銀河英雄伝説 〜無能なる俗物が勘違いで英雄に祭り上げられ、気づけば貴族連合盟主としてラインハルトと雌雄を決する件について〜 作:斉宮 柴野
アルブレヒトは超大型重粒子砲「ロンゴミニアド・スピア」を限界出力で発射し、難攻不落の要塞に正面から牙を突き立てる。
そして開いた大穴へ、リューネブルク率いる装甲擲弾兵が突入する。
【イゼルローン回廊】
目前に、かつてないほどの質量の塊が肉薄していた。
アルブレヒト・フォン・ファルケンハインの乗る超大型旗艦《ロンゴミニアド》
後方からの猛烈な砲火をものともせず、流体金属の海に至近距離まで接近していた。
「よし!!」
「イゼルローンの流体金属層に通常の艦砲射撃は通じない!だが!」
「この『ロンゴミニアド・スピア』は違うぞ!一点への極大出力の力押しだ!後続の直属艦隊は全艦シールド出力を最大!盾となって敵の猛攻を弾き返せ!!」
直属の将兵たちは躊躇もなく従い強固な壁を背後に構築する。
「艦首超大型重粒子砲、発射用意!!!!」
「了解!!目標、イゼルローン要塞!中枢ブロックに照準を固定!」
「主砲、発射最終段階へ移行。防御シャッター下ろせ!」
指示と同時に、《ロンゴミニアド》の艦首部分が変形し、内部から砲身が全貌を現した。
莫大なエネルギーが一点に収束していく。
そのエネルギーの奔流を、後方から猛追していた《ヒューベリオン》の索敵システムが即座に感知した。
「報告!!敵旗艦《ロンゴミニアド》の艦首にエネルギーの集中を確認!!」
「これは……いけない!」
「全艦、直ちに《ロンゴミニアド》一点のみに集中させろ!!何としても発射を阻止するんだ!!撃ち落とせ!!!」
共和国軍は一斉に火線を《ロンゴミニアド》へと集中させた。
無数のビームとミサイルが駆け抜け、標的へと殺到する。
ヤンの放った集中砲火は盾となった艦艇群に激突し、次々とシールドを破り装甲を破壊していく。
しかし犠牲を払ってでも、彼らは直撃弾が届くことを命に代えて阻止し続けた。
「射程線上に味方艦を認めず!!!!」
ブリッジでリューネブルクが戦術モニターから目を離さずに叫ぶ。
「反重力ブレーキ、最大出力!!」
「よし!!」
「艦首超大型重粒子砲、エネルギー充填百パーセント……いや」
コンソールのセーフティカバーを乱暴に叩き割る。
「出力リミッター解除!安全装置オフ!百二十パーセントへ!!総員、対ショック、対閃光防御!!舌を噛み切るなよ!!」
「発射五秒前!」
「三、二、一……」
右手を掲げ、気迫をもって力強く振り下ろした。
「撃て!」
◇◇
次の瞬間、音の存在しない宇宙空間であるにもかかわらず、凄まじい衝撃と振動が全身を駆け抜ける。
そして偏光フィルターすらも焼き切るほどの、純白の閃光が世界を支配した。
トールハンマーの四割の威力を持つと言われる、超大型重粒子砲『ロンゴミニアド・スピア』
百二十パーセントまでチャージされた光条がゼロ距離から外壁に突き刺さった。
いかに強固な流体金属層であろうとも、至近距離から放たれたエネルギーの奔流の前には無力であった。
要塞の表面はドロドロに融解しながら白熱し、大爆発とともに吹き飛んだ。内部構造を貫通する巨大な風穴が穿たれたのである。
「ぐうううううっ……!!」
要塞内部の指令室。
かつて経験したことのない激しい震動に見舞われていた。
天井の一部が崩落し、至る所で火花が散り、非常用のランプが回転し、警報が鳴り響いている。
防衛指令を任されているシェーンコップは、揺れに耐えきれずにコンソールにしがみつきながら毒づく。
「馬鹿な……!!通常兵器で、このイゼルローンの外壁を抜かれただと!?」
「被害状況はどうなっている!?どこをやられた!!」
「が、外部装甲および内部隔壁、大破!!第三百二十ブロックから第百二十ブロックにかけて吹き飛び、露出しています!!」
「なんだと……!そ、そんな馬鹿な!」
「あそこには……二万人からの将兵たちが詰めていたんだぞ!!それが、たった一撃で、一瞬で……!」
