで……!」

 

「ほ、報告……!!公国軍、トールハンマーの直撃を……完全回避しました!!敵艦隊に被害はありません!!かすり傷程度の損傷のみです!!」

 

「なんだと!?」

 

さすがのシェーンコップも目を見開いてモニターに食いつく。

 

 

 

 

 

 

その驚愕は、ホーランド元帥にも強烈な衝撃をもって伝わっている。

 

「バカな!!トールハンマーを躱すだと!!?この……公国の戦艦は化け物か!!?いかにローエングラム公爵の指揮が優れていようと物理的な限界を超えているではないか!」

 

額に冷や汗を浮かべながら全艦隊に緊急の号令を飛ばす。

 

「全艦、気を引き締めろ!!これまでの常識を捨てろ!相手は自分たちよりもはるかに速い!そう考えて行動しろ!!少しでも隙を見せれば一瞬で背後を取られるぞ!!」

 

「ホーランド艦隊は我々が相手をせよ!!これ以上のローエングラム公爵閣下への干渉は許さん!!」

 

《パーツィバル》を先頭とする艦隊が、そのスピードを維持したままホーランド艦隊に向かって猛然と突撃を開始したのである。

 

「ちぃっ!来るか、雷光ミュラー!!迎え撃て!我が芸術の真髄を見せてやる!」

 

ホーランドも恐怖を振り払い迎え撃つ陣形を展開する。

こうして、異なる才能を持つ二人の将帥による機動力と芸術の激突が戦場の新たな一角で火花を散らし始めることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

一方、そのミュラーの働きによって背後の憂いを断たれたラインハルトは立ち上がる。

 

「見事だ、ミュラー。……さて、今だ!!」

 

要塞に向かって右手を突き出す。

 

「トールハンマーを恐れる必要はもうない!空振りした直後だ!隙を突くのだ!」

 

「全艦、照準をトールハンマーの砲口周辺に設定しろ!!今この瞬間こそが流体金属に守られていない唯一の機会だ!火力を集中させ砲撃を叩き込め!!そうすれば要塞の脅威は半分以上消え去る!!!」

 

イゼルローン要塞の外壁で激しい爆発が咲き乱れる。

砲口周辺の施設が次々と破壊され火災が発生し、宇宙空間に無数の破片が飛び散っていく。

 

「報告!!」

 

「トールハンマーのエネルギー伝導回路および収束ミラー群に甚大な被害!!これによりトールハンマーが沈黙します!!」

 

「チィッ!!」

 

魔術師ヤン・ウェンリーすらも手を焼く、ラインハルトの付け入る隙のなさ。反撃の鋭さに焦燥感を隠せない。

 

「トールハンマー急速沈降!!早く流体金属の海の中へ隠して保護しろ!内部の被害状況はどうなっている!?」

 

「完全破壊には至っていません!」

 

「根幹システムは無事ですが、ミラーの修復とバイパス再構築が終わるまで撃てません!復旧までにはかなりの時間を要します!!」

 

「クソッ、修理班を急がせろ!手が空いている整備兵は全員叩き起こして現場に向かわせろ!!」

 

「主砲が沈黙したからといってタダで懐に潜り込ませると思うなよ!浮遊砲台を起動させろ!弾幕を張り、これ以上ローエングラム公の艦隊を近づけさせるな!!」

 

要塞の表面から無数の対空砲火が打ち上げられ、光の雨が降り注ぐ。

しかし。ラインハルトは全く怯む様子を見せない。

 

「ふん。……全艦、このまま要塞の外周を高速で回り続けろ!」

 

「高速で移動しながら浮遊砲台の射角を振り切れ!敵の砲塔の旋回速度では我々のスピードには追いつけない!守備隊を揺さぶり翻弄してやれ!!」

 

要塞の防衛力は徐々に削り取られていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【帝国軍旗艦《ロンゴミニアド》】

 

 

「!!」

 

「ラインハルトの奴、やりやがったか!!流石は俺の自慢の弟だ、最高のタイミングで要塞の牙をへし折ってくれたぜ!!」

 

「今だ!!トールハンマーが撃てない今こそ、最大の突破口だ!!全艦、一気に要塞へと肉薄するぞ!!」

 

そのなりふり構わぬ突進を後方から追撃するヤン・ウェンリーは冷徹な瞳で見つめていた。

 

「……総統!要塞へ向かって突進していきます!このままでは要塞の壁に張り付かれます!」

 

ユリアンが焦燥の声を上げるが全く表情を変えない。

 

「焦るな、ユリアン」

 

「……あの要塞を沈黙させるためには、内部へ直接乗り込んで制圧するか、巨大な質量弾を直接ぶち当てるくらいの手段が必要になる」

 

「ロンゴミニアドの主砲の威力なら至近距離から抜けると過信しているようだが……それは彼自身の足が止まる我々にとって最大のチャンスだ」

 

通信モニター越しに聞いていたビュコックも呼応する。

 

「うむ、ヤンの言う通りじゃ。……全艦、ファルケンハインの後背を撃ち抜け。一隻たりとも逃がすな!ここで皇帝の首を取るのじゃ!」

 

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

 

後ろからは、ヤン艦隊と第五艦隊が怒涛の勢いで迫り砲火を浴びせかけてくる。

 

「陛下!!背後から猛追してきます!!このままでは要塞に主砲を撃ち込む前に我々が集中砲火で撃沈されてしまいます!!」

 

まさに前門の虎、後門の狼。絶体絶命の挟み撃ちである。

 

「……ヤンの野郎、俺が要塞に気を取られて後ろがガラ空きになるとでも思ったか?甘いな」

 

右手がコンソールの一つのボタンを力強く押し込む。

 

「陽電子砲、全門回頭!!目標、我々の背後に迫る艦隊!照準は適当でいい!!後方へ向けて一斉射!!!」

 

 

「敵の巨大旗艦から猛烈な後方射撃です!!進行方向とは逆にこれほどの大火力を向けてくるとは……!!前衛の駆逐艦のシールドが次々と破られています!!」

 

常識外れの全方位攻撃。これこそが莫大な予算をつぎ込んで建造された専用艦のデタラメな性能である。

 

「……怯むな、ユリアン」

 

轟音の中でもブリッジの全員にはっきりと届く。

 

「あの艦の全方位射撃は確かに厄介だが恐れることはない。あの《ロンゴミニアド》の最大の武器である重粒子砲は、構造上艦の『前方』にしか撃てないはずだ」

 

「全艦、前面シールドを最大出力に設定。被害を恐れるな。一歩も引くな。そのままの速度でファルケンハインの背中を削り続けろ。……ここで足を止めた方が負けだ」

 

 

もはや一瞬の判断の遅れあるいは一瞬の隙が命取りとなる純粋な意志と意志のぶつかり合い、極限の削り合いの様相を呈していた。

 




お読みいただきありがとうございました。

今回はイゼルローン回廊決戦の中盤戦として、アルブレヒト、ヤン、ラインハルト、そしてミュラーたちの攻防を描きました。

トールハンマーをめぐる攻防や、ロンゴミニアドの突進、各陣営の名将たちの動きについて感想をいただけると嬉しいです。
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