銀河英雄伝説 〜無能なる俗物が勘違いで英雄に祭り上げられ、気づけば貴族連合盟主としてラインハルトと雌雄を決する件について〜 作:斉宮 柴野
本作は、銀英伝という壮大な宇宙史のすみっこで、
ひっそり、しかし着実に読者の胃袋を掴みつつある――
アルブレヒト・フォン・ファルケンハイン中将による事件録です。
中将は戦場では名将、平時では怠惰の塊。
ただし、人間観察と貴族社会の読み解きだけは超一流。
そして今作では、ついに彼が幼年学校で殺人事件に巻き込まれます。
倉庫、小麦粉、陰謀、貴族の黒い噂。
本気の推理としょうもない脱線が同居する不思議な物語ですが、
肩の力を抜いて、アルブレヒトの声を楽しんでいただければ幸いです。
では、事件の匂いと洗剤の香りがまだ残る倉庫へ――。
倉庫の扉を開けた瞬間、鼻の奥に、カビと洗剤がケンカしたような匂いが突き刺さった。
うわ。なにこれ。戦場の焼けた金属と血の臭いよりたちが悪いんだが。誰だ、ここ掃除したやつ。殺人現場を隠そうとしたのか、単に筋金入りの潔癖か、どっちかは知らんが、やるなら加減ってものを覚えろ。
俺とキルヒアイスは並んで中に入った。床板はうっすら濡れていて、モップの筋が光に浮かんでいる。血は一滴も残っていないが、違和感だけが、しつこく残っていた。
「ふむ」
俺は腕を組んで、一通り、倉庫の中をぐるりと見回した。壁、天井、窓の高さ、棚の位置。視界に入るもの全部を、戦場の地形を見る時と同じ要領で、頭の中で組み替えていく。
五秒で飽きた。
「まあ、今さら証拠が転がってるとは思えんよな。モップの舞踏会が開催された後だし。それより大事なのは、ここがどれだけ犯人にとって都合のいい場所かって点だ」
「そうですね」
キルヒアイスが真面目な顔でうなずく。こいつ、本当に聞き上手だ。俺が適当にしゃべっていても、「なるほど」とか「さすがです」とか言ってくれるからな。非常に扱いやすい中佐である。
「というわけでだ」
俺はくるっと振り返り、倉庫の中央を指さした。
「この事件の犯人は、シュテーガー校長だと確信している」
「それはどうなんでしょうか、閣下」
即座にツッコミが入った。声は冷静だが、わずかに引いている気配がある。気のせいだろう。
「うるさい。捜査ってな、まず『こいつが犯人』と決めつけてかかって、違ってたら『ごめんなさい』でいいんだよ」
「よくありません」
「いいんだよ。俺は中将、あいつも中将。立場は同格。謝ればだいたい丸く収まる。階級ってのはこういう時のためにある」
「そういう使い方は聞いたことがありません」
キルヒアイスのため息が、湿った倉庫の空気を少しだけマシにした気がした。俺は気にせず、床の中央にしゃがみ込み、手袋越しに板を軽くたたく。固い感触。血が染み込むには少し時間がかかる材質だ。だからこそ、洗剤とモップでごまかしたんだろう。
「さて、殺されたライフアイゼンだが、司法解剖の報告だと、死因は延髄への一撃だったな。ほぼ真上から打ち下ろし。暗い倉庫、目撃者なし」
口に出しながら、俺は頭上の梁を見上げる。古い縄の跡がいくつか残っている。昔は荷物でも吊ってたんだろう。
「人間の体って案外頑丈だからな。中途半端な場所を殴った程度じゃ、即死はしない。つまり狙いは正確だった。力も必要になる。あの老いぼれ校長に、そんな芸当ができるか?無理だな」
「だから、校長じゃないですよ」
ぼそっとキルヒアイスが訂正する。俺は華麗に無視した。
「問題はだ。これは他の候補にも当てはまるって点だ。暗闇で、動く相手の後頭部を一撃で仕留める。これは、かなり訓練した人間の技術だ。日課が書類仕事とサロン通いの貴族の若造に、そう簡単にできる芸当じゃない」
「それは、確かに」
「さらに内部犯の線が濃い。外部の刺客なら、もっと楽な手段を選ぶ。毒を盛るなり、外出中を狙うなり、選び放題だ。わざわざ学校の倉庫で殴り殺す理由が薄い。だから、ここに慣れてる人間、つまり教官か生徒の誰かだ」
俺はそう言いながら、壁際に積まれた木箱の列へ視線を滑らせた。片側だけ、箱の角の欠け方が妙に揃っている。何度も同じ場所に何かがぶつかった痕だ。
「殺されたのがベルツかハーゼなら話は単純だったんだがな。校長の孫を首席に押し上げるための殺人。いかにも門閥貴族らしい、わかりやすい下衆ムーブだ」
「物騒な前提ですね」
「だが現実は違う。死んだのはライフアイゼン。成績は上位だが首席ではない。家も子爵。侯爵でも伯爵でもない。動機が弱い。そこでだ」
人差し指を立てて、キルヒアイスの目の前でひらひらさせた。
「ハーゼの祖父は、校長の元上官。この一点がポイントだ」
「……そこまで把握しておられたのですか」
キルヒアイスの目が、少し丸くなった。
「調べるまでもなく覚えてる」
俺は肩をすくめた。
「何を言ってるんだ、キルヒアイス。俺は門閥貴族だぞ。誰が誰の元上官で、誰の伯母が誰と駆け落ちしかけて、誰の叔父がどこの財務官僚に賄賂を渡したか。そういう情報は、戦場の索敵情報より大事なんだ。貴族界じゃ、それが生命線だ」
「生命線…ですか」
「そうだ。例えばだな」
柱にもたれて、指を折りながら続ける。
「お前が適当に顔出したパーティーで、ワイン飲んでたとする。で、隣のじいさんが、『最近の若い者は』とか言いながら愚痴をこぼしてきた。ここで『そうですね』って愛想笑いして帰ったら、ただの愚痴タイムだ。だが、そのじいさんが昔どの軍団で誰の副官をしてて、どの伯爵家とどの侯爵家の争いにどう絡んでたかを知ってたら、その五分の世間話が、後で領地の利権に化けることもある」
「はあ…」
「うちの領地の財政が今みたいに黒字で爆発してるのも、そういう積み重ねのおかげだ。誰に金を貸せば返ってくるか、誰に投資すれば倍になって戻るか、誰に逆らうと一族ごと干されるか。全部、人間関係の地図から逆算する」
「……なるほど」
キルヒアイスは素直に感心している。いい中佐だ。ラインハルトも少しは見習え。
◆
棚にもたれた瞬間、背中に妙な気配が走った。空気の重さが、すうっと真上に集まる。あ、これ落ちてくると脳が先に理解して、身体が勝手に横へ跳んだ。
「閣下!危ない!」
キルヒアイスの叫びが鼓膜に届くより早く、俺はすでに一メートル横に着地していた。直後、さっきまで俺の首があった場所に、馬鹿でかい業務用小麦粉の袋がドスンと落ちる。床がびしっと鳴って、白い粉がもわっと舞い上がり、倉庫が一瞬でベーカリーになった。
「おいおいおいおい!誰だ、中将を粉ものにして焼き上げようとしたやつは!」
抗議してみたが、返事はない。あるのは、小麦粉の白い丘と、口をぱくぱくさせているキルヒアイスだけだ。
「か、閣下……今の……」
「ん?」
「なぜ避けられたのですか?音もしていませんでしたよね?」
「お前なあ」
俺はため息をついて、足元の小麦粉をつま先でつついた。軍靴の先が白く染まる。
「こんなものが避けられなくてどうする。後ろから銃で狙われても気づかないだろう。これくらいできて、初めて人類――いや、貴族のスタートラインに立てる。何を言ってるんだ、お前は」
「スタートライン……?」
キルヒアイスが、さっきまで俺がいた地点を見る。小麦粉が山を作っている。あと半歩遅れていたら、俺の顔面がそこに埋まり、「伏龍」から「粉龍」に改名させられるところだった。危なかった。二つ名のブランドイメージが粉々になるところだ。
「というかだな」
自分の首をさすりながら続けた。
「アナは、もっとえげつないものを落としてくるぞ。木箱とか、砂袋とか、『反応速度を鍛えて差し上げますわ』とか言いながら。小麦粉なんて、むしろ優しい方だ」
「……それは訓練の範囲なのでしょうか?」
「愛情表現だ」
ここは即答しておく。ぶれたら負けだ。
「それよりもだ、キルヒアイス」
しゃがみ込み、落ちてきた袋を指さした。角が潰れて破れ、小麦粉がこぼれている。粉は床の溝に沿って流れ、壁の下のダクトに吸い込まれていく。白い筋がすうっと飲み込まれていく様子は、妙に見ていて楽しい。
「これだ。これは意外と、凶器になるぞ」
「凶器、ですか」
「そう。想像してみろ」
指で袋を叩いた。ずしん、と重い感触が返ってくる。
「夜、ここに標的を立たせる。その真上に、この袋を仕込み、遠隔で片側だけ支えを外す。落下地点は後頭部、延髄付近。重量は十分、袋の形状は柔らかい。外傷は派手じゃないが、衝撃は脳にダイレクトに入る。下手なハンマーより始末がいい」
「鈍器、という扱いになるのでしょうか」
「医務局の連中が想定している鈍器ってのは、鉄パイプとか金属バットとかだろうな。まさか小麦粉だとは思うまい。診断書には『鈍器の可能性あり』くらいしか書けん」
袋を持ち上げてみる。人間の頭に落としていい重さじゃない。うちの領民に配ったら、小麦粉パーティーが開けるサイズだ。少年の頭にとっては、もっと別のパーティーが開幕する。
「そして、こぼれた粉は、このダクトが全部さらっていく。袋だけ回収すれば、現場はかなり綺麗になる。血も出ないし、証拠も残りにくい。なかなか優秀な凶器だ」
「分析が無駄に具体的で怖いです、閣下」
「褒め言葉として受け取っておく」
指先についた粉を払った。
「道具は中立だ。悪いのは、悪用するやつの方だ。小麦粉に罪はない」
「……それはそうですが」
「で、問題はだ」
「遠隔操作……やはり、事故ではなく、明確な殺意が」
「あってもおかしくない」
俺は、さっき自分の頭があった場所を振り返った。
「さっきの俺の位置はな、絶妙だ。ここに立ってたら、頭からきれいに持っていかれていた。ライフアイゼンの身長を考えると……ふむ、だいたい一緒か」
「だからって、閣下を実験台にして確認しないでください」
「中将だぞ、俺は。危ない橋は上が渡るものだ」
「そんな格好いい話ではない気がします」
キルヒアイスが額を押さえる。最近こいつの偏頭痛の原因リストのトップは、間違いなく俺だ。二位がラインハルト、三位がロイエンタール。ミッターマイヤーは癒やし枠。
「まあ、今の一件でわかったことがいくつかある」
指を折って整理した。
「一、この倉庫と設備に詳しいやつがいる。
二、小麦粉の重量や落下位置を計算できる程度の頭がある。
三、ここに人間を立たせる権限がある。
四、俺に説教した前科がある」
「最後だけ完全に私怨です」
「重要な要素だぞ。俺に説教してくる大人の三割はろくでもないと、統計が出ている」
「その統計はどこの研究機関のものですか」
「今この瞬間、ファルケンハイン家私設研究所が発表した」
「設立されたばかりですね」
「最新の研究はフットワークが軽い」
自分で言ってて何だが、かなり信頼できる研究機関だと思う。所長も研究員も俺なので、結論が俺にとって都合がいいのは仕様だ。
「ただな」
真面目な声に戻した。
「この小麦粉トラップは、あくまで『この倉庫で誰かを殺すならこうする』というモデルケースだ。実際にこれが使われたかどうかは、まだ別問題だ。医務局の報告書には『頭部強打』としか書いてなかったしな」
「では、真犯人は別の手段を」
「あるいは、小麦粉+何か別の要因だろうな。たとえば――」
床を指でなぞった。掃除の跡がある。その上に残る、微妙な傷。足を取られやすい微妙な段差だ。
「ここ。足を滑らせやすい。追い詰められた状態で、一歩下がれば、バランスを崩す。そこに、上から一撃。正直、やろうと思えば誰にでもできる。それこそ生徒でも」
「……生徒が、同級生を殺したと?」
「断定はせん。だが、可能性はある。だからこそ、教官たちが必死で『事故だったことにしたい』か、『犯人を外に作りたい』かで揺れている、と見るのが妥当だ」
立ち上がり、棚の上段を軽く揺らした。すでに袋は降ろしているから、安全確認済みだ。
「本当に事故に見せかけたいなら、最初から全部を『倉庫の管理不備による転倒事故』で押し通す方が楽だ。なのにわざわざ殺人事件扱いにしている。そこに、何らかの政治的な匂いがする」
「貴族の子弟が死んだ、という点でしょうか」
「そうだ。坊っちゃんが倉庫でミンチに、なんて話になれば、誰かが責任を取らされる。校長か、担当教官か、あるいは幼年学校そのものか。誰もそれは望まない」
肩をすくめた。
「だから、『悪いのは個人の犯行です』という話にしたい。シンプルだろう?」
「筋は通っていますが……納得はできませんね」
「納得できるようなら、お前はラインハルトの参謀には向いてない」
キルヒアイスが、ふっと笑う。
「とりあえず、この小麦粉トラップの件は、ラインハルトにも共有しておく。あいつの頭なら、ここから別の可能性も広げるだろう」
「『小麦粉で人を殺せる』という情報だけが一人歩きしないと良いのですが」
「大丈夫だ。あいつの興味はもっと派手なところに行く」
「それもそれで問題な気がします」
◆
「キルヒアイス、お前はどう思う?」
粉まみれの俺の隣で、彼は相変わらず制服をきちんと着こなしていた。ほんの少し肩に白い粉がついているが、あれはあれで絵になるから腹立たしい。
「その『事故にできたはずなのに、殺人とした』点が、やはり引っかかります」
「校長の責任をぼかすために外部犯をでっち上げようとした、という線もあります。ですが、通報まで三時間もかかっています。貴族の子弟の死を前に、そんな悠長な真似をするでしょうか」
「するだろうな。連中、まず自分の出世と保身を計算してからでないと、まともに泣きもしないからな」
鼻で笑った。言いながら、心の中で何人かの貴族の顔が浮かぶ。ヘルクスハイマーのアホ、リッテンハイムの腹黒、ブラウンシュヴァイクの髭無し大権力者。あいつら全員、同じ状況なら被害者の遺体を前にしても、まず「この死体をどう使うか」を考えるに決まっている。
「だが、それだけなら、別に珍しくもない」
「本当に外部犯なら、通報を遅らせる理由はない。犯人が逃げた方向の捏造でもして、『共和主義者のスパイが』と叫べば、点数稼ぎになるだろうさ。それをしなかった。しかも、幼年学校という舞台。貴族の子弟だらけ。教官も貴族、校長も貴族、後ろにいる保護者も貴族。ろくでもない人間関係の巣だ」
「ろくでもない、という言葉でまとめてしまってよろしいのですか」
キルヒアイスが少し苦笑した。
「まとめる。むしろ優しい表現だ。俺は門閥貴族の一員だぞ。身内の悪口を言う権利くらいある」
そう言って、俺は棚の上に残っていた粉袋の残骸をつついてみた。落ちてきたものと同じメーカーだ。銘柄を見て、内心で首をひねる。ああ、これ、ファルケンハイン領でも卸しているやつだ。領主がこんなところで自領特産品に殺されかけるとか、笑えない冗談だ。
「で、実際は事故の線が七割、というところだろ」
「暗闇の中で延髄を狙うなんて、訓練された兵士か、よほど腕の立つ武芸者じゃないと無理だ。だが、この学校にそんなやつが何人いる?教官の立場で、貴族のガキを素手で殺す覚悟を決めるほどの馬鹿は、そう多くない」
「少なくとも、シュテーガー校長ではない、と」
「まだ言うか。あのジジイにそんな筋力はない。どう見ても腹回りに全振りしている。あれで延髄一撃必殺できたら、それはそれで軍で拾いたいが」
さらりと校長をディスりながら、倉庫の奥を眺めた。掃除の後はきれいにされているが、どうしても消えないものもある。壁の角、足が引きずられたような痕。血は拭かれているのに、そこだけワックスのかかり方が微妙に違う。犯人は几帳面なのか雑なのか、判断に迷うラインだ。
「むしろ問題は、その後の処理だ」
「三時間の空白。ここに貴族の影がびっしり詰まっている」
キルヒアイスは、黙ってうなずく。こういうとき、この男は余計な突っ込みを挟まないから助かる。ラインハルトだったら、ここで『貴族の腐敗が』と演説を始める。正論だし嫌いではないが、現場でやられるとめちゃくちゃ邪魔なのだ。
「要するにだな」
小麦粉を指先でつまみながら言った。
「事故が先に起きて、それをどう利用するかを考えたやつがいる。『事故のまま』では困る誰かが、『殺人事件』にすることで、自分の責任や立場を守ろうとした。ここまでは、まあわかる」
「わかります」
「だが、それだけなら、ラインハルトにも読める。あいつは頭がいい。筋道も通せる。法律の条文も全部暗記していそうだ。そこまでは、やつの領分だ」
床にしゃがみ込み、小麦粉でうっすら白くなったブーツの先で、消えかかった足跡をなぞった。
「問題は、法律でどうこうできない部分だ。貴族同士の貸し借り。親が誰の派閥にいるか。誰が誰と婚約しているか。誰が誰の愛人か。誰のどのスキャンダルを握っているか。そっちは、ラインハルトの辞書には載っていない」
「……確かに」
「ラインハルト様は、そういう話になると、あからさまに顔が曇りますからね」
「だろう。だからこそ、そこは俺の仕事になる」
立ち上がり、埃っぽい空気を吸い込んだ。正直、こんなところで探偵ごっこをしている場合ではない。領地に帰れば、俺の銀行口座はさらに増量中だし、アナは待っているし、ミッターマイヤーは新婚でいちゃいちゃしているし、ロイエンタールはひねくれながら酒を飲んでいるに違いない。全部、俺の監督下で行われるべき重要案件だ。
「キルヒアイス」
呼びかけると、彼は姿勢を正した。粉だらけの倉庫なのに、敬礼が妙に決まっている。やめろ、その真面目さ、俺の怠惰が悪目立ちする。
「学年次席のベルツに張り付け」
「本人じゃなく、周囲だ。仲のいいやつ、家から届く荷物、面会に来る親、教師とのやり取り。できるだけ気取られずに見ておけ」
「ベルツ、ですか。首席ではなく」
「首席は、狙う側じゃない。あいつは、狙われる側だ。順位争いがそのまま動機になるとは限らない。二位のベルツの周りで、誰が得をするか。それを見たい」
指を二本立てた。
「ラインハルトの捜査期間は二週間。何も起きなければ、その時点でこれは『事故』でいい。俺も、さっさと領地に帰って、アナの膝枕で昼寝を満喫する」
「……羨ましい未来図ですね」
「だろう?だが、もし二週間のあいだに、ベルツの身に妙な動きが出たら――たとえば、急に転校とか、急に婚約とか、急に階段から落ちるとか――その時点で、それは『貴族の陰謀』だ。ラインハルトがいくら現場を固めても、背後で糸を引く連中がいる、ということになる」
そうなれば、俺の出番だ。門閥貴族ネットワークという、薄汚い蜘蛛の巣の中を、俺はわりと器用に渡り歩ける。頼りにならない能力だが、たまには役に立ってもいい。
「頼んだぞ、キルヒアイス」
小麦粉をはたき落としながら、彼の肩を軽く叩いた。白い粉がふわりと舞い、赤毛の肩に雪のように積もる。こいつ、こういう演出まで似合うのが腹立つ。
「御意。閣下の意図、承知いたしました」
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
今回のエピソードは、アルブレヒト中将の
「洞察力は天才なのに、行動は9割ふざけている」
という魅力を一番強く出したいと思って書きました。
特に今回は――
・推理パートのテンポ
・アルとキルヒの掛け合い
・小麦粉トラップの是非
あたりが、読者にどう映ったかを知りたいです。
今小分けにしている章を
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週1で一気に読みたい(3万字くらい)
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毎日小分けでいい(4千字くらい)
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毎日なら文字数気にしない