「……クソッ!クソがあああぁぁぁっ!!」
しかし感傷に浸っている暇は与えられない。
「報告!!敵旗艦《ロンゴミニアド》、直ちに要塞から離脱!急速に反転していきます!!」
◇◇
【旗艦《ヒューベリオン》】
「……なんだと?」
反転していく軌跡を見て、悔しげに珍しく唇を噛みしめる。
「主砲を撃った直後だというのに……すぐに動けるというのか……」
「隙を突いて沈めるつもりだったんだが……計算を狂わされたな」
◇
「ハッハッハ!残念だったな、ヤン!内戦の時、この弱点を突かれたからな」
「主砲発射後でもすぐに逃げれるように別に推進とシールド専用の予備出力炉を積んでおいて大正解だったぜ」
「さあ、ここからが本当の作戦の本番だ。おい、リューネブルク!!」
振り返り背後に立つ軍務尚書に声をかける。
「はっ!!」
「最高のステージだ!装甲擲弾兵三万人を率いて、あの大穴から要塞の内部へと突入しろ!!!」
「了解!!」
「随分と体がなまっていましたが……ようやく私の真骨頂がお見せできます。腕が鳴りますよ!!共和国の軟弱な兵士どもを一人残らず斬り刻んでご覧に入れましょう!!」
今すぐにでも飛び出していきそうな勢いである。
「よし!行け、リューネブルク!俺も一緒に行く!!久しぶりに大暴れしてやる!!」
「……え?」
「……と言いたいところだが」
「お前が占領するまでは、ヤンやビュコックたちを相手にしなければならんのでな。今回は大人しく外でお留守番をしておいてやるよ」
言葉に、リューネブルクは安心したような皮肉げな笑みをこぼす。
「賢明なご判断です、陛下。皇帝自らが白兵戦に出張ってくるなど我々臣下としては肝が冷えますからな。どうか我々の退路の確保はよろしくお願いします」
「ああ、任せておけ」
指揮卓に手をつき、真顔になって見つめる。
「死ぬなよ、リューネブルク。お前は俺の帝国の最強の矛なんだからな」
「はっ」
「ご心配には及びません、陛下。私は百五十歳まで生きる予定ですので……」
振り返らずに不敵な笑みで言い放った。
「まだあと百十年は残っております。こんな要塞でくたばるつもりは毛頭ありませんよ」
「そりゃあ、頼もしいことだ」
小さく笑ってその背中を見送る。
「頑張ってくれ」
「御意」
◇◇
【イゼルローン要塞・指令室】
「被害報告、急げ!隔壁の封鎖は間に合っているのか!」
キャゼルヌは必死に各部署へ指示を飛ばしている。顔色は今は幽鬼のように血の気を失っていた。
「敵の揚陸部隊、要塞内部へ侵入してきます!!その数、推定三万人!!装甲擲弾兵です!!」
その絶望的な報告を聞いて一人だけ全く別の反応を示す男がいた。
防衛指令を任されている、自由惑星共和国の白兵戦の象徴ワルター・フォン・シェーンコップである。
「来るか、リューネブルク!!」
口元が歓喜と殺意に歪む。
「リンツ!ブルームハルト!聞いているか!!」
『はい、連隊長!』
「薔薇の騎士連隊の全隊員を出動させろ!敵は大穴からなだれ込んでくる!一歩も中枢へ通すな!」
「俺も今すぐそっちへ向かう!俺が指揮をとる!!」
慌ててシェーンコップの軍服の袖を掴んだ。
「ちょっと待て、シェーンコップ!!お前、正気か!?」
「要塞防衛指揮官が自ら飛び出して行ってどうする。ここにいてくれ」
軍事組織の常識として正しい。指揮官が最前線でトマホークを振り回すなど蛮勇以外の何物でもない。
しかし。
「いいですか。敵の突入部隊を率いているのはあのヘルマン・フォン・リューネブルクなんですよ。あの男には私以外勝てません。もし奴にこの要塞の内部で好き勝手に暴れられたらこの要塞は中から食い破られる」
「だ、だからといって、お前が行く必要は……!」
「いえ、私が行く必要があります。奴の首を取るのは私の役目ですからね。……では」
止める間もなく飛び出していった。
「ああっ、もう!不良中年め。どいつもこいつも自分の役割ってものを分かっていない」
◇◇
一方、浮遊砲台を振り切りながら、一つの艦隊が宇宙空間を滑るように進んでいる。
キルヒアイス公国軍の旗艦、《ブリュンヒルト》率いるローエングラム艦隊である。
「チッ……!兄上に先を越されたか……!」
自らの手で要塞の殻を割り中枢を制圧する気満々であったが…。
「さすがは兄上と言うべきか。相変わらず手加減というものを知らないな」
指揮卓を軽く叩く。
「しかしここに至っては仕方ない。我々が外から砲撃を加えれば兄上の部隊を巻き込むことになる。……今ここで帝国軍と事を構えるわけにもいかん」
「残念だが今回の主役は大人しく兄上に譲るとしよう。我々は十分な働きを見せた。これ以上この宙域に留まってリスクを抱え込む必要はない。……これより撤退を」
命令を下そうとした時である。
「報告!!」
「回廊旧同盟側より、新たな艦隊の接近を確認!!」
「………なに?」
金色の眉が跳ね上がる。
「新たな艦隊だと?共和国の予備兵力か!?」
「識別信号、照合完了しました!!」
「旗艦、戦艦《ペルーン》!!間違いありません、あれは我々が振り切ってきたボロディンの第十二艦隊です!!」
「なんということだ……。ここでまだ敵の増援が来るというのですか……」
「強行突破したとはいえ、まさかこれほどの短時間で追いついてくるとは……!共和国軍の執念、恐るべしです」
「これで共和国軍はヤン本隊、ホーランドとビュコック、そしてボロディンと……この宙域に四個艦隊を揃えたことになります。いくらなんでも手札が多すぎますぞ……!」
「例え俺たちが一時的に兄上と手を組んで戦線を張ったとしてもだ。こちらの戦力は合わせても三個艦隊というところだ」
「これでは数で負けるな。ヤン・ウェンリーが指揮を執る盤面において数で劣勢に立たされるというのは致命的なリスクだ」
◇
【帝国軍旗艦《ロンゴミニアド》】
「なんだと……!また共和国軍の増援だと!?」
戦術モニターに新たに表示された《ペルーン》の光点を見て忌々しそうに顔をしかめる。
「どんだけ湧いてくるんだよ、あの国は!ヤンの奴、一体どれだけの部隊を隠し持っていやがったんだ!」
「ヤンにウランフ、アル・サレム、アッテンボローにラップ、ホーランドにビュコック……それにボロディンだと?オールスター大集合かよ!!」
「これは………まずいな」
「リューネブルクが中枢を占拠し防衛システムを乗っ取るまでには・‥‥あと数時間。……だが、持ち堪えることができるか……?」
ルッツやワーレンが突破してここに間に合えばまだ戦える。なんとか互角の戦いに持ち込めるだろう。……だが。
相手はヤン・ウェンリーだ。……ヤン相手に、希望的観測を前提にして動き続けるわけにはいかない。
今ならまだ被害は最小限で済んでいる。だがここで欲をかけば‥‥。リスクが。
結論は早かった。
「…………リューネブルクを呼び戻せ。作戦は中止だ。直ちに要塞から脱出しろ」
参謀たちが一斉に目を見開いて驚愕の声を上げる。
「へ、陛下!?」
「なにを仰っているのですか!?撤退だなんて!突入部隊は要塞へ入り込み、白兵戦を繰り広げている真っ最中なのですぞ!あと少しで中枢に手が届くかもしれないというのに!」
感情としては正しい。目の前にぶら下がっている勝利という名の果実を自ら手放すなどあり得ないことだ。
「構わん。退却命令を出せ。これは皇帝の命令だ」
「今回は難攻不落と謳われたイゼルローン要塞の装甲を真っ向から穿ち大穴を開けてやった。そしてヤン・ウェンリーや共和国の連中の心胆を寒からしめてやったんだ」
「……今はこれで満足するべきだろうな。これ以上欲をかけば手痛いしっぺ返しを食らうだけだ」
お読みいただきありがとうございました。
今回は《ロンゴミニアド》によるイゼルローン要塞への一撃と、リューネブルク率いる装甲擲弾兵の突入を描きました。
シェーンコップとの対決や、勝利目前で撤退を判断するアルブレヒトについて感想をいただけると嬉しいです